2-3.仮面
最後の展開を変えました。
なるべくこういうことがないように気をつけます。
手早くシャワーを済ませ、着ていた服で床の破片を角へと集めておく。
ついさっきまで感じていた恐怖は薄らいでいる。
今のあたしを突き動かしているのは、自分を狂わそうとしている目の前の奴への殺意。
…ああそれと、外の2人を守らないといけないという義務感。
胸に渦巻く黒い感情を悟られると面倒だ。割れた鏡には無表情で、光が灯っていない瞳をした自分が見える。
このまま出たらまた、舞になにか言われるかもしれない。…表情を作っておかないといけない。
2人の前ではいつもの…あの2人が望んでいるあたしでなければならない。
だから仮面をかぶるように、明るくて、頼りになる神代 結の仮面を貼り付けておく必要がある。
ドス黒いものも、弱くて情けないのも全て隠しておかないと。それを2人も望んでいるだろうから。
そんなあたしの姿を見て、あたしが笑っている…本当に目障りだ。
「ふふ…じゃあこの姿ならどうですか?」
そう言って舞に姿に変わるが、あたしは無視してシャワー室を出た。
扉の前には舞がいた。…心配そうにあたしを見上げている。
さっき練習した通りの笑顔を顔に貼り付ける。
「どうしたの舞?ああ、ごめん!躓いちゃって鏡割っちゃたんだ…掃除したんだけど、使う時は気をつけてね?」
「…結さん、本当に大丈夫ですか?何か叫んでいたようでしたけど…本当に」
「大丈夫だよ〜ちょっと寝ぼけてただけだからさ。舞もシャワー浴びてきたら?」
「それは後でいいです!本当に大丈」
「大丈夫って言ったよね?何、あたしを信じられないの?」
「え…い、いえそういう訳じゃ…」
「そう?よかった!じゃあシャワー浴びてきたほうがいいよ。ほら、女子って身だし大事でしょ?」
「…はい。わかり……ました…」
よかった、納得してくれた。
それにしても、どうして舞はあたしのことを信じられないんだろう?もしかして今喋ったのは幻覚の方だったかな…
けど部屋の中には龍之介しかいないし、本物だよね?わからない、なんでだろう?
「いいんですか〜?あっちのわたし、泣きそうになってましたよ?あっ!わざとですか?ひどいですねぇ…ふふ…」
泣きそうだった?そんな訳ない。それより昨日調べられなかった部屋を調べておかないと。
それにしても、龍之介はいつまで寝てるの…
いびきをかきながらソファーで眠る彼に呆れながら、昨日開けなかった扉を開く。
外に出るのと同じく、Gフォンをかざすと開いた。
中は真っ暗で何も見えない。
Gフォンの画面で照らしてみると、黒い壁で覆われた部屋の中に椅子らしきものが見える。
そのそばに何か箱のような形のものがある。暗くてよく見えない…
部屋の中へ足を踏み入れると、明かりがついた。
さっき見た通り室内にあるのは椅子と箱。椅子は頭まで背もたれがあり、足を置く場所まである大きな物。座るところに置いてあるヘルメットにいくつもケーブルが付いていて、横にある箱に繋がっている。その箱はPCの本体のような形をしていて、太いケーブルがいくつも天井に伸びている。
これはなんだろう?ただの椅子には見えない。
調べていると、箱の方に小さな穴が空いていることに気づいた。何かのカードを入れる穴のように見える。
椅子の方も、手元の部分にディスプレイ表示で【Gフォンをかざしてください】と書かれている。
試しにGフォンをかざしてみると表示が変わる。
【被験者NO.2 ーー ー データが破損しています。
確認しております……完了。
神代 結
Mカードを挿入してください。 】
Mカード…その表示で思い出した。
目覚めた初日、箱に入っていたカード。
所定の場所で使用すると記憶が戻るって書いてあったはず…
つまりここで使えば記憶が戻るってこと?それなら試しておく必要がある。
荷物の中に1枚あったはず。すぐに部屋に戻り、鞄を漁る。鞄の底に無造作に詰め込まれていた。
それを掴んで部屋へと戻ろうとした時、
「んあ?…ふぁあぁぁ……おうおはよ。今何時だ…」
「…おはよ、7時前。寝癖ひどいからなんとかしたほうがいいよ。」
「マジか。って結!おま、お前大丈夫なのか?!昨日おま」
「舞から聞いてる、もう大丈夫だから。…そうだ、龍之介ってMカード持ってる?」
「なんだって?ああー…確か1枚あったな。鞄集めてる時に、入ってたはず…確か鞄に入れて……あった!これだろ?」
「1枚…ねえそこで使えるみたいだけど、どうする?」
「どうするって…お前が持ってるのと、俺ので2枚しかない。ここには3人いるんだから話し合って決めたほうがいいだろ?」
「…はぁ…いいよそれで。それじゃあ舞が出てくるまで待ってよっか。」
「本当にそれでいいんですかぁ?結さんが手に入れたものなのにこんな役立たずに渡すなんて勿体無いですよ〜、結さんもそう思ってますよね?」
………舞が出てくるまで待つことにした。
しばらく待つと、俯いた舞がシャワー室から出てきた。
やっと話が進めれる。静華の時のみたいに、事後報告をすると大変なことになりかなねない。
面倒だけど、話をしておかないと。
舞にMカードのことなどを話した後、話し合いを始めた。
「で、誰が使う?あたしはできれば使いたいんだけど。」
「それは俺も同じだ。記憶が戻れば、なんでここにいるかもわかるかもしれない。」
「わたしも…使いたいです。…妹がどうなっているか知りたいんです。」
「つまり全員使いたいと。じゃあじゃんけんでもする?」
「いいんですかぁ?結さんのものなのに〜こんな奴らに渡して。」
「いいのか?元々結が持ってたものだろ?ならお前が使ってもいいんじゃ…」
「かもね。けど、そうなると静華の時もそうだったでしょ?あの時文句言われて面倒だったし、ちゃんと話し合ったほうがいいと思わない?」
「え…あ、ああ…。なんか機嫌悪いな…とりあえず結がいいならそうするか。舞もそれでいいか?」
「…すみません。元々2人のものだったのに…でもありがとうございます。よろしくお願いします。」
「気にすんなって。じゃあいくぞー…じゃーんけん!」
結果はあたしの1人負け。龍之介と舞が使うことになった。
…仕方なく持っていたカードを舞に渡した。
「舞、先に使ってきたら?。」
「そう…ですね、分かりました…行ってきます。」
「うん、いってらっしゃい。いい思い出だといいね。」
「…いいんだけどな、せめて聞いてくれよ…」
「先に寝癖直したほうがいいよ?爆発してるから。」
「マジか…そうだな、舞がいつ戻るか分からないしシャワー浴びてくるか…」
2人が別々の場所に消え1人になると、ベッドに転がって一息ついた。
「いいんですかぁ〜?結さんが手に入れたものなのに、わたしなんかにあげて。」
「………」
「ふふ…けどちょうど良かったかもしれませんね?だってモルモットとしての役割は果たしてくれそうですし。」
目の前のやつが言っていることはあながち間違ってない。
あんな未知の装置をいきなり使うなんて危険だ。だから安全性を確認しておきたかった。
戻った記憶が本物なんて保証もない。もしかしたら赤の他人の記憶を植え付けられて…なんてこともありえる。
それを確認するためにも、誰かに装置を使ってもらいたかった。
仮に記憶が変わっていれば出てきた時にわかると思う。記憶が違えば、それはもう別の人間だ。
もし別人だった時は…まあ最悪殺せばいいか。だってそれは仲間じゃないんだから、仕方がないことだよね。
「ふふ…ほんと、面白いですね…」
「…少し眠りたいから、黙ってて。」
「え〜どうせ眠れないんだから、お話しましょうよ!ほら、わたしが出てきた時にどうなっているか…楽しみじゃないですか?」
「………」
「楽しみですね〜。もし別人になっていたら、殺す理由ができますね!どうやって殺しますか?一思いに?それとも…ふふ…じわじわとなぶり殺しにしますか?」
無視して目を瞑り続ける。
眠気は感じるけど、眠れない…なんだろう眠れないというよりも…どうやったら眠れるかわからない。
頭が常に冴えているせいで脳が休まらない。これも変異の影響…もしくはストレスのせい。
…そうだ、いいストレス解消法があるじゃない。
「あれ〜?結局眠らないんですか?じゃあお話」
「うるさい。」
喋り続ける舞の頬を叩いた。
目の前の舞は何をされたのか分かっていないのか、頬を抑えながら呆然とこっちを見ている。
きっと本物の舞もこんなふうになるんだろう、幻覚のくせに再現度が高い。
けどそのおかげで、反応を楽しむことができる。
髪を掴んで地面に叩きつける。
…昨日されたように、腹部に蹴りを入れる。苦しそうにうめくたびに口角が上がるのがわかる。
そうだ、目の前のやつは幻覚なんだから何をしても問題ない。
だから足元のやつが泣きながら血を吐いて、足にすがってきても罪悪感を感じる必要はない。
ああ…触れることを教えてくれてありがとう。おかげであたしにもちょうどいいおもちゃが手に入った。
あたしが守ってやってるんだから、これぐらいのことをしても許される。これは必要なことだから仕方ない。
そうやって楽しんでいたのに、邪魔が入った。…というより正気に戻った。
なんであたしは仲間の姿をしている人をこんな楽しげに痛めつけて……
悟られないように、笑顔を貼り付ける。
先に戻ってきたのは龍之介。鏡が割れていることを説明するのは本当に面倒だった。
怪我はないかとしつこく聞いてきて、納得させるのには苦労した。
後は舞が出てくるのを待つだけだ。…その前にやることがある。
あたしは荷物を整理しながら、腰の後ろ側に銃を隠す。
扉から出てきたのが別人なら殺す必要があるから、準備しておかないと。
しばらくすると舞が出てきた。
出てきた舞は顔色が悪く、口元を押さえながらシャワー室へと駆け込んでいった。
…相当嫌な記憶だったのかもしれない。少し心配だ…ああ、それと別人かどうか確認しないと。
心配そうな表情をして、舞の後を追う。
舞は、トイレに吐いていた。
少しでも辛いのが和らぐよう背中に触れたら、手を払いのけられた。
一瞬銃に手が伸びかけたけど、払いのけた舞の方が困惑している様子だ。
「ごめん、嫌だったかな?」
「い、いえ…えっと…結…さん…ですよね?」
「そうだけど?え、別人に見える?」
「…いえ、結さんです。すみません、少し混乱してて…落ち着いたら戻りますので…」
「分かった。辛かったら呼んでね?」
「はい…えっと…ありがとう…ございます。…結さん。」
まだ顔色の悪い舞を残して、シャワー室を出る。
あの様子なら本人で間違いない、よかった…
「なあ舞は大丈夫なのか?気分が悪そうだったが…」
「そうだね…けどあたしがついているから、龍之介は装置を使ってきなよ。」
「まあ俺がいてもできることはないしな…わかった任せる。」
「うん、いってらっしゃい。」
そう言って部屋に入っていく龍之介を見送った。
浴室からわずかに嗚咽混じりに咳き込む声が聞こえる。
どんな記憶だったのか気になるけど、今は待ったほうが良さそうだ。
「どうして結さんの手を払ったかわかりますか?」
「!」
後ろから声をかけられ思わず振り返ってしまう。
そこには全身にあざを作って、顔が腫れ上がった痛々しい姿の舞がいる。
…さっきあたしがやったことが原因なのかもしれない。幻覚とはいえ、心が痛む。
「…本当にそう思ってますか?暴力を振るえない理由ができて、残念なんじゃないんですか?」
「…………そんなわけない。」
「じゃあどうして幻覚との区別がついてないのに、わたしをこんな姿にできるんですか?」
「それは…」
「ふふ…きっともう1人のわたしは結さんの危険性に気づいているんです。だから、警戒されているんですよ?」
「……………」
「もしくは、過去に何かされたのかもしれませんねぇ?…ふふ…まあ仕方ないですよね?仲間にこんなことができる人なんですから、裏切られても何も言えないですよね?」
「っ!」
何も言い返せない。
あたしは舞に何かしたのだろうか…それともあたしの事が怖くなったのかもしれない…
今のあたしには何も分からない。仲間のことも…自分のことすら、分からない…
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