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EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
66/126

2−1.代償

胃腸炎が治らないせいで、更新ペース落ちてすみません。

少しずつでも更新できるように頑張ります。

感想コメント、いいね、評価お待ちしてます。

※人物紹介にイラストを載せたので見てもらえると嬉しいです。(一部キャラは作り直して投稿します。)

辺りから鉄臭い匂いが漂っている。気づいた時にはここに立っていた。

目を開いて確認しようとしたけど、周りは完全な暗闇だ。

地面が濡れてるのか歩くたびに足元から水の跳ねる音がする。

自分以外何もいない。けれど、今はそれが心地よかった。…今は何も考えたくない。

あたしはただ歩き続ける。

どこに行けばいいかわからないけれど、歩き続けないと行けない気がした。


歩き続けてもただ暗闇が続いている。聞こえるのは、自分の息遣いと歩くたびに跳ねる水音だけ…

少し前の自分だったら恐怖で動けなかったかもしれない。

ふと足に何かが、引っかかる。…人間の死体だ。

その時に気づいた、足元の水は血のようだ。歩くたびに跳ねていた為、足元を赤く染めている。

けれど心は動かない。

もう見慣れてしまった。人間の死体なんて珍しくもないし、血が体にかかるのもいつものことだ。


足元の死体をまたぎ、歩き続ける。

進むたびに死体は増えていく。中には見た顔が混じっている。

どの死体も何かに惨たらしく殺されたのか、苦痛の表情を浮かべている。その全てがあたしを見ている気がした。

体は血で汚れていく…

それでもあたしの心は動かない。


死体の山の中を歩き続けると、誰かがそこに蹲っている。

何かを食べているのか、地面から何かを引きちぎって口に運び続ける。

長い髪の人物に近づいてみるとそれは…舞だ。

ただ黙々と死体から肉をちぎって咀嚼し続けている。


その死体には見覚えがあった、茶色いロングコートを着た男性だ。

……………

彼女の手を取り、やめさせる。

こちらを見た彼女は、無垢な表情で口元と手を血で汚している。

やめさせているあたしを不思議そうな顔で見上げている。


「?あれ結さん、どうしたんですか?ああこれですか、すごく美味しいんですよ。一緒にいかがですか?」

「…………いい…」

「どうしてですか?結さんがわたしを怪物にしてくれたおかげで、こんなに美味しい物に巡り会えたんですよ?」

「……ごめん……やめて……」

「これわたしが殺したんですよ?噛み付いたら、痛いー!痛いー!って…面白い叫び声をあげてて…本当に」

「やめて…」

「楽しかったんですよ…♪あの時の結さんと一緒ですね♪」

「……………」


あの時、舞が死にかけていた時…助けたのは、本当に正しかったんだろうか…

自分の身に起きていることは分かってる。

人を…生き物を見ると、胸の奥から邪悪なものが湧き上がってきて感情が黒くなっていく。

それは舞を助けようとした時にも感じていた。だからわかっていた、いずれ舞がこうなるかもしれないって…

それなのにどうして…あの時助けてしまったんだろう…

助ければ、同じ苦しみを味合うことになるとわかっていたはずなのに…あたしはだた自分が傷つきたくなくて

目の前の彼女は、笑いながら小腸を引きちぎり渡してくる。


「ほら!結さんも食べてみてくださいよ!きっと気に入りますから♪」


ピンク色をした長いそれは、血が滴り落ちて…気持ち悪くて…嫌で…でも、美味しそうで…思わず手に取ってしまう。

ふと…地面に転がっている死体と目があった。

正気のないその目に写っているのは、歪んだ笑顔で内臓を受け取っているあたしの姿…

友人の瞳を通してみたその姿があまりにも悍ましくて…気持ちが悪い…


「っうぐ!おええええぇぇぇ…!!……あ、あたしは何して…」

「もう〜勿体無いですね。…でも大丈夫ですよ!だって…」


血まみれで、手には内蔵を握ったまま立ち上がりあたしに言う。

ゆっくりと近づくにつれ、彼女の笑顔が歪んでいく…歪に…醜悪に…嘲笑うように…

そして彼女は言った。これからあたしがするであろうことを。


「これからもっと、たくさん殺すんですから…ね?」


たくさん。その中にはきっと今足元に転がっている彼のように、仲間や友人も含まれているような気がした。

でも、それは間違っていない。あたしが少しでも、正気を無くせば起こり得るからだ。

………あたしの手にはいつの間にかマチェットが握られている。

目の前では、ケタケタと愉快そうに笑い続ける舞がいる。

…そうだ、彼女を殺さないと。だって仲間を殺したんだから、彼女は敵だ。

敵は殺す。それが仲間でも、友人でも、家族でも、誰であろうと…裏切ったら殺す。

そうしないと、仲間が殺される。…あたしは、間違ってない…間違ってないはずだ…

あたしはマチェットを振り上げて、そして……




「っ!つは…はっ…はっ…はっ……」


目が覚めた。




……はずだ…


「どうしたんですか?わたしの事殺さなくていいんですか?」


そう言って目の前で舞が笑い続けている。

その姿はさっきまで夢で見ていた姿で、今も体から返り血が滴り落ちている。

…すぐそばで寝息を立てている舞がいる。


「無視しないでほしいです!…ああ〜そこのわたしはまだ、わたしみたいになってないですね…」


ベッドの傍には、確かに舞がいる。反対側にも舞がいて、あたしのベッドに突っ伏して寝息を立てている。

…どっちが幻覚なのか、本物なのか区別できない。

わかるはずなのに、目の前の彼女は幻覚だってわかっているはずなのに…なぜか確信が持てない。

体から流れ続ける血が床に溜まっていく。


…わからない…血まみれの舞は幻覚のはず…けれど、血が床に落ちる音…呼吸音…そういった物が目の前の舞を現実の存在だと認識させてくる。

現実と幻覚…どちらが本当のことなのか……わからない。

目の前で笑い続けている舞と、すぐ側で寝息を立てている舞…どっちが本物?

そのことに気づいたのか、目の前の舞はあたしを見て笑いかけてくる。

その笑顔はいつもの舞のものなのに、滴り落ちる血との違和感があり…その姿を見たあたしは、怖くなった。

全てを否定するように目を瞑り、毛布を被る。…けれど、笑い声は止まってくれない…


「ふふ…ひどいですね…わたしが話しているのに。けど、時間の問題ですよ?あっちのわたしが、わたしと同じになるのは。」


……もう全て、夢であって欲しかった…









3人で扉を抜けた先にあったのは、開けた場所だった。

左手には以前見たのと同じ昇降機があり、正面には別のフロアへの扉が設置されている。

そして右手側、そこにも扉がある。扉の横に機械がある、これはセーフルームだ。

…正直助かった。胸焼けのような、気持ちが悪いこの感情をなんとか鎮めたかった。


「…2人とも今日はここで休まない?」

「別にいいけど。まあこんなところにあるセーフルームだしな、何かあるかもしれない。」

「そうですね、それに…ちょっと気持ちの整理をしたいです…」

「………そうだね…じゃあ今日はここで休むってことで。」


そう言って機械にGフォンをかざす。

今までと同じように扉が開く。けれど、中は今までと違っていた。

内装が全然違う。

敷き詰められたカーペットに、室内を明るく照らすシャンデリア。

高級ホテルのような大きなベッドに、ふかふかなソファー等今までと全然違う。


「うわぁー…すごいです!ほらベッドもすごいですよ!わー…ふかふか…」

「確かにこいつはすげえな…ベッドのせいか広さも全然違うな。」

「…あたし、先にシャワー浴びてくるから。2人は休んでて。」

「あっわたしもシャワー浴びたいです!うぅ…ちょっとベッド汚れてしまいました…」

「…ならそこは舞が使えよ。もう一つは結が使え、俺はソファーでいいから。」

「わかった、ありがと。ごめん舞すぐ出るから、待ってて。」

「大丈夫ですからゆっくりしてください。わあ〜冷蔵庫の中にジュース入ってますよ!」

「マジかよ!…酒もあるか?」


2人の楽しそうな声を聞きながらシャワー室に入ろうとした時だった。

シャワー室の横に、もう一つ扉があることに気づいた。

他のセーフルームには出入り口と、シャワー室しかなかったのに…中に何が…

気になるけど、先に全身の汚れを落としたかったのでシャワー室に入った。


…シャワー室も他のより広い。

他の小さな個室に無理やりシャワーを取り付けたように狭いし、お風呂も足を抱えないと入れないほど小さい。

けど目の前の設備はそれらよりもはるかに上等なもので、きっと体の疲れも取れてゆっくりできると思う。

…でもあたしはそんな気分になれそうにない。

ゆっくり湯船に浸かろうとも思えなかった。…前は結構好きだったんだけど、今は面倒に感じている。

舞を待たせても悪いし、手早くシャワーだけ浴びることにした。


暖かいお湯を浴びても、心は晴れない。

何かに心を握りつぶされている、そんな嫌な気分がただ続いている。

…原因はわかっている。静華のこと……いやそれだけじゃないかもしれない。

正直もう限界だった。すぐにでも金切り声をあげて、現実逃避をしたかった。

けどそれはできない。外にいる2人に、そんなあたしの姿を見せることができない。


2人はあたしを信じてくれている。どんな時でも、諦めず進み続ける…そんな強いあたしを。

だからこそ、今まで無理を通し続けてきた。あたしが無理をすれば、みんな希望を持ち続けてくれていたから。

……だからまだダメ。せめて2人には、強いあたしを見せ続けて安心を…


「あら、私にはそんなことしてくれなかったのに…ひどいわね。」

「っ!誰!?…は、は…?」

「さっきぶりね、結。」


振り返った先、そこにいたのは…静華だった。

学校の制服を着た、美少女。怪物になる前の姿で。

その姿を見た時思わず泣きそうになった。また会えたことが嬉しくて…同時に、悲しくて…合わせる顔がなかったからすぐに背を向けた。

…………おかしい、絶対におかしい…だって静華はあたしが…殺したんだから、ここにいるはずない。

なら目の前にいるのは…いや違う。目の前には何もいない、幻覚だ。


「何を考え込んでいるのかしら…せっかく会えたのにもっと喜んで欲しいものね。」


あたしに会えて嬉しいのか、微笑んでいる。その表情はとても自然で、暖かくて、尊くて…あたしが、壊してしまったものだ。

そうだ、静華は死んだ。だからもういない、目の前にいる…違う目の前には誰もいない。

そう思い無視し続けた。…それなのに、静華は話し続ける。


初めて会った時のこと、怪物に襲われていたところを助けられて嬉しかった。

その後また襲われたけど、また守ってもらえて嬉しかった。

不安だった私のために、着せ替え人形の役を受けてくれて嬉しかった。

嬉しかった、嬉しかった、嬉しかった、嬉しかった……楽しげにそう話し続ける。

楽しそうな彼女とは対照的に、あたしはただ苦痛だった。けど、そんなあたしのことは意に返さず話し続けている。


「やっぱり結はとても頼りになるわ。これからも迷惑かけると思うけど、よろしくね?」

「………」

「ねえ結、せめてこっちを見て?…もしかして私のこと嫌いだった?」


…もう幻覚でもいい。静華の姿をみる最後の機会かもしれない。

その姿を見て、謝罪することができれば…この胸の苦しみも和らぐかもしれない。

あたしは振り返って彼女の姿を見た。

けどそこに静華の姿はなかった。…代わりに別の人物がいた。

よく見慣れた姿と、聞き慣れた声。そこにいたのは、


「ねえ今どんな気持ち?友人だった人を殺してさ…違うか、拷問して、おもちゃにして楽しんだ気分は。楽しかったよね?」

「……うるさい…」

「あはははは!!言わなくてもわかるよ!興奮したでしょ?元仲間の怪物を痛ぶるのはすごく楽しかったよね!!」

「うるさい…黙って…」

「そんな無理しなくてもいいじゃん…わかってるよ。だってさぁ、あたしの事じゃん?」


あたしだった。

同じ背丈、同じ顔、同じ髪、さっきまで着ていた服を身につけて、あたしをみて嘲笑いながら話している。

けれどその姿は、返り血で赤くなっていて…笑顔は歪んでいて、目は血のように真っ赤な色をしている。

…これはあの時のあたしだ。静華だったものを、いじめて楽しんでいた時のあたし。

なんて醜くて、醜悪で、残酷で、残忍で…こんなのが自分なんて信じたくなかった。


なのに、その思いとは裏腹に心は昂っていて…滴る血を見ると、自然と笑みが溢れる。

鼓動が早くなり、全身の血が素早く駆け巡る。

どうしたらあんな姿になれるんだろう。どうやったら、ああなれるんだろう。

あの時のやったことは確かに恥ずべきことなのかもしれない。…でもとても楽しかった…できればもう一度…


その考えが頭をよぎった瞬間、全力で自分の胸を叩いた。

あの時のことを良しとする自分が許せなかった。あんなのは自分じゃない、いや人間のすることじゃない。

心臓が破裂するほどの勢いで殴りつけたせいか、呼吸もままならない。

込み上げてくるものを抑えきれず吐き出した。…真っ赤な液体だ、今も絶えず競り上がってきている。

痛みと苦しみで立っていられず、膝から崩れ落ちる。自分の血と、目の前の奴の血が混ざり合い…渦のような形をしている。まるで、目の前のやつと混じり合うような気がして、最悪だった。

流れ続けるシャワーの音と、自分の姿をしたやつの笑い声だけが耳に入ってきて気持ちが悪い…

…意識が遠くなっていく。


「ふふ…逃げても無駄だよ?いずれあなたはその快楽に抗えなくなる。わかってるはずだよ?だって…」


最後の言葉を聞く前に、意識は暗闇へと沈んだ。

けれど、彼女がなんて言ったか…それはもう、わかってる。

血まみれの自分の姿を見たのは初めてじゃない。


前に夕暮れの教室で、血まみれの自分を見た。あれはここに来るより前のことだ。

あれがもし、本当のことだったとしたら…



きっとあたしは……前にも同じことをしたんだと思う。

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