2−1.代償
胃腸炎が治らないせいで、更新ペース落ちてすみません。
少しずつでも更新できるように頑張ります。
感想コメント、いいね、評価お待ちしてます。
※人物紹介にイラストを載せたので見てもらえると嬉しいです。(一部キャラは作り直して投稿します。)
辺りから鉄臭い匂いが漂っている。気づいた時にはここに立っていた。
目を開いて確認しようとしたけど、周りは完全な暗闇だ。
地面が濡れてるのか歩くたびに足元から水の跳ねる音がする。
自分以外何もいない。けれど、今はそれが心地よかった。…今は何も考えたくない。
あたしはただ歩き続ける。
どこに行けばいいかわからないけれど、歩き続けないと行けない気がした。
歩き続けてもただ暗闇が続いている。聞こえるのは、自分の息遣いと歩くたびに跳ねる水音だけ…
少し前の自分だったら恐怖で動けなかったかもしれない。
ふと足に何かが、引っかかる。…人間の死体だ。
その時に気づいた、足元の水は血のようだ。歩くたびに跳ねていた為、足元を赤く染めている。
けれど心は動かない。
もう見慣れてしまった。人間の死体なんて珍しくもないし、血が体にかかるのもいつものことだ。
足元の死体をまたぎ、歩き続ける。
進むたびに死体は増えていく。中には見た顔が混じっている。
どの死体も何かに惨たらしく殺されたのか、苦痛の表情を浮かべている。その全てがあたしを見ている気がした。
体は血で汚れていく…
それでもあたしの心は動かない。
死体の山の中を歩き続けると、誰かがそこに蹲っている。
何かを食べているのか、地面から何かを引きちぎって口に運び続ける。
長い髪の人物に近づいてみるとそれは…舞だ。
ただ黙々と死体から肉をちぎって咀嚼し続けている。
その死体には見覚えがあった、茶色いロングコートを着た男性だ。
……………
彼女の手を取り、やめさせる。
こちらを見た彼女は、無垢な表情で口元と手を血で汚している。
やめさせているあたしを不思議そうな顔で見上げている。
「?あれ結さん、どうしたんですか?ああこれですか、すごく美味しいんですよ。一緒にいかがですか?」
「…………いい…」
「どうしてですか?結さんがわたしを怪物にしてくれたおかげで、こんなに美味しい物に巡り会えたんですよ?」
「……ごめん……やめて……」
「これわたしが殺したんですよ?噛み付いたら、痛いー!痛いー!って…面白い叫び声をあげてて…本当に」
「やめて…」
「楽しかったんですよ…♪あの時の結さんと一緒ですね♪」
「……………」
あの時、舞が死にかけていた時…助けたのは、本当に正しかったんだろうか…
自分の身に起きていることは分かってる。
人を…生き物を見ると、胸の奥から邪悪なものが湧き上がってきて感情が黒くなっていく。
それは舞を助けようとした時にも感じていた。だからわかっていた、いずれ舞がこうなるかもしれないって…
それなのにどうして…あの時助けてしまったんだろう…
助ければ、同じ苦しみを味合うことになるとわかっていたはずなのに…あたしはだた自分が傷つきたくなくて
…
目の前の彼女は、笑いながら小腸を引きちぎり渡してくる。
「ほら!結さんも食べてみてくださいよ!きっと気に入りますから♪」
ピンク色をした長いそれは、血が滴り落ちて…気持ち悪くて…嫌で…でも、美味しそうで…思わず手に取ってしまう。
ふと…地面に転がっている死体と目があった。
正気のないその目に写っているのは、歪んだ笑顔で内臓を受け取っているあたしの姿…
友人の瞳を通してみたその姿があまりにも悍ましくて…気持ちが悪い…
「っうぐ!おええええぇぇぇ…!!……あ、あたしは何して…」
「もう〜勿体無いですね。…でも大丈夫ですよ!だって…」
血まみれで、手には内蔵を握ったまま立ち上がりあたしに言う。
ゆっくりと近づくにつれ、彼女の笑顔が歪んでいく…歪に…醜悪に…嘲笑うように…
そして彼女は言った。これからあたしがするであろうことを。
「これからもっと、たくさん殺すんですから…ね?」
たくさん。その中にはきっと今足元に転がっている彼のように、仲間や友人も含まれているような気がした。
でも、それは間違っていない。あたしが少しでも、正気を無くせば起こり得るからだ。
………あたしの手にはいつの間にかマチェットが握られている。
目の前では、ケタケタと愉快そうに笑い続ける舞がいる。
…そうだ、彼女を殺さないと。だって仲間を殺したんだから、彼女は敵だ。
敵は殺す。それが仲間でも、友人でも、家族でも、誰であろうと…裏切ったら殺す。
そうしないと、仲間が殺される。…あたしは、間違ってない…間違ってないはずだ…
あたしはマチェットを振り上げて、そして……
「っ!つは…はっ…はっ…はっ……」
目が覚めた。
……はずだ…
「どうしたんですか?わたしの事殺さなくていいんですか?」
そう言って目の前で舞が笑い続けている。
その姿はさっきまで夢で見ていた姿で、今も体から返り血が滴り落ちている。
…すぐそばで寝息を立てている舞がいる。
「無視しないでほしいです!…ああ〜そこのわたしはまだ、わたしみたいになってないですね…」
ベッドの傍には、確かに舞がいる。反対側にも舞がいて、あたしのベッドに突っ伏して寝息を立てている。
…どっちが幻覚なのか、本物なのか区別できない。
わかるはずなのに、目の前の彼女は幻覚だってわかっているはずなのに…なぜか確信が持てない。
体から流れ続ける血が床に溜まっていく。
…わからない…血まみれの舞は幻覚のはず…けれど、血が床に落ちる音…呼吸音…そういった物が目の前の舞を現実の存在だと認識させてくる。
現実と幻覚…どちらが本当のことなのか……わからない。
目の前で笑い続けている舞と、すぐ側で寝息を立てている舞…どっちが本物?
そのことに気づいたのか、目の前の舞はあたしを見て笑いかけてくる。
その笑顔はいつもの舞のものなのに、滴り落ちる血との違和感があり…その姿を見たあたしは、怖くなった。
全てを否定するように目を瞑り、毛布を被る。…けれど、笑い声は止まってくれない…
「ふふ…ひどいですね…わたしが話しているのに。けど、時間の問題ですよ?あっちのわたしが、わたしと同じになるのは。」
……もう全て、夢であって欲しかった…
3人で扉を抜けた先にあったのは、開けた場所だった。
左手には以前見たのと同じ昇降機があり、正面には別のフロアへの扉が設置されている。
そして右手側、そこにも扉がある。扉の横に機械がある、これはセーフルームだ。
…正直助かった。胸焼けのような、気持ちが悪いこの感情をなんとか鎮めたかった。
「…2人とも今日はここで休まない?」
「別にいいけど。まあこんなところにあるセーフルームだしな、何かあるかもしれない。」
「そうですね、それに…ちょっと気持ちの整理をしたいです…」
「………そうだね…じゃあ今日はここで休むってことで。」
そう言って機械にGフォンをかざす。
今までと同じように扉が開く。けれど、中は今までと違っていた。
内装が全然違う。
敷き詰められたカーペットに、室内を明るく照らすシャンデリア。
高級ホテルのような大きなベッドに、ふかふかなソファー等今までと全然違う。
「うわぁー…すごいです!ほらベッドもすごいですよ!わー…ふかふか…」
「確かにこいつはすげえな…ベッドのせいか広さも全然違うな。」
「…あたし、先にシャワー浴びてくるから。2人は休んでて。」
「あっわたしもシャワー浴びたいです!うぅ…ちょっとベッド汚れてしまいました…」
「…ならそこは舞が使えよ。もう一つは結が使え、俺はソファーでいいから。」
「わかった、ありがと。ごめん舞すぐ出るから、待ってて。」
「大丈夫ですからゆっくりしてください。わあ〜冷蔵庫の中にジュース入ってますよ!」
「マジかよ!…酒もあるか?」
2人の楽しそうな声を聞きながらシャワー室に入ろうとした時だった。
シャワー室の横に、もう一つ扉があることに気づいた。
他のセーフルームには出入り口と、シャワー室しかなかったのに…中に何が…
気になるけど、先に全身の汚れを落としたかったのでシャワー室に入った。
…シャワー室も他のより広い。
他の小さな個室に無理やりシャワーを取り付けたように狭いし、お風呂も足を抱えないと入れないほど小さい。
けど目の前の設備はそれらよりもはるかに上等なもので、きっと体の疲れも取れてゆっくりできると思う。
…でもあたしはそんな気分になれそうにない。
ゆっくり湯船に浸かろうとも思えなかった。…前は結構好きだったんだけど、今は面倒に感じている。
舞を待たせても悪いし、手早くシャワーだけ浴びることにした。
暖かいお湯を浴びても、心は晴れない。
何かに心を握りつぶされている、そんな嫌な気分がただ続いている。
…原因はわかっている。静華のこと……いやそれだけじゃないかもしれない。
正直もう限界だった。すぐにでも金切り声をあげて、現実逃避をしたかった。
けどそれはできない。外にいる2人に、そんなあたしの姿を見せることができない。
2人はあたしを信じてくれている。どんな時でも、諦めず進み続ける…そんな強いあたしを。
だからこそ、今まで無理を通し続けてきた。あたしが無理をすれば、みんな希望を持ち続けてくれていたから。
……だからまだダメ。せめて2人には、強いあたしを見せ続けて安心を…
「あら、私にはそんなことしてくれなかったのに…ひどいわね。」
「っ!誰!?…は、は…?」
「さっきぶりね、結。」
振り返った先、そこにいたのは…静華だった。
学校の制服を着た、美少女。怪物になる前の姿で。
その姿を見た時思わず泣きそうになった。また会えたことが嬉しくて…同時に、悲しくて…合わせる顔がなかったからすぐに背を向けた。
…………おかしい、絶対におかしい…だって静華はあたしが…殺したんだから、ここにいるはずない。
なら目の前にいるのは…いや違う。目の前には何もいない、幻覚だ。
「何を考え込んでいるのかしら…せっかく会えたのにもっと喜んで欲しいものね。」
あたしに会えて嬉しいのか、微笑んでいる。その表情はとても自然で、暖かくて、尊くて…あたしが、壊してしまったものだ。
そうだ、静華は死んだ。だからもういない、目の前にいる…違う目の前には誰もいない。
そう思い無視し続けた。…それなのに、静華は話し続ける。
初めて会った時のこと、怪物に襲われていたところを助けられて嬉しかった。
その後また襲われたけど、また守ってもらえて嬉しかった。
不安だった私のために、着せ替え人形の役を受けてくれて嬉しかった。
嬉しかった、嬉しかった、嬉しかった、嬉しかった……楽しげにそう話し続ける。
楽しそうな彼女とは対照的に、あたしはただ苦痛だった。けど、そんなあたしのことは意に返さず話し続けている。
「やっぱり結はとても頼りになるわ。これからも迷惑かけると思うけど、よろしくね?」
「………」
「ねえ結、せめてこっちを見て?…もしかして私のこと嫌いだった?」
…もう幻覚でもいい。静華の姿をみる最後の機会かもしれない。
その姿を見て、謝罪することができれば…この胸の苦しみも和らぐかもしれない。
あたしは振り返って彼女の姿を見た。
けどそこに静華の姿はなかった。…代わりに別の人物がいた。
よく見慣れた姿と、聞き慣れた声。そこにいたのは、
「ねえ今どんな気持ち?友人だった人を殺してさ…違うか、拷問して、おもちゃにして楽しんだ気分は。楽しかったよね?」
「……うるさい…」
「あはははは!!言わなくてもわかるよ!興奮したでしょ?元仲間の怪物を痛ぶるのはすごく楽しかったよね!!」
「うるさい…黙って…」
「そんな無理しなくてもいいじゃん…わかってるよ。だってさぁ、あたしの事じゃん?」
あたしだった。
同じ背丈、同じ顔、同じ髪、さっきまで着ていた服を身につけて、あたしをみて嘲笑いながら話している。
けれどその姿は、返り血で赤くなっていて…笑顔は歪んでいて、目は血のように真っ赤な色をしている。
…これはあの時のあたしだ。静華だったものを、いじめて楽しんでいた時のあたし。
なんて醜くて、醜悪で、残酷で、残忍で…こんなのが自分なんて信じたくなかった。
なのに、その思いとは裏腹に心は昂っていて…滴る血を見ると、自然と笑みが溢れる。
鼓動が早くなり、全身の血が素早く駆け巡る。
どうしたらあんな姿になれるんだろう。どうやったら、ああなれるんだろう。
あの時のやったことは確かに恥ずべきことなのかもしれない。…でもとても楽しかった…できればもう一度…
その考えが頭をよぎった瞬間、全力で自分の胸を叩いた。
あの時のことを良しとする自分が許せなかった。あんなのは自分じゃない、いや人間のすることじゃない。
心臓が破裂するほどの勢いで殴りつけたせいか、呼吸もままならない。
込み上げてくるものを抑えきれず吐き出した。…真っ赤な液体だ、今も絶えず競り上がってきている。
痛みと苦しみで立っていられず、膝から崩れ落ちる。自分の血と、目の前の奴の血が混ざり合い…渦のような形をしている。まるで、目の前のやつと混じり合うような気がして、最悪だった。
流れ続けるシャワーの音と、自分の姿をしたやつの笑い声だけが耳に入ってきて気持ちが悪い…
…意識が遠くなっていく。
「ふふ…逃げても無駄だよ?いずれあなたはその快楽に抗えなくなる。わかってるはずだよ?だって…」
最後の言葉を聞く前に、意識は暗闇へと沈んだ。
けれど、彼女がなんて言ったか…それはもう、わかってる。
血まみれの自分の姿を見たのは初めてじゃない。
前に夕暮れの教室で、血まみれの自分を見た。あれはここに来るより前のことだ。
あれがもし、本当のことだったとしたら…
きっとあたしは……前にも同じことをしたんだと思う。




