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EDEN  狂気と裏切りの楽園  作者: スルメ串 クロベ〜
61/126

60.**怪物

体を振り子のようにして、鎖を動かす。

3階の床が一番近い位置で、手を離し飛び移る。

柵の部分に手が掛かり、ひとまず危機的状況を抜け出す。…けどまだ終わってない。


すぐに1階を確認する。

…動かずにこっちを見ている。前に見た通り移動してこない。

これなら、1階に行かなければなんの問題も…


「ウガアアアアアアアア!!!アアアアア!!!」

「?!」


けたたましい雄叫びと共に跳躍した。

1度の跳躍で軽々と、2階まで移動する。

そして再び跳躍をし、3階に飛び移ろうとしてくる。


けど、それをただ見ているわけない。

2階に移った段階で構えていたショットガンで、空中にいるやつを撃った。

けれど無駄だった。体勢を少し崩しただけで、そのまま3階へと上がって来る。


あたしがいる場所の反対側に降りたやつは、あたしと扉前にいる2人を品定めするように見ている。

その姿は、あたしよりも長身で筋肉質な体をしている。

遠目では人間にしか見えないその風貌だけど、近くで顔を見れば一つしかない瞳と大きく裂けた口で違うとわかる。

けれどその体は所々焦げたように黒ずんでいて、破損と再生を繰り返している。


…間違いない、人型の怪物だ。2階で確実に殺したと思ったのに生きていた。…けど、どうして?

あの時、黒焦げにしてから龍之介が撃って木っ端微塵にしていた。

あの状態から再生できるとは思えない。核っていうのもあの状態で無事なはずがない。


なのにどうやって…!まさか…

怪物化した静華が、こいつを喰った?

前に龍之介が言ってた。変異した生徒が他の人を喰って犬の化け物になったって…


それなら説明がつく。静華も変異する時に、人型の怪物を意識してた。

変異する時、おそらく自分が望んだ形に変異する。あたしの場合人間のままでいたいと望んだから、この状態だ。

けど静華は、不完全な状態で変異が止まっていたのに…そこに死にかけの人型来て、それを取り込んでもう一度変異したんだ!


…だからだろうか、この人型が所々炭みたいになっているのは…

多分死にかけを取り込んだせいで、その状態がそのまま現れている。

なら、そこは脆くなっているはず…そこを砕けば、動きを封じて倒せる!


「2人とも自分の身を守って!龍之介はグレネードランチャーを撃つ準備を!」

「わかった!」「は、はい!」

「…これで、本当に最後にしてやる…!」

「ウガアアアアア!!!」


…もうこいつに対しての恐怖はない…あるのは、恨みと憎しみだけだ。

あたしの前にまた出てきたことを、後悔させてやる…!








まずは拳銃でやつを撃つ。…案の定、腕で防がれたけど問題ない。

忌々しげにこちらを睨んでいる。これでこっちに注目させられた。


次に奴が動き出す前に、ショットガンを撃つ。こいつに動かれたら、当てるのは難しい。

ただでさえ、マチェット持っていて支えにくいのに動かれたら絶対に当てられない。

とにかくショットガンで撃って、あえて防御させる。そうすれば足止めできるし、頭を守るために視界が遮られこっちを見失う。

そして少しずつ距離を詰めて、両腕を切り落とす…その後は頭を落とすだけだ。

それにあたしが撃ち続けることで、2人の方へ意識が向かない。これで龍之介は安全に準備ができる。


…問題があるとすれば、弾数。このショットガンは8発しか弾が込めれない。

弾切れする前に近づいて、両腕を切り落とさないと…あたしは死ぬ。

拳銃だと、弾をばら撒けないので片腕で防がれるだろう。だから、勝負はこの8発を撃ち切るまでだ。


距離にして十数m…走れば数秒で近づける距離だ。

橋を渡り、怪物側へと向かう。

1発撃つごとに、少しずつ距離を詰めていく。

ふと龍之介を見ると、グレネードランチャーを構えている。


それが撃てるなら任せよう。

ショトガンを撃ち視界を遮り、あたしは距離をとる。


「龍之介!撃って!」

「あいよ!」


ぽん!という可愛らしい音と共に弾丸が撃ち出される。

それは放物線を描いて、怪物に向かっていく。そして、当たった瞬間爆ぜる。

熱風と衝撃が、近くにいたあたしまで届く。


…煙でよく見えないが、まだ人型のシルエットがそこにある。

動きはない、けどまだ生きているはず…確実に息の根を止める!

煙が晴れる前に、奴の元へと走る。


そして、シルエットを頼りにマチェットを振り下ろす。

柔らかい肉断ち、硬い骨を砕く感触が伝わってくる…

…片腕を切り落としても動きはない。その間にもう片方の腕も切り落とす。


煙が晴れていき、奴の姿がはっきりとわかる。

小さく呻き声を上げながら、懇願するようにこちらを見ている気がする…

そんなことをされても、全く同情しない。


頭を切り落とすため、マチェットを振りぬき、


「ウ…ユ……い……」

「?!」


首元で止める。

…今あたしの名前を呼んだ?


「しず…か…なの…?」

「ぐ…が…ゆ……い…」


ありえない…違う…静華はもう死んだ…

あたしの目の前いるこいつは、凶悪な見た目をしたこいつが、静華のはずない!

そう…違う…そう思うのに……未練を捨てきれない…

もしかしたら、あたしみたいに人間に戻れるかもしれない。それなら殺さなくても…


「結!避けろ!」

「…え」


俯いていて、怪物を見ていなかった。

龍之介の声で顔を上げたあたしの目に映ったのは…あたしの肩を食い千切っている、怪物の姿だった…









歯が食い込み、皮膚を破り、肉が食われているのがわかる。

ミチミチ…ブチ…ベキ…ボキ…

肉を食われ、骨を砕かれ、血管がちぎられて、あたしが削られていく…


「あ…ああああ!!痛い!痛い!やめて!あああ!!痛い痛い痛い痛い!!!!」

「グチュ…クチュ…ゆ…い……グチュ……い…」

「ぐうううう!!!は、離して!離して!離せ!!」


振り払うためにマチェットを振るうが、簡単に躱される。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い……気を抜くと、そのまま気を失いそうな激痛だ…

傷口を見ると、筋肉どころか骨がなくなっていて…僅かな肉でつながっている状態だ。


怪物に向き直ると、その姿が変わっている。

さっきまでは筋肉質な男性という見た目だったが、今は…長身の女性のような見た目に見える…

それに、切り落とした両腕が再生している。


…怪物が他の怪物を喰うと変異する。

今のこいつは、あたしという怪物を喰って変異したんだ…

でも、確かにあたしの名前を呼んだ。…もしかして罠だった?

そしてその罠に見事に引っかかった間抜けが、あたしってことか。


…あたしの腕の傷はすぐには治らない。

激しく動けば、千切れかねない。

どうする…どうすればいい…時間を稼いで、龍之介にグレネードを撃ってもらうしか…


「滑稽…ね…ユい…」

「?!…誰なの?」

「あラ?モう忘レテシまったノ?静華ヨ。やっパリ私ノコとなンテドウでも良カったノネ。」

「そんなわけないでしょ?静華だって、あたしのこと忘れたのかな?これすごく痛いんだけど。」

「アッハハハハハハハハ!!!!イイわ!ソノ顔!苦痛に歪ンダその顔!ソレが見たカッタのよ!」

「…随分性格が悪くなったね。今ならまだ許してあげる…ねえ戻ってきてよ…」

「アラ?つまラナイことヲ言わナイでヨ。アナたの肉スゴく美味シイのヨ?きっト…アっちノ2人の肉モ美味シイのでショウね…」


それを聞いた瞬間、マチェットで切り掛かった。

けれど僅かに体を捻るだけで、躱されてしまう。

そして片腕がないせいか、バランスが取れずそのまま地面へと倒れ込んでしまった。



「アラ怖ーイ!戻っテ…なンテ言ってヤッパり裏切ル気だっタノね!けどイイわ。私もアナタタちヲ殺すツモりだカラ!」

「っ!そんなことさせない!…それに静華はあたしと一緒にここで死ぬのよ!龍之介撃って!」

「っく!避けろよ!」

「そんナノ当たルワけ…ユイ?!離シナさイ!」

「逃すわけないでしょ?黒焦げにして逆に食べたげるわ!」



マチェットを突き刺して、足を絡ませ動きを封じる。

…着弾する瞬間突き飛ばし、少しでも距離を空ける…が無駄だった。



上半身は軽いやけど程度で済んだ。けど、

下半身はひどい状態だった…皮膚が焼け爛れ、肉が焼けた匂いが漂っている。

足先は炭化しているのか、黒くなって感覚がない。

あまりの痛さで、失禁してしまい…それが傷口にかかり、さらに痛みを増加させる…



「いやああああ!!熱い!痛い!ああ!!ぐうう!…うう…があ…」

「結!」「結さん!」

「…うううう…これ…で…?!」



煙の中で蠢いている…

錆びた機械のように、鈍い動きで立ち上がるのがシルエットでわかる。

嘘でしょ…直撃したのに…なんでまだ生きてるの?



「ヤッて…クレるわネ……結ヨリ先に…あっチヲ殺ス!」

「2人…とも!にげ……て!」



熱風のせいか、喉が焼け付くように痛くて声がまともに出ない…

それに、足が動かない。動くのは片腕だけ。…もうあたしにできることはない…

……………………。















side:雪原 舞

結さんが倒れて動かなくなった後、怪物がこちらに向かってきました。

…すごく怖い…けど、結さんはいつも守ってくれていました。

だから今はわたし達が守る番です!



「クソ!こっちくんな!」

「アッハハハ…アハハ!!そンナ事言ワナいデ?私ガアナた達ヲ食ベレば、ズッと一緒なノヨ?ソレは素晴ラシい事ダト思わナイ?」

「思うかよ!弾でも食ってろ!」

「っ!痛い…じゃナイノ!」

「!再生が遅い…グレネードはちゃんと効いてるのか!なら後は削ってやる!」



龍之介さんがひたすら大きな銃を撃っています。

わ、わたしも!そう思い、引き金を引きましたが…全然当たりません…

何か…何かわたしに、できることは…そうだ!



わたしは背負っていた鞄の中からある物を取り出す。

それのピンを引き抜いて、2人の間に投げ込む。



「龍之介さん!投げました!」

「?…ああ!」



わたしの言葉で伝わったのか、銃を撃った後にすぐ目を隠しました。

次の瞬間、周囲は光で埋め尽くされ真っ白になりました。



「あア?!目ガ!目がアア!見エナい!あアアあ!!」

「ざまあみろ!舞!結を頼む!」

「はい!」

「あああ目が!…ナンテネ?つーかマエたっ。」

「え?」



怪物の後ろを走り抜けようとした時、そう言ったのが聞こえました。

そしてすぐに、龍之介さんの苦しむ声が聞こえてきました。



「ぐぅ!クソ、離せ!」

「アッハハハハハ!!!ザーンねんネ!そんなバレバレノ手ガきクワけ無イデショう?」

「りゅ、龍之介さんを離してください!」

「…私ネ…あナタの事ダケは許セナイのヨ?ナンで…私よリモ役立タズノくセに…なんで、なんでなんでなんでナンデナンデ!!!」

「…それは自分でもわかってます。だから、今は逃げません!龍之介さんを離してもらいます!」


そう言って銃を撃ちました。…けれど怪物にはなんの変化もありません。


「フッアハハハハハ!!!アーやっぱりアンたは役立たズ…ネ?」


…きっとわたしの銃はそこまで強くないのでしょう。怪物をやっつけることができないみたいです。

…ごめんなさい結さん。やっぱりわたしじゃあ…


「龍之介を離して、静華…いや離せ怪物。」

「え?」


声がして振り返った先には…


口元が血で汚れた結さんがいました。








消えていく意識の中、ふと栄華さんが言っていたことを思い出した。

怪我をした時は、なんでもいいから食べろ。怪物でもいいって…

静華は怪物であるあたしの肉を食って変異し、再生した。


…ならあたしは?もしかしたら、同じことができるんじゃないのか?

けど、それをするってことは…今度こそ怪物になるかもしれない。

人の形を失って、人間性をなくして…全てを壊すかもしれない……けど…


今やらないと…みんなを死なせたくない。…静華にこれ以上罪を重ねてほしくない!

残った片腕を使い、這って移動する…切り落とした腕のところまで…

…これを食べたら、もう後戻りできない。あたしは自分の意思で、怪物になる。

覚悟は………出来てる…!


床に落ちている腕に喰らいつく。

…血の味が口の中に広がる…噛む度に、人間を食べているような錯覚に襲われ発狂しそうになる。

けれど食べ続ける。…狂ってもいい…みんなを助けた後なら、死んだっていい…

胃のなかに、生肉が溜まってくる。…気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い…

…ただひたすら、肉を喰らい続け…変化が起こる。


「ウグぅ!ガアああ!くぅ………アア!!」


痛みと共に視界が赤に染まっていく…

自分の腕が、足が、体が、頭が、別の何かになろうとしている…

ぶくぶくと泡立つように変質していく。傷口からも肉が湧き出て、埋めていく…

…ふと、視界の端にみんなが見える…ああ………


オイシソウダナ………


………違う…違う…違う違う違う!

腕に爪を突き立て、皮膚を裂く。その度に傷口が再生されていく。

けれど痛みは感じる。その痛みがあたしの正気を保ち続けてくれる。

爪が取れ腕に突き刺さっても、すぐに治る。


ああ…もう完全に怪物じゃん……けど…

それでも、あたしは…あたしは…!

頭の中に声が響く…


【君が一番怖いものは何?】


…うるさい…怖い物なんてない!あたしは人間だ!これからも、この先もずっと!


【そうか…わかったよ…】


身体中の変異は止まっている…もう痛みはない。

体は全て正常だ、むしろ調子がいい。

今のあたしはどんな姿としてるだろうか…ちゃんと人間の形をしてるんだろうか…

…どんな形でも今はいい…やることは変わらない。

全身に力をいれ立ち上がる。…行こう…静華を……殺しに…

感想コメント、いいね、評価お待ちしております。

次回で1章終わりの予定です。


※1話で収めるの無理だったので、2話です。

それと、前日弾とかも書く予定ですのでそれを合わせるとおそらく3、4話ですね…すみません…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 食った人の意識が移ってる…?かはともかく怪物になった後も話しかけてくるのは中々ホラーですね… 決死の判断で食らわせた攻撃も大して利かず万事休すかと思いきや結ちゃん復活でようやく本当の意味で…
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