59.変わりたいから
静華がいなくなった後あたしは…その場にへたり込んで、虚空を見つめていた。
2人があたしに何か言っていた気がするけど、何を言ってるのかわからなかった。
しばらくすると2人ともどこかへ行ってしまった。けど、どうでもいい…
…静華を助けることができなかった……いや、あたしはここで誰も救えてない。
静華が死んでしまったのはあたしのせいだ…もっとちゃんと静華や、もう1人の自分と向き合っていれば…
そうしていればきっと…結果は違うものになっていた。
…ああどうして生きているのはあたしなんだろう…他の人でもよかったのに…
なんで…どうして…まだ生きてしまっているんだろう…もう楽になりたいのに…
さっきまで持っていた銃や、マチェットがない。
多分2人が持って行ったのだろうか…手元にあればそれで頭を撃ち抜いて全部終わりにできるのに…
何が全部の責任を負うよ…何が人を結ぶよ……あたしは、そんなの背負ったりできない。
本当はただそれを背負った気でいただけ、動くための動機が欲しかっただけの卑怯者だ。
本当は、誰かに全部任せたかった。自分のせいで何かが起こることが怖かった…
ふと静華が落ちた場所が目に入る。
…2人が戻ってくる前に、あそこから飛び降りたら死ねるかな。
力なく立ち上がり、おぼつかない足取りでそこへ向かっていく…
手すりに手をかけ、下を見る。
あたしが落ちるであろう場所には、すでに肉片と血が散乱している。
それはまるで、落ちることを選んだあたしが辿る未来を見せられているようで、それを見て…怖くなった。
死にたい。死にたい。死にたい…でも死にたくない…怖いよ…
あんな死に方はしたくない…このまま何もわからず死にたくない…
けどもう…何もわからない、何もしたくない…そうだ、もうそれでいいじゃん。
この先は全部龍之介に任せて、あたしはそれに従ってればいい。
そうすれば何が起こっても、自分を責めない理由ができる。
誰かが傷ついて、死んでも…それはあたしのせいじゃない、それでいいじゃん。
それでいいはず…なのに…どうしてもそれをできない。
あたしはそれでいいのに、心の中でそれを私が否定してる。
…もう1人のあたしは強い…力だけじゃなくて、心もきっと…あたしなんかよりも…
じゃあもう別のあたしだけでいいじゃん…あたしなんか居なくても…
「結さん!」
舞が帰ってきた。
背中には、中身が詰まった鞄を3つ抱えている。
何か集めていたんだろうか?
「…舞。どこに行ってたの?」
「?龍之介さんと、武器とか食べ物を集めに行っていたんですよ?行く前に話しましたよね?」
「そうだっけ…ごめん聞いてなかった…」
「あっそれでひとまず、鞄に詰めれる分を持ってきました。これで何日かは大丈夫ですよ!」
「……そう…」
「結さんは大丈夫ですか?もし何かあったら言ってくださいね?」
そう言って笑う舞が不快だった。
なんでそんなに笑えるの?静華が死んだことなんてどうでもいいの?
あたしが必死になって色々抱えているのに、なんでそんなに能天気なの?
なんで…なんで…なんで…
「そっか…ありがと…ねえ舞、聞いていいかな…」
「なんですか?」
「…なんでそんなに笑えるの?」
「それは…」
「なんでそんな平気そうなの!?友達が死んだんだよ?!なのに!…なんで!」
「………」
「なんであたしを責めてくれないの?!…お前のせいだって!そう言ってくれたら…あたしは…!」
死んでもいい理由ができるのに…
「…静華さんがわたしに言ったこと…覚えてますか?」
「え?」
「静華さんわたしの事、役立たずって言ったんです。結さんはどう思いますか?」
「そんなの…違うって…思う…けど…」
「ありがとうございます…けど本当にそう思いますか?わたしは…静華さんの言う通りだと思うんです。」
「………」
あたしはその言葉を否定できない。
口では違うって言うことが出来ても、頭では分かっていた。
舞がいても…いないほうがいい場面はいくらでもあったって…
「わかってたんです…わたしはただみんなについていっただけ、ううん寄生していただけなんだって。」
「…でも、舞は…その…」
「なにもないですよ、わたしがいてよかったことなんて。だからあの時、静華さんがわたしのことを撃ってくれてもよかったんです。」
「外に出たいんじゃないの?どうしても出たいって…」
「そうですね…確かに出たいです。でも、それはみんなに寄生し続けることでもあるって思ったんです。」
「………それがなんで今の態度になるの?わかんないよ…」
「変わりたいって思ったんです。こんな、何もないわたしを結さんはいつも助けてくれたから。」
「…囮とかで使うためだったかもしないよ?もっとひどい理由かも…なのに」
「それでもいいんです。もしそうでも、助けてくれたことには変わりません。だから…」
そう言ってあたしの手を取る。
「今度は…ううん今からでも結さんの力になりたいんです。」
「舞…」
「結さんが苦しいなら、一緒に苦しみます。困ってるなら、助けます。結さんが抱えているものは、一緒に背負います。だから今、辛そうな結さんが少しでも笑えるように…わたしは笑ってみせます。」
明るく眩しい笑顔を、あたしに向けてくる。
…そっか…あたしがしてきたことは全部無駄だったわけじゃないんだ。
握っている小さな手はとても儚くて、簡単に壊れてしまいそうなのに…とても暖かかった…
しばらくすると龍之介も戻ってきた。
あたしの顔をみて大丈夫だと思ったのか、何も言わずに頭を撫でられた。…くしゃくしゃになるから、やめてほしい。
舞が言っていた通り、武器を背負っていた。ショットガン2丁にグレネードランチャー、各種弾丸にマチェットが2本。
これだけあればどんな奴が来ても対処できる。それとあたしの武器は、エレベーター内に隠してあった。
あたしの様子がおかしかったから、仕方なく隠したそうで…まあ当たってるよ。
…大丈夫、まだあたしは大丈夫だ。
2人が色々集めてきた目的は、おそらく…
「2人とも、もう別のフロアに行く気なの?」
「ああ、ここにいいても脱出はできないしな。出るためにも行くしかないだろ?」
「そうだけど…まだ2階ちゃんと調べてないし、1階も奥調べてないよ?」
「必要なものは揃ってるし、調べる必要はないと思ってな。」
確かに、現状ここにあるもので必要なものは揃ってる。
それなら無理に調べる必要はない。
「まあ…そうだね。舞もいいの?」
「はい。それに、わたしじゃあ大きな銃は使えませんので今はこれで十分です。」
「そう?うーん、怪我とか病気もないから薬も要らないし…そう考えると十分だね…」
まあ、あたしの変異がある意味病気みたいなものだけど…
けど1階は、広い場所ごとに何かいる気がするから行く気になれない。
それは龍之介もわかっていたみたいで、
「調べてないところに何かいる可能性はあるし、無理に危険を犯す必要はないだろ?」
「…うん、分かった。けど、その前に1階に行って来てもいい?」
「一応理由を聞いてもいいか?」
「静華にちゃんとお別れを言いたい。」
戻って来れない可能性はあるから、最後にちゃんと別れを言いたい。
…そうすれば、少しはあたしの心が楽になると思うから…
「…分かった。なら俺たちも」
「いや、あたしだけでいいよ。2人はここで待ってて、すぐ戻るから。」
そう言って、1人でエレベータに乗り込み1階に降りる。
周りに人がいると気になるから、1人で行くことにした。
ベル音の後に扉が開く。
1階の荒れっぷりを見るのもこれで最後…全然寂しくないけど。
…?前来た時はひどい匂いがしてたけど、少しマシになってる。換気したのかな…
少し歩いて、さっき見た肉塊があった場所に着く…そうあった場所に。
…おかしい。さっき上から見た時は血溜まりと、肉片が飛び散っていたはず…
今は血溜まりしかない。それと2つ気になるものがある。
血溜まりに向かって、黒い墨みたいなのが付いている。
その線は南側からずっと付いていて、まるで何かが這ってきたような…
そして血溜まりの血が、あたしの背後の店に伸びている。
…背後から何か聞こえる。
何かを噛み砕いている音、僅かに聞こえる呻き声…何かの足音が。
確認しようと後ろを振り向こうとした時、腕を掴まれた。
「ぐう!ああ…!」
凄まじい力で掴まれた腕が軋む…姿を確認しようとした時だ、
「え…いやあああああああああ!!!」
上空へ放り投げられた。
空中で身動きが取れず、回転しながら宙を舞う。
このまま落ちるのはまずいっ!何か、近くに…!
2階を飛び越え3階まで行く勢いだ。
このまま何もしなければ、地面に叩きつけられて死ぬ。
でも空中じゃあ何も…?!吹き抜けの中央に広告を垂らす鎖が見える。
あれを掴めないと死ぬ!
幸いこのままいけば丁度いい掴める。ただ、体が回転しているせいで鎖が見えずらい…!
なんとか姿勢を…っ!鎖が目の前に!
お願い…届いて!
手を伸ばして鎖を掴もうとするが、体の回転のせいで掴めない。
体の上昇が緩やかになってきた…あと数秒で、地面に向かって落下する…
まずいまずいまずい!!このままじゃあ!…足元の位置に鎖がある。
…一かバッチか!
「っう!ああああ!!!」
鎖の根本を蹴る。蹴られた反動で、鎖があたしの足に絡み付いてくる。
威力がありすぎたのか、突き刺すような痛みが足に走る…けどそれどころじゃない。
ただ巻き付いてるだけの鎖なんてすぐに外れる。その前に体を持ち上げ、鎖を掴む。…危なかった。
「結!お前何やってんだ!あぶねえぞ!」
見下ろすと、2人がこっちを見て慌てている。
2人からしたら、あたしが突然大道芸を始めたみたいに映る。
…けど今の状況はそんな生やさしいものじゃない。
あたしの真下、あたしをここに放り投げた奴が見えた。
その姿は見覚えがある。でも絶対にそいつじゃない。…絶対にありえない…
だってそいつは、黒焦げになって…粉々になったはず…
「…なんで…なんでまだ生きて…!」
そいつは…その姿は、人型の怪物…だった…。
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