58.取捨選択
人型の奴を木っ端微塵にしてすぐあたしは気を失った。
理由は単純で、怪我でボロボロだったから。
しかもそんな状態で動き続けたのだから当然だと思う。
1時間ぐらいで目が覚めた。
辺りにはダンボールがいくつも転がっている。どうやらここは、銃の弾を探していた店みたいだ。
起きあがろうとすると、まだ少し痛む。全身に擦り傷やと切り傷ができていて、所々内出血で青くなっている。
すぐ近くに龍之介が座って、作業していた。
「おっ起きたか?結構怪我してたからな、動かさない方がいいと思って。具合はどうだ?」
「んー絶好調かなー。…まあ動けはするから大丈夫。」
「そうか、ならいい。じゃあ移動するぞ。」
「…あいつを足止めした時のこと聞かないの?」
「もう慣れた。それにあれこれ聞かれたくないだろ?」
「うん。ありがと…」
「とりあえず3階に戻って着替えてこいよ。その状態で合流したら舞が倒れるぞ。」
「だね…はぁ、あたしって本当に服汚すよね…」
もう何着目か覚えてない。
別フロアに行く時は絶対予備の服を多めに持っていこ。
そう決め、3階に行き着替える。
服屋さんの従業員室に、水道があってよかった。
爪の間にピンクの塊が詰まってて気持ちが悪い…なんであんなことしたかな…
でもやった甲斐はあった。もう人型のやつに怯える必要はない。
それに2階も自由に調べられる。それが終わったら、カードキーを使って別のフロアへ。
…けど本当にこのカードキーで開けれるのか確認しておかないと…
連絡はその後でいいかな。
龍之介と相談して、先に確認しに行くことにした。
…このことをあたしは後悔することになる。
最北の機械前まで来た。機械の画面には【カードキーを使用してください】と表示されている。
機械の横には、大きな扉が静かに佇んでいる。
「えっとあたしがやっていいの?」
「お前が手に入れたんだから、それでいいよ。」
龍之介の言葉に頷き、機械にカードキーをかざす。
ピッという機械音とともに表示が変わった。
「【Gフォンを使用してください】…えっとこうかな…」
寝不足で頭が回ってないあたしは、何も考えずに画面の通り行動する。
Gフォンを機械にかざす…かざしてしまった。
あたしのGフォンにメールが届く。
『おめでとうございます。
今後あなたは別のフロアへ移動が可能になりました。
あなたが生き残れることを期待しております。 』
といったお祝いのメールだ。
よかった。これでここから出られる。
…それだけなら本当によかったのに…
みんなに知らせようと考えながら、メールの残りを表示させる。
その文字を見た瞬間あたしは凍りついた。
『カードキーの使用回数残り2回』
「え……」
表示されている文字の意味が理解できない…違う、したくない…
この瞬間あたしは、誰かを切り捨てなければいけないことになった。
送られてきた短いメールを何度も読みかえす。
どこかに隠れた文字がないか…誰かのイタズラじゃないか…ここに書かれていることは本当なのか…
そう疑い続けた。…けどそんなことをしても無駄だった。
そのことに気づいた瞬間あたしは膝から崩れ落ちた。
「うう…ぐぅ…!ああ!!ああああああ!!!」
「お、おい結!どうした?!」
駄々をこねる子供のように、床にうずくまり泣き叫ぶ。
嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…嘘だ!
いやだ!あたしにはできない!…誰かをここに置き去りにするなんて!
なんでもっと考えてから行動しなかったの?!なんで先に確認しようなんて考えて……うう…ああああああ!!!
みっともなく泣き叫び、ただ現実を否定し続けた。
ああ…先に龍之介にやらせればよかった…そうしていれば…
「…結、Gフォンみるぞ。」
「!あっ…」
表示されている文字を読んですぐに真っ青になった。
メールを見て龍之介も気づいてしまった。
…でもあたしとは違って彼は冷静だった。
「結、ひとまずみんなのところに戻るぞ。それで…どうするか決めるんだ。」
「……あたしは…ここに…ぐす…居たい……みんなに合わせる顔がないよ…うう…」
「お前だけのせいじゃない、俺も止めなかったんだ。…それに脱出できるかもって考えたら…」
「…あたしは………少し頭を冷やしてくる…龍之介は2人に話しておいて…」
「…わかった……明日、ちゃんと話そう。」
「…うん…ごめんね…」
龍之介は2人に連絡とりながら、去っていった。
……ああ…どうすれば…あたしは……目的もなくフラフラと歩き出す。
結局あたしは、外出禁止時間ギリギリまでフロア内を徘徊し続けた…
どこのセーフルームに入ったかもわからない。
ただひたすら歩き続けて、考え続けたけど…何も思いつかなかった。
明日になるのが怖い…もうずっとこのまま時間が止まればいいのに…
…あたしには誰かを切り捨てて、生き残るなんて…無理だ。
みんなあたしを頼ってくれて、信頼してくれてる。それを裏切るなんて…
……違う…あたしが本当に怖いのは…あたしのせいで誰かが死ぬのが怖いんだ…
麻倉君があたしを庇って死んだ時から思ってたことがある。
…なんであたしにそんなことを背負わせるの?
誰かが代わりに死んだから生き残れている…そのことを考えると、罪の意識で死にたくなる。
明日もし誰かをここに置いて行くことになったら、そのことを一生後悔し続けることになる。
なんであたしを残すって選択をさせてくれなかったんだろう…
そうすればこんなこと考えなくてもよかったのに…
心が後悔と、不安と、罪悪感で押しつぶされていく。
そんなあたしにはお構いなく、時間は無常に過ぎていった。
Gフォンに電話がかかってきたことでそのことを理解した。
「…もしもし…」
『今すぐ、3階の扉前に来なさい。』
「…うん…わかった…」
…あたしは選ばなくちゃいけない…
先に進むために誰かを切り捨てるか…それとも立ち止まるか…
重い足取りで向かう。
どうすれば…いいんだろう…
そうだ…このまま逃げ出せば、いいんじゃないか?
そうすれば、選ばなくてすむ。…でもいずれは選ぶことになる…それも今より最悪の状況で…
あたしのGフォンを誰かにあげれば…でも本人じゃないと使えない。
いっそあたしが死ねば、使用回数が戻るかも…間違いなくみんなの重荷になる。
…もう何も思いつかない…ただでさえ寝不足で、頭が回らないのに…
これからどうなる…もしかしたら、殺し合いになるかもしれない…
ああ…そうなったら1番にあたしを殺してもらおう…
うつむきながら歩き続けていると、いつの間にか着いていた。
…顔を上げるのが怖い。みんなあたしのことを、どんな目で見ているんだろう…
「来たわね…結、ちょっとこっち来てくれるかしら?」
「…うん…」
声がした方に向かって歩く。誰かの足が見える。
顔が上げられず、俯き続けていると…頬を叩かれた。
「…何考えてるのよ!なんで勝手な事をしたの!?」
「え…ごめ…ごめん…」
「謝って済む問題じゃないでしょ?!こっち見なさい!」
「っ!…あ、あた…しは…」
襟元を締め上げられ、顔を上げさせられる。
そこにいたのは静華だ。…その顔は怒りで染まっていて、見たことがない表情をしている。
…当然だ…。だって…他の人からしたら、あたしのしたことは裏切りだ。
理由とかは関係ない。脱出のチケットを勝手に使ったあたしはみんなからすれば裏切り者なんだ…
「どうするのよ…どうするのよ!こいつが勝手に使ったせいで後2人しか生き残れないのよ?!」
「それは結だけのせいじゃない!俺だってその場にいて止めなかった。だから、俺も同罪だ…」
「だからなに?じゃああなたはここに残ってくれるのかしら?!」
「っ!…それは……悪いができない。」
「結局口だけじゃない!悪いとも思ってないのでしょ?!」
「あ、あの…喧嘩は…」
「うるさいわね!…そうだわ、あなたが残ればいいじゃない…」
「え…何を…言って…」
「だってそうでしょう?あなた、なんの役にも立ってないじゃない!」
「!…そう…です……わた…しは……」
「そうよ…結と真壁先生には、今後も戦ってもらわないといけない…ならあなたがいらないわ。」
「…いやです…」
「なんですって?」
「絶対にいやです!…これだけは譲れません!わたしは…外に出ないといけないんです!」
「そんなのは私だってそうよ!あなただけじゃないわ!」
「いい加減にしろ!!」
…ああ、みんなが言い争ってる…
あたしは……
「…もういいわ…最初からこうすればよかった…」
「!おい静華…お前何してるかわかってるのか?」
「…え…」
顔を上げてみると、そこには…静華が舞に、銃を向けている状況だった…
静華の顔は焦燥感でいっぱいになっており、本当に撃ちかねない。
…それだけはだめ。
あたしは立ち上がり、2人の間に立つ。
「結さん?」
「…なんの真似かしら、結…」
「それだけはだめ。…それをしたら静華は絶対に後悔する。」
「…あなたに私の何がわかる?後悔なんてしないわ。」
「だとしても、だめ。それにそれをしたらあたしは…静華を信用できない。」
「そう。それなら大丈夫よだって…」
「っ!」
「私はもうあなたを信用していないから。」
静華の放った弾丸が、あたしの足を貫く。
鋭い痛みと熱が傷口から、足全体を犯していく。
…でもここで倒れるわけにはいかない…静華に、人殺しはさせない。
「銃弾を足に受けても平然としてるなんて…やっぱりあなたは、怪物ね…」
「平然となんてしてないから…すっごく痛いんだけど…後その呼び方は傷つくからやめて。」
「…怪物を怪物と呼んで何が悪いの?ああ、もう1人の方は怪物だけど、自分は違うってことかしら?」
「どっちも違うから。…とりあえず銃をおいて話そ?ほら最近話してないじゃん?」
「頭お花畑なの?銃で撃った相手と会話しようなんて…それにあなたと話すことなんてないから。」
「…そんなにあたしのこと信用できないの?確かに今回のことはあたしが全部悪いよ。でも…」
「私があなたを信用できないのは、あなたが平然と人を殺せるからよ!」
「え…いつのこと?あたし平然となんて…」
「ああ、その時は別のあなただったわね。すごかったわよ、無抵抗の人間の首を無表情で落としていたのだから…それも4人も…」
「…知らない…あたしはそんなの…知らない!それはあたしじゃ!」
「どっちもあなたよ!仮に違っていたとしても、同じ体である以上いきなり襲ってくるかもしれないわ…」
「それは…でも、もう1人のあたしはきっと2人を助けるために!」
「私はそんなこと頼んでない!そうやってなんでも勝手に決めて……ああそっか…そういうことだったのね…」
突然落ち着き始める…さっきまでと違ってその顔は、自嘲混じりの薄ら笑いを浮かべている。
けれど瞳はどこか、狂気を帯びていて…深い絶望を感じる。舞を庇いつつ、それを見続ける。
すると突然、静華が笑い始めた。
「…何がそんなにおかしいの?」
「あははははは!わかったのよ!あなたが、あなた達が私のことをどう思っているのか!」
「どうって…仲間だって思ってるよ!」
「え?違うでしょう?こう思っているはずよ?…役立たずって…」
「そんなこと思うわけないでしょ!?」
「それじゃあなんで、いつも私と舞を置いていくのかしら?」
「だってそれは…2人に危ないことさせたくなくて…」
「それは使えないって思っているからでしょう?ああ、こんなに簡単な事だった…あなた達は最初から…私を切り捨てるつもりだったのでしょう?」
「何を馬鹿なこと言って…」
「ああ…それは嫌ね…ああ…ソウダワ…私が殺さレル前に、モウ1人の役立たずを殺せバイイじゃナイ!」
「静華?…ねえちょっと!落ち着いて!お願いだから!」
「ああ…こレガ前に結が言っテイた…私が最も恐れテイるのハ…結ガ最も恐れるヤツ…人型ノ怪物!!」
そう言い放つと、静華の体が変化していく…
ボコボコと泡立つように、至る所が膨らんではしぼみ形を変えていく。
肉が潰れ、骨が砕け、形を変えていく…にもかかわらず、笑っていた…
あたしは銃を構え、頭に狙いを定める。…震えが止まらずまともに狙えない…
そもそも撃つことが出来ない……撃てないよ…
だって静華は…ここに来てできた、あたしの最初の友達…だから…
殺すことが救いなんて…それがわかっていてもできないよ…
あたしが迷っている間も静華の変化は続いている。
もう、静華だとわからなくなってきている…
その時だ、
「くそったれ!悪く思うなよ!」
龍之介が静華だったものの体を抱え、走る。
そしてその体を、
「!龍之介!待って!」
吹き抜けに放り投げた。
…ぐちゃりと、何かがつぶれるような音がした気がした。
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