56.作戦会議
あの後冷え切った体で、部屋に戻りなんとか眠ろうとしたが…無理だった。
目を瞑ると脳裏によぎるのは、教室で血まみれのクラスメイトの中心にいる自分の姿。
…あれがここに来る前のあたし…?そんなのは嘘だ…
信じられない……信じたくない……そうだ…きっと違うはず…
他のみんなに聞いてみれば……そんなことできるわけない。
もしあれが本当のことだったら?あたしは、みんなに軽蔑される。
本当のことを知りたい…記憶を取り戻したい…けど取り戻したくない…
どうすればいい?…どうすれば…どうすればいいの?
そうやって考え続けても何も変わらなかった。
結局朝まで眠ることができず、誰かが動くたびにあたしを責めるんじゃないかと震えていた…
他のみんながそれぞれ起き出したのを確認し、あたしも狸寝入りをやめる。
今のあたしはきっと、ひどい顔をしているだろう。…誰かに見られる前に、顔を洗って誤魔化す。
けどあたしが思った以上にひどい顔だったようで、
「あの…結さん…大丈夫ですか?すごく疲れた顔してますけど…」
「ああーうん…ちょっと眠れなくて…」
「まあベッドが一つしかないしな。ソファだと寝ずらかったか?」
「いや床で寝た龍之介ほどではないと思うけど。」
「まだ時間はありますから、もう少し休んでいてください。」
今は…AM7:42…
確かにまだ時間はあるし、ここはお言葉に甘えることにした。
けど結局眠れなかった…目を瞑っていないのがバレないように、ただひたすら壁を見続けた…
2時間ほど経った後、どうするかを話す。
…どうするかは決まってる。2階のあいつからカードキーを奪って、ここから出る。
けど龍之介がもう1人のあたしから聞いた限り、人型のやつを倒すのはかなり厳しい。
あたしも少し戦ったけど、まず移動速度が異常だ。
見つかったらすぐに距離を詰められて…殺される。そのせいで、銃を持っていても撃つ余裕がない。
仮に撃てたとしても、撃つ直前に腕で防がれる。
かといって接近戦をしようものなら、なぶり殺しにされるのは目に見えている。
そもそも、素早く動ける相手に攻撃が当たるとも思えない。
さらに厄介なのが、傷を負わせてもすぐに再生する事。
頭を半分吹き飛ばしたらしいが、数分で治ったそうだ…間違いなく他の、怪物とは比べ物にならない程強い…
…もう1人のあたしは、こんなやつからどうやって逃げ延びたんだ?
「聞いてる限り、倒す方法が思い付かないのだけれど…」
「そう…ですね…わたし、もうここから出られないのかな…」
「……大丈夫だよ!あたしが、あたしがなんとかして…」
「できるのかしら?ねえ…やめてくれる?できもしないことを言うのは…」
「っ!…ごめん…けどあたしは……ごめん…」
静華に責められたのは初めてだ。彼女の顔を見ると、泣きそうになっているのを堪えている。
…そうだ、静華の言うとおりだ。出来もしないのになんとかするなんて、無責任だ。
それに2人は昨日のことで不安になってるのに…もっと2人のことを考えるべきだった…
「…一応、もう1人の結から倒す方法は聞いてる。」
「え?」
驚いた。…他の2人も驚いている。
もう1人のあたし曰く、殺すには頭を完全に潰す必要がある。
ただ場合によっては、それでも死なない可能性があるそうだ。
怪物によっては、体に核ができるらしく…そこを潰さないと殺せない。
だから頭を潰した後、再生する前に体を粉々にして核を壊す。これで殺せる…らしい。
…けれど結局、殺す方法はわかってもそれを実行できない。
頭を吹き飛ばすにも、手持ちの銃だと接近して何発も撃ち込む必要がある。
けど龍之介は、すごい銃を使えば1発でいいと言う。
ただ弾がないので、それを回収しに行かないといけないのでそのために2階に行きたいそうだ。
他にできることもなさそうなので、了承し2階に向かうことに。
みんなで準備をしてセーフルームを出る。
…その際、静華があたしのことを睨んでいたのが少し気になった…
銃を回収するため、従業員室へ移動する。
グレネードランチャーは大きいから持ち運びに苦労するので、昨日ここに置いたそうだ。
…確かに大きい、それに重い。けど、これならいけるかも。
寝不足のせいか、頭が痛くて集中できない。ただ、眠気はあるけど眠れない。
早いところカードキーを奪って、ゆっくり休みたい。
その後……ここから出る。
…けどそれを考えると、不安になる。未だに血まみれの自分の姿が消えない。
もしかしたら、施設から出た瞬間あたしは捕まるかもしれない…
不安でいっぱいなのに、進んでも止まってもそれが晴れるとは思えない…
…けどあたしの事情なんて他の人には関係のないことだ。
みんなのために、あたしはやらなくちゃいけない。
そう思えば、少しは不安も薄くなる…気がした。…大丈夫…あたしは大丈夫だ…
「今回はどうする?また2人には上にいてもらうか?」
「あの…それはできれば遠慮したいんですけど…」
「私もよ…1回目は偶然助かったけど、次どうなるかわからないわ。」
「でも2階に連れてくわけには…うーん…」
どうしよう…連れて行くわけにはいかないけど、置いて行くわけにもいかない。
あたしとしてはここで待っていて欲しい、でも2人は昨日のことがあったから絶対に拒否する。
…いっそ従業員室で待っててもらおうかな。
「なあお前ら、俺に考えがあるんだが。」
「え?どんなのですか?…まさか2階に行って囮役とかじゃ…」
「んなこと言うかよ。2階には全員で行く。」
「は?!本気で言ってる?!」
「まあ聞け。舞と静華には、最北端にあるエレベーターで2階に行って銃声を鳴らしてもらう。」
「…ああそういうことね。私たちが誘き出して、そのうちに2人が調べるということでしょう?」
「そうだ。やつは階層を移動しないから、2人を追って来る確率も低い。って感じなんだが…どうだ?」
「うん…いいと思う。あたしは賛成、2人は?」
2人も賛成。これで方針は決まった。
けどこれを実行する前に、北側の安全を確保しないと。怪物がいたら2人が危ない。
それと2人には実行後、すぐにセーフルームに行ってもらうことにした。これなら襲われることもない。
全員でやることを確認し、移動する。
まずは2人を送り届けて北側の探索だ。…それまでに体調を整えておかないと…あたしは大丈夫…
ただひたすら暗示のように、自分に大丈だと言い聞かせ続けた。
2人を奥まで送り届けて、周囲を調べる。
…怪物どころか、人がいない…おかしい…
外出禁止時間に人が運ばれてるのかと思っていたけれど、違った?
…考えるのは後にしよう、今は龍之介の作戦を実行しないと。
2人をエレベーター前に待機させて、南側のエレベーターに移動する。
その際に人型のいる位置を確認しておく。…丁度中心辺りにいた。
一応銃声に反応するかどうか確認しておかないと。
人型に向けて撃つ。…腕で防がれた、こっちに気付いてなくても防ぐなんてどんな反応速度してるのよ…
大きな瞳がこっちを見ている。血のような赤い瞳を見続けていると、血まみれのあたしの姿を思い出して気分が悪くなる…今は本当に辛い…
そのまましばらく待ってみるが、こっちを見るだけでその場から動かない。
銃声に反応することは確認できた。
あたしが視線を外して歩き出すと、奴も何事もなかったかのように歩き出した。
奴は北側に向かっている。
あっちの2人には、銃を撃つ前に近くにいないか確認してもらおう。
「なあ結、撃つ前に確認して欲しいんだけど。」
「…ああうん、ごめん。ちょっと気分悪くて頭回ってなかった、気をつけるね。」
「風邪か?昨日暗い中冷水浴びてたろ…これが終わったら、ちゃんと休めよ。」
「うん…そうだね…ってそれ死亡フラグだよ?」
「おまっ!そういうこと言うなよ…」
龍之介は昨日のことを聞かない。
まあ…あたしの醜態なんて見慣れてるからかもしれない。
けど今はそうしてくれてありがたい…聞かれても何も答えられないから…
いつもとは違って少ない会話をしつつ、エレベーター前に着く。
Gフォンで2人に連絡する。
「もしもし、こっちも着いたよ。」
『わかりました、こちらはいつでも行けますよ。』
「オッケー、あっ行く前に人型のやつがどこにいるか見てくれる?」
『わかりました。………あっ見えました!結構近くにいます…どうしましょう…』
「わかった、ちょっと待っててね。…龍之介、撃っていい?」
「待て、今回は俺がやる。結構向こうに行ってるからな、ショットガンの方がいいか。」
そう言って2階に向けて銃を撃つ。
拳銃よりも大きな音が響く。これなら向こうにも聞こえているはず…
「どう?こっちにきた?」
『あっはい、そっちに行きました。それじゃあしばらくしたら、撃ちますね。』
「うんわかった。その時にまた掛けてね、それじゃ。…ねえ龍之介。」
「ん?なんだ、何かあったか?」
「いやそうじゃなくてさ…あっちの2人って、2階に降りる必要ってあるの?」
「…………あっ!ほら、一回降りないと納得しないだろ?」
「それ今考えたでしょ…まあ2人もその方が納得するのかな…」
「まああの2人も賛成してたし、いいんじゃないか?」
「それを龍之介が言うのね…」
その後40分ほど待つと、奴が現れた。
すぐにGフォンで2人に連絡をする。…失敗はできない、絶対に弾を手に入れる。
数回深呼吸をして心を落ち着ける。よし、大丈夫…大丈夫…
Gフォンで舞から連絡があり、作戦を始める。
遠くから銃声が聞こえるのと同時にエレベーターに乗り込んだ。
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