55.過去の記憶と…
4つのゴミを片付けて、静華を背負いセーフルームに向かった。
静華の傷は、額が割れそこから出血していた。
血を拭い、簡単に止血を行う。できれば消毒をしたいが…
それに止血も服を使っているから、清潔とはいえない。
セーフルームに連れて行って、水で傷口を洗った方がいいだろう。
幸い骨が見えるような大怪我ではないので、抗生物質などの薬は必要なさそうだ。
…そろそろあの子も目が覚める。
今みたいに別々の人格のような状態が、いつまで続くか分からない。
けれど…あの子が傷つくような結果にならないでほしい。
今の私ができるのはこの子が、死なないようにすることだけ。
…けどそれ自体が、いずれこの子を殺すことになるかもしれない。
移動途中で、静華が目を覚ました。
最初は意識がはっきりしなかったが、しばらくすると回復した。
…少し警戒されているようね。
「おはよう。気分はどうかしら?」
「……そうね、頭痛がひどいわ…あなたが私の口調を真似ている幻聴までするし…」
「それなら正常ね、幻聴じゃないもの。私のことは龍之介から聞いていないのね?」
「そうね…だから困惑しているわ。どういうことなのかしら…」
「気にする必要はないわ、そろそろ元に戻るから。…龍之介には話はまた今度と言っておいて。」
「え、ええ。…あなたは結なのよね?」
「そうでもあるし…そうでもないってところよ。それじゃあこの体もお願いね。」
「え?」
そう言って、ゆっくりと地面に倒れ込む。
これ以上不信感を与える前に、私は消えるわ。
…あの子はどこまで思い出したのかしら…できれば思い出すことなく…
…頭が重い………ここは…
あれあたしは何を……そうだ…あたしは…
「おっ結起きたか?」
「うわああああ!!…って龍之介か…びっくりした。」
「こっちのセリフだ!いきなり人の顔見て叫ぶな!つかその様子だと元に戻ったのな、今回は長かったな…」
「…あたし何して…だってさっきまで……えっとごめん教えてもらえる?」
「そうね私も聞きたいわ。結、さっきまでのあなたはなんなの?」
「静華?あれ舞も…ってここ…セーフルームじゃん。あたしどれくらい変わってたの?」
「まあ待て1から話すから。先に今日のことな。」
龍之介の話だと、あたしは2階で人型の怪物とやり合ったそうだ。
…まじで?え、1人で?…もう1人のあたしすげーな…
で、その間に龍之介が色々な武器を持ってきたらしい。…机の上に剣みたいなのがあるけど、あれのことかな…
その後2人と合流しようとしたら、他の人に攫われていて、助けるために人間とやり合ったと。
…えーそんな大事な場面であたしは………
まあとにかく、みんな無事だったみたい。静華の怪我も、そこまで酷くないし一安心だ。
であたしの二重人格について舞と静華に話した。
2人とも心当たりがあったみたいで、すぐに理解してくれた。
…?なんだか静華が…気のせいかな…
「ごめん、隠すつもりはなかったんだけど…うまく説明できなくて…」
「あの、それって…結さんに何か悪い影響があったりとかは…」
「んー今の所記憶が飛ぶくらいかな…けどすごく強いらしいから、むしろ助けられてるんだ。」
「…そうですか。結さんが困っていないなら、それでいいと思います。」
「まあ今の所なんともしようがないしな。…俺は好きになれんがな…あいつ口悪いし。」
「あはは…というわけだから、色々迷惑かけると思うけど…お願いね?」
「…ええ、わかったわ…」
やっぱりまだ理解できないのかな。
…仕方ないよね…こればっかりはあたしもわかんないし…
その後一通り今日の話などを終えて、食事をとる。
パサパサした携帯食料のせいか、みんな暗い顔をしている。
…ここはあたしがみんなを元気付けないと!
「この携帯食料も飽きたな〜…そろそろちゃんとしたご飯が食べたい!パフェ!プリン!クレープ!」
「わかります!わたしも、ケーキが食べたいですぅ…」
「そうだな…ああラーメン食いてー…」
「あなた達ねぇ…ないものねだりしても仕方ないでしょ…オムライス食べたいわぁ…」
「けどこうやって目標があると、元気出るでしょ?なら無駄じゃないよ。」
「…そうね…私もここから早く出たいわ…」
そうやって雑談を重ね、みんなが明るくなっていく。
うん、こういう何気ない空気が好きだ。
みんなが笑って、過ごせるようにここから…
ここから………あたしは………出てもいいのかな…
だってあたしは………
夜、みんなが寝静まった後…あたしはシャワー室で座り込んでいた。
電気もつけず、ただひたすら冷水を頭から被り続けた。
「はぁ…はぁ…はぁ…う…ぐす…あたしは……」
もう1人のあたしが戦っている間、あたしは…
この感じ…また過去の記憶だ…
小学生の時…この前の続きか…
あの言葉を言った少年も、謝ろうとはしていたが結局謝罪はなかった。
その後あたしは学校で、腫れ物のような扱いを受けた。
友達だった子も、助けた子も、喧嘩していた子も、先生も、誰も彼もがあたしの扱いに困っていた。
だというのに、喧嘩が始まれば私を頼った。
「か、神代さん…喧嘩止めてよ!」「そうだよ!先生も神代に言えって!」
「やってくれるでしょ?前はやってくれたじゃん!」「やっぱり、本当は誰の味方もしたくないんじゃ…」
「………大丈夫だよ、私がやるから…うん、ちゃんとするから…」
…誰も彼もがあたしを避けているのに、必要な時だけ友達ずらをする…
それなのに私は人助けを続けた…いや続けてしまった…
一度父に相談しようとしたこともあった。
けれど、忙しいのか会うことすらできなかった。
父に言われた、私のやるべきこと…それがなんなのかはもう分からない…
分からないから…続けた。
周りが私を軽蔑しようと、蔑もうと、遠ざけようとしても…けれど何も変わらなかった。
結局それは中学に進学するまで何も変わることはなく、ただ苦痛の日々が続いた。
転機となったのは中学生になってから2ヶ月が経った頃。
1人の女の子を助けた。…別の学校の子だったけど、下校中にいじめに遭っていたのを見過ごせなかった。
その子は私に感謝していたが、壊れていた私には何も響かなかった。
けれど、助けてから毎日下校時にその子に会った。
なんでも私の様子がおかしいのが気になったそうだ。…何年ぶりだろう、誰かに心配されるなんて。
その子が私に言った。
「なんで助けてくれたの?初めて会うよね?」
「…私のやるべきことだから…それだけ…」
「んー?じゃあ神代さんは本当はやりたくないってこと?」
「それは………わかんない……」
「よくわかんないけどさ…やりたくないのに、やってくれたんでしょ?ならあたしが言う事はありがとう!だよ!」
「……そっか…よかったね…」
「もぉー!そんなに暗くならないで!そうだ!ならさあたしが神代さんを助けるよ!」
「え…」
「神代さんが自身がやりたことができるように、あたしが助けるの!ふふ…この前助けてもらったから今度はそうしたいの!」
誰かが私を助けてくれることなんてなかった…
私は誰かを助け続けなくてはいけない。ただそれだけしか私の存在理由はなかった。
父に言われた、私のやるべきこと…それが呪いのように私を縛り続けた…けど、
その日私は数年ぶりに…泣いた…
「…ありがとう…」
「えへへ…どういたしまして!」
「…ねえこれからは」
「はい、そこまで!」
突然景色が歪み、ひび割れていく。割れた隙間から光が差し込んできて、思わず目をつぶってしまう。
…ゆっくりと光が収まっていく…
目を開くと、そこは前に見た夕暮れの教室。
開いた窓からは涼しげな風が教室を吹き抜けていく…
そして夕暮れの暖かな、オレンジの光が教室を染めている。
均等に並べられ机、いつの間にかあたしはそこに座っている。
その隣の席そこには、
「久しぶりだね、結ちゃん。」
「久しぶり。美少女ちゃん。…結ちゃんって呼んだ方がいい?」
あたしと同じ顔をした少女が座っていた。
あたしと同じ顔、髪色、髪型をした少女はヘラヘラとした顔で、話してくる。
「呼び方なんてなんでもいいよ〜?美少女ちゃんって呼ばれ方結構気に入ってるんだ〜!」
「自分と同じ顔してる人を美少女呼ばわりはちょっと…ナルシストじゃん…」
「そお?まあ好きに呼んで。…それでさ、今日なんだけど…」
「珍しく歯切れが悪いじゃん。途中で記憶見せないようにしたのと、関係あるの?」
「ああ〜まあうん。そうだね…結ちゃんは自分の記憶どう思う?」
過去の記憶を見て思うこと?そんなの正直って…
「…アホだなって思うけど。あんなふうに周りから攻められるならやめればいいと思うよ。」
「そっか〜…まだ大丈夫かな…それでさ、これ以上記憶思い出すのやめてほしいの。」
いきなり何を言い出すんだろう。
前に記憶を思い出せと言ってきたのはこの子なのに…
「前に反対のこと言ってけど、それなのになんで?」
「あの時はまだ期待してたからねえ…けどこのままだとまずいかもしないから…」
「わかんないよ、ちゃんと説明して。」
「………できないんだよ、説明。でもあなたのためだから、お願い!」
「……嫌。あたしは嫌だよ。自分のことだもん知りたいよ。」
あたしがそう言うと、少し悲しそうな顔でこちらを見てくる。
…なんなの?そんなにあたしの記憶を思い出されると不都合なの?
「理由を説明して、でないと納得できない。」
「……記憶を取り戻したら…あなたは自殺するよ?」
「…は、はぁ…?記憶ぐらいで…自殺?そんなわけないじゃん。」
「本当だよ?…それにさ、正直今の状態だって奇跡みたいなものだから…」
「そんなの知らないよ、それにあたしは死んだりしない…みんなを放ったらかしにして死ぬなんてありえない。」
「そっか…じゃあ」
彼女が指を鳴らす。
…何も変わって…!?
「な、何これ……うっ…ううう…ああ……ああ!!…」
「…これがあなたの記憶の一部。…あなたの一番忘れたい記憶…これで納得して、じゃないと…」
そこに広がっていたのは…
冷水の冷たさ心地いい。頭が冷えて、気持ちも落ち着いてくる。
けど少し浴びすぎたせいか、徐々に体が冷たくなってきている。
このまま浴び続ければ……
「…ん誰か入って…って結?!お前電気もつけずに何して…い、いや悪い!すぐ出るから!」
「ああ…龍之介…ごめんすぐ出るね。」
「……なんかあったのか?」
「なんかって…何が…?」
「だって、いつもだったらビンタぐらいしてくるだろ?それなのに…」
「かもね…けど今はいいや……って着替えるから出てって!」
「ちょ!押すなって、冷て!おま、体冷えて」
言葉を遮って扉を閉めた。
…あれを見てから、ずっと頭から離れない。
ここにくる前のあたしは普通の学生。
なんてことないただの一般人…そう思っていた…
けどあの…夕暮れの教室で見た光景は…過去のあたしは……
夕暮れの教室に…
…生徒が血まみれで床に倒れていて、その中心に…
…あたしが…血まみれで立っていた…
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