53.連れ去られた2人
カードキーの所在が分かった事は、嬉しい誤算だ。
問題はその場所。あれを奪うのは難しいだろう。それならこいつを殺す必要がある。
だがそれも難しい。頭を半分吹き飛ばしても死なず、すぐに再生する怪物。
足を止めることはできても、殺し切ることができない。
もしショットガンの弾が尽きてなければ可能だったかもしれない。
だがそれももうできない。…こいつは私の動きを見て学習している。
たとえ次に同じように撃ち込もうとしても、警戒されてしまう。
この怪物は他の怪物と違う。
身体能力、回復力、頭脳…隙がない。
こいつを殺すためには、もっと強力な武器がいる。
…今回はここまでだ。これ以上こいつと戦う必要はない。
それにしても、逃げる作戦があると言っていたが…これが作戦とは…
あの子も結構考えなしね…
私は吹き抜けに飛び込む。
空気の抵抗を感じながら、地面に向かって落ちていく…このまま落ちれば間違いなく怪我をする。
着地を上手く行い衝撃を和らげる必要がある。何もせずに降りると、足の骨が砕けるだろう。
それに地面に降りた後、怪物も降りてくることを想定しておかなければならない。
地面が迫る。
足が地面につく瞬間、体を前に転がし衝撃を和らげる。
なんとか足を砕くことなく着地はできた。
だが地面を転がると、瓦礫の破片が体に刺さり傷を作っていく。
それに衝撃を殺すには壁が近すぎた。転がったすぐ先にあった為ぶつかった。
…咄嗟に腕で頭を守ったのがまずかった…枝が折れるような音がした。
…ひとまず歩くことはできる。
上の階を見ると、怪物はこちらを睨んだまま2階に留まっている。
しばらく待つが降りてくる様子はない。
龍之介の仮説は正しかったようだ。一部の怪物は階層を移動しない。
これなら奴に邪魔されずに、準備を整えることができる。
…また身体中に傷を作ってしまった、左腕は折れたのか黒ずんでいる。あの子は怒るだろうか…
もっと上手くやれればいいのだが…ままならないものだ。
ともかく彼らに合流した方がいいだろう。
私は広間のエレベーターに向かって歩き出した。
エレベーターを使い、3階に移動する。
降りてすぐそこに、龍之介がいる。…待っていたのか。
「結!大丈夫…じゃねえな…すまない…俺がもっと…」
「ええそうね。あなたは今の所役に立っていないわ。もう少し考えたらどう?」
「!…そっちの結か。手厳しいがお前の言う通りだな…」
「まあいいわ、けれどこの子が大事なら少しは努力しなさい。今のあなたはただの木偶の坊よ?」
「…何も言い返せないな…ああ、もっと努力する。お前が傷つかなくて済むように。」
「そう…ならせいぜい頑張りなさい。さあ行くわよ。」
「行くって…お前怪我してるだろ!それにどこに行く気だ!その体は」
「はあ…どこって2人の所以外にあるの?連絡が来ていないでしょ?少しは頭を使いなさい。」
「うぐ…だ、だが怪我はどうすんだ?戻った時にまた痛がるぞ?」
「心配しなくてすぐに治るわ。…できればこうなってほしくはなかったけれど…」
実際小さい傷は塞がっている。
腕も黒ずみが薄くなり、治りかけている。
まだ多少の痺れはあるが、問題はない。今はあの2人の安否を確認しておかないと。
Gフォンを見ると通話はしたままになっている。
だが、向こうから音がしない。こちらが話しかけても応答がないことから、落としたのだろう。
何かあった可能性がある。…あの2人では対処は厳しい、早急に合流しなければ…
「はやく行くわよ。」
「ああ。…お前に迷惑かけないように、俺も頑張らせてもらうから。」
「そういうのはいらない。言葉じゃなく、行動で示しなさい。」
「ぐ…!わかったよ!ちゃんと見とけ!」
「戦っている時に、あなたをずっと見ていることなんてできるわけないでしょう?勝手にやってなさい。」
「だあー!お前嫌いだー!はやく結に戻れよな!」
「今戻ったら、助けられないでしょ…はあ…」
彼の戯言は無視して、最後に2人を見た場所に移動する。
…せめて雪原舞だけは、無傷で助けないと…あの子には色々と迷惑をかけたから…
2人がいた場所に着き、辺りを探す。
…いない。近くの店の中を探したが、見当たらない。
Gフォンを取り出し、静華のGフォンに通話してみる。
…………近くから音がする。少し先だ。
音を頼りに探すと、通路途中の橋にあるベンチ下にあった。
その辺りには血痕が飛び散っており、誰かと争ったとわかる。
Gフォンにも血がついている。…襲われたか。
「2人は誰かに攫われたんでしょうね。最悪死んでる可能性もあるわ。」
「さらっと言うなよ。けど殺されたならここに遺体があるだろ?ならまだ生きてるんじゃねえか?」
「でしょうね。まあ女性が攫われたのだから、今頃どうなってるかは容易に想像できるわね。」
「それならすぐに助けに行かねえと!手分けしようぜ俺は東側を探すから、反対側は任せる。」
「その前に、雪原舞に電話しなさい。今見つけたのは静華の方だから、彼女はまだ持っているわ。」
「ああ、わかった。……………!おい舞今どこだ!…お前誰だ!2人に何を」
怒鳴り続ける龍之介からGフォンを引ったくる。
「悪いわねうるさいのが怒鳴って。それでどなたかしら?」
『お、俺が誰かなんてどうでもいいだろ!ここ、こいつらを返して欲しいなら食い物をよこせ!』
「ええいいわよ。どこで受け渡す気かしら?」
『ふ、フードコートだ!20分後に来い!もし来なかったらこの2人はこ、殺すからな!いいな!』
「その前に生きていることを確認させてもらえる?…そこにあるのが死体って可能性があるのだけれど。」
『お、お前が命令するな!…クソ!お、おい!さっさと話せ!』
向こう側で怒鳴り声が聞こえる。
その後ろで何かを引きずっているような音も…
『い、痛いです!…ゆ、結さん…ごめんなさい…わたし捕まって…それに静華さんが怪我して…』
「そう…わかったわ。後で助けるから待っていてくれる?」
『え、あはい…あの……結さん…ですよね?』
「…後で話すわ…犯人によろしく言っておいて。」
通話を終え、Gフォンを龍之介に返す。
20分後にフードコート…ということはその周辺にいるのだろう。
時間前に周辺を確認して先手を打ちたい所だが、見つかって逆上されると面倒だ。
仕方がないから、時間通り向かおう。
やった奴は…その時に殺せばいい。あの子の友達を傷つけ、連れ去ったのだから相応の報いは受けてもらう。
20分後に向かうことを龍之介に伝え、一旦近くの従業員室で準備することにした。
銃弾の補充や、2階で手に入れた武器類を確認しておきたい。
それと、私の怪我の具合も確認しておかないと。
腕の怪我以外は全て治っている。腕も、変色が戻っていてしばらくすれば治るだろう。
私はどれだけ痛みがあっても動けるが、あの子はそうじゃない。
前回腕の怪我で迷惑をかけた、腕の鉄片を引き抜かずにきちんと処置して変わるべきだった。
今後はもっと気を回しておく必要がある、私の体じゃないのだから…
「…そういえばショットガンどうした?」
「ああ、あれなら捨てたわ。銃身が折れたから。銃で殴るものじゃないわね。」
「マジかよ…つうか、銃で殴るな!…まあ2階で色々手に入ったし、いいか…」
「…悪いとは思ってるわよ…。それでどんなものがあったのか見せてもらえる?」
「ああ、2階に行ったのが正解だと思えるくらいはあったぜ。」
そう言って大きな鞄の中身を広げる。
ショットガン2丁に鉈…いやマチェットか。それに手榴弾が3つ。
それに大型の拳銃が2丁、それとこれは…グレネードランチャー?
後は予備の弾がいくつかと言ったところか。
確かに成果はあるが、だが…
「このグレネードランチャー…弾は?」
「え?入ってるだろ…マジかよ入ってねえ…」
「それと、この手榴弾はなんのやつ?」
「…わかんねえ…見た感じ前に舞が使っていた奴だと思うが…」
「わからないと使えないでしょ…使えるのは散弾銃と拳銃だけね。」
「…他にも色々とあったんだが、手当たり次第に詰め込んできたからなぁ…」
「それならグレネードの弾もあるかもしれないわね。…これで奴を殺す算段がついた。」
けどそれは後回しだ。今は攫われた2人を助けるのが先だ。
ひとまず新しい拳銃とショットガンをそれぞれ持っていく。私はマチェットも持っておく。
残りは今の部屋に置いていく事にした。それなりに重さもあって邪魔になる。
…そろそろ時間だ。あの子の仲間を返してもらいに行く。
連れ去った奴には死んでもらう。さっきの電話の様子から近いうちに変異するだろうし、先に始末しておく。
あの子を傷つける奴は全員殺す。…たとえ私の存在意義に反しても…
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