52.人型の怪物
地面を叩くような足音が近づいてくる。
ドアノブを壊して中に隠れる?…音でバレる。
店内に隠れようにも棚の一つすらないから絶対に見つかる。
龍之介に聞こうと思ったけど、苦虫を噛み潰したような顔…何も思いついてないみたいだ。
逃げるか…戦うか…もうこのどちらかしかない。
邪悪な考えが浮かんでくる前に決めて実行しないと…
「結…どうする?逃げるか?それとも…」
「あたしが囮に」
「それはダメだ、やるなら俺がやる。」
「…龍之介にできるとは思えないんだけど。捕まったら死ぬよ?」
言っちゃ悪いけど、足はあたしの方が速い。
それに重い銃を持っているから囮には不向きだ。
「けど!……ああくそ!…俺は本当にお前に頼ってばかりだ…。」
「前に言ったでしょ?あたしが守るって。それと逃げる算段はあるから大丈夫、あとで合流しよ。」
彼からショットガンを借り、拳銃をスカートの間に挟む。
近づかれたら死ぬ。絶対に距離を詰めさせないように気をつけないと。
一応逃げる為の作戦はある。…成功するかどうかは怪しいし、成功しても無事で済むとは限らない作戦だ。
けど2人で戦う、もしくは逃げてもどっちかが捕まる可能性が高い。それよりはマシだ。
「そうだ、引き付けてる間にそこの扉開けて中を見ておいて。多分何かあると思うから。」
「ああ、分かった。扉は銃で開ける。…いいか絶対に無茶するなよ?それと死ぬな。」
「あたし結構しぶといから大丈夫。…じゃあちょっと行ってくるから!」
主通路に出る。
少し先に奴がいた。人型のシルエットをした奴…
この施設で目が覚めて初めて見た怪物。
あたしがトラウマになるような光景を見せつけてくれた奴。
…体が強張って、背中が冷たくなるのを感じる…
足が震えて、手が震えて、体が震えて…全身が恐怖で支配されている。
龍之介を見捨てて逃げた方がいいんじゃない?
うるさい!黙ってて!…あたしは仲間を見捨てて逃げたりしない。
…みんなはあたしを信じてくれてる。それに応えるためにも、
「ウガアアアアアアア!!!」
龍之介が逃げるまで、こいつの相手はあたしがするんだ。
大きな目玉があたしを見ている…
前に見た時は上の階からだったから、こいつをちゃんと見るのは初めてだ。
…やっぱり他の人型の怪物とは明らかに違う。
大柄な体に、ボディービルダーのような筋肉。
遠くから見れば人間と思えるかもしれない、けどしっかりと見れば違うとわかる。
目が一つしかない。それに口部分が横に大きく裂けていて、鋭い牙が見える。
太い腕の先には、人間のよりも2回りは大きい手があり指先が尖っている…爪と指が一体化してる?
足も似たような状態…まるで人間という怪物だ。
狼やワニの時も勝てないとは思ったけど、こいつは別格だ。
全身から死を放っている…そんな気がする。
絶対に近づかちゃダメだ。一瞬でも気を抜けない、抜いたら死ぬ。
距離はまだ50mぐらいある。この距離ならまだ手は出せないはず。
龍之介が逃げれるように、こいつを北側へ連れていく必要がある。
あいつの横を抜けるのは危険すぎる。反対側の通路を通って北側に抜けるしかない。
震える足を叩いて、動かす。
一旦南側へと走る。橋を渡って、反対側へ…っ!
「は?!さっきまで遠くにいたのに!」
走り出してすぐ後ろを振り向くと、10mくらいまで近づかれていた…速すぎる!
奴が腕を上げながらこっちに向かっている…橋に向かってたら捕まる。
振り向きざまに銃を放つ。破裂音と共に銃弾が飛んでいく。
音がすると同時に奴は腕で顔を守っていた。どんな反応速度してるの!
銃弾が腕の肉を抉るが、奴は変わりなくそこにいる。お互いに睨み合いになって動けずにいる。
…いや違う。こいつ、こっちが動くのを待ってる。
多分銃を構えた瞬間距離を詰めて、あたしを殺す気だ。
今は奴が先に動き出すのをひたすら待つ…
……銃弾は効いてる。それなら足に当て、動きさえ止めればこいつを倒せる。
けど今は倒す必要はない。今やるべきことは少しでも動きを鈍らせつつ、引きつけること。
奴の攻撃を躱して銃弾を撃ち込む。…長い戦いになりそう…
痺れを切らしたのか、奴が膝を曲げてこちらに踏み出そうとしている。
躱すためには最初の動きを見逃すことができない。
…………っ来る!
奴が1歩踏み出す。そうたった1歩。距離は10mはあった。
あたしが瞬きをした一瞬で、奴はあたしの目の前にいた。…たった1歩で10m移動してきたんだ…
銃を構える時間なんてない…だって移動と一緒にやつの左腕があたしのお腹に向かって…
………………直前で奴の腕を殴り軌道を逸らす。
そのまま勢いを利用して奴の右側を抜けつつ、ショットガンを撃ち込む。…片手で。
銃を握っていた腕から、割れるような音がした。多分骨が折れてる。興奮しているからか痛みはない。
けど、まだ左腕がある。折れていても支えるくらいはできるだろう。
私はすぐに距離をとる。彼が逃げれるように、こいつを引きつけながら移動する必要がある。
だが足音がしない。奴がこっちを追って来ていない。
振り返り確認する。奴はさっき撃たれた箇所、腹を押さえながらこちらを見ている。
距離が近かってお陰か、全弾命中していた。遠目からでも分かるほどの深手を負わせられた。
深手なのは、奴がこちらを追い始めてすぐに分かった。
明らかに動きが鈍くなっている。動くたびに、腹から血を流しているのが見て分かる。
このまま倒し切れるならそれでもいいが、ショットガンの弾が後1発しかない。
替えの弾を受け取っておくべきだった。…まあいい、まだ拳銃がある。
あまり効果は期待できないが…ないよりはマシだ。
残り1発…狙うなら頭、もしくは足。補充した後に奴を殺せるようにしておく。
…足音が早くなっている?後ろを見て確認すると。
腹の流血が止まっている。…いやそれだけじゃない、傷口が塞がってきている。
よく見れば腕の傷が無い。これは倒すのは無理だ。
このままだと、傷が治ると同時に襲われる。
北側に引きつけ始めてあまり時間が立っていない。
龍之介はまだ逃げていない。扉を開けるために銃を使うと言っていたが、銃声がまだ聞こえない。
…まだこの時間稼ぎを続けないといけない。
「ウガアアア!!ガアアア!!」
「そろそろ来ると思った…また腹に穴を開けてあげよう。」
だがそう簡単にはいかない。
さっきまでと動きが違う。さっきまでは腕を大きく振っていたが、今は細かく動いて確実に傷をつけにきている。
これだとさっきのようにすれ違いざまに撃ち込むことができない。
それに避けるのも難しくなる。今はまだ躱せるが、奴の傷が治ったらなぶり殺しにされるだろう。
そうして、致命傷を避けながら対応していると銃声が響いた。怪物がそちらを見ている。
…怪物の意識が私から外れた。これを逃す手はない。
瞬時に銃を構え、顔に向けて撃つ。
別のことに意識を取られ、反応が遅れた為奴は腕が間に合わない。飛散した銃弾の内、半分ほどが奴の頭を砕く。
頭蓋を砕き、脳髄をぶちまける…がそれでもまだ生きていた。
だが動きが止まっている。撃ち切ったショットガンを持ちかえ、無防備な足に打ち付ける。
奴の足の骨を砕き、動きを封じる。…銃身が曲がっている、これはもう使えない…
銃を奴に投げつけ、距離をとる。
…奴は追ってこない。小刻みに動いているからまだ生きてはいるが、あの傷ではすぐに追ってこれないだろう。
しばらく待っていると、奴の後方で大きな鞄を持った龍之介が見えた。
…どうやら収穫はあったようだ。一応意識がそちらに向かない様に、拳銃を奴に撃ち込んでおく。
まだ動けないため、座り込んで銃弾を受け続けている。
ショットガンほどではないが、効果はある。
だが、このまま撃ち続けても意味がないのはすぐに分かった。
傷口から肉が盛り上がり、修復していく。凄まじい回復力だ。
その時ふと奴の腰に目がいった。…何か箱をぶら下げている。
パスケースのような小さな箱。金属の囲いにガラス板が嵌め込まれていて中が見えた。
何かのカードが入っている。光の反射で細部まではわからない何かのカード。
…いや何かじゃない、思い当たるものは一つしかない。
メモには2階には武器と、もう一つ…あるものが書いてあった。
そうか…あれがカードキーか…
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