39.変異
引き上げていく集団を見送ると、大きな壁が再び広間を塞いでいく。
あそこに飛び込んでみようと思ったけど、体がついてこない。…気を抜くとそのまま落ちそうだ。
完全に閉まるまで待つ…。真壁さんがあたしの腕を掴んで離してくれないからそうするしかなかった。
…最奥はまた壁で塞がれた。
あそこの中に上に行く手段があることが分かっただけでも良かったと思うことにしよう。
それに今はそれよりも、地面で寝ている2人の方が心配だ。
急いで2人に駆け寄る。
「ねえ!大丈夫?起きて!」
「………………」
あたしは女の子の方に声をかけて、体をゆする。男子の方は真壁さんに任せよう。
2人とも呼吸はしているから、生きてはいる。
けど…あの注射で何かまずいことになっているかもしれない。
しばらく続けていると、
「…うぅ…だ、だれ…?」
「!良かった!目が覚めたみたい!真壁さんそっちは?!」
「こっちはまだだ…。」
「それなら…こほ!けほ!…こっちは任せて。」
目を覚ました女の子はうっすらと目を開けて、こっちを見てる。
まだはっきりと意識が戻ったわけじゃないみたい。
ひとまず安全なところに運びたいけど…あたしじゃ無理だ。できれば自分で歩いて欲しいけど無理そうなら1人ずつ運ぶしかない。
「ねえ聞こえる?大丈夫?痛いところとか…」
「…………ぅ…ぁ…」
「?どうしたの?」
何かつぶやきながら、こっちに手を伸ばしてくる。
あたしが手を掴もうとすると、
それよりも先に首を掴まれた。
「うっ!ぐ…くるしい……はな…して!」
「………ころ……す…殺す!殺す!コロス!!」
「?!うぐ…い、息が…でき…」
掴まれた腕をなんとか引き剥がそうとするけど、びくともしない。
息が…できない……苦…しい……
首から…ミシミシ…と軋むような音がする…このままじゃ…
「神代!」
それに気づいた真壁さんが、女の子の頭を蹴り飛ばした…
同時に、首から手が離れ自由になる。
肺に空気が流れ込んでくる、そのせいかむせてしまう。
…首に残る痛みが、さっきまでのが夢じゃないと教えてくれる。
「ゲホ!ゴホ!…ごめ…ん…助かっ…ぐ…ゲホ!ケホ!」
「礼はいい!俺の後ろにいろ!」
蹴られた女の子を見てみると……
「グゥ…ガァ…アアア!!」
人間とは思えない声を上げながら頭を掻きむしっている…苦しみや、怒りが混じった異常な形相で…
爪が皮膚を裂いて、筋肉を引き裂き、血が吹き出ても掻きむしり続ける…
そんな狂った行為をしている女の子の体が、風船を膨らますように膨れ上がっていく…
顔面が伸び、少しづつ形が変わっていく。違う…そこだけじゃない。
手、足、体…あらゆる部位が人間の形を失い、別の生き物へと形を変えていく…
粘性を持った体液を纏いながら、変化が止まる。
……その姿はこの施設で何度も見た蛇の怪物だった。
人間が怪物になった…そんな異常な光景にあたしも、真壁さんも動けずにいた。
けど怪物はそんなあたしたちに構うことなく、こちらに襲いかかってくる。
「************!!!」
「…っ!こ、こっち来んな!」
大きな破裂音。真壁さんの銃が弾を放つ。
けど、放つ前の一瞬怪物は横に大きく跳び銃弾を躱す。
…そんな中あたしはまだ動けずにいた。
あたしが殺してきた怪物は……人間だった。その事実で気づいてしまった……
怪物の赤い瞳が、あたしを見ている…その瞳に感じるのは怒りや憎しみ。
ああ…もしかしたらあたしが殺したのは、この子の友達だったのかもしれない…
どうしてその可能性を考えなかったんだろう…?
…誰かを助けたいのに……あたしはその誰かを殺して…
「しっかりしろ神代!」
「!ま、真壁さん…」
「お前が今何考えてるかは知らないが、それは後にしろ!今はここを切り抜けることだけ考えろ!」
真壁さんの言うとおりだ。
そうだ…自分を責めるのは後にしよう。今ここでそれをしても死ぬだけだ。
…しっかりしろ…石塚君を撃った時にこうなる覚悟はしてたでしょ。
今あたしがするべきことは…ここを生き抜くことだ…!
だから…今は、今すべきことは!
「そうだね…わかった。あたしも援護するから、真壁さんお願い!」
「へ!援護なんてなくても俺だけでなんとかしてやるよ!」
目の前の怪物を倒すこと!
蛇人間はこっちの出方を伺っているのか、距離をとってる。
この蛇人間、今まであったやつより動きが早い。もしかしたら、今までのやつとは何か違うのかも…
なんとか動きを止めて首を切り落とす……鉈がないから真壁さんの銃で吹き飛ばす。
さっき真壁さんが撃った時3メートルもなかった。その距離で撃っても躱されるなら普通に撃っててもだめだ。
…弱点はある。
あいつは避ける動作が大きい、空中にいる間なら避けることはできない。
だから、
「真壁さん、あいつは普通に撃っても当たりそうにない。だからあたしが撃って、あいつが動いている間に真壁さんが撃って。」
「…確かにそれはいい案だが、その腕で撃つ気か?まだ俺だけでもいいと思うが…」
「だめ、こいつは早く倒したほうがいい。…もう1人の方も怪物になるかもしれない、というか絶対になりそう…」
「わかった。…1回で決めるから合図してくれ、頼むぞ!」
そう言って真壁さんはあたしの合図を待つ。
左手で拳銃構える。あたしが当てる必要はない、ただ撃つだけでいい。
ふぅ……少し怖い。…でも体調のせいか痛みは感じてないから好都合。
まだ距離がある。…1回試しておくべきかな…。
怪物めがけて引き金を引く。衝撃が腕を通じて全身を駆け巡る。
……っつ!この銃前のより威力があるのかも…弾も全然違う場所に飛んで行ったし。もっとしっかり狙いを定めないと…
「神代?!」
「************!」
「今のは練習!次で決めるから準備して!」
怪物も怒ったのか、こっちに走ってくる。
落ち着いて…近すぎず…遠すぎない距離で撃つ…………今!
引き金を引く…その瞬間に全神経を集中させる。当てる軌道であればいい。
衝撃で腕が跳ね上がりそうになるのを、強引に押さえつけ怪物めがけて弾丸を飛ばす。
瞬間あたしの動作を見て怪物は横に飛ぶ。後は、
「今!」
「あいよ!」
あたしの放った弾丸は躱される。
ぐ…腕が…!ちぎれそう!…けど今は耐えないと…!
あたしの弾丸を避けるため空中にいるときに、真壁さんの銃の弾は避けられない!
弾丸を受けた怪物は、血を吹き出しながら後ろへと吹き飛んだ…
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