33.異常な光景
今真壁さんの安否を確認している余裕はない。だから1人でこの場を切り抜ける必要がある。
…?右腕の感覚がない。見ると、ねじれた鉄片が二の腕に刺さっている。
感覚がないだけで、動かすことはできる。なら何も問題はない。…むしろ好都合だ。
血の匂いに気づいたのか、狼はこちらに距離を詰めてきている。
私は…あえて近づく。
「グォオオオオ!!」
唸り声を上げながら、大きな口が私に迫る。
…この巨体で、細かい動きはできない。だから、横を抜けるのは簡単だ。
だけど、追いかけ続けられるのは面倒だ。だから…
私は腕の鉄片を引き抜いた。塞き止められていた血液が噴き出る。
腕を振り抜いて狼の目に血を浴びせる。
「グォオオ?!」
これで左目は潰した。
今狼はこちらを見失っている。だから私が下を通り抜けても気づかれない。
そのまま真壁君に近づく。けど用があるのは彼じゃない。
瓦礫の中に転がっている私の鞄。…これで準備は整った。
手榴弾。これが必要だった。
さて、手早く済ませようか。
邪魔な鞄を捨て狼に向き直る。…こっちを見失っている。
私の匂いは、血の匂いに紛れて追いきれていない。視界も悪い。
そうなると私を探すためにどうするか……おそらく音。だからこそ、それを使って罠をはる。
私は狼の近くにある瓦礫に向かって鉈を投げつけた。
「!グォオオオ!」
狼が移動する時、振動と大きな音がする。
だから私の足音に気づけない。音に紛れて背後に迫る。
…このまま手榴弾を投げ込んでも、体毛に防がれるかの可能性がある。
確実に仕留める必要がある。その方法も、もう分かっている。
「ガァア!…グゥオオオオ!!」
後、2メートルまだ気づいていない。
レバーを握り、ピンを引き抜く。
「?!ガァアア!!」
1メートル…流石に気づいたか。けどもう遅い。
こちらに向かおうとしてくるが、その巨体と怪我では無理だろう?
下を滑りぬけ、逆側に回り込む。
確実に仕留めるそのためには……体内で破裂させてやればいい。
そして今のこいつには、口以外に体内に送りこむ場所がある。
そう、ワニにつけられた傷跡。そこに手榴弾を捩じ込んだ。
生暖かい体内、肉の感触を感じる。
「グォオオオオオオオ!!!」
傷に触れられたためか、雄叫びを上げる。
けど、それももう無駄だ。もうすぐ何も感じなくなるのだから。
私はそのまま手通路の柵まで走る。
柵を乗り越えた同時に背後から、爆音が響き渡った。
………どれくらい経ったか、私は柵を乗り越えて通路に戻る。
フードコートは机などの瓦礫の上に、狼の血肉が降り注いで辺り一面赤に染まっている。
その中を歩く。グチュ…グチュ…と死体を踏んで奥に進む。
体内で爆発させたからか、建物は崩れていない。
そのまま歩みを進めると…見つけた。
2対の怪物が身体中に破片を受けて転がっている。
その横、机の下で怪物と重なって寝ている奴がいる。
「…………」
「………グ、グゥ……」
机の瓦礫の下に見える足。それを蹴飛ばす。
「痛ぇ!なんだなんだ?!」
「寝たふりしてないで、さっさと起きなさい。」
困惑する彼に、私はそう言う。
血溜まりは見えなかったから生きているとは思っていた。
彼は自分の上にある壊れた机を退かす。
「いつつっ…いやーこれには訳が〜ってお前その怪我?!」
「…そんなのは後でいいわ、それよりここから移動しましょう。」
「そんなって…!……いやそうだな…分かった、ひとまず従業員室に行くか。」
「ええ…」
彼に続いて、従業員室に入る。
そこで私は、気を失った。
side:真壁 龍之介
こいつは何者なんだ…?
狼と1人で戦う少女の姿を見て、尊敬の念と同時に疑問が浮かんだ。
俺が人型の怪物と戦っている時、デカい鳴き声が聞こえたと思ったら机が飛んできやがった…。
咄嗟に近くにいた人型を盾にしたが、勢いが殺しきれず地面に叩きつけられて気を失った。
…意識はすぐに戻ったが、怪物と机が邪魔で動けなかった。
なんとか頭を出して周りを確認する。そこで俺は見た。
自分の何倍もある怪物に1人で立ち向かう神代の姿を。
正直この時間に会った時は、足手まといになると思っていた。
『拳銃は持っているが、戦えないだろうな』『俺が守ってやらないといけない』
そう思っていた。…そう思っていたのに、今のあいつはなんだ?
すげぇ…怪物相手に一歩も引かない。なんなんだ?!あいつ!
狼を掻い潜り、鞄から何か取り出してまた向かっていった。
そこで冷静になって考え始めた…。
なんなんだあいつは?なんでそんな動きができる?
俺が思うにあいつは16か17歳ぐらいか、その年の普通そうな少女がなんであんな怪物に平然と向かっていける?
…異常だ。あいつ記憶をなくす前は特殊部隊にでもいたのか?
わかんねぇ…けど頼りになるのは間違いない…。でも信用していいのか?
そう考えていると、爆音と衝撃が襲ってきた。あいつ何やった?!
砂埃で何も見えない。神代は?あいつは無事か?!
…しばらく待っていると、姿が見えて安心した。
その時だった。ふと、あいつの目を見た。
もしかしたら、灯りのせいだったのかもしれない…その目が…
いや気のせいだろう…でもなんだか気まずくなってしまい思わず隠れた。まさか蹴られるとは思ってなかったけど…
目を見たけど普通だった。やっぱり見間違えだったか。
その後話した神代はなんか冷たかった…もしかして途中で起きてたのバレてたか?
…それなら後で謝っておかないと…流石に申し訳ない…ただそれだけじゃない気もしたが…わからん。
神代の怪我もあるし、今日はこの辺りで引くべきだな。俺たちは従業員室に移動した
…けどあの時俺が見たあいつの目……この施設で何度か見た色………
怪物たちが見せる色と同じ………赤色になっているように見えたんだ。
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