23.救済
缶詰を捨てたのは図らずも正解だった。もし持ってたら今よりしんどかったと思う。だって今でも十分しんどい…
ひたすらロープを使って上へ登っていく。時折ロープが揺れるのでめちゃくちゃ怖い。
まだやってるよ、あの狼…。いい加減に諦めてくれないかな…
時間をかけて慎重に登っていくと3階の扉前に着いた。扉は空いてないよね…
「これどうやって開けよう…」
足場がないから手を使って開けられない。足を伸ばしても届かない。
あれやばい…。これどうやって開けたらいいの?
そう思っていると、
「?!ちょおおおおおお!!!??」
ロープがすごい勢いで下がった!あたしは必死になってロープを掴み続ける。離したら絶対死ぬ!
何事?!って下でものすごい音がした!
下を見ると、煙で見えない。もしかしてエレベーターが落ちた?
そう思っていると目の前の扉が開いた。
「え?なんか開いたんだけど…。まあいっか。」
下を見ると2階の扉も開いてる。こういう機能があるのかな?
ひとまずロープから飛び移り、店内に戻る。
怖かった…、もう二度とやりたくない。…もうやること…ないよね…
うん…考えるのはやめとこ。今日は色々あって疲れた…はやくセーフルームに行きたい…
…けどその前にやらなくちゃいけないことがある。雪原さんと石塚くん達に会いに行かないと。
雪原さんは大丈夫だと思うけど、石塚くんはまずいかもしれない。
あたしは拳銃を取り出して、足早に最後に石塚くんに会ったところに向かった。
「はぁ…はぁ…しんど…」
広間に出て少し走っただけですぐに息が上がってしまう。
怪物から逃げるために全力で走って、そのすぐ後にロープクライミング。さすがに疲れてるよ…
「はぁ…はぁ…少し休みたい…、けど先に…2人に合わないと…」
疲れ切った体をなんとか動かして進む。2人ともまだ移動してなければいいけど…
走るほどの体力がないから早歩きで向かう。鞄の中身が減ったのは本当によかった。
手すりに掴まりながら進んでいると、
「おい、あんた大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…へ…?ああ大丈夫、大丈夫…ふぅ…」
「いやとてもそうとは見えないんだが…」
誰かに声をかけられた。…意外だ。今日見た人って全員、こっちを睨んでる人しかいなかった。
けど今はしんどすぎて顔を上げられない。声からして男の人だと思うけど…ちょっと構ってる余裕はないんだよね…
「心配してくれて…ありがとう…。ごめん…ちょっと急いでで…また今度ね…」
「え、あ、ああ。わかった。だが早めに休めよ?」
「うん…ありがと。それじゃ。」
この人には悪いけど今は先にやらないといけないことがあるから先を急がないと…
また会えたときにでも声をかけてほしい。
side:?
振り返って彼女をみると歩くのもしんどいのか、手すりに掴まりながら移動いている。
あんな状態でやるべきこととはなんだ?それに、
「マトモな奴だったな…」
前に見た時も思ったが、この状況で随分と落ち着いている。
怪物に襲われている時も冷静に対処していた。
見たところ女子高生ぐらいに見えたが、たいしたやつだ。
それに結構…いや…それはない。
「次に会った時は誘ってみるか…」
今まであったやつとは組みたいとは思わなかったが、あいつならいいかもしれない。
さて、彼女にもやることがあるらしいが、こっちも今はやることがある。もう時間もないし準備をしておかないと。
ようやく奥が見えてきた、2人とも無事だといいのだけど。
ここまで怪物に襲われなかったのは不幸中の幸いだった。もし会ってたら対処できる気がしない。
…もしかして1階であれだけ騒いだから、そっちに行ったのかもしれない。
そんなことを考えていると何かを叩きつけたような音が響く。
急いで奥に行くとそこには2人がいた。ただ、まずいことになっていた。
雪原さんが頭から血を流して壁際に座り込んでいる。気を失っているみたいだ…
そんな彼女に近づく石塚くんは、あたしが最後に見た怒りで歪んだ顔をしている。
手にはあたしが雪原さんに渡した鉈を持っていて血がついている。あれで殴ったのかもしれない。
彼は少しづつ雪原さんに近づいていく。手に持っている鉈を振り上げながら…
「やめなさい!!」
叫びながら持っていた拳銃を彼に向ける。そんなあたしを見て驚いた顔を一瞬する。
「?!カミシロォ!!生きテタんダな…!!マッテロ、こいツを殺しタラ次はオ前ダ!!」
「雪原さんを殺す気?!なんで!彼女が何をしたっていうの?!」
「こイツは裏切っタンだ!それニオ前も!裏切った!裏切っタ!裏ギギギギギギ………!!!」
頭を抱え狂ったように振り回している。
それになんだか体が膨れてる?何…あれ…何が起こって…
?!雪原さんの方に向かってる!
「っ!待ちなさい!」
今の石塚くんを近づかせるのはまずい!とにかく落ち着かせないと!
あたしは拳銃を彼に向けながら近づく。
「石塚くん!悪いけどそれ以上雪原さんに近づかないで!」
「グゥ!…ガァ…なんデぼクがお前ノ言ウコとを聞かナイとイケなイ!」
「今のあなたは普通じゃない…。とにかく落ち着いて。お願い…正気に戻って…」
「…?!オマエやっぱり裏切っているナ!なんダソの顔は!笑ウノをヤメろ!」
「?!またそれ…。あたしは笑ってない!それは幻覚だよ!お願いだから正気に」
「ガァアアアア!!!!」
雄叫びを上げながらあたしの方に向かってくる。
何度叫んでも彼からは言葉は帰ってこない。
…もうダメなのかもしれない。あたしの声は彼に届かない。
友人だろうと襲いかかる、今の彼は怪物と変わらない。ここで彼を止めないと雪原さんが殺される…
彼にこれ以上罪を犯させるわけにはいかない。…友人同士で殺しあうところなんて見たくない。
ならどうするか…。その方法をあたしは知っている。
……誰かを殺す。その罪を背負うのはあたしだけでいい。覚悟はもう決めている。
あたしはゆっくりと引き金を引く。弾丸が彼に向かって飛び右足に命中する。
「ウグゥ!…グァ…ガア!!」
足から血を流しながら、苦しそうな声をあげる。
それでもまだ倒れない。引き金を引く。弾丸が彼の左肩を貫く。
貫いた肩から血を流しながらもまだこちらに向かってくる。
ふと彼の顔を見てみる。怒り、憎し、恨み、負の感情を詰め合わせたそれは、もう人の顔をしていなかった。
「…ごめんね…。」
あたしは引き金を引いた。弾丸は彼の頭を貫き、鮮血を撒き散らす。
石塚くんは、糸が切れた人形のように地面にゆっくりと崩れ落ちた…
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