22.正念場
広間の奥、そこにいたのは大きな頭。
ワニの頭をそのまま大きくしたような怪物がいた。
大きさはあたしの身長をはるかに超えていて、頭の下には小さな手足がついている。狼より大きかもしれない…
辺りには食い散らかした怪物の四肢が散らばっておりまるで…墓場だ。
「グァ?ガァガァガァガァ!」
「…な…何こいつ…?!」
後ろから咆哮が聞こえる。
…失敗した。大型の怪物があいつ以外にいる可能性を考えてなかった…!
ワニの怪物はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。狼のやつと比べると亀のように鈍い。
怪物と壁に通れそうな幅はある。…この動きなら横を抜けられるかもしれない…
けど通ってる間こいつが大人しくしているとは思えない…それに後ろのやつをなんとかしないと…!
考えて…何か…何か…方法があるはず…
手持ちの武器で使えるのは拳銃と手榴弾だけ…けどこれでどうにかなるとは思えない。せいぜい怒らせるのが関の山。
辺りに使えそうなものは…あるかもしれないけど、探している余裕がない…
「グァ!グァ!グァ!」
アヒルのような鳴き声を鳴らしながらゆっくりと近づいてきている。
後方の狼も足音で近づいてきているのはわかる。何か使えるもの…
………一つ思いついた。というよりも、もうこれしか思いつかない…!
あたしは後ろ路に振り返って、
「おーい!!あたしはこっちだぞー!!」
あたしはあえて大きな声で狼を呼ぶ。
その声が聞こえたのさっきよりも足音が早くなった気がする。
…ここからは失敗すれば死ぬ。ミスはできない。
…………よく考えてみれば今までも失敗したら死んでたじゃん。そう考えれば少し気持ちが軽くなる。
作戦はある。後は行動するだけ。
さて…、
「グォォォオオオオオオオ!!!!!!!」
「グァ?!グァグァグァグァ!!!」
ここが正念場だ!
自分と対等な敵を見つけたからか、大きな咆哮を上げる。
狼の咆吼で空気が震える。耳を塞いでも全く意味がない。
大きな音で体の中が揺すられて、吐き気がする。景色が歪んで頭が痛い…!
……ッ一瞬意識が飛びかけたけど、なんとか持ち直した。危なかった…
「グルルルゥ…。」
「グァ!グァグァ!」
2体が見つめ合って動かない。様子見してる?
…って狼がたまにこっちを見てる。まだあたしを狙ってるみたいだ。しつこいやつめ…!
ならさっさとここから逃げさせてもらいますか!
まずはその状況を変える!あたしは手榴弾を真上に投げる。
それと同時にしゃがみ込んで頭を抱える。
瞬間光が辺りを白に変える。
「グァ?!」
「グォオオ?!」
「学習しなくてありがと!」
あたしは鞄の中から缶詰を取り出し、ワニの方に投げつける。そして缶詰に向かって拳銃を撃った。
何発か外したけど、なんとか当てられた。
銃弾で缶詰は弾け飛び、中身がワニにかかる。
それを確認した後ワニの横を通り抜け奥に向かう。これがあたしの作戦。
狼はあたしを匂いで追っていた。じゃああたしよりも、もっと美味しそうな匂いがすればどうなる?
「グゥオ?グォオオオオオ!!」
「グァ?!グァ!」
こうなる。
缶詰の匂いに釣られて狼がワニに噛み付いた。よし!上手くいった!
両方ともこっちを見てない。後は2体でやってなさい!後はあいつらが争っている間に、逃げるだけ!
ワニが近づいてくれたおかげで道幅も余裕がある。
あたしは怪物達から目を離して、奥に進む。
その後ろで怪物達の雄叫びが鳴り続けていた。
「はっ…はっ…はっ…、よかった!あった!」
奥に進むと広間の中心にエスカレーター、その奥の壁にエレベーターが設置されていた。
エスカレーターの方は中心部分で崩れ落ちていて使えない。
急いでエレベーターの方に向かい、ボタンを押す。…お願い!
ランプが……ついた!3階から降りてくる。しばらくすると扉が開いた。
あたしは急いで中に入り3階のボタンを押し、閉めるボタンを連打する。
ゆっくりと扉が閉まっていく。…なんとかなった…
「?!あいつなんでここに!」
後少しで閉まる時隙間から狼の姿が見えた。
白い体は至る所が真っ赤になっており、表情が怒りに染まっていた。
こちらを見つけるとものすごい速度で走ってくる。
「はやく!はやく!閉まって!」
何度も何度も閉じるボタンを連打し続ける。
ゆっくりと…扉が閉まった。
地面が動き、ちょっとした浮遊感が伝わってくる。間に合った…
危なかった、後少し遅かったら…はぁ…助かった。
そう思っていると、
「うわぁ?!え、何?!」
ものすごい衝撃でエレベーターが止まる。
ちょっと?!何!もう安全じゃないの?!
さっきから何度も、エレベーターが揺れてる…なんで…ってもしかして!
あの狼!エレベーターに体当たりしてる?!どれだけ諦めが悪いのよ!
「?!灯りが!」
衝撃のせいか、室内の灯りが点いたり消えたりしてる。
これ、このままだとまずい!けどどうしたらいいの!…衝撃はまだ続いてる。
…このままここに閉じ込められるの?いや最悪落下するかもしれない!
どうしよう!何か、何かできることは!
そんな時だった、状況に似つかわしくない音楽が鞄の中からする。
「?!…ってこんな時に!」
あたしはGフォンを引っ張り出し、通話を押す。
『あっ、結?よかった…もうセー』
「ごめん!今本当にやばいから後でかけ直していい?!」
『え?!ちょっと!どういう状況よ!説明しなさい!」
「エレベーターに閉じ込められてる!このままだと落下して1階の怪物の前にこんにちは!」
『…意外と余裕あるように聞こえるけど…エレベーターに閉じ込められてるのね?』
「そう言ったでしょ?!後余裕なんてないから!」
慌てて変なこと口走った気がするけど、それよりも本当にまずい!さっきから金属が擦れる嫌な音が聞こえてきてる。
もしかしなくても落ちてきてる?!やばいやばいやばい!!
『結!もしかしたら…天井が開くかもしれないわ!試してみて!』
「え?!天井?!わかった!ちょっとやってみる!」
やってみるとは言ったけど…高くて届かない!…なら!
拳銃に弾を込め直して天井に向ける。
「これで!」
天井に向かって拳銃引き金を引いた。
瞬間発砲音が狭い室内に響き渡り、脳が揺れて耳鳴りがする…
「っ!ぐぅ…まだ!」
めまいと吐き気を感じながらも、天井に向けて撃ち続ける。
途中で弾切れになった。また弾を込めないと…くっ…頭が痛い…気持ちわるい…
体に力が…もう立ってられない……目の前が…暗く…なって…
『…ゆ……い………結……結!しっかりしなさい!結!』
「!し…ずか…」
声が…する…。そういえば通話してたね…。
まだめまいと吐き気はあるけど、少しずつ意識がはっきりしてくる。
壁に手をつきながらなんとか立ち上がる。さっきよりも金属音が激しくなってる。急がないと…
『大丈夫なのね?ああ…よかった…。大きな音がした後返事をしなくなったから心配したわ。』
「はは…心配してくれてありがと。」
『それで、どう?抜け出せそうかしら?』
「それは……ん?あそこ…」
『どうかしたの?』
「いや天井の一部が上に歪んでて…奥に何か見えるんだよね。」
震える手で弾を込めながらそう伝える。
改めて天井を見てみると、角のパネルがずれている。撃った衝撃でずれたのかな?
衝撃に揺れはまだ続いてるし、考えるのは後にして今は行動しよう。
『それよ!そこからなんとか抜け出しなさい!』
「うん!結構高いけど…なんとかする!」
あたしは壁を蹴ってずれたパネルの隙間に手を伸ばす。…っちょっと届かなかった。
もう一度!…今度は…届いた!
パネルを押し上げるとそこには広い空間。あたしは必死に体を持ち上げそこに入る。
薄暗いランプが点々と付いていて、上に広がっている。エレベーターの内部ってこうなってるんだ…
…って考えてる場合じゃない。見たところ出口はない。少し上には開き扉みたいなのが見えるけどあれはエレベーターの入り口かな?
『結?どうなんとかなりそう?』
「んーなんともいえないけど、とりあえずなんとかしてみるよ!」
『ええ!頑張って!』
「うん!ちょっと登らなきゃいけないから、電話切るね?また後でかけ直すから。」
『わかったわ。気をつけてね?』
通話をきり、鞄の中にしまう。これ何メートルぐらいあるかな…
足元でまだ揺れが続いてる、そろそろ落ちるかもしれない。
とにかく3階まで登らないと…。ふぅ…頑張らないと…
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