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「妹が先よ。あなたは手がかからないから」と母が言うので、三回言って届かないものは自分で取りに行きます【連載版】  作者: みれいぬ


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北の一行は、三行分に

 夏も終わりに近い昼、二回目の早馬が戻った。


 軍務院の封は、一回目のものより薄かった。開ける前から分かった。中の紙は、一枚よりも少ないだろう。


 開けると、半分に切った紙が一枚入っていた。


 受け取った。追って沙汰する。補給掛次席、ラムズデン。


 それだけだった。日付も書いていなかった。


 宛先は補給掛の長にしたはずなのに、返事の署名は次席のままだった。


「一行だな」


 机の向こうで、ダンカン様が言った。


 一行だった。北が八年出してきた注文と、同じ長さの返事だった。王都の役所は、自分が一行で返すときには、それを一行と数えないらしい。


(二回目)


 届かなかった。


 私は半分の紙を机に置いて、引き出しを開けた。前に宛名と書き出しと最後の一行だけを書いておいた下書きが、そこにあった。


* * *


 三回目は、王妃宮の取次の女官へ書いた。


 夏至で、王妃陛下の後見は終わっている。だから、後見を受ける令嬢としての申し立てではない。北の辺境伯夫人として、北の騎士団の冬の物資のことを知らせる手紙にした。


 書いたことは、起きたことだけだった。北の騎士団の冬の物資の注文を、今年、軍務院に二度出したこと。これが三度目の知らせであること。一度目は「例年どおり手配済み」と、二度目は日付のない一行で返されたこと。損じが八年のあいだ一度も減らず、毎年増えていること。街道が雪で閉じるまでに、館に届かなければならないこと。


 一回目と二回目の写しと、ラムズデン次席の二通の返事の写しと、八年分の表を添えた。


 頼みごとは、書かなかった。何をしてほしいとも書かなかった。三回目の宛先には、何が起きているかが一回で分かれば足りる。どうするかを決めるのは、読んだ人だ。


 書き終えて、ダンカン様に渡した。ダンカン様は読み終えると、印を押す前に一度だけ聞いた。


「王妃陛下に、北のことで手を煩わせていいのか」


「王妃陛下にお願いするのではありません。女官の方に、知らせるだけです」


「同じことではないのか」


「違います」


 私は、去年の油の行を指で押さえた。


「一回目は、北の人が書いたら届かない書き方で、私が届く書き方に直しました。二回目は、届く宛先に直しました。それでも届かないなら、王都の中で、届かないようにしている人がいるのです。それは、北からは見えません。見える場所にいる人に、見てもらうだけです」


 ダンカン様は、しばらく私を見ていた。それから、印を押した。


* * *


 秋風の立った昼、三回目の早馬が戻った。


 封は二つあった。一つは王妃宮の、白い封蝋。もう一つは軍務院の封だったが、封蝋の紋が今までと違った。


 白いほうから開けた。取次の女官の、丁寧な字だった。


 北の辺境伯夫人様。お知らせを頂戴し、王妃陛下にお目にかけました。陛下は軍務院の院長をお召しになり、一言だけ仰せになりました。


 次の一行だけ、字が少し大きかった。


 北の一行は、三行分に読みなさい。


 私は、その行を二度読んだ。


 机の向こうで、兄が「三行分か」と呟いた。エイモスとガーニーは、話の分からない顔のまま、それでも背筋を伸ばしていた。


 軍務院の封は、院長の名で来ていた。


 北の騎士団の冬季補給は、注文の書面のとおりの数を王都にて積み、直ちに発する。補給掛の次席は、北の補給の扱いを解く。二回目の書面は、補給掛の長に渡らず、次席の手元に留め置かれていた。王都にて積んだ数の控え、八年分を写して送る。宿場にて荷を降ろしたる際、当院の御者より損じの届けは、八年のうち一度もなし。


 最後の一行だけ、院長の自筆だった。


 北の書面を一行と読んできたことを、当院は改める。


* * *


 机の部屋の戸口に、いつの間にか騎士の妻たちが集まっていた。


 女官の手紙が、妻たちの手から手へ回っていった。字の読める一人が読み上げ、読めない一人が「もう一回」と言った。北の人が、もう一回、と言うのを、私は初めて聞いた。


「三行分ですって」


「北の一行が」


「王妃様が、そう仰ったの」


 最後の一人は、便箋を胸に当てたまま、しばらく返さなかった。


 戸口の後ろから、ヘスター様が顔を出した。妻たちの頭越しに便箋の大きい字を読んで、私に言った。


「三回目の宛先を、ちゃんと取っておいたね」


「はい」


「北の女は、取っておかない。一回目で全部使っちまう」


 ヘスター様はそれだけ言って、台所へ戻っていった。


 私は、院長の書状に添えられていた控えの写しを、机に広げた。


 王都で積んだ数。八年とも、灯りの油六十樽。


 その隣に、宿場の問屋の送り状を八年分並べた。軍務院より受け、灯りの油六十樽。うち道中の損じ。


 王都で六十積んで、宿場で降ろすまで、一度も損じは出ていない。宿場の問屋は、八年とも六十樽を受け取っている。損じが生まれるのは、受け取った後だ。


 私は、去年の送り状の一番下の署名を、指で押さえた。


 ウェスカー宿場、問屋ブロム。


 荷を積み終えて王都を出るのは、明日だ。十三日後には、館に着くはずだった。


 宿場の役人に知らせることも考えた。けれど、今の私が知らせられるのは疑いだけだ。証になるのは、今年の荷が館に何樽届くかだった。六十樽届けば、それでいい。届かなければ、そのときは宿場の倉へ行く。


 私は、送り状を束に戻した。

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