№_25_ふりがな版
安車蒲輪
空飛ぶ腕を、真っ二つに斬り分けた、緋色。
「背中が、がら空きだよ」
背後に回り込み、緋色の脇腹に蹴りを入れた、天。
「…甘い誘いに…乗るからだ!」
脇腹に入った天の足を掴み、太股の付け根から、掴んだ片足を切り落とす。
「痛い・・・な~んてね!」
切り落とした足が捻じれ動き、拘束から抜け落ちる。
宙に放たれた片足は、屈伸運動で勢いをつけ、緋色の顎を蹴り上げた。
「・・・!」
飛びかけた意識の中、足腰に力を入れ、上体を戻す。
おぼつかない足取りで、天に氷剣を振りかざし、追撃の隙を与えない。
片腕を広げてバランスを取り、一本足で跳び下がる、天。
「ふらふらの状態で刃物を振り回すとか…怖!」
脇腹を押さえ、地面に膝を付く緋色に、雪が近寄る。
「緋色…大丈夫?」
「問題ない…肋骨が数本折れた程度だろう」
「霊が、力になれたら…」
「…相手は、霊力に干渉する守護霊。闇雲に氷を使うと、利用される」
「な~んだ…ばれてたんだ」
切り分けられた腕が、ぴたりと合わさり、再び、宙に浮かぶ。
「悪餓となった体は、自然と霊力を帯びる」
「腕に帯びた霊力を操り、切り離された体を動かしていた…違うか?」
「はぁ~正解。たった数回の殺り合いで、能力を見破られちゃった~」
「流石…”年寄り”は、経験豊富だね」
「・・・年寄り?」
首を捻り、眉間にしわを寄せた、緋色。
初めて漏れた緋色の感情的な声に、何故か、高揚した笑顔を見せる、天。
「ふふふ…だってもう、息が上がってるじゃん。おじさん」
「雪…”あれ”を使うぞ」
「でも…あれは…」
「この辺りの民間人は、ガス爆発で避難させているはずだ。問題ないだろう」
「・・・分かった」
手を握り合わせ、沈黙を始める。
「ははっ怒った?やっと、本気を見せてくれる気になったの…かな!」
隙だらけの雪に、浮いた腕を飛ばす。
「黙れ…」
飛んで来た腕の関節を、氷剣で切り離す。
「あ~あ、気づかれた…か!」
一瞬、動揺した表情を見せたものの、笑顔で近づき、緋色に跳びかかる、天。
突進してきた天の顔面を、足裏で蹴り止め、弾き返す。
「…元に戻ると分かっていて斬る馬鹿がどこに居る」
「痛~そうだね?」
天を蹴り飛ばした緋色の足首が、赤く腫れ上がる。
「丈夫な体だな…悪餓化の影響か」
「ひひっ動けなくなった所を…」
切り落とされ、放置されていた天の片足が、雪に向かい飛び上がる。
「時間切れだ…」
脳裏が悪寒に襲われ、顔肌に冷えた霊気が流れる。
雪に近づいた片足が、一瞬で凍り、粉々に砕け散った。
「噓・・・」
「幾ら斬り裂いても、元に戻るのならば、跡形も残さなければ良い」
関節を切られ、ばらばらに散っていた片腕が、凍りつき、崩れ消える。
「あ~やばいかも!」
雪に背を向け、大通りに出ようと、片足で走り出す。
「雪…」
凍りが壁に広がり、逃げる天を追う。
必死の片足走りで、大通りに飛び逃げた、天。
「よし!」
「…凍れ」
大通りに到達した凍りが、周囲の景色を飲み込む。
「・・・」
動けなくなった天の視界には、辺り一面、氷の世界が広がっていた。
砕け散る天に、ゆっくりと近づく、緋色。
「…年上は、敬うものだ」




