№_26_ふりがな版
安心立命
直角に曲がり明らかに折れている腕を、地面に打ちつけて元の形に戻す。
「はぁ~痛い、痛い」
何事も無かった様に、折れた腕の拳を握って、感触を確かめる、緒乃葉。
「傷が治った…そうか!貴様も悪餓だったのか⁉」
「私の祓纏を、そんなものと、一緒にしないで頂けます?」
「祓纏?」
「何も、疑問を抱く必要はありません。だって貴方…死にますよ?」
「ふははは、この私を殺すと?残念だが、悪餓の体が死ぬことは、無い‼」
刀を鞘に収める、緒乃葉。
「…爾也」
緒乃葉の体から、か細い断末魔が鳴り、鉄の楔が飛び出る。
緒乃葉の手元から刀が消えて、黒い羽衣を靡かせる人形へと変貌した。
「…付与型では無い?」
腰に添えた刀を抜き、緒乃葉の広いた手の平に置く、爾也。
「…殺れ」
「…はい」
音速の速さで龍に近づき、喉元を掻っ切る様に、刀を振り上げる。
上体を背け、顔に刀傷を付けながらも、ぎりぎりで刃を交わす。
「速い‼が…見える!」
上体を反らしながら、緒乃葉の鳩尾めがけて拳を突き出し、反撃に出る。
突然、鳩尾に迫った拳の鎧に、歪みが生じる。
「・・・なに⁈」
緒乃葉の鳩尾に触れた瞬間、鎧は形を保てなくなり、弾け消えてしまった。
「な、な、何をした⁉」
拳が当たっても動じない緒乃葉に、困惑した表情を見せて後退りする、龍。
「・・・ばん」
追い打ちを掛ける様に、塞がっていたはずの胸の刀傷が開き、血が噴き出す。
「ぐはっ…馬鹿な⁈なぜ、傷が⁈」
表情ひとつ変えずに刀を振り上げ、逃げる龍に向かって振り下ろす、緒乃葉。
「燐!」
再び、鎧を腕に憑け、腕を頭上でクロスした、防御の構えをとる。
しかし、突き出された腕は、いともたやすく、振り下ろされた刀に切断されてしまった。
切断された腕を体に引き寄せ、切り口と、切り口を、必死に繋ぎ合わせようとする。
「なぜ⁈なぜだ⁉なぜ、治らない‼」
「遺言は、それで良い?」
跪く龍の前に立ち、刀を振り上げる。
自身の死を悟り、一天を見つめる…
「ああ…これが、本物の…悪餓の可能性なのか!」
「だから…違うって言ってるでしょ!」
怒りに任せて振り下ろされた刀が、龍の体を真っ二つに切り裂く。
「呆気ない最後…爾也」
人形の爾也が姿を消し、刀を収めた鞘が、緒乃葉の手元に現れた。




