表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/20

第17章:かつての許嫁との再会


宮廷魔導士としての任命から一週間。

王都では、改革の波が確実に形となりつつあった。

エレノア・グランツは、その中心にいた。

だがその名が再び“公的なもの”として取り沙汰されるようになると、必然的に彼女の“過去”も引きずり出される。

かつての婚約者、第一王子アレクシス・ラグランジェ。

彼とは断罪以来、一度として言葉を交わしていなかった。

だがついに、その“再会”の日が訪れる。

* * *

「第一王子殿下より、御前会談の申し出がありました」

リディアの報告に、エレノアは書類に目を通しながら眉を寄せた。

「……王政の体裁を保つための“和解劇”ってところかしら」

「ですが、公式の場ではなく、“非公式の対話”とのことです」

「非公式……ならば、本音を聞けるかもしれないわね」

エレノアはゆっくりとペンを置き、椅子から立ち上がった。

「会ってくるわ。過去を清算するには、ちょうどいい」

* * *

王宮の奥、かつて“婚約者の控室”として用意されていた応接室。

今は誰も使わなくなったその部屋に、アレクシスは立っていた。

黄金の髪、貴族らしい微笑み――かつては多くの者を魅了したその姿も、今はどこか影が差している。

「エレノア。……来てくれて、感謝する」

「感謝? 私を断罪した男が、よく言えるものね」

その言葉に、アレクシスは一瞬だけ目を伏せた。

「……あの時、私は“王子”としての選択をした。ミリアを庇い、民の支持を得ることが“王位”への近道だったからだ」

「つまり、“私”はそのための犠牲だった?」

「……そうだ。だが今、あの判断がどれほど浅はかだったか、ようやく理解した」

エレノアは黙って彼を見つめた。

かつては心を寄せていた相手。だが、今はもう違う。

「ミリアは……?」

「失踪した。舞踏会の一件以来、貴族社会から追放同然だ。今、どこにいるかも分からない」

アレクシスの表情には、焦りも後悔もない。ただ虚無があった。

「私は、“正しさ”を選んだつもりだった。でも……君の姿を見て、気づいたよ。君こそが、真にこの国を導く者だったと」

「ならば、今さら“謝罪”のために呼んだの?」

「違う。……君に協力を申し出たい。君とジュリアン、そしてこの国の未来に、私を加えてほしい」

エレノアは、静かに目を閉じた。

「アレクシス。あなたは、“支配する側”としてしか人を見てこなかった。私はそんなあなたと、“対等な協力”などできない」

「ならば……償う手段を教えてくれ」

その言葉に、エレノアはわずかに口元を緩めた。

「一つだけ、してほしいことがあるわ」


* * *

数日後。王都の中央広場に、異様な空気が流れていた。

第一王子アレクシス・ラグランジェが、公の場で“民衆への謝罪”を表明するという前代未聞の告知がされたためだ。

その知らせは瞬く間に広まり、広場には庶民から貴族までがひしめき合っていた。

そしてその中央、壇上に現れたアレクシスは、凛とした姿勢のまま、深く頭を下げた。

「私は――過ちを犯しました」

ざわめきが広がる。

「私は、婚約者であったエレノア・グランツ嬢を、証拠も不十分なまま断罪し、私的な感情と政治的都合を優先して、その名誉を踏みにじりました」

誰もが言葉を失っていた。

この国の“光”として育てられた王子が、己の誤りを認めるなど、想像もしていなかったのだ。

「私の過ちは、貴族制度という構造の中で当然のように受け入れられていた価値観に基づいたものです。ですが、それが“当然”であるならば――私は、その当然を否定します」

沈黙が、かえって彼の言葉の重みを際立たせた。


「そして、エレノア・グランツ嬢が歩んだ道を、私は今後、陰から支えることをここに誓います。

彼女こそが、真にこの国を変える力を持った者であり、私が見失った“真実”そのものです」

アレクシスは、再び深く頭を下げた。

その姿に、かつての傲慢さは微塵もなかった。

会場を包む沈黙。だがその沈黙は、やがて拍手の波に変わっていった。

それは赦しではない。だが、真摯な言葉に対する、民衆なりの“評価”だった。

壇上の端、顔を出すことなく立っていたエレノアは、その光景を静かに見つめていた。

(これで、ようやく決着がついた――過去に縛られていた私と、彼の物語に)

* * *

夜。王立魔法学園の塔の上。

エレノアは、アルヴィンと並んで星空を見上げていた。

「……一つの物語が、終わったんだな」

「ええ。私にとって“断罪”は過去。でも、ようやく……その傷口を、自分の手で閉じることができた」

アルヴィンは黙ってうなずき、そっとエレノアの手を取る。

「次は、未来の話をしよう。俺は、君と一緒にその未来を見たい」

エレノアは少しだけ頬を染め、静かに答えた。

「ええ……一緒に、“再構築”しましょう。この国を、そして……私たち自身を」

冬の星空が、ふたりの決意を祝福するように、静かに瞬いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ