第16章:宮廷魔導士試験と決戦
王都に初雪が降り始めた頃、王宮よりある一報が届いた。
――宮廷魔導士試験、前倒しにて実施。
それは通常、春に行われる一大行事。だが今回は、政情不安の収束と、次代の“象徴”を求めるという名目のもと、急遽開催されることとなった。
「これは、私への“招待状”ね」
エレノアは、届いた試験要綱に目を通しながら呟いた。
試験会場には、王都をはじめとする各地の魔導士たちが集う。特に注目されていたのは、王立魔法学園の首席候補――そして“創造核の適合者”として噂される、エレノア・グランツの存在だった。
* * *
「試験に出るつもりですか?」
クラリッサが静かに尋ねる。
彼女はかつて王宮の騎士だったからこそ、この“試験”が単なる選抜ではないことを理解していた。
「ええ。これが“決戦の舞台”になる気がしてるの」
エレノアは視線を上げた。
「敵は、仮面の男だけじゃない。王政も、学術会議も、既得権益も……。私はここで、“新たな秩序”を証明しなければならない」
「それは……命を懸ける覚悟で?」
「当然よ。私の“ざまぁ”は、始まったばかりなんだから」
* * *
試験当日。
会場は王宮内の“天穹魔導競技場”。魔力を増幅・抑制する特殊構造を持ち、あらゆる術式が可視化される設計となっている。
集まったのは、貴族、王家、軍部、そして各地の名門魔導家。
その中にはもちろん、第一王子アレクシスの推薦者も含まれていた。
エレノアが会場に足を踏み入れると、ざわめきが広がった。
「あれが……エレノア・グランツ」
「断罪された悪役令嬢が、今や“革命の象徴”とは……」
だが、彼女は一切の動揺を見せなかった。
深紅のローブに身を包み、静かに立つその姿は、まさに“令嬢”ではなく、“戦う者”のものだった。
* * *
第一の試練は、「構築魔導」。
与えられた課題に対して、独自の術式を構築・展開するというもの。
エレノアは手を掲げ、詠唱もなく魔法陣を浮かべた。
「“再構成式・変則型展開”――《理力の花弁》」
空中に展開された魔法陣が、物理・風・光の三属性を同時構成し、会場全体に幻影の花を咲かせる。
「っ……同時多重属性を、あの短時間で!?」
「しかも、魔力消費がほとんど見えない……制御精度が異常だ」
審査官たちが騒然とする中、第一試験は圧倒的な評価で終了した。
* * *
第二の試練は、「模擬戦」。
対戦相手に選ばれたのは、王家直属の魔導士――仮面の男と同じ組織に属すると噂される者だった。
名はゼノ・ヴァルシュト。
漆黒の法衣に身を包み、仮面こそないものの、どこか“あの男”を思わせる気配を放っている。
「グランツ嬢。貴女が持つ“創造核”……我々の側に渡るべきだ」
「その言葉、聞き飽きたわ。私は、誰のものでもない」
「ならば証明してみせろ。その力が、ただの“反逆”ではないことを」
激突の瞬間、ゼノが放ったのは“空間断裂魔法”――通常ならば高等魔導士でも詠唱に数分かかる術式。
だが、エレノアは微塵も動じなかった。
「“空間断裂”ね。ならば、こちらは――“空間織り直し”よ」
掌を突き出し、空間に織り込まれるように新たな魔法陣が展開される。
――《再構成魔法・弐式・縫合の環》
断裂を縫い合わせる術式。相反する魔法を中和し、術者の制御下に置くという、まさに“再構築”の極地。
「なっ……!? 私の魔法が……吸い込まれる!?」
ゼノの術式は無効化され、逆にエレノアの術が彼の魔力循環を封じていく。
「あなたの魔法は、破壊のための魔法。私の魔法は、創造のための魔法。……理念が違うのよ」
一閃、空間が浄化されるように輝いた。
勝負は、エレノアの完全勝利。
* * *
全試験が終わり、王宮の魔導会議室にて、最終審査が行われた。
「エレノア・グランツ。貴女を、正式に“宮廷魔導士”として任命します」
筆頭魔導官の宣言に、場がどよめいた。
だが、それ以上に衝撃だったのは――
「加えて、第二王子直轄の“特任戦略顧問”として、その権限を与える。……これは、王家と共に“改革”を担う立場となることを意味します」
名誉と同時に、重圧と責任を背負う立場。
だがエレノアは、真っ直ぐに応えた。
「受けます。私は、この国を変えるために――この場所に立ったのですから」
* * *
帰り道、雪が静かに舞っていた。
リディアが傘を差し出しながら微笑む。
「おめでとうございます、エレノア様。“ざまぁ”の舞台が、整ってきましたね」
「ええ。でも、ここからが本番よ。全てを再構築する、その瞬間まで」
革命は、いよいよ“王家の中枢”へと迫ろうとしていた。




