第14章:第二王子の真意
舞踏会という名の“裁き”が幕を閉じてから数日後、王都には嵐のような動揺が広がっていた。
腐敗貴族の密談録音は瞬く間に広まり、王家の威信は急速に揺らぎ始めた。第一王子アレクシスの立場も、もはや盤石とは言い難い。
そんな中、第二王子ジュリアン・ラグランジェに対する国民の評価が、急激に変化していた。
「……改革派王子、ですって?」
ティナが新聞を読み上げながら、目を丸くする。
「“民の声に耳を傾け、真実を暴いた王子”って。なんだか、ジュリアン殿下が“革命の旗印”みたいに扱われてます」
エレノアは微笑を浮かべながらも、内心では複雑な感情を抱いていた。
(これは想定外の速さ……あまりに、整いすぎている)
* * *
その日の夕暮れ、王都北部にある王族専用の別邸――
「青の離宮」にて、エレノアはジュリアンと再び対面した。
「君の仕掛けは見事だった。舞踏会の一夜で、すべてが変わった」
「……本当に、変えたかったのは“それだけ”ですか?」
ジュリアンはワイングラスを傾け、少し間を置いてから言った。
「君には、隠すつもりはなかった。だが、今だからこそ、聞いてほしい」
彼が取り出したのは一枚の魔導図――王政の後継権をめぐる“政略図”だった。
「これは、私の父、先代国王が残した“私的遺言”の写しだ。公式の王位継承者はアレクシスだが……父は、最終的に“この国の将来を託す相手”を変えようとしていた」
エレノアの目が細くなる。
「……それは、あなたに?」
「いや、“私ではなく、私と並び立つ誰か”と」
ジュリアンはまっすぐに彼女を見た。
「君だよ、エレノア。君の力、君の理想、君の行動。それは“王家の限界”を超え、世界を変える力になる。父は……それを見抜いていた」
「それを、今になって持ち出した理由は?」
「君を、“王政の中枢”に引き込むためだ」
静寂が流れる。
「グランツの名を捨て、私のもとに来い。共に、真の改革を成し遂げよう。君が欲しいのは力ではない。“実現”だろう?」
その言葉に、エレノアの胸は静かに波打った。
(理想だけでは、世界は動かせない。だが、力に寄りかかるだけでは、私は私を失う)
「……殿下。それは、私を“従わせる”提案ですか? それとも“対等に並ぶ”者としての問いかけですか?」
「後者だ。私が欲しいのは“玉座の飾り”ではない。“ともに在る者”だ」
エレノアは立ち上がり、窓の外、沈みゆく夕日を見つめた。
「答えはすぐには出せません。私はまだ、自分の道の途中にいます」
「いい。それでいい。だが、覚えておいてくれ。私は本気で、君と歩む未来を望んでいる」
* * *
帰路についた馬車の中、リディアが尋ねた。
「エレノア様、ジュリアン殿下のお申し出……どうお考えですか?」
「……魅力的だったわ。“変える力”と“支える意志”が、一つにある。けれど――」
エレノアは窓に映る自分を見つめながら、静かに続けた。
「私が立ちたいのは、誰かの“隣”じゃない。“先”よ。私は、“王家の補佐”ではなく、“新しい秩序の創造者”になりたい」
その言葉に、リディアは微笑みを浮かべた。
「それが、エレノア様らしいです」
(ジュリアン殿下の真意は本物だった。けれど、私は“王になる”ために生きているわけじゃない)
私は私の道を行く。
それが、たとえ孤独な道でも――
* * *
その夜。
青の離宮の書斎で、ジュリアンは一人、魔導書を閉じながら呟いた。
「……やはり、君は“導かれる者”ではない。“導く者”なのだな」
そして彼は、未開封の手紙をそっと引き出しにしまった。
宛先には、“エレノア・グランツ”と綴られていた。
(この革命の道が、やがて交差することを願おう。どこかで――)




