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第13章:裁きの舞踏会

王都に冬の気配が漂い始めた頃、王宮主催による最大の社交行事――「冬至の舞踏会」の招待状がエレノアのもとへ届いた。

差出人は、第一王子アレクシス・ラグランジェ。

かつて彼女を断罪し、婚約を破棄した男だった。

「これは……試しているのね、私を」

手紙の文面は丁寧で、いかにも礼儀を重んじる王族らしい体裁だった。しかし、その裏に込められた意図は明白だった。

(公の場で私を“見せしめ”にするつもりか、それとも――)

エレノアは招待状を手にしたまま、静かに目を閉じた。

だが次の瞬間、彼女の瞳には確固たる決意が宿る。

「……行くわ。私の“答え”を返すために」

* * *

舞踏会の当日。

王宮は絢爛豪華な装飾に彩られ、貴族や外国の使節団が次々と集まっていた。

天井に吊るされた光晶燈は、白銀の光を放ち、広間全体を幻想的に照らしている。

エレノアは黒と深紅を基調としたドレスに身を包んでいた。

その装いは一切の過剰を排し、静かなる誇りと威厳を宿すものだった。

(かつては虚飾にまみれていた。けれど、今の私は違う。誇りは内にある)

「……噂以上ですね、グランツ嬢」

背後から低く響いた声。振り返れば、アレクシス王子が立っていた。

完璧な微笑みを湛え、貴族たちの注目を引く華やかさを持ちながら、その瞳にはわずかな敵意が滲んでいた。

「本日はご招待、感謝いたします、殿下」

「まさか来るとは思わなかったよ。……いや、来るとは思っていたが、“ここまで堂々と”現れるとは、予想外だった」

「殿下が見誤るのは、今に始まったことではありませんから」

静かに応酬するエレノア。その言葉に、場の空気がわずかに張りつめた。

* * *

舞踏会の中心、ダンスホールでは第一王子と令嬢ミリアが優雅に舞っていた。

彼らは“祝福されたカップル”として扱われていたが、今やその足元の虚構は揺らぎ始めている。

「……貴女がこの場に現れたことで、貴族たちの中にも波紋が広がっている」

エレノアの隣に並んだのは、第二王子ジュリアンだった。

彼はワイングラスを傾けながら、皮肉混じりに囁く。

「王子が二人。元婚約者と共闘者に挟まれて、これはなかなかの“舞台”ですね」

「舞踏会ですもの。舞台がなければ始まりません」

「なら、準備はいいか?」

「もちろん」

ジュリアンが合図を送ると、クラリッサとライネルが密かに配置されていた周辺に動きが走る。

この夜、エレノアが舞踏会に来た本当の理由――

それは、《腐敗貴族たちの密談の場》を押さえるためだった。

* * *

王宮の一室。普段は使われない応接間の扉の前に、ライネルが手をかざす。

「封印解除。中に五名……録音開始」

室内には、第一王子派の有力貴族たちがいた。彼らは今夜、この場で“グランツ家の除籍”と“エレノア排斥”の最終確認を行おうとしていたのだ。

「この録音が公に出れば、連中は完全に終わる」

「だが、それだけでは終わらないわ」

エレノアは手元の魔導板に指を滑らせ、録音内容を舞踏会の魔晶灯に接続する。

――『王家は操ればいい。問題はあの女だ。エレノア・グランツ。あれを消すだけで全てが元通りになる』

――『あの女は“創造核”だ。解剖してでも手に入れる価値がある』

その声が、舞踏会の会場中に響き渡った。

ざわめき。悲鳴。怒声。

だがその中心で、エレノアは冷静に立っていた。

「これが、王宮の“真実”です。私に向けられた断罪は、嫉妬でも傲慢でもなかった。“力”を恐れた者たちによるものだったのです」

アレクシス王子が前に出るが、もはや誰の信頼も得られていなかった。

「これ以上の言葉は不要でしょう。裁くのは、民と歴史です」

* * *

舞踏会は、事実上の“裁きの場”となった。

その夜を境に、王都では貴族間の力関係が大きく変動し始める。

エレノアは、王政の外から世界を揺るがす“火種”として、確かに刻まれた。

そして、革命の歩みはさらに加速する。


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