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ゲームの中で破綻した都市の市長になった  作者: ニグス


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9/15

市長は謝ってはいけません

A. 発電所の技術的事故であることを強調する


予想政治的リスク:低い


B. 調査結果が出るまで回答を保留する


予想政治的リスク:非常に低い


C. 市長の責任を認める


予想政治的リスク:高い


黒瀬悠真は三つの選択肢を見つめた。


今回は正解があまりにも簡単に見えた。


B。


調査中だと言えばいい。


間違ってもいない。


事故原因はまだ正確に判明していない。


誰に責任があるかも調査が必要だ。


政治的にも一番安全だ。


システムもそう言っていた。


予想政治的リスク:非常に低い。


悠真は小さく笑った。


(ゲームだったら悩みもしなかっただろうな)


一番損の少ない選択。


いつもそれを選んできた。


だが車窓の外、記者たちの向こうに市民の姿が見えた。


誰かがプラカードを掲げていた。


停電被害を補償しろ。


老朽発電所を放置した市庁舎は責任を取れ。


もう一方には、小さな商店主のような人が立っていた。


悠真は今朝会った食料品店の店主を思い出した。


私にとっては数字じゃないんです。


悠真の指が動いた。


C. 市長の責任を認める。


選択。


【選択が確定しました。】


予想政治的リスク:高い


「……ずいぶん親切なことで」


悠真がつぶやいた。


隣に座っていた結衣が尋ねた。


「決められましたか」


「はい」


「どうされるおつもりですか」


悠真は車のドアに手をかけた。


「自分が悪かったと言おうと思います」


結衣の手が止まった。


「市長」


「はい」


「今、それを言ってはいけません」


悠真が彼女を見た。


結衣の表情は、いつもよりずっと真剣だった。


「発電所爆発の原因はまだ調査されていません」


「知っています」


「それなのに市長の責任を先に認めれば、事故原因に関係なく市庁舎がすべての責任を認めたように受け取られかねません」


「それもわかっています」


「民事賠償も問題です」


悠真は少し笑った。


「結衣さん」


「はい」


「さっき食料品店で聞いたでしょう」


結衣は答えなかった。


「あの人たちは、実際に被害を受けたんです」


「だから調査をするなという話ではありません」


「事故原因が自分のせいだと言うつもりもありません」


悠真はしばらく言葉を止めた。


「ですが、都市がこの状態になった責任まで、ないふりをしたくないんです」


結衣が彼を見た。


「それは別の問題です」


「わかっています」


「市長は今、その二つを市民にきちんと分けて説明しなければなりません」


悠真が目を瞬かせた。


結衣が言葉を続けた。


「間違った謝り方をすれば、嘘よりも危険です」


「……」


悠真はしばらく考えた。


そしてうなずいた。


「では、隣にいてください」


「はい?」


「私が変なことを言ったら止めてください」


「記者会見の最中にですか」


「できるだけ自然に」


結衣がため息をついた。


その瞬間、悠真の視界の端に数字が現れた。


白石結衣


信頼 20 → 21


好感 3


警戒 76 → 75


悠真は一瞬その数字を見つめた。


(好感はそのままか)


結衣が目を細めた。


「また、どうかされましたか」


「何でもありません」


今度は本当にすぐ視線をそらした。


市庁舎の玄関が開くと、フラッシュが弾けた。


「市長!」


「発電所の爆発について、いつ報告を受けましたか」


「老朽施設の予算削減と今回の事故は関係がありますか」


「停電被害の規模を把握されていますか」


「辞任のご意向はありませんか」


辞任。


悠真の足が一瞬止まった。


市長になって二日も経っていない。


なのにもう、辞任しろと言われていた。


(本来の市長はどうやって耐えたんだ)


考えてみれば、本来の市長も自分だった。


正確には。


この都市では、そういうことになっているらしかった。


悠真は用意された壇上に立った。


数十台のカメラが自分を向いていた。


広報室の職員が一枚の紙を渡した。


悠真は最初の一文を読んだ。


本日発生した北部火力発電所の事故に関しまして、現在正確な事故原因を調査中であり——


悠真はそこまで読んで紙を下ろした。


広報室職員の顔がこわばった。


結衣も隣で彼を見つめた。


悠真がマイクの前に一歩近づいた。


「まず、お詫び申し上げます」


一瞬、記者席が静まった。


「本日の停電で不便を被り、被害を受けられた市民の皆様に、市長としてお詫び申し上げます」


カメラのシャッター音が一斉に鳴った。


悠真はしばらく息を整えた。


「ただし、発電所爆発の直接的な原因が何であるかについては、まだ調査が終わっていません」


結衣の表情がほんの少し和らいだ。


悠真は言葉を続けた。


「まだ確認されていない事故原因まで、自分の責任だとは申し上げません」


記者たちが素早くメモを取った。


「ですが」


悠真はしばらく言葉を止めた。


空港が頭に浮かんだ。


水道管。


発電所。


病院。


43個の赤い点。


「アルカディアが、たったひとつの事故でこれほど都市全体が揺らぐほど脆弱になっていたことには、市政の責任があります」


記者席が再びざわめいた。


「市長!」


誰かがすぐに手を挙げた。


「市政の責任をお認めになるということですか」


「はい」


悠真が答えた。


あまりに早い返答だったのか、記者のほうがかえって一瞬たじろいだ。


「老朽インフラに必要な投資が十分ではありませんでした」


「その責任が市長にあるという意味ですか」


悠真はしばらく沈黙した。


ここで。


「前任の市長がやったことです」


そう言えばどれほど楽だろう。


だがこの世界では、前任の市長も黒瀬悠真だった。


何より。


実際にその決定を下したのは、自分自身だった。


ゲームの中で。


「はい」


悠真が言った。


「最終的に承認したのは私ですから」


フラッシュが立て続けに弾けた。


結衣が悠真を見た。


表情からは何も読み取れなかった。


次の記者が尋ねた。


「それでは、国際空港建設のためにインフラ維持管理予算を削減したことが、誤った判断だったとお認めになりますか」


悠真はすぐには答えなかった。


国際空港。


あれが本当に失敗した施設なのか、まだ判断できるだけの情報は十分ではなかった。


だがひとつだけ、はっきりしていることがあった。


「空港を建設したこと自体が間違いだったと、今この場で断定はしません」


悠真が言った。


「ですが、空港建設に必要な予算のために、維持管理費まで削ったのだとしたら」


一瞬、息を吸い込んだ。


「それは間違った判断でした」


記者たちの手が忙しく動いた。


また質問が飛んだ。


「被害を受けた市民に補償されますか」


悠真は止まった。


この質問が一番難しかった。


補償。


都市財政。


0 C。


どれだけ責任を認めても。


金がない。


悠真は答えた。


「まず被害規模を正確に確認します」


「補償するかどうかを伺っています」


「市が正当に責任を負うべき被害だと確認されれば、目を背けません」


「全額補償ですか」


「そこまでは今、お約束できません」


「お金がないからですか」


まさに痛いところを突かれた。


悠真はしばらく記者を見つめた。


嘘をつく理由がなかった。


「はい」


周囲がざわついた。


「現在のアルカディアの財政状況が非常に厳しいのも事実です」


別の記者が声を上げた。


「それでは、責任は認めながら補償する金はないということですか」


鋭い質問だった。


悠真はマイクを強く握った。


「そう聞こえかねないことも、わかっています」


「では謝罪だけで済ませるおつもりですか」


悠真はしばらく考えた。


そして言った。


「いいえ」


記者たちの視線が集中した。


「方法を探します」


「どんな方法ですか」


「まだわかりません」


あちこちでざわめきが大きくなった。


悠真は言葉を続けた。


「知らないことを知っているふりをして、また誤った判断を下したくはありません」


今度は記者たちが少し静かになった。


「ですが、ひとつだけお約束します」


悠真はカメラを見つめた。


「今回の事故が終わったとは考えません」


「……」


「電気が戻ったからといって、被害まで消えたわけではありませんから」


短い沈黙。


悠真が頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」


記者会見が終わるとすぐ、広報室長が駆け寄ってきた。


「市長」


表情が深刻だった。


「はい」


「予定していた内容と全然違いました」


「申し訳ありません」


「私に謝る問題ではありません」


広報室長が額を押さえた。


「明日の新聞の見出しが、もう目に浮かびます」


悠真にも大体想像がついた。


市長、市政の責任を認める。


もう少し刺激的に書けば。


黒瀬悠真市長「自分の判断が間違っていた」。


結衣がタブレットを見ながら言った。


「もう記事が出始めています」


「もうですか」


「はい」


悠真は画面を受け取った。


見出しが次々と上がってきていた。


アルカディア市長、停電事態の責任を認める


老朽施設への投資不足を認める


空港建設のためインフラを犠牲にしたのか


市長「補償から目を背けない」


悠真の顔が微妙にこわばった。


「自分で言ったことではあるけど」


結衣が言った。


「だから、なお問題なんです」


「……」


ネットの反応も次々と上がってきた。


今さら謝って済むのか?


それでも責任がないと逃げるよりはマシ。


補償は何でするつもりだ?市には金もないって言ってたのに。


空港を建てる金で水道管でも替えろ。


辞任しろ。


初めて市長がまともなことを言った気がする。


反応は割れていた。


悠真の目の前にシステムが現れた。


市民反応分析


市長責任の容認


肯定:31%


中立:22%


否定:47%


悠真が虚しく笑った。


「やっぱり文句のほうが多いか」


結衣が尋ねた。


「何とおっしゃいましたか」


「何でもありません」


少し後。


新しいメッセージが浮かんだ。


市民満足度


19% → 18%


悠真の口が開いた。


「下がった?」


「何がですか」


「……何でもありません」


謝罪した。


なのに満足度が下がった。


ゲームだったら理解できない結果だった。


悠真はシステムを睨んだ。


(悪かったと認めたのに、なぜ下がるんだ)


そのとき新しい項目が現れた。


市民信頼


上昇


悠真の目が止まった。


満足度は下がった。


なのに信頼は上がった。


「……別物だったんだな」


悠真がつぶやいた。


「はい?」


「満足するのと、信じるのは」


結衣が彼を見た。


悠真は画面を見つめていた。


市民たちは今、自分にもっと怒っている。


責任を認めたから。


漠然としていた怒りの対象が、はっきりした。


だが。


少なくとも、隠さなかったと思う人も出てきたということだ。


悠真は少しずつ理解し始めていた。


人の心は。


ひとつの数字では説明できない。


午後になると、その選択の代償がやってきた。


まず市議会だった。


緊急出席要求。


次は市民団体。


被害調査委員会設置の要求。


そして企業。


停電損失に対する正式な賠償請求。


結衣が次々と書類を持ってきた。


一枚。


二枚。


三枚。


悠真の机の上に、また書類が積まれた。


「これは何ですか」


「東部商人協会の共同被害届です」


次。


「これは?」


「産業団地入居企業18社の損失賠償請求です」


次。


「これは……」


「停電中の交通事故被害者たちです」


悠真の表情がだんだんこわばった。


「どれくらい来ていますか」


「現在受理された分だけ計算しても……」


結衣がしばらく言葉を止めた。


「約4億7000万クレジットです」


悠真は言葉がなかった。


4億7000万。


都市財政。


「これからもっと来ますよね」


「はい」


「どれくらい」


「わかりません」


悠真は椅子の背にもたれた。


その言葉にもそろそろ慣れていいはずなのに。


やはり嫌だった。


その瞬間、扉が開いた。


財政担当者が入ってきた。


顔色が良くなかった。


「市長」


悠真が彼を見た。


「まさか、また問題ですか」


財政担当者は答える代わりに、書類を机の上に置いた。


「これは被害補償の件ではありません」


「では何ですか」


「今週支払い予定の資金です」


悠真が最初のページをめくった。


公務員給与。


消防人員手当。


都市鉄道運営費。


病院支援金。


発電所緊急復旧費用。


数字をすべて合計すると。


悠真の表情がこわばった。


「うちの口座にいくらありますか」


財政担当者が答えた。


「即時使用可能な資金はほとんどありません」


「ほとんどというのはいくらですか」


一瞬の沈黙。


「実質ゼロです」


悠真は天井を見上げた。


昨日は電気がなかった。


今日は金がなかった。


財政担当者が最後に言った。


「この状態が続けば」


悠真が彼を見た。


「来週の給与から支払いが難しくなります」


悠真の目の前にシステムが現れた。


【WARNING】


都市流動性危機


予想される最初の支払不能まで


6日14時間


悠真はしばらくその数字を見つめた。


発電所を救った。


病院も救った。


水道も救った。


だが今度は。


都市全体の給料日が近づいていた。

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