↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの中で破綻した都市の市長になった  作者: ニグス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/15

受け取るべき金

アルカディア・セントラル開発


滞納額


428,000,000 C


【注意】


該当企業情報に


アクセス制限記録が存在します。


黒瀬悠真は画面をもう一度押した。


【アクセス権限を確認します】


現在の権限:市長


閲覧可能


「開けるんだな」


悠真が独り言をつぶやいた。


新しい情報が現れた。


アクセス制限履歴


制限対象:滞納管理詳細記録


制限理由:徴収猶予


登録機関:アルカディア市財政局


承認:市長室


悠真の手が止まった。


市長室。


読み直しても同じだった。


「……俺が?」


当然、答えてくれる人はいなかった。


悠真は書類を漁った。


アルカディア・セントラル開発。


名前からして見覚えがあった。


どこかで見た気がした。


数枚めくっていた悠真の手が止まった。


主要事業


アルカディア国際空港背後商業地区開発


空港アクセス道路建設参加


北部新都心複合開発


「あ」


思い出した。


ゲームで空港を建てた後だった。


空港周辺の商業需要が思ったほど伸びず、悠真は背後商業地区開発事業を追加で指定した。


新商業区域。


ホテル。


物流施設。


ショッピングセンター。


あの時はただ区域を指定してボタンを何回か押しただけだった。


その後どの会社が動いたかは知らなかった。


悠真はすぐに結衣にメッセージを送った。


明日出勤したらセントラル開発関連の資料からお願いします。


しばらくして返信が来た。


はい。


悠真は画面をしばらく見つめた。


(……短いな)


夜遅くに連絡したのだから当然の反応だった。


なのに、つい好感度が気になった。


悠真は人物情報を開こうとして手を止めた。


「こんな時間に何を見てるんだ」


ウィンドウを閉じた。


3秒後。


また開いた。


白石結衣


信頼:23


好感:3


警戒:73


変化なし。


悠真は静かにウィンドウを閉じた。


「寝よう」


*


翌朝。


悠真が市長室に入ると、机の上に厚いファイルが置かれていた。


結衣が言った。


「ご依頼のセントラル開発の資料です」


「もうですか」


「財政局に保管されていました」


悠真が最初のページを開いた。


「滞納額4億2,800万」


「そのとおりです」


「これ、なぜ受け取らなかったんですか」


結衣はすぐには答えなかった。


「財政局長がご説明したほうが正確だと思います」


ちょうどドアが開いた。


財政局長が入ってきた。


悠真が書類を掲げて見せた。


「この会社、ご存じですか」


「はい」


「うちに4億以上払ってません」


「知っています」


「なのに徴収が猶予されてる」


「そのとおりです」


悠真は少しの間、彼を見つめた。


「なぜですか」


財政局長が椅子を引いて座った。


「正確に言うと、単純な滞納ではありません」


「金を払ってないんですよね」


「市では滞納として扱っていますが、セントラル開発は債務そのものを争っています」


悠真の表情が硬くなった。


「どういうことですか」


財政局長が一枚の書類を取り出した。


アルカディア国際空港背後地開発協約


「空港背後商業地区造成の際、セントラル開発が基盤施設の一部を先行投資しました」


「いくらですか」


「会社側の主張では約11億クレジットです」


悠真は目をしばたたかせた。


「ちょっと待ってください」


都市が受け取るべき金。


4億2,800万。


会社が主張する金。


11億。


「むしろこっちが払う金があるってことですか」


「会社はそう主張しています」


「実際は?」


「市が認めている金額は3億1,000万です」


「なぜそんなに差があるんですか」


「工事費の算定方式と、追加工事の認定範囲が違います」


悠真は額に手を当てた。


昨夜は。


金を見つけられそうだと思った。


なのに蓋を開けてみれば、また金の問題だった。


「それで徴収しなかったんですか」


「会社が相殺処理を要求してきました」


「相殺?」


財政局長が説明した。


「お互いにやり取りすべき金があるなら、差額だけ精算しようというものです」


悠真は計算した。


会社が市に払うべき金。


4億2,800万。


市が認めた会社の債権。


3億1,000万。


差額。


「それなら1億1,800万は受け取れるじゃないですか」


「原則的にはそうです」


「じゃあ受け取りましょう」


財政局長は答えなかった。


悠真の表情が再び硬くなった。


「また何かあるんですか」


「セントラル開発は、市が認めていない残りの工事費まですべて認めてもらえれば相殺に応じる、という立場です」


「じゃあこっちに11億を認めろってことですか」


「はい」


「意味がわからないですね」


「それで交渉が中断していました」


悠真が書類を置いた。


「いつからですか」


「約5か月前です」


空港を建てて。


財政が崩れ始めた時期とほぼ重なっていた。


「じゃあ市長室が徴収猶予を承認したのは?」


財政局長がしばらく沈黙した。


そして書類を一枚、前に押し出した。


悠真の目が下へ向かった。


徴収猶予承認


理由:


空港背後開発事業の継続および投資安定性の確保


承認機関:


市長室


悠真の口が固まった。


また自分だった。


ゲーム内の記憶がよみがえった。


空港利用客が思ったほど増えなかった。


商業地区開発も停滞していた。


悠真は企業の離脱を防ごうと税金を下げ。


開発支援政策を次々と追加した。


そのボタンの一つが。


おそらくこれだったようだ。


「会社が去るのが怖くて受け取らなかったのか」


財政局長が言った。


「当時はセントラル開発が背後地開発を中断する可能性がありました」


「それで滞納も放置したと」


「徴収を強行すれば事業自体が止まるという判断でした」


悠真が苦く笑った。


「未来のために今日受け取れる金を諦めた、と」


誰も答えなかった。


あまりにも聞き覚えのある話だった。


*


午前11時。


セントラル開発の関係者が市庁に入ってきた。


悠真は会社代表が直接来ると思っていた。


違った。


50代前半に見える男性が名刺を差し出した。


「セントラル開発財務担当副社長、木村健一です」


悠真は名刺を受け取った。


「黒瀬悠真です」


木村副社長がごくかすかに笑った。


「存じております、市長」


両者が席についた。


財政局長と結衣も同席した。


悠真が先に切り出した。


「回りくどい言い方はしません」


「私もそのほうが好みです」


「滞納額4億2,800万クレジット」


悠真が書類を押し出した。


「お支払いいただきます」


木村副社長は驚かなかった。


むしろ準備していたかのように自分の書類を取り出した。


「その前に、市が支払っていない工事費11億2,000万クレジットから精算していただきましょう」


「市は3億1,000万しか認めていません」


「それは市の立場でしょう」


「そちらも同じではないですか」


木村副社長の口元にかすかな笑みが浮かんだ。


「市長が少し変わられたと聞いていましたが」


悠真はその言葉を無視した。


「法的に認められる金額から話しましょう」


「結構です」


木村副社長が一枚の書類を取り出した。


「では私どもも必要な法的手続きを検討させていただきます」


財政局長の表情がわずかに硬くなった。


悠真が聞いた。


「訴訟するということですか」


「必要であれば」


「その間、滞納額はずっと払わないと?」


「滞納と呼ぶこと自体、私どもは同意しておりません」


悠真は木村副社長を見つめた。


話の通じない相手ではなかった。


むしろ通じすぎた。


だからこそ厄介だった。


会社にも会社なりの計算があった。


悠真が聞いた。


「では何を望んでいるんですか」


「既存の交渉をまとめることです」


「11億全部を認めろと?」


「工事費を正当に認めてほしいということです」


「それはできません」


「でしたら私どもも4億2,800万をすぐに支払う理由がありません」


悠真は少し考えた。


ゲームだったら。


企業をクリックする。


税金未納。


強制徴収。


終わり。


だが目の前の会社には弁護士もいて。


契約書もあって。


交渉カードもあった。


悠真がふと聞いた。


「セントラル開発が今、背後商業地区で稼いでいる金額はいくらですか」


木村副社長の目つきが少し変わった。


「急にそれをなぜ聞くんですか」


「気になって」


「企業内部の情報です」


「市有地を使っていますよね」


一瞬の沈黙。


悠真は財政局長を見た。


「そうですよね」


財政局長が資料を確認した。


「一部の敷地は長期賃貸の形態です」


悠真が再び木村副社長に聞いた。


「賃料はきちんと払っていますか」


「もちろんです」


「そうですか」


悠真は指で机を叩いた。


そして言った。


「わかりました。では一つずつ切り分けて見ましょう」


「どういう意味ですか」


「工事費は工事費として」


悠真が一枚の書類を取った。


「滞納額は滞納額として」


もう一枚。


「市有地の賃貸契約は賃貸契約として」


木村副社長の笑みが少し消えた。


「既存の協約はそう単純ではありません」


「私ももう知っています」


悠真が言った。


「都市というのはそんなに単純じゃないんですよ」


一瞬、静寂が流れた。


「ですから、全部もう一度見させてもらいます」


木村副社長が悠真を見た。


「市長」


「はい」


「そのやり方をすると、背後地開発事業全体が止まる可能性があります」


その言葉だった。


5か月前。


市が引き下がった理由。


開発が止まる。


企業が去る。


投資が途絶える。


悠真は少し考えた。


そして聞いた。


「止まったら、より損をするのはどちらですか」


木村副社長が初めて答えなかった。


悠真はその小さな沈黙を見逃さなかった。


「市だけが損をするわけじゃないですよね」


「……」


「御社もすでにかなり金を投じているじゃないですか」


木村副社長の表情が硬くなった。


悠真は少し確信を持った。


セントラル開発も簡単には去れない。


だとしたら。


市が一方的に弱い立場ではない。


悠真が言った。


「11億全部を認めろという要求は受け入れられません」


木村副社長が冷たく言った。


「では今日の交渉も無意味ですね」


「いえ」


悠真が首を振った。


「1億1,800万」


木村副社長の動きが止まった。


「市が認めた工事費3億1,000万を、滞納額から優先的に相殺します」


財政局長が悠真を見た。


「市長」


悠真は続けた。


「残りの1億1,800万を納付してください」


木村副社長が笑った。


「なぜ私どもがそうする必要があるんですか」


「しなくても構いません」


「……?」


「それなら徴収猶予を解除します」


会議室の空気が変わった。


木村副社長の顔から笑みが消えた。


悠真が言った。


「そして市が認めていない残りの工事費は、別途交渉しましょう」


「強制徴収をするということですか」


「必要であれば」


「法的に対応させていただきます」


「どうぞ」


悠真自身も驚くほど、言葉が簡単に出てきた。


ただ。


内心はまったく穏やかではなかった。


(これでいいのか?)


だが今回は一つだけはっきりしていた。


受け取れるはずの金すら受け取らずに。


企業が去るのを恐れて先延ばしにし続けるやり方では。


都市は生き返らない。


木村副社長がゆっくりと言った。


「市長は以前の合意を覆されるんですね」


悠真の手がほんの一瞬止まった。


以前。


またその言葉。


「はい」


悠真が答えた。


「間違った合意だったのなら」


*


交渉はさらに2時間続いた。


1億1,800万全額即時納付。


会社は拒否した。


9,000万。


市は拒否した。


1億。


再交渉。


そしてついに。


暫定合意


セントラル開発 即時納付


105,000,000 C


残余滞納額および追加工事費:


別途協議


徴収猶予:


30日間条件付き延長


悠真は合意書を見つめた。


期待していた金。


4億2,800万。


実際に受け取れることになった金。


1億500万。


4分の1にも満たなかった。


なのに。


数日前の自分だったら、きっとがっかりしていただろう。


今は違った。


実際に入ってくる1億が。


帳簿に書かれた4億よりも重要だった。


木村副社長が席を立った。


「送金は本日中に処理いたします」


悠真も立ち上がった。


「確認いたします」


木村副社長が出ていこうとして立ち止まった。


「市長」


「はい」


「こういうふうに一つずつ手をつけていくと」


一瞬の沈黙。


「市長を快く思わない人間が、かなり増えるでしょうね」


悠真は少し考えてから言った。


「今でも好かれてる人はあまりいない気がしますが」


木村副社長が初めて少し笑った。


「それはそうですね」


ドアが閉まった。


*


午後4時17分。


財政局から連絡が来た。


「入金確認できました」


悠真の目の前にシステムが現れた。


利用可能現金


既存の利用可能現金


48,000,000 C


セントラル開発納付金


+105,000,000 C


資産整理見込み確保分


+86,000,000 C


見込み利用可能財源


239,000,000 C


給与不足額


634,000,000 C


↓


529,000,000 C


悠真は数字を見つめた。


まだ5億2,900万。


遠かった。


だが。


初めて。


ない金を減らすのではなく。


実際に金を持ってきた。


悠真の口角が少し上がった。


そのとき結衣が聞いた。


「機嫌がよさそうですね」


「1億稼ぎました」


「もともと受け取るはずだったお金です」


悠真の表情が少し冷めた。


「そう言われると、テンション下がるんですけど」


「事実ですから」


悠真は結衣を見た。


その瞬間、システムが現れた。


白石結衣


信頼 23 → 25


好感 3 → 4


警戒 73 → 71


悠真の目が見開かれた。


(好感、上がった)


今回は理由もわかる気がした。


悠真はつい口角が上がった。


結衣の目が細くなった。


「なぜ笑ってるんですか」


「いえ」


好感 4 → 3


悠真の笑みがすぐに消えた。


(また……)


一体何が問題なのかわからなかった。


だが。


今回は元には戻らなかった。


悠真は妙に納得がいかなかった。


*


夕方。


財政局が滞納額全体を再分類した結果を持ってきた。


滞納額総計。


19億4,000万。


そのうち。


回収可能性が高い金額。


約3億6,000万。


訴訟または係争中。


約5億1,000万。


廃業・破産等で回収困難。


残り。


悠真はしばらく数字を見ていた。


「3億6,000万を全部4日以内に受け取れますか」


財政局長は首を振った。


「難しいです」


「どれくらいなら可能ですか」


「うまくいって1億から1億5,000万ほど」


悠真は計算した。


それでも足りない。


まだ。


はるかに。


そのとき電話が鳴った。


結衣が出た。


「はい」


しばらく聞いていた彼女の表情が硬くなった。


「いつからですか」


悠真が彼女を見た。


「……わかりました」


電話が切れた。


「今度は何ですか」


結衣が言った。


「都市鉄道公社です」


悠真の表情が硬くなった。


「労組がストライキを決定したんですか」


「いいえ」


悠真が少し安堵しかけた瞬間。


結衣が言葉を続けた。


「運営資金が不足していて」


「……」


「3日後から列車の運行を減らさないといけないそうです」


悠真の目の前に新しい警告が現れた。


都市鉄道運営危機


現在の正常運行率


100パーセント


3日後の予想運行率


62パーセント


悠真の表情が硬くなった。


労働者に払う金だけがないのではなかった。


列車を動かす金も。


なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。