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ゲームの中で破綻した都市の市長になった  作者: ニグス


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12/15

市庁を売りましょうか?

アルカディア市保有資産現況


財政局長が置いた資料は、思ったより分厚かった。


黒瀬悠真は最初のページをめくった。


土地。


建物。


駐車場。


公共施設。


車両。


倉庫。


各種出資持分。


数字だけ見れば、なかなか立派だった。


悠真の目が、一番下の合計で止まった。


アルカディア市保有資産


帳簿価額


164,800,000,000 C


悠真は目を見開いた。


「1,648億?」


「はい」


「うちの市、お金あるじゃないですか」


財政局長の表情は変わらなかった。


「資産が多いということです」


「それって同じことじゃないんですか」


「まったく違います」


悠真は再び数字を見た。


必要な金額は7億2,000万クレジット。


保有資産は1,648億を超えている。


数字だけ見れば簡単だった。


0.5パーセントも売る必要がなかった。


「じゃあ10億のを一つ売りましょう」


財政局長が聞いた。


「何を売られますか」


「それを見るためにこの資料を持ってきたんじゃないんですか」


「そのとおりです」


悠真がページをめくった。


一番目。


アルカディア市庁本館


帳簿価額。


31億クレジット。


悠真の手が止まった。


「市庁が31億なんですね」


結衣が横から資料をのぞき込んだ。


「そうです」


悠真が財政局長を見た。


「これ、売ったらダメなんですか」


会議室が静まり返った。


財政局長が聞いた。


「市庁のことですか」


「はい」


「市長が今いらっしゃるこの建物をですか」


悠真は周りを見回した。


「別の建物に移ればいいじゃないですか」


結衣が言った。


「市庁を買いたいという人がいなければなりません」


「安く出せば——」


「市長」


財政局長が言葉をさえぎった。


「31億は帳簿価格です」


「実際はもっと安いんですか」


「それも問題ですが」


彼が指で机を叩いた。


「今日売ると決めて、明日お金が入る物件ではありません」


「どれくらいかかるんですか」


「売却手続きが正常に進んでも、数か月です」


悠真は口をつぐんだ。


給与支払日まで。


あと5日ほど。


数か月かかる資産では、まったく役に立たない。


「競売のようなものをすれば早くなりませんか」


「二束三文で売れる可能性が高いです」


「今は二束三文でも——」


財政局長が首を振った。


「そうやって始めると、都市が持つ良い資産から全部むしり取られていきます」


悠真の言葉が止まった。


財政局長が資料を広げた。


「破産の危機に陥った都市が、投げ売り物件を出した」


彼が言った。


「買う側はどう考えるでしょうか」


悠真が苦く答えた。


「もっと値切ろうとするでしょうね」


「そのとおりです」


10億のものを8億。


8億を6億。


どうせ売らなければ潰れると相手が知っていたら。


値段を上げてやる理由がない。


悠真は最初のページを閉じた。


「市庁は保留」


「賢明なご判断です」


「最初からダメだと言ってくれればよかったのに」


「ご自分でご覧になったほうがいいと思いました」


悠真は財政局長を一度見た。


不思議と結衣に似ているところがあった。


次のページ。


西部第2公営駐車場


評価額。


8億4,000万。


悠真の目が輝いた。


「これは?」


財政局長が言った。


「可能ではあります」


ついに。


「売れば給与問題は解決しますね」


「代わりに年間約9,000万クレジットの駐車収入がなくなります」


悠真の表情が硬くなった。


「毎年ですか」


「はい」


「……次」


都心商業地区公共商店街


評価額。


11億。


「これは?」


「賃貸収益があります」


「いくらぐらいですか」


「年間1億3,000万ほどです」


「次」


南部物流倉庫団地敷地


評価額。


17億。


「これは?」


「港湾拡張計画に必要な敷地です」


「売ったら?」


「後で買い戻すとなると、今よりずっと高くなる可能性が高いです」


悠真がページをめくった。


東部公共賃貸住宅敷地


「これはダメです」


今度は自分から先にめくった。


財政局長が一瞬悠真を見た。


次。


体育施設。


公園。


消防訓練場。


上水道施設。


ごみ処理施設。


バス車庫。


悠真の手がだんだん遅くなった。


売れるものは多かった。


だが。


なんでも売っていいわけではなかった。


今、現金を作るために売った結果。


来年もっと大きな金額が必要になるかもしれない。


(ゲームでもこういう失敗、何度もしたな)


金が足りないと、将来の収益を放棄して即座に現金を作る。


そして数か月後。


収入が足りなくて、もっと貧しくなる。


アルカディアはすでにそうなっていた。


「お金を作るのって、なんでこんなに難しいんですか」


結衣が言った。


「簡単に作れていたら、今の状況にまでなっていなかったと思います」


「それもそうですね」


悠真は再び資料をめくった。


そして。


手が止まった。


北部旧市街第4公共庁舎


現在の使用率:8パーセント


帳簿価額:920,000,000 C


年間維持費:71,000,000 C


「これは何ですか」


財政局長が資料を確認した。


「昔の北部行政庁舎です」


「使用率8パーセント?」


「ほとんどの部署が新庁舎に移転しました」


「じゃあ今は?」


「文書保管室と一部の支援部署が使用中です」


「年間維持費が7,100万」


「そのとおりです」


悠真が言った。


「これは売ってもいいんじゃないですか」


財政局長は今度はすぐには否定しなかった。


「検討はできます」


悠真は背筋を伸ばした。


初めてだった。


「いくらぐらいになりますか」


「帳簿価格そのままは難しいです」


「7億」


「それも楽観的です」


「6億」


「買い手がすぐに現れればの話です」


悠真は計算した。


給与の不足額。


7億2,000万。


6億が入れば、ほとんど解決できる。


「じゃあこれを売りましょう」


財政局長が言った。


「問題が一つあります」


悠真の表情が硬くなった。


「またですか」


「公共庁舎用地は用途が制限されています」


「……」


「民間にそのまま売却するには、用途変更の手続きが必要です」


「数か月?」


「最低でも数週間は見てください」


悠真は椅子に背を沈めた。


「無理じゃないか」


給与支払日まであと5日。


どんなに高い資産があっても。


5日以内に現金にすることはできない。


悠真が天井を見上げた。


「じゃあそもそも、なぜ見せたんですか」


財政局長が言った。


「全部ダメというわけではないからです」


悠真の視線が戻った。


「どういう意味ですか」


彼が別の資料を取り出した。


「建物を売るには時間がかかります」


「はい」


「ですが」


一枚めくった。


「使用権を譲渡するのは、少し違います」


悠真が身を起こした。


「使用権?」


「民間が一定期間、施設を運営あるいは使用する条件で、前払金を受け取る方式です」


「建物はうちのものとして残るんですか」


「はい」


「お金は今もらえて?」


「契約の構造によっては可能です」


悠真の目つきが変わった。


ゲームでは見たことのない方式だった。


「じゃあそういうものだけ別に出してください」


「すでに準備してあります」


財政局長が資料を差し出した。


悠真はその資料と財政局長を交互に見た。


「こういう方法まで前もって検討しておられたんですか」


「資産売却の話が出れば必要になると思いました」


「準備が早いですね」


財政局長が淡々と言った。


「財政局の仕事ですから」


悠真は小さくうなずいた。


候補は5つだった。


公営駐車場。


遊休庁舎の一部。


広告施設運営権。


コンベンションセンター一部商業スペース。


都市鉄道駅構内の商業施設運営権。


悠真の手が最後で止まった。


「都市鉄道」


「はい」


「今、労組と交渉中なのに、これまで渡したら反発されませんか」


「鉄道自体を売るわけではありません」


財政局長が説明した。


「駅構内の広告板、コンビニエンス施設、一部商業スペースに対する運営権です」


「現在の収入は?」


「直接運営して年間約8,000万クレジットです」


「運営権を渡したら?」


「見込まれる前払金は3億から4億の間です」


悠真の目が大きくなった。


ついに大きな数字が出た。


「じゃあこれをやればいいじゃないですか」


「代わりに5年間、運営収益のほとんどを民間に譲る必要があります」


また未来だった。


今4億をもらって。


5年間受け取るはずだったお金を放棄する。


悠真は計算した。


年8,000万。


5年で4億。


単純計算ではほぼ同じだった。


だが民間企業のほうが運営がうまければ、もっと稼げるかもしれない。


逆に状況次第では、現在より収益が落ちる可能性もあった。


「前払金4億なら、必ずしも損とは言えない気がしますが」


財政局長が言った。


「現在の収入だけを見ればそうです」


「今後利用客が増えたら」


「私たちが手放した収益も、それだけ大きくなります」


悠真は口をつぐんだ。


正解はなかった。


現在を生かすために未来を売る。


空港を建てたときにやったことと似ていた。


その事実が悠真を躊躇させた。


「市長?」


結衣が呼んだ。


悠真はしばらく資料を見つめていた。


そして言った。


「これは最後に使いましょう」


財政局長が顔を上げた。


「なぜですか」


「今急いでいるからといって、未来の収入から全部売ってしまったら」


悠真が苦く笑った。


「自分が昔やったことと同じじゃないですか」


財政局長は何も言わなかった。


だが結衣は、悠真をしばらく見つめていた。


システムが現れた。


白石結衣


信頼 21 → 23


好感 3


警戒 75 → 73


今回は好感度ではなかった。


悠真は数字を見て、うなずいた。


(信頼)


なぜ上がったのか。


今回は少しわかる気がした。


結局、最初に整理することになったのは小さなものだった。


使っていない公用車両。


廃倉庫の遊休設備。


不要な事務備品。


中断されたイベント契約。


遊休庁舎の賃貸可能なスペース。


見込まれる確保資金。


約86,000,000 C


悠真が数字を見つめた。


「8,600万」


多く見えた。


だが。


給与の不足額。


7億2,000万。


まだまだだった。


見込み給与不足額


720,000,000 C


↓


634,000,000 C


6億3,400万。


悠真がため息をついた。


一日中都市の持ち物を漁ったのに。


たった12パーセントほどしか減らせなかった。


「それでも減ったことは減りましたね」


結衣が言った。


「はい」


「表情はまったくそう見えませんが」


「6億残っています」


「もとは7億を超えていました」


悠真が彼女を見た。


「前向きですね」


「市長よりは」


悠真が思わず笑った。


今回は好感度を確認しなかった。


正確には。


確認しかけて、こらえた。


3秒ほど。


結局見た。


好感:3


(変わってないな)


悠真は妙に少し残念だった。


その日の夕方。


ほとんどの職員が退勤した後も、悠真は市長室に残っていた。


保有資産現況。


給与支払表。


歳入見込み。


債務現況。


数十枚の資料が机の上に広げられていた。


減らせるものは減らした。


売れるものは探した。


それでも足りなかった。


6億3,400万。


悠真は電卓を置いた。


「これは節約で解決する問題じゃないな」


その瞬間。


一つの考えがよぎった。


金を減らすことばかり考えていた。


だが。


ゲームで都市財政を立て直す方法は二つあった。


支出を減らすか。


収入を増やすか。


悠真は歳入資料を再び広げた。


税金。


使用料。


賃貸料。


企業負担金。


交通収入。


各種事業収入。


だがほとんどは来月か四半期単位だった。


5日以内には入ってこない。


悠真がページを素早くめくっていて、手を止めた。


一つの項目がおかしかった。


滞納歳入


総額


1,940,000,000 C


悠真の目が大きくなった。


「19億?」


もう一度読んだ。


見間違いではなかった。


都市が受け取るべきなのに。


まだ受け取っていない金。


19億4,000万クレジット。


悠真はすぐに結衣に電話をかけた。


数回の呼び出し音の後。


——市長?


「結衣さん」


——はい。


「もう退勤されましたよね」


一瞬の沈黙。


——……はい。


「すみません」


——どうされましたか。


悠真は資料を見つめた。


「うちが受け取るべきお金が、かなりあります」


電話の向こうが静かになった。


——いくらですか。


悠真は数字をもう一度確認した。


「滞納額が19億です」


しばらくして。


結衣が言った。


——市長。


「はい?」


——滞納額なら、その中のかなりの部分は回収困難な金額だと思います。


悠真の期待が少ししぼんだ。


「……そうなんですか」


——倒産した業者や係争中の案件もあるはずですから。明日確認しましょう。


「わかりました」


電話を切った。


やはり。


そう簡単に解決するはずがなかった。


それでも。


今回は本当にお金を見つけられそうな気がした。


全部でなくても。


回収できる金額が1億でもあれば。


それもお金だった。


悠真は滞納歳入リストを開いた。


数百の名前が画面を埋め尽くした。


個人。


商店。


企業。


そして。


その中でも、ひときわ大きな数字が一つ目に入った。


滞納額上位


アルカディア・セントラル開発


滞納額


428,000,000 C


悠真の手が止まった。


一つの会社が。


4億2,800万。


現在の給与不足額の大部分だった。


「……ここ、何をしてる会社なんだ?」


会社情報を開いた。


システムが一瞬止まった。


そして。


初めて見る表示が現れた。


【注意】


該当企業情報に


アクセス制限記録が存在します。


悠真の表情が硬くなった。


「アクセス制限?」


都市が受け取るべき金を払っていない会社。


それなのに。


誰かがその会社の情報に制限をかけていた。


悠真は画面から目を離さなかった。


今度こそ本当に。


お金を見つけられそうだった。


ただ。


そのお金を受け取ることは。


思ったより簡単ではなさそうだった。

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