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変化球

「え? 買いましたよ」


翌日、AZITOに立ち寄った僕が、金ぴか鎧なんて誰も買いませんよね? と同意を求めたとき、榊さんから返ってきた答えがこれだった。


カウンターに榊さんと並んで座る僕。カウンター内では、オロヤクを作り終えた東野さんがシェーカーを洗っている。


「いいなぁ。私も欲しかったな」


東野さんまで、どうかしてるよ……。


見た目が派手なだけで、防御力はゼロ。それなのに一万円もする鎧を欲しがる気持ちが、僕にはさっぱり分からない。


「防御力ゼロですよ。使えない装備にお金をかけるって、お金持ちじゃないとムリですよ」


榊さんが涼しい顔で返す。


「むしろ、十万円と言ってくれた方が、皆さん躊躇してくれるんですけどね。私は買いますけど」


あまりの言葉に、何も返せなくなってしまった……。


「じゅうまんえん? それはダメよ……もったいない」


驚いた東野さんが、僕の味方についた。


「お二人とも、まだ価値に気付きませんか? 【大合戦】を見て、どう感じましたか?」


「あんな風に僕も映れるかなって……」


僕はしぶしぶ返答した。


「今後、五百人、千人と人数が増えると、運営が伝えていましたよね? そんな中、あなた方はどうやって自分のキャラクターを見つけますか?」


あ……。


東野さんも呆気にとられていた。


「放送後の一時間のうちに、そこまで考えたんですか?」


感心すればいいのか、ただのバカだと思えばいいのか……。僕は何とも言えない顔になった。


確かに、【大合戦】で映えるのなら……今となっては僕も欲しい。一万円は無理だけど……。


「今では、掲示板に後悔の叫びがあふれていますよ……」


放送終了後から深夜にかけて、『倭国争乱』の掲示板では、買えなかったプレイヤーの怒りがすでに運営へと向かっていた。


「お二人は、今回の【大合戦】、勝敗を分けた原因は何だと思いますか?」


東野さんが即答した。


「準備の差ね。何人かは、邑の開発途中で突然戦争に駆り出されたようだったわ」


「装備が軽かったから、真っ先に相手の前線にぶつかってたもんね。ちょっと笑っちゃいました」


僕も東野さんの言葉に同意した。


「今回の【大合戦】の勝敗には、『邑長の差』が大きく影響しています。店長なら、全員にしっかりと準備をさせるでしょう」


榊さんが話を続ける。


「日頃から声かけができていれば、準備させるのも簡単です」


そうか……テスターに当選したのなら、邑人に告知しないといけないよね。


「【合戦】に出ているメンバーが、ほぼ固定されているのでしょう。傭兵になって、他の邑を手伝うプレイヤーも少なかったのかもしれません」


「そういえば……最近、うちの【合戦】にタダでもいいから混ぜてくれって声もあるぞ」


店長がバックヤードから声をかけてきた。


「それは……傭兵の相場が下がったのもありますが、《応人の盾》が目当てでしょうね」


榊さんが体ごと僕へ向き直る。


「一緒に【合戦】をして効果を検証したい、あるいは西野君自身を引き抜きたいのかもしれません」


「なんにせよ、静かに注目されてるな。西野君」


店長にそう言われると、何だか照れくさい……。


「ですが、メイドインヘヴンの三名が加わったことで、西野君が常にレギュラーというわけにはいかなくなりました」


……何で? 僕のスキルは役に立つはずじゃ……。


「西野君。君は私たちのチームにおいて、『変化球』なのです」


変化球?


「西野君の《応人の盾》には、一つの大きな欠点があります。私が相手なら、当然、カノンさんのような〈弓特化型〉を配備します」


……何も言い返せない。僕はスキルの発動中、まったく動けない。


「そして、上空まで伸びる光のエフェクト。あれは、ここを狙ってくださいと言っているようなものです」


今の今まで、ちょっとカッコいいと思っていた自分が痛い……。


「だけど……私と一緒なら、《般若》も強くなれるよ」


ひ、東野さんが援護してくれている。


「犠牲があってこその《般若》です。乱戦には強いですが、こちらの狙いが見えていれば、相手も容易に対策できます。それに、札の消費量を考えれば、実質ひと月に一度が限度でしょう」


東野さんも討ち取られた……。


「なんにせよ、西野君が私たちの『切り札』であることに変わりはありません」


『切り札』という言葉に、僕は少しだけホッとした。


「今後、参加できる方の中から、マップに合わせて人選するつもりです」


榊さんは淡々と続ける。


「次に、『装備』も整えなければいけませんね。機織り所や祭壇など、建てられる施設が増えたのはいいのですが、どれから作れば……」


「そんなの『炉』に決まってるじゃん! 早く『青銅の槍』で暴れたいよ!」


帰り支度を整えた直くんが会話に割り込んできた。後方で『火力』とぶっとく書かれた紙が援護している。


「パパは分かってるよね? 早く私に『貫頭衣』を着せてあげたいよね?」


メイド服の件で散々怒られた店長は、何も言えない……。


このままでは埒が明かないと感じたのか、店長が口を開く。


「今週は……建築に全振りだ! 適性のない奴ばかりだから、時間がかかるぞ」


半ば投げやりな声が、店内に響いた。

いつもありがとうございます。明日から盆休みで掲載は2日間お休みです。

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