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灰のサルキア  作者: ぽわっとらんど
古都編
17/20

17

 広場を覆っていた土煙が、熱風と共に晴れていく。

 そこには翼が傷つき地に伏してなお、圧倒的な絶望を放ち続ける『凶星(ディザスター)灰竜(ワイバーン)』の姿があった。


「撃て!撃ちまくれ!!矢が尽きるまで手を止めるな!」


 今が好機と見た副隊長コルトの、咆哮の如き指示が響く。

 決死の目をした兵士たちが、丸太のような矢を次から次へとバリスタへと装填し、灰竜へ向かって発射される。同時に、城壁の上に残った弓兵が雨あられと矢を放ち、魔術師たちが炎や氷、様々な魔法を一斉に叩き込んでいく。


 圧巻の集中砲火。激しい爆発と閃光が広場を包み込み、重い衝撃がここまでビリビリと伝わってくる。

 だが——。


「クソッ……やはり、ダメか……!」


 唇を噛み締め、力任せに石壁を叩くコルト。

 爆煙が晴れた後に現れたのは、まるでダメージを受けた様子のない『凶星の灰竜』の姿だった。巨体を覆う灰の殻にはバリスタの矢も、無数の矢や魔法でさえもまるで通用しないのか。


 あれだけの攻撃をものともしない怪物に、背筋に冷たい汗が伝うと同時に、先程バルガスが放った一撃『国崩し』の威力が、いかに常軌を逸した威力だったのかと驚嘆する。


「怯むな!やつに体勢を立て直されたら全滅するのはこちらだ!」


 コルトは動揺する守備兵や冒険者たちに、血を吐くような声で激を飛ばす。


「飛び道具が効かぬなら、肉薄して灰の身体を叩き割ってやれ!突撃ぃぃッ!」


 籠城しながらも、すでに背水とは何と皮肉なことだろう。だが、やらなければ自分たちが焼き尽くされるだけだ。皆、その絶望的な状況は理解していた。

 ガーディムをはじめとする生き残った冒険者や兵士たちが、恐怖を押し殺し雄叫びを上げて『凶星の灰竜』が陣取る広場へと向かっていく。


「私たちも参りましょう」


 ブリュンヒルトの声に、俺の身体がびくりと震える。


「や、やっぱり、俺も行くのか?」

「ええ、カナタには安全な場所に居て欲しいのですが、こればかりは……」


 そう言いながら、大剣を持っていない方の手で俺を軽々と抱き上げる。

 事前に説明は聞いていた。召喚獣である彼女は、召喚士であるあるいはセレアから「離れられない」。あまり離れすぎると魔力供給が途絶え、顕現できなくなるのだという。

 その限界距離が、現状では不明なのだ。そして、彼女が消えたなら、俺は確実に死ぬだろう。故に側にいて守りながら戦う方がむしろ安全なのだ、と言われてしまえば俺に抗う術はなかった。


 十メートル程もある城壁の上から、まるで躊躇のない跳躍。内蔵が浮き上がる感覚を、『天眼の琥珀』を両手で必死に握りしめて耐える。着地の衝撃はない。羽根のような着地だった。

 

 地面に降り立つと、ブリュンヒルトは俺を抱えたまま、広場へ向かう集団に素早く合流していく。

 多くの者が汚れ傷つき、満身創痍といった状態。そこへ汚れなき白銀の鎧を纏う騎士が現れる。驚きと共に、縋るような視線が次々と彼女へと向けられる。

 その凛とした佇まいと、周囲を圧倒するような長躯から発せられる神々しい雰囲気は、恐怖と絶望の淵で辛うじて耐える彼らにとって、希望の光なのだろう。


 広場では、すでに戦いが始まっていた。


「うおおおおッ!——ガァッ!?」


 果敢に斬り掛かった重武装の戦士が、灰竜が鬱陶しそうに振るった前脚の一撃で、紙くずのように吹き飛んでいく。続いて何人かの兵士たちが隊列を組み、槍を手に突撃を試みるが、灰竜の巨体からボロボロと零れ落ちる高温の灰に、悲鳴を上げながら崩れ落ちる。背後に回り込んだ剣士の死角からの攻撃が、ついに灰竜の巨体へと届く——。


キィィンッ——!


 硬い金属音。剣士の渾身の一撃は、硬い灰に阻まれて傷一つつけることはできなかった。剣士は顔に驚愕を貼り付けたまま、灰竜の尻尾の薙ぎ払いに巻き込まれ、為すすべなく壁に突っ込んで動かなくなった。


(こんなの相手に、どうやって戦えって言うんだ……)


 地に堕ち、手負いになったとはいえ、『凶星の灰竜』は『エターナルレジェンド』においても強敵のレイドボス。凶悪な飛行能力を奪った後の「地上戦」こそが本番だった。そして、これは「ゲーム」などではない。圧倒的な死の匂いと恐怖に、俺はブリュンヒルトの腕の中で体の震えを抑えることが出来なかった。


 ガーディムの怒声が響く。周囲の者たちが次々と蹂躙されている中、広場で辛うじて戦いの形を保てているのは、彼が率いる冒険者パーティ『鉄の牙』くらいのものだった。

 盾持ちの重戦士が灰竜の薙ぎ払いを決死の覚悟で受け止め、身軽な弓使いが的確に眼を狙って注意をそらす。仲間が作った隙に、ガーティムは大斧を叩き込む。見事な連携だが——有効打は与えられているように見えない。


 ブリュンヒルトが周囲を見渡しm何者かを見つけると、瓦礫の陰へと素早く移動した。

 そこにいたのは見覚えのある数人の兵士たち。最初にブリュンヒルトと共に城壁を登ったときに、俺が預けられた者たちだった。


「き、騎士様……」


 その震える声と青ざめた表情から、彼らが俺と同じ感情を抱いているのが痛いほど伝わってくる。



「貴方達に任務を与えます。カナタの護衛を。その身命を賭して守り抜きなさい」

「「は、はいっ!」」


 有無を言わせぬ声色に、兵士たちは条件反射のように姿勢を正す。

 俺を彼らに預けるやいなや、身を翻そうとするブリュンヒルトを見て心臓が嫌な音を立てる。今の彼女は、全力を出せる状態ではない。圧倒的な剣技と膂力を有していようと、あんな化物を相手にしたのでは……。


「ブ、ブリュンヒルト——」

「カナタ、私を見ていてください」



 俺の悲痛な声に対して、彼女は安心させるかのように微笑むと、地獄のような戦場へと躍り出ていった。





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