04話
月曜日です。
地獄の平日の始まりです。
頑張りたくないです。
短めです。
居間に移動した3人はそれぞれ、キッチンとテーブルに別れた。マリアはマグカップを2つ用意し、ホットミルクを作る用意をしていた。そしてレイナとアオイは椅子にテーブルを間に挟み、対面して座った。
レイナは椅子に座る前からそわそわとしており、それはアオイと対面して座ってからはより顕著になっていた。
一方でアオイは目を伏せ、静かに座っていた。だが、内心では「何故自分とレイナを一緒にした?」とマリアに憤りを感じていた。
しばらくカチャカチャといったマリアが作業をする音が響き、2人の静寂が明瞭になる。そんな静寂に痺れを切らし、アオイを知らないレイナは地蔵のように微動だにしないメイドに声をかける。
「あ、あの…」
「っ…なんでしょうか?」
恐る恐る、慎重に声を掛けるレイナと話しかけられると予測はしていたが、いざそれに直面するとその言葉に過敏に反応してしまったアオイの2人の間には気まずい空気が何となく流れる。
「えっと、アオイさんは私と会ったことはありますか?」
「…」
その問いにアオイは赤い目を開く。そしてレイナから見てアオイの表情は見た目上、あまり変わらないと思ったが、よく見ると左目の下瞼をヒクヒクと震わせているのが分かる。
「…レイナ様と会ったのは今日が初めてですよ」
「そ、そうですか…」
再び、2人の間に静寂が流れる。
そんな2人に救世主が如く、マリアがホットミルクを持って来る。ホットミルクから柔らかいミルクの匂いと甘いハチミツの匂いが漂ってきた。
「あ、ありがとうございます…あれ?この匂いは?」
「はい、持参したハチミツを入れてみました。ミーナお嬢様のお気に入りなんですよ」
「そうなんですか、美味しそうです」
「それは良かったです…では、お召し上がり下さい」
「はい、頂きます…あつっ」
マグカップを手に取り、その中身を口に含もうとしたが、案外とその温度は高く、レイナの猫舌も相まって舌に痛みが走る。
「すみません、熱かったでしょうか?」
「あ、大丈夫です。私、猫舌なんで熱いのが苦手なんです」
「そうなんですか?なるほど、次からは気を付けます」
「あ、はい」
レイナとマリアのやり取りを尻目に、アオイはマグカップの取ってではなく、そのまま熱せられた陶器を鷲掴みにし、ゴクゴクとすぐさまホットミルクを飲み切った。
「あの、アオイさんは熱くないんですか?」
そのアオイの奇行に気が付いたレイナは純粋に疑問に思い、問題ないのか?と聞いた。
「問題ありません、熱いのは…慣れているんで」
「…はしたないですよ、アオイ。少しはメイドとしての心得を…」
「毎度言ってますけど、好きでメイドの恰好をしている訳ではないですからね。これを着ないと旦那様とお嬢様が文句を言うからです」
「あら?私もその恰好は似合ってると思いますよ。レイナ様はどう思います?」
「!?え!いや、えっとぉ」
アオイとマリアの2人がレイナに視線を向ける。アオイは否定してほしいという圧力、マリアは「とても似合っているでしょう」と同意を求めている。
2人の無言の圧力がレイナに押し付けられ、長いようで短い時間の中で悩んだ結果は…
「に…」
「「に?」」
「似合っていますぅ」
レイナのその回答にアオイはあからさまに「っちぃ」と舌を打ち、マリアは「当然ですよね」と言外に主張した。
「顔が日系人でまだ幼いですからね、似合っても仕方ないですよ。それとアオイ、レイナ様の前で舌を打つのはどうかと思いますよ」
「舌打ちもしたくなりますよ、こんなの」
「けっ」と吐き捨てんばかりに言い切ったアオイ。その態度に初めて会った時から印象が変わったと感じたレイナは疑問に思う。
「あの、アオイさんって、割と態度に出やすいんですか?」
その問いにマリアが答える。
「そうですよ。アオイは育ちの影響もありますけど、素の性格は割りと横暴で面倒くさがりです。これでも私たちの前でも中々素の態度を見せてくれません。あと、自分のことは必要なこと以外一切話してくれない面倒な子です」
「…変なことを言わないで貰えますか?」
「嫌です。これも上司命令だと思いなさい。それでレイナ様にはお願いがあるんですが…」
アオイの要求を一蹴したマリアはそのままレイナにあるお願い事を伝える。
「はい、何でしょうか?」
「この意固地な部下メイドと沢山コミュニケーションを取って、素の姿を露わにしてください」
「え?」
「は?」
レイナとアオイは両方とも口を開け、阿呆けた顔をする。特に顕著なのがアオイで、とても嫌そうな表情を作っていた。
「なんでそんなことになるんですか?」
アオイは先ほどよりも強い圧、マリアにしか伝わらないように器用に殺意を纏わせながら問う。しかしマリアは柳に風、暖簾に腕押しと云わんばかりに意に介さずに答える。
「2年も私たちといるのに素を出さない貴方が悪いんです。元々粗暴なのはこちらも知っているのに、まるで『壁を作ってます』と云わんばかりに人と距離を取るのが悪いんですよ」
「良いじゃないですか、どうせ普段自分が動くのは1人ですし。そっちの方が気が楽なんです」
「『人』としては駄目です。貴方は『記録上は13歳』です。ならば今後年齢を重ねたときにコミュニケーション能力が必要になります。ならば今の内から赤の他人と会話できるようにならないといけません…そもそも貴方は…」
マリアはアオイに対して長い長い説教が始まった。アオイはそれを嫌な顔をしながらも口を挟むことなく大人しく聞いていた。普段からこのやり取りがあるようにもレイナには思えた。また、自分には母は既にいないため、あまり印象はないが、この2人の関係が世間でいう「母と子」のものであると思った。
「ふふ…」
「どうしましたレイナ様?」
「いや、親子みたいで良いなぁって思って」
そんなことを言われた2人は顔を見合わせた。マリアは納得したような顔をし、アオイは大きく顔をしかめた。
「確かに、なるほど。それはある意味ピッタリですね…ならばレイナ様、不肖の息子をお願いします」
「おい」
「はい!分かりました!」
「どうしてこうなっ…るんですか…」
アオイは大きくため息を吐いた。これ以上言ってもマリアの思う壺であるのは目に見えて理解で着るため、諦めて降伏の白旗を降ることにした。
「よろしくね、アオイさん」
「レイナ様、アオイと同い年なので敬称は不要ですよ」
「そうですか?なら、よろしくね!アオイ!」
アオイは再び、深い深いため息を付き、椅子に座ったまま天井を見上げた。
「もう、好きにして下さい」
反抗するのも面倒に感じ、諦めたのであった。
次は木曜日!




