03話
わし「月曜日に更新すると言ったな」
??「そ、そうだ、月曜日まで我慢してるんだ!」
わし「あれは嘘だ」
??「ウワァァァァァァァァァァ!!!」
時間は遡り、ちょうど冴月家の食事会が始まり、1時間経った頃。場所はとある研究施設の地下研究室。
そこでは大きな装置が低い音を響かせながら動き続け、毒劇物のラベルが張られた茶色の敏がところ狭しと大量に陳列している金属棚が立ち並び、黒い机の上では怪しげな色をした薬品や何かの生物の断片、もしくはホルマリン漬けにされたものが乱雑に置かれていた。
そしてそれらを扱っているのは我々がよく知る人間、ホモサピエンスではなかった。
彼らの容姿は一言で云えば「白衣を着た二足歩行のトカゲ」であった。しかしそれらの頭部はトカゲではなく、手足がないはずの蛇のモノであった。胴から伸びる首は50㎝あり、その先に二股の細い舌を出し入れし、大きな一対の眼球を覗かせる頭部。白衣の袖から覗く手は肌色ではなく、ケラチン質の鱗に覆われた異形のものであった。また、臀部からは長い爬虫類特有の尾が伸び、狭い研究室で物を倒さないように直立に立てられていた。
〈例の件はどうなっている?〉
〈『胎児同族化計画』か、今のところは順調に胎児が我々に変化している〉
二足の蛇共は人には聞き取れない音を放ち、会話をする。
〈我々は環境の変化によって、数を大きく減らし、多くの知恵と文明を失い、そしてあの猿どもにこの星を支配された…数で劣勢な我々は少しでもその数を増やし、力を貯えなければならない〉
〈ああ、だからこその『胎児同族化計画』だ〉
〈『彼ら』の協力を得られなくなったが、幸いに計画は順調だ〉
1匹の蛇は資料に目を通しながら話を続ける。
〈確かに『彼ら』の協力があった方が安全に、確実に計画進められただろう。しかし我々とは最終的な目的が違う。その点では縁が切れたのは良いことなのかもしれない〉
〈それは同意する。『彼ら』は『無限』を地に降し、その力で星を支配することだ。結局は何処かで道を違える必要があったのだ。これは良い機会であったのだ。それに…〉
蛇が言葉を続けようとしたとき、研究室の扉が激しい音を立てながら開け放たれた。その音の元である扉に目を向けると研究室に居た複数匹の蛇共とは違う個体が赤い血を流しながら扉に寄りかかっていた。
〈どうした!!?〉
〈ば、化け物だ…化け物ぎゅ…〉
血まみれの蛇は研究室から見えない外側の廊下の位置から側頭部を乾いた発砲音と共に放たれた一発の鉛玉で撃ち抜かれ、間抜けな音を口から放った。
頭部を撃ち抜かれた蛇は研究室に倒れこみ、その頭部から溢れる赤い液体で研究室の床をその色で染め上げていった。
そして周囲は不気味にも非常に静かになり、廊下から鳴り響く「カツン、カツン」という音が嫌に耳に張り付くように聞こえてくる。
その音が数度鳴ったとき、音の主が蛇共の目の前に表す。
それは蛇共が忌嫌い、利用していた知能を持った二足歩行の猿、人間であった。しかしその人間は特徴的な姿をしていた。
人間は漆黒の装束を身にまとっていた。また、その服の色とは真逆の蝋を塗りたくったように白い肌をしており、長いその髪は肌と同じように白かった。極めつけは人間の目であった。その目は瞳孔まで深い深い真紅に染まっており、まるで底が見えない鮮血溜まりを連想させ、蛇共は得体の知れない存在を目の当たりにし、恐怖した。
白い人間の手には左手にはナイフ、右手には拳銃が握られており、その右手にある無機質な銃で同胞が撃ち殺されたと状況的に察する。
「『化け物』とは、酷い言われようだ…これでも生まれたときは人間だぞ」
そんな崩した口調をこの国ではない言葉で言い放つ人間。どうやら人間は蛇共の特殊な会話を聞き取れるようであった。そのことがより、蛇共に衝撃を与えていた。
「日本に来る前から空腹なんだ…向こうでは魚ばかり食べてたからな…」
「蛇はどんな味がするんだ?」
蛇共は単純な『殺意』ではなく、『捕食者』に『被食者』として、食べられる側の本能的な恐怖が身体を支配し、震え、青ざめ、立ち尽くした。皮肉にもそれは『蛇に睨まれた蛙』のようであった。睨まれているのは蛇の方ではあるが。
〈何故ここが分かった!!ここにいる猿共は我々の支配下にあり、外部には一切漏れていないはずだ!!〉
1匹の蛇がその恐怖に震える身体に喝をいれ、人間にそう云い放つ。
「『ここに』お前たちがいるのは知っていた。そして計画の内容、実態も『知っている』。正直別に私がここに『来る必要はなかった』。けれども俺は非常に空腹だ。だからお前たちを殺す、それだけだ」
人間は分かりやすいように、一つ一つ区切りながらそう言った。単純に言うなれば、人間にとってちょうど都合よく『良い狩場があった』、それだけでここに訪れたようであり、「腹が減ったから大人しく殺されて食べられろ」という事であった。
〈ふ、ふざけるな!〉
蛇の1匹は白衣に忍ばせていた拳銃を両手で構え、すぐさま引き金を引いた。その玉は真っ直ぐに人間に向かう。しかし、それは『不自然に』曲がり、人間の背後にある開け放たれた扉を抜け、その先の廊下の壁面に着弾し、鉛の形状を歪ませた。
「時間がかかるとマリアさんに怒られる…素早く終わらせるか」
一度、ナイフを大腿部にあるナイフケースにしまい、腰にあった傷だらけの元は白色であったであろう黄色に変色した面を手に持ち、それを素早く顔面に当てた。
その面は後ろで固定していないにも関わらず、張り付いたように顔にピッタリと嵌った。面には目や鼻、口などの穴は一切空いておらず、のっぺりとしていた。まるでのっぺらぼうのようである。そして、面の左頬には上から2本の斜線で修正された『86』の文字が刻まれていた。
「『食事』の時間だ」
その後の蛇共の運命は語るまでもない。
――
「ただいま戻りました」
アオイが冴月に戻った時の時間は23時を過ぎており、既に食事会は終わっていた。服装は黒装束から元のメイド服に戻っている。
そしてアオイを出迎えたのはマリアであった。剛輝とホーク、ミーナは既にそれぞれ、自室と客室に別れて眠っているようだ。
「お疲れ様ですアオイ。旦那様とお嬢様、剛輝様はもうお眠りになっています。レイナ様は勉強があるとのことでまだ自室で起きているようです…『腹持ち』はどうですか?」
「一週間は問題なく活動できます。『保存食』も確保したので今後の活動も問題ないです」
「なら良かったです…本当ならまともな食べ物を食べてほしいところですが」
「申し訳ありません…」
「いえ、貴方が悪いわけではありません」
アオイとマリアはお互いに何とも言えない表情を作る。この2人には責任はない、しかし面として文句や苦情を言える相手が身近にいないため、どこにも行けない感情を漂わせる。
「ふぅ、とりあえずはこれで第一の問題は解決されたということですね。明日以降の予定は記憶してますね」
「はい、基本的には護衛を行い、旦那様が『お話』に行く際には自分が同行。そして『例の関連組織』の調査、襲撃、壊滅です」
「よろしいです。そういえばレイナ様が貴方と話したいような素振りをしてましたよ」
それを聞いたアオイは盛大に顔をしかめる。眉間にはしわが寄り、左の下瞼がせり上がる。そして左の奥歯を強く嚙み締めた。
「まるで話したくないという顔ですね」
「という顔というよりは、そのまんまですよ。自分には話す理由が『今回』はありません。そもそも彼女にあったのは今日が初めてです。自分にとっては彼女は護る対象であって、下手に親密になって、執着されるのも困ります」
「その言い分だと、執着される覚えがあるようですね」
「…黙秘します」
「深くは聞きません。ですが私たちは2か月はこの家にお世話になるのです。会話をしないといった行為は許可できません。分かりましたね?」
「…はい、分かりました」
「ならよろしい」
不満を主張するように間を置いて返答したアオイであったが、同じ屋根の下で生活する上でコミュニケーションを一切取らないとうことは不可能であると理解しているため、不承不承ではあるが、了承する他に選択はなかった。
玄関で会話をしていると、2階から誰かが降りてくる音がした。その音は軽過ぎず、重過ぎないものであり、先のマリアの話から察するにレイナが階下に降りてきたようだ。
「ふぁ~、あれ?マリアさん、まだ起きてたんだ。あ」
1階に降りてきた足で明かりが点いていた玄関に顔を出したレイナはマリアとアオイに気が付く。
「ただいま戻りました。レイナ様」
「あ、うん、お帰り」
「もう夜も深いので、勉強は切り上げて眠ったらどうですか?」
「え?なんで勉強してるって…」
「マリアさんから聞きましたので。あとは黒鉛の匂いが強かったので」
「え、えっと勉強は止めたんだけど、ちょっと眠れなくて…(マリアさんもだけどアオイさんもおかしくない!?)」
心を読んでくるマリア、そして嗅覚が利くアオイの2人のメイドはどうやらレイナが思うに常識に当てはまらないようであった。自己紹介の時点で変だと思っていたが。
「眠れないようでしたらホットミルクでもどうでしょうか?」
「ホットミルクですか?」
「ええ、先ほど冷蔵庫の中を確認したところ、牛乳等があったので…どうします?」
「…折角なんでいただきます」
このまま布団に包まっても眠れないと思ったレイナは、マリアからの好意を受け取ることにした。
「分かりました。今から用意しますので、椅子に座ってお待ち下さい。アオイ、貴方も飲みますね?」
「!?え、いや自分は…」
「飲みますね?」
「はい」
「ならレイナ様と一緒に座って待ってなさい」
「…分かりました」
3人はもうすぐ日付が変わる時刻ともあって、静かに居間に移動をした。
次はきっと!月曜日!
承認欲求モンスターだからいいねが欲しいのだ!(正直)




