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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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99/225

寿綾乃という女 第4部 99

 そして、互いに、どうして、いいか、わからなかった…


 もちろん、伸明が、ウソを言っているとは、思えない…


 また、ナオキが、ウソを言っているとも、思えない…


 が、


 話が、噛み合わない…


 だから、困った…


 困ったのだ…


 私は、少し、考えて、


 「…それでは、伸明さんは、まだ、ご結婚は、されないんですか?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 力強く、聞いた…


 伸明は、すぐに、


 「…それは、わかりません…」


 と、答えた…


 「…わからない…どうして、わからないんですか?…」


 「…それは…」


 「…それは、なんですか?…」


 「…それは、答えることは、できません…」


 「…どうして、できないんですか?…」


 「…それは…」


 と、言ってから、再び、沈黙した…


 これでは、会話にならない…


 だったら、そもそも、今日は、なぜ、私に電話をくれたのか?


 目的が、わからない…


 ナオキは、伸明が、結婚が、決まったと、言い、その伸明は、まだ、結婚が、決まってないと、言う…


 これでは、押し問答だ…


 いくら、話しても、埒が明かない…


 私は、大げさに、ため息を一つ、ついた…


 どうしていいか、わからなかったのだ…


 が、


 伸明は、違った…


 なにが、違ったのか?


 「…今日、寿さんに、電話をかけたのは、藤原さんの結婚の件ですよ…」


 と、いきなり、言ったからだ…


 「…えっ? 結婚?…」


 と、言おうとしたが、声が、出なかった…


 あまりに、突然の出来事だったからだ…


 だから、声が、出なかった…


 まさに、まさか、だ…


 考えてもいないことだったからだ…


 私の沈黙に、伸明は、すぐには、なにも、言わなかった…


 ショックが、大きいと思ったのだろう…


 私が、少し経ってから、


 「…ウソでしょ?…」


 と、言った…


 あまりにも、バカげているからだ…


 だから、言った…


 「…いや、ホントです…」


 伸明が、返す…


 「…だったら、今日は、それを、私に伝えるために、電話をよこしたのですか?…」


 私が、質問すると、伸明は、


 「…それも、あります…」


 と、答えた…


 「…それもある?…」


 「…以前、流れたでしょ?…」


 「…なにが、流れたんですか?…」


 「…ボクの結婚と、藤原さんの結婚…テレビで、流れた…アレの延長です…」


 「…延長? どういうことですか?…」


 「…藤原さんは、伊豆の五井北東家の別荘に、幽閉されていた…」


 伸明が、いきなり、言った…


 「…寿さんも、ご存じですよね?…」

 

 「…ハイ…」


 「…そして、そのときに、藤原さんは、五井家の人間と、結婚したという情報が、流れた…覚えていますか?…」


 私は、即座に、


 「…ハイ…」


 と、答えた…


 忘れるわけは、なかった…


 いや、


 忘れることは、できなかった…


 あのニュースには、仰天した…


 まさか、ナオキが、結婚するとは、夢にも、思わなかったからだ…


 実際問題として、ナオキが、結婚しても、なにも、おかしくはない…


 私とは、別に、住んでいるし、すでに、男と、女という関係でもない…


 しかしながら、私は、どこかで、あのナオキを信じていた…


 心の底で、信じていた…


 私以外の誰とも、結婚しないと信じていた…


 頑なまでに、信じていた…


 だから、あのニュースには、驚いた…


 が、


 すぐに、あのニュースが、フェイクとわかって、安心した…


 心の底から、安心した…


 変な話だが、私にとって、ナオキは、パートナー…


 決して、離れることのできないパートナーだった…


 いくら、別に暮らしていても、心の中では、パートナー…


 事実上の夫だった…


 だからこそ、あの報道は、痛かった…


 実に、痛かった…


 おおげさに言えば、私の生活が崩れる…


 私の生活の基盤が、崩れる…


 そんな気がした…


 なぜなら、私は、ナオキに、養われている…


 事実上、ナオキの妻だ…


 事実上、専業主婦で、藤原ナオキの妻だからだ…


 だから、そのナオキが、結婚するとなると、私の生活基盤が、崩れる…


 ぶっちゃけ、収入が、なくなる(涙)…


 だから、私は、困る…


 生活に、困るからだ…


 そして、そこまで、考えたとき、気付いた…


 ふと、気付いた…


 今、伸明が、言った発言の裏に隠された意味に、気付いた…


 「…伸明さん、藤原ナオキが、結婚すると、誰に聞きました?…」


 と、わざと、言った…


 「…それとも、今、伸明さんの近くに、誰か、いるんですか?…」


 と、言った…


 わざと、言った…


 「…あるいは、誰かに、言わされているんですか?…」


 「…」


 「…もし、私の思う通りなら、ハイを二回、言って下さい…ハイ…ハイ…と、言って下さい…」


 私が、言うと、少し置いて、


 「…ハイ…ハイ…」 


 と、続けて、言った…


 これで、見えて来た…


 少しは、見えてきた…


 この伸明…


 諏訪野伸明は、絶対権力者ではない…


 五井の当主であるが、絶対権力者ではない…


 絶対権力者というのは、すべて、思いのまま…


 五井の中では、すべて、自分の思い通りに、できる人間を言う…


 そして、それを、言えば、あの和子とて、絶対権力者ではない…


 五井の女帝といえども、絶対権力者ではない…


 五井の中でも、すべて、自分の思い通りに、動かすことは、できないからだ…


 そして、そこまで、考えて、見えてきたことは、もしかしたら、


 …標的は、私?…


 …標的は、私、寿綾乃?…


 …標的は、私、矢代綾子かも、しれない…


 と、ふと、思った…


 バカげたことかも、しれないが、思った…


 なぜなら、私から、ナオキを取り上がることは、私を困らせることが、できる…


 戦国時代の言葉で、言えば、兵糧攻め…


 私を干上がわせることができる…


 そう、考えたのだ…


 バカバカしいと、思ったが、そう、考えたのだ…


 もしかしたら、これは、妄想?


 私のバカげた妄想?


 そうも、考えた…


 が、


 そうでないとも、言えない…


 そうでないとも、断言できない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなバカなことを、考えていると、電話の向こう側から、伸明が、


 「…もうすぐ、出ますよ…」


 と、言った…


 いきなり、言った…


 「…なにが、出るんですか?…」


 「…ボクの結婚…そして、藤原さんの結婚…」


 突然、言った…


 意味が、わからなかった…


 なぜ、いきなり、二人の結婚が、出るのか?


 意味が、わからなかった…


 が、


 わかったことがある…


 それは、今、伸明が、言ったことが、事実…


 たぶん、事実だと、言うことだ…


 そして、なにより、伸明は、それに抗えない…


 それに、抵抗できない…


 だから、もしかしたら、それを、今、私に、言うために、電話をかけてきた…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 最初は、伸明の結婚…


 最初は、伸明は、自分の結婚を否定したが、今は、否定していない…


 これは、おかしいが、もはや、どうでも、いい(笑)…


 ただ、伸明は、抗えない…


 あるいは、伸明は、言わされている…


 そうも、思ったが、もはや、どうでも、いいことだった…


 これは、おおげさに、言えば、運命…


 運命に抗うことは、誰もできないからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だから、どうでも、いい…


 私は、電話を終えることにした…


 「…それでは、今日は、この辺で…」


 と、言って、電話を切ることにした…


 伸明は、なにか、言いかけたが、私は、聞かなかった…


 伸明が、なにか、話し出す前に、電話を、切った…


 そして、私が、一方的に、電話を切った後、すぐに、伸明から、電話をかかってくることを、期待したが、それも、なかった…


 私は、ただ、呆然とした…


 ただ、しばし、呆然とした…


 そして、考えた…


 動き出している…


 なにか、わからないが、動き出している…


 私も、ナオキも、その波に、飲み込まれる…


 漠然と、そう、思った…


 これは、神経症ではない…


 強迫神経症の類では、ない…


 断じてない…


 ただ、なにかが、動き出し、その波に、私も、ナオキも、巻き込まれると、思った…


 夕方、テレビのニュースを見た…


 予想通り、ナオキと、伸明の結婚が、流れた…


 以前と、同じく、二人の結婚が、ニュースに流れた…


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