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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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97/225

寿綾乃という女 第4部 97

 私は、ナオキの言うことを、考えた…


 真剣に考えた…


 ナオキの言うことは、わかる…


 十分に、わかる…


 が、


 わからないのは、それならば、なぜ、私を選ぼうとしているのか?


 それほど、人脈が、広い、伸明が、なぜ、私を選ぼうとしているのか?


 それが、謎だった…


 実に、謎だった…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう思っていると、ナオキが、


 「…綾乃さん、なにを、考えているの?…」


 と、聞いてきた…


 「…伸明さんのことよ…」


 私は、即答した…


 「…諏訪野さんのこと?…」


 「…そう…」


 「…諏訪野さんのなに?…」


 「…伸明さんが、なぜ、私を選ぼうとしたのかと、言うこと…」


 私が、言うと、ナオキは、


 「…」


 と、黙った…


 黙って、考え込んだ…


 「…そんなに、人脈が、広いなら、なぜ、私と結婚しようと、思ったのかな?…」


 それから、続けて、


 「…まさか、私をからかったわけでも、ないでしょ?…」


 と、言った…


 ナオキは、難しい顔をしたが、すぐに、グイっと、缶ビールを呷った…


 それから、缶ビールから、口を離して、


 「…新鮮だからじゃないかな…」


 と、言った…


 「…新鮮?…」


 「…変な話、汚れていない…」


 「…汚れていないって、私、処女でも、なんでも、ないのよ…」


 私は、笑った…


 笑って、言った…


 が、


 ナオキは、笑わなかった…


 「…汚れていないと、言ったのは、そういう意味じゃないよ…綾乃さん…」


 「…だったら、どういう意味?…」


 「…綾乃さんが、新鮮だと言ったのは、諏訪野さんを、昔から、知らないから…だから、新鮮だと、言ったのさ…」


 「…どういう意味?…」


 「…諏訪野さんを、昔から知っている人間は、皆、諏訪野さんを五井家の人間だと知って、接する…当たり前だよね…」


 「…」


 「…でも、綾乃さんは、最近、知り合った…そして、諏訪野さんと、知り合っても、諏訪野さんに、色仕掛で、迫ろうとしないでしょ?…」


 「…それは…」


 「…だから、きっと、新鮮なんだと、思う…」


 ナオキが、断言した…


 「…つまりは、綾乃さんは、諏訪野さんを、ATMと見ない…金づると見ない…それが、新鮮なんだと、思う…」


 「…」


 「…そして、これは、ボクも同じ…」


 「…ナオキと、同じ? どう、同じなの?…」


 「…ボクも、正直、女のひとから、口説かれることは、結構、ある…これでも、それなりに、世間に顔が知られているしね…」


 「…それは、ナオキは、テレビで、キャスターもしているから…」


 「…だから、余計に、口説かれる…」


 ナオキが、笑う…


 「…金もあり、知名度もある…だから、そんな男に、女は、寄って来る…」


 「…だったら、ナオキ…選び放題ね…よかったじゃない…」


 私は、笑った…


 が、


 ナオキは、笑わなかった…


 「…冗談じゃないよ!…」


 と、わざと、怒って言った…


 「…どうして、冗談じゃないの?…」


 「…誰だって、金目当てに寄って来る女を好きな男は、いないよ…」


 「…」


 「…綾乃さんだって、綾乃さんが、美人だから、寄って来る男は、嫌でしょ? それと、同じ…」


 たしかに、ナオキの言うことは、わかる…


 私が、美人だから、好き…


 それは、嬉しい…


 でも、少しは、中身も、見て欲しい(苦笑)…


 なにより、私が、美人だから、寄って来る男は、他に美人がいれば、そっちへ、行くだろう…


 つまりは、その程度に、私を、好きだと言うこと…


 そして、私の美貌が、衰えれば、簡単に、他の若い美人に、乗り換える可能性がある…


 女は、皆、敏感に、それを、感じる…


 だから、顔だけで、寄って来る男を、皆、本能的に避けるのだ…


 当たり前のことだ…


 そして、これは、たぶん、男も同じ…


 いや、


 男だけでは、ない…


 男も女も、同じだ…


 顔が、良かったり、お金を持っているから、寄って来る男や女に、誰もが、心を許さない(苦笑)…


 それは、もし、ルックスが、衰えたり、お金がなくなったり、すれば、寄って来た、男や女が、簡単に離れていくことを、知っているからだ…


 彼ら、彼女らの目当ては、ルックスや、金に、過ぎないことを、知っているからだ…


 だから、それが、なくなれば、離れてゆく…


 それが、わかっているから、誰もが、そんな男女に、なびかない…


 あるいは、気を許さないのだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、それを、考えていると、ナオキが、


 「…でも、綾乃さん…」


 と、私に話しかけてきた…


 「…なに、ナオキ?…」


 「…諏訪野さんに、下心は、ないよ…」


 「…下心って?…」


 いきなり、言われて、驚いた…


 この歳になって、いきなり、


 …下心…


 なんて、言われるとは、夢にも、思わなかったからだ…


 だから、驚いた…


 「…それは、諏訪野さんの態度を見ていれば、わかる…」


 ナオキが、続けた…


 「…態度って?…」


 「…諏訪野さんの、綾乃さんに対する接し方…」


 「…接し方?…」


 「…おそらく、綾乃さんが、感じるよりも、傍から。見ていた方が、よくわかる…」


 「…よくわかるって?…」


 「…変な話…当時者よりも、他人の方が、よくわかる…」


 ナオキが、笑いながら、言う…


 「…ほら、綾乃さんが、会社にいたときだって、会社で、綾乃さんに、多くの社員が、接していたでしょ? でも、その社員が、綾乃さんに、対して、下心があるか、どうかは、たぶん、綾乃さんよりも、近くで、綾乃さんを、見ているひとたちの方が、よくわかると、思うよ…」


 「…どうして、わかるの?…」


 「…案外、当事者だと、わからないこと、気付かないことって、あるものだよ…」


 「…だったら、部外者だったり、傍観者だったりする方が、よくわかるって、こと?…」


 「…その通り…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…」


 「…会社も同じだよ…」


 「…同じって?…」


 「…会社の中にいる人間は、例えば、その会社の経営状態が、悪くても、気付かないものさ…でも、ハタから、見れば、一目瞭然ということが、結構ある…」


 「…どうして、ハタから、見れば、わかるの?…」


 「…それは、外の人間から、聞いた、その会社の評判だったり、会社の社長や、その側近のお偉いさんが、金策に走り回ったりする話が、外から、聞こえてくるからさ…それと、同じ…」


 「…同じ?…」


 「…最初の話に戻るけれども、諏訪野さんが、綾乃さんに、下心が、なにも、ないことが、ボクの目から、見ても、わかる…」


 「…」


 「…だから、ボクは、諏訪野さんを、信頼できるんだ…」


 「…どうして、信頼できるの?…」


 「…だって、ボクの好きな綾乃さんを、そんな目で見る男を、信頼できるわけは、ないでしょ? そんな人間と付き合うわけは、ないでしょ?…」


 「…」


 「…諏訪野さんが、綾乃さんを、好きでも、下心があって、好きなわけじゃないことは、見ていれば、わかる…だから、彼と、付き合っているのさ…」


 ナオキは、そう、言って、缶ビールをうまそうに、飲み干した…


 私は、そんなナオキを見て、なんと言って、いいか、わからなかった…


 なぜ、わからなかったのか?


 それは、そんなに、私を好きならば、


 …なぜ、綾乃さんを、一生守ると言えないのか?…


 そう、思ったからだ…


 だが、その答えは、すでに出ている…


 ナオキは、私の幸せを願っているのだ…


 私の幸せを心の底から、願っているのだ…


 率直に言って、私とナオキは、倦怠期というか…


 すでに、夫婦を通り越して、家族になっている(苦笑)…


 ナオキにとって、私は、恋人でも、妻でも、なく、同士…


 あるいは、姉妹…


 ナオキの姉か、妹…


 だから、私の幸せを願っている…


 家族だから、同士だから、願っている…


 それが、痛いほど、わかる…


 が、


 それでは、複雑…


 私の心が、複雑だった…


 やはり、ナオキには、私を守って欲しい…


 「…綾乃さんを、一生、ボクが守る!…」


と言って欲しい…


 が、


 その一方で、私もまた、伸明に惹かれる…


 五井の、若き、当主に惹かれる…


 これでは、お互い様…


 お互い様だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなバカなことを、考えながら、その日の夜は、更けていった…


 ナオキは、ビールを飲み、その後、私と簡素な食事を取った…


 簡素というのは、私が、料理が、下手だから(苦笑)…


 お世辞にも、料理が、上手いとは、いえないからだ…


 なにより、今日も、外出していない…


 スーパーにも、コンビニにも、行っていない…


 それゆえ、食卓に並べるのは、冷凍食品をレンジで、チンしたものばかりだからだ(笑)…


 これは、昔から、変わらない…


 ジュン君と、ナオキと、私の3人が、いっしょに、住んでいたときから、変わらない…


 大抵は、毎日、スーパーで、買ってくる、ありあわせの食材で、食事をすませた…


 ハッキリ言えば、スーパーで、とんかつなどの揚げ物を買ったり、お刺身を買ったりして、食事を済ませた…


 それは、ひとえに、私が、料理が、苦手ということもあるが、それ以上に、毎日が、忙しかったからだ…


 会社を手伝ったり、幼いジュン君の面倒をみたりして、忙しかったからだ…


 まあ、料理が、苦手だということが、一番の理由かも、しれないが…


 が、


 それが、日常となると、誰も、なにも、言わなかった…


 最初は、おかしいと、思っても、それが、続くと、それが、当たり前になる…


 そういうことだろう…


 寿綾乃は、料理が苦手だから、いつも、スーパーで、買った、できあいの総菜を食卓に並べる…


 それに、誰も、意を唱えなくなる…


 だから、今も、その延長線上で、私が、スーパーで、買った、冷凍食品をレンジで、チンして、食卓に、並べても、ナオキは、なにも、言わなかった…


 きっと、そういうものだと、思っているからだ…


 きっと、そういうものだと、諦めているからだ…


 これで、もし、この場に、あの伸明が、いたら、どうだろう?


 やはり、スーパーで、買った、できあいの総菜や、お刺身を、食卓に、並べるだろうか?

 

 いや、


 違う…


 きっと、最初のうちは、張り切って、家で、トンカツでも、作って、揚げるだろう…


 伸明の前で、やる気を見せるだろう…


 が、


 それが、何か月、続くか?


 きっと、半年どころか、三か月も、続かないだろう…


 いや、


 もしかしたら、一か月も、無理かも、しれない(爆笑)…


 私は、そんなことを、考えた…


 私は、そんなバカなことを、考えた…


 そして、そんなバカな女と、長年、いっしょにいる、この藤原ナオキという男に感謝した…


 実に、感謝した…


 おそらくは、私にとって、生涯、巡り会えないパートナーだった…


 一方で、伸明のことを、考えながら、もう一方で、そんなことを、思った…


 そんなバカなことを、思った…


 実に、バカな女…


 バカな女だと、我ながら、思った…


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