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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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96/225

寿綾乃という女 第4部 96

 ナオキは、絶句していたが、ほどなく、


 「…どういうこと? 綾乃さん?…」


 と、私に聞いてきた…


 食い気味に聞いてきた…


 当たり前だった…


 私は、即座に、


 「…伸明さんの縁談…たぶん、ユリコが、絡んでいる…」


 と、告げた…


 明確に、告げた…


 「…絡んでいる? どんなふうに?…」


 「…伸明さんの、見合い相手が、長谷川センセイの妹さんなのは、知っているでしょ?  

 五井記念病院の私の担当医…」


 「…それは、知っている…」


 「…あの長谷川センセイは、五井西家の血を引いているけれども、今は、西家とは、無関係…それが、たまたま、西家の当主が、五井記念病院で、長谷川センセイと会って、それで、長谷川センセイの妹を、伸明さんに、紹介した…西家の血を引く娘だということで、紹介した…」


 「…」


 「…でも、五井西家は、五井北東家と、手を組んでいる…ナオキ、アナタが、伊豆で、幽閉されていたときの別荘が、五井北東家の別荘だったと、アナタ、言ったでしょ?…」


 「…うん、言った…」


 「…私、今日、昼間、家で、五井北東家のことを、知らべていたの…」


 「…調べていた?…どうやって、調べていたの?…」


 「…それは、ネットで、に、決まっているでしょ? 私のカラダじゃ、遠くへは、行けないし…」


 「…」


 「…それで、五井北東家の当主の団郁馬について、調べていたら、あまり、情報は、なかった…」


 「…なかった?…」


 「…唯一の情報が、平成研の会合に出席とあって、その平成研の代表が、ユリコ…あのユリコ…」


 私が、言うと、ナオキの顔に、驚きが、広がった…


 そして、その驚きが、落胆の表情に、変わるまで、さして、時間が、かからなかった…


 そして、その落胆の表情から、出て来た言葉は、


 「…まさか、ユリコが…」


 と、言った言葉だった…


 信じられない…


 いや、


 信じたくないと、いった感じだった…


 が、


 一方では、


 …やはり!…


 という感じだった…


 あのユリコは、抜け目ない…


 なにが、目的か、わからないが、伸明の見合いに、一枚噛んでいる可能性は、高い…


 実に、高い…


 そして、それを、このナオキも、また、わかっている…


 なにしろ、旦那だ…


 元、旦那だ…


 ユリコの性格が、わからないわけはない…


 当たり前だった…


 「…ユリコが…またも、ユリコが…」


 と、言って、打ちひしがれていた…


 ショックが、あまりにも、大きいのだろう…


 それは、理解できた…


 十分過ぎるほど、理解できた…


 私は、そんなナオキを見て、


 「…ナオキ…とりあえず、お風呂に入ってきなさい…」


 と、諭した…


 まるで、小さな子供に言うように、諭した…


 「…続きは、お風呂から、出て来たときに、しましょう…」


 私が、ナオキに優しく言った…


 それを、聞いたナオキは、苦笑いを浮かべ、


 「…そうするよ…」


 と、力なく、言った…


 力なく、言って、その場から、去った…


 お風呂に入るためだ…


 私は、無言で、その後ろ姿を、見送った…


 

 そして、私は、ナオキが、お風呂から、出て来るまでに、またも、色々、考えた…


 ユリコの狙いを考えた…


 考えざるを得なかった…

 

 あのユリコ…


 実に、厄介…


 厄介な存在だ…


 しかしながら、今回も、私の前に立ち塞がるとは?


 なんだか、笑えて来た…


 この寿綾乃の行くところには、必ず、ユリコあり、というか…


 とにかく、私の前には、必ず、あのユリコが、立ち塞がる…


 これでは、まるで、大昔の怪獣映画とか…


 仮面ライダーに似ている(苦笑)…


 ヒーローものには、宿敵が、付き物…


 私が、主人公の物語では、ユリコが、不可欠…


 私の前に、立ち塞がる宿敵として、ユリコは、不可欠な存在ということだ…


 私は、そんなことを、考えた…


 私は、そんなバカなことを、考えた…


 そして、そんなバカなことを、考え続けていると、ナオキが、お風呂から、出て来た…


 すっきりとした顔で、出て来た…


 私は、そんなナオキを見て、


 「…ナオキ…随分、すっきりした顔をしているわ…そんなに、お風呂が、良かったの?…」


 と、聞いた…


 別に意味は、ない…


 単なる社交辞令だ…


 いや、


 単なる、会話に過ぎないのかも、しれない…


 が、


 ナオキは、それを、真剣に受け取ったようだ…


 「…いや、お風呂に入って、ぼんやりと、湯船に浸かっていて、ふと、気付いたんだ…」


 「…なにを、気付いたの?…」


 「…諏訪野さんの狙い…」


 「…伸明さんの狙いって?…」


 「…案外、諏訪野さんの狙いは、ユリコなんじゃ、ないかって、気付いたんだ…」


 ナオキが、突拍子も、ないことを、言った…


 私ですら、考えたことのない、突拍子もないことを、言った…


 それゆえ、私は、驚いた…


 驚いて、ナオキに、食い気味に、言った…


 「…どういうこと? それ?…」


 と、食い気味に言った…


 そんな私を見た、ナオキは、余裕の笑みを浮かべた…


 余裕の笑みを浮かべながら、


 「…とりあえず、ビール…」


 と、笑った…


 笑いながら、言った…


 私は、そんなナオキを見ながら、冷蔵庫から、缶ビールを取り出して、ナオキの前に出した…


 ナオキは、私の目の前のソファに座った…


 二人の前には、テーブルがある…


 テーブル越しに、互いに、相手を見つめた…


 「どういうこと?…」


 と、もう一度、言った…


 「…諏訪野さんの狙いは、ユリコかも、しれないと、言ったこと?…」


 ナオキは、缶ビールを飲みながら、ニヤニヤしていた…


 私は、そんなナオキの顔を見ながら、


 「…どういうこと?…」


 と、辛抱強く、聞いた…


 我慢の限界だった…


 一刻も、早く、ナオキの答えを知りたい…


 それゆえ、我慢の限界だった…


 忍耐の限界だった…


 が、


 ナオキは、そんな私の態度を楽しむように、


 「…諏訪野さんは、ユリコのことを、知っているでしょ?…」


 と、私に聞いた…


 いきなり、聞いた…


 「…それは、知っていると、思うけれども…」


 私は、曖昧に、言った…


 「…たしか、以前、綾乃さんが、言っていたでしょ?…」


 「…なにを、言っていたの?…」


 「…ユリコが、五井の分家から、株を買い取って、五井の女帝に、高く売りつけたと…」


 「…たしかに、言ったわ…それが、どうかしたの?…」


 「…当然、そのことは、諏訪野さんの耳にも、入っているはずだ…」


 そう、言われて、考えた…


 たしかに、そう、言われれば、わかる…


 たしか、あのとき、伸明は、いなかった…


 ユリコが、五井の女帝、諏訪野和子に、五井の分家から、買い取った株を、高値で、引き取れと、迫ったときには、あの場にいなかった…


 が、


 当然、その後、和子は、伸明に、そのことを、告げているだろう…


 そのような事実が、あったことを、告げているだろう…


 まして、あのユリコは、このナオキの元の妻…


 そして、このナオキは、伸明と親しい…


 それゆえ、当然、ユリコのことは、知っているはずだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 「…だから、諏訪野さんは、ユリコの動きに、目を光らせていたはずだ…」


 ナオキが、断言した…


 「…目を光らせていたはずって?…」


 「…五井の株を買い占めて、五井に牙を剥いたんだ…そんな人間を忘れるはずないでしょ?…」


 「…それは…」


 「…諏訪野さんは、五井家の当主…ボクや綾乃さんより、はるかに、人脈は、広いし、情報は、たくさん、入る…そんな諏訪野さんに、ユリコの情報が、入らないわけは、ないよ…」


 「…」


 「…だから、今回のことも、たぶん、お見通し済み…」


 「…お見通し済み?…」


 「…ユリコが、五井北東家だったっけ? その当主と、組んで、五井本家に牙を剥いたのは、お通し済みだと、思うよ…」


 ナオキが、言った…


 淡々と言った…


 そして、その言葉は、私に刺さった…


 実に、私の胸に刺さった…


 なぜなら、納得できるからだ…


 実に、納得できる説明だからだ…


 たしかに、言われて、見れば、あの伸明の交友関係は、私やナオキの比ではないだろう…


 なんと言っても、五井だ…


 四百年の歴史のある五井だ…


 ポッと出の、ナオキとは、違う…


 格が、違う…


 あらゆるところに、情報網があるとまでは、言わないが、昔からの付き合いのあるひとや企業から、たくさんの情報が、得られるだろう…


 それは、当たり前だが、私や、ナオキの比では、ない…


 当たり前のことだ…


 そして、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…もしかしたら、ボクも、綾乃さんも、諏訪野さんの手のひらの上で、遊んでいるようなものかも、しれないよ…」


 と、笑いながら、言った…


 実に、楽しそうに、言った…


 「…手のひらの上って? どういう意味?…」


 と、私。


 「…ほら、孫悟空が、お釈迦様の手のひらの上で、移動したでしょ?…」


 「…手のひらの上で、移動した?…」


 「…孫悟空は、お釈迦様の手のひらから、飛び出して、はるか、遠くまで、行ったつもりだったけれども、ホントは、お釈迦様の手のひらから、一歩も外の世界に、出ていなかった…」


 「…」


 「…案外、それと似ているかも、しれないよ…」


 「…それって、お釈迦様を、伸明さんに、例えているわけ?…」


 「…その通り…」


 ナオキが、断言する…


 「…諏訪野さんと、ときどき、飲む機会があるけれども、諏訪野さんは、ボクや綾乃さんとは、違うよ…」


 「…違う? どう違うの?…」


 「…まずは、人脈…」


 「…人脈?…」


 「…諏訪野さんは、実に、顔が広い…いっしょに飲んでいても、諏訪野さんを一目見て、諏訪野さんに、挨拶に来る、ひとは、多い…男も女も、多い…」


 「…」


 「…そして、たぶん、それが、ボクや綾乃さんとの違い…」


 「…違い?…」


 「…生まれながらの金持ち…だから、人脈も広い…」


 「…」


 「…そして、人脈も広ければ、情報も、入る…そういうこと…」


 「…そういうことって?…」


 「…たぶん、諏訪野さんの元には、ユリコは、元より、その北東家の当主のことや、西家のことなど、情報が、たくさん、寄せられていると、思う…」


 「…」


 「…そして、それこそが、五井…五井の当主なんだと、思う…」


 ナオキが、断言した…


 ナオキが、力強く、断言した…


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