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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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95/225

寿綾乃という女 第4部 95

 ナオキは、会社から、帰って来て、私の顔を見るなり、


 「…綾乃さん、話しが、ある…」


 と、言った…


 いきなり、言った…


 「…話? 一体、なんの話?…」


 「…諏訪野さんだ…諏訪野さんが、綾乃さんに、会いたがっている…」


 「…私に? どうして?…」


 「…それは、わからない…」


 ナオキは、短く、言った…


 「…今日、会社にいるときに、諏訪野さんから、電話があった…」


 「…会社にいるときに?…」


 「…昼間だから、当然、仕事中だから、手短に、話した…当然、諏訪野さんも、仕事中で、仕事の合間に、電話をかけてきた…」


 「…でも、どうして、伸明さんが、ナオキに電話を? 直接、私にすれば、いいのに?…」


 「…それは…」


 「…それは、なに?…」


 「…きっと、諏訪野さんは、ボク抜きで、綾乃さんと、会う、と、電話をするのは、嫌だからだよ…」


 「…どうして、嫌なの?…」


 「…どうしてと、言われても…ほら、諏訪野さんは、ボクと綾乃さんの関係を知っている…だから、ボクに気を遣ったんじゃないかな…」


 …そういうことか?…


 私は、思った…


 たしかに、あの伸明は、私とナオキの関係を知っている…


 私とナオキが、愛人関係というと、言い過ぎだが、夫婦同然の関係だったということを、知っている…


 だから、だろう…


 私に連絡をするのに、わざわざ、ナオキを介して、連絡をする…


 そうしなければ、ナオキに対して、後ろめたいのかも、しれない…


 二人は、友人…


 気の合う友人だからだ…


 だから、私に連絡をするのに、ナオキがそれを、知らないのは、後ろめたいのかも、しれない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 しかしながら、おかしな話だ…


 私とナオキが、夫婦同然だったことを、知っているにも、かかわらず、伸明は、私を好き…


 普通では、考えられないことだ(苦笑)…


 が、


 それも、あるかも、しれない…


 それも、ありえるかも、しれない…


 恋に、正解は、ない…


 恋愛に、正解は、ない…


 例えば、美人ならば、必ずしも、イケメン好きだとは、限らない…


 これは、イケメンも、同じ…


 イケメンならば、美人を好きとは、限らないからだ…


 まあ、とにかく、普通は、イケメンと美人のカップルは、世間では、あまり見かけない…


 これは、やはり、見かけも、大事だが、中身は、それ以上に、大事だと、言うことだろう…


 いくら、イケメンと美人のカップルでも、話が、合わなければ、お互いが、嫌だ…


 それが、一番だろう…


 まあ、世の中、イケメンも、美人も、数が少ない…


 その数が、少ない、イケメンと美人が、学校や職場で、知り合うのは、難しいし、さらに、気が合うのは、もっと、難しい…


 そういうことかも、しれない…


 私は、そんなことを、考えた…


 そんなバカなことを、考えた…


 伸明が、私を好きから、そんなバカなことを、考えた…


 そして、私が、そんなバカなことを、考えていると、


 「…綾乃さんは、大丈夫?…」


 と、ナオキが、聞いてきた…


 それで、現実に、戻った…


 「…大丈夫って、なにが、大丈夫なの?…」


 「…諏訪野さんと、会うこと…」


 「…それは、大丈夫よ…どうして、そんなことを、聞くの?…」


 「…いや、綾乃さんが、なんとなく、顔色が、悪いような…」


 「…えっ? ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…」


 「…鏡で、自分の顔を見れば、わかるよ…」


 ナオキの言葉に、私は、慌てて、部屋の奥に走って行って、鏡で、自分の顔を見た…


 慌てて、見た…


 が、


 なにも、変わらない…


 変なところは、なにもなかった…


 いつもと、顔色が、なにも、変わらなかった…


 私は、急いで、ナオキの元に、戻った…


 ナオキは、玄関から、居間に、行っていた…


 「…ちょっと、ナオキ…私の顔の、どこが、おかしいの? いつもと、変わらないわよ…」


 私が、勇んで、言うと、ナオキが、


 「…ぷっ!…」


 と、吹き出した…


 私は、唖然とした…


 なぜ、ナオキが、


 「…ぷっ!…」


 と、吹き出したか、わからなかったからだ…


 すると、そんな私の様子を見た、ナオキが、


 「…今朝のお返し…」


 と、笑った…


 「…今朝のお返しって?…」


 「…今朝、綾乃さんは、ボクが、凄い二日酔いだと、からかったでしょ? それのお返し…」


 笑いながら、言う…


 それを、聞いて、思い出した…


 今朝のことを、思い出した…


 たしかに、今朝、ナオキが、起きて来たときに、言った…


 わざと、ナオキが、二日酔いが、ひどいようなことを、言って、からかった…


 私のいたずらに、気付かなかったナオキは、慌てて、鏡で、自分の顔を見に行った…


 それを、思い出した…


 そして、それを、思い出すと、むかっ腹が立った…


 四十を過ぎた男が、今朝のことで、根を持つ…


 そんな、ナオキに、むかっ腹が立った…


 「…ナオキ…アナタ、今、いくつ?…」


 と、思わず、言った…


 「…いくつって?…」


 と、ナオキ。


 「…こんな子供みたいなことを、して…そんなに、今朝のことが、悔しかったの?…」


 私が、全力で、怒ると、意外にも、ナオキが、ニヤニヤした…


 楽しそうに、ニヤニヤした…


 私は、それを、見て、カーッとした…


 つい、カーッと、頭に血が上った…


 だから、つい、


 「…ナオキ…なに、その笑い? 私をバカにしているの?…」


 と、問い詰めた…


 全力で、問い詰めた…


 が、


 あろうことか、ナオキは、さらに、笑った…


 さらに、ニヤニヤと、楽しそうに、笑った…


 私は、それを見て、カーッと来た…


 今まで、以上に、カーッと来た…


 今まで以上に、むかっ腹が立った…


 「…ナオキ、どういうつもりよ!…」


 と、いますぐ、ナオキをぶん殴る勢いで、ナオキに、迫った…


 が、


 ナオキは、笑いながら、


 「…良かった…」


 と、言った…


 「…良かった? なにが、良かったの?…」


 「…綾乃さんが、いつもの、綾乃さんに、戻った…」


 「…いつもの、綾乃さんって?…」


 「…綾乃さん、今、見たら、なにやら、深刻な顔をしているから、心配になって…」


 …そういうことか?…


 納得がいった…


 実に、納得がいった…


 昼間、諏訪野伸明のこと、団郁馬のこと…そして、なにより、あのユリコのことを、考えて、憂鬱になった…


 それが、表情に出ていたのだろう…


 あのユリコは、私の栄養剤…


 あのユリコのことを、考えると、私の反骨心に、火が付く…


 そうは、言ってみたが、現実は、憂鬱…


 実に、憂鬱だ…


 できるならば、敵に回したくない…


 いや、


 すでに、ユリコは、敵に決まっているが、できれば、会いたくない…


 戦いたくない…


 戦えば、疲れるからだ…


 全力で、疲れるからだ…


 これは、ボクシングなど、格闘技に似ている…


 ホントは、試合は、やりたくない…


 仕事だから、やる…


 仕事=ビジネスだから、やる…


 が、


 本当は、やりたくない…


 疲れるし、殴られれば、痛いからだ…


 だから、やりたくない…


 それと、似ている…


 実に、似ている…


 私とユリコの関係に似ている…


 ユリコは、どう思うか、知らないが、私は、ユリコと闘いたくない…


 ユリコと争いたくはない…


 が、


 ユリコは、違うだろう…


 なにが、なんでも、私にケンカを売ってくるだろう…


 ユリコというのは、そういう女だ…


 そういう人間だ…


 話せば、わかる人間では、決してない…


 ずっと、以前、私が、ユリコから、このナオキを寝取ったから、私に復讐したい…


 どんなことを、しても、私に復讐したい…


 その気持ちは、わかる…


 わかるが、それだけではない…


 とにかく、ユリコは、私が、嫌いなのだ…


 私という人間が、嫌いなのだ…


 おそらく、同じ、この地上にいることが、気に入らないのだ…


 もっと、ハッキリ言えば、この私をこの世から、抹殺したい…


 それほど、私を嫌っている…


 それゆえ、私も、当然、ユリコを嫌いになる…


 率直に、言って、ナオキを寝取った後ろめたさは、正直、あった…


 最初の頃は、あった…


 が、


 そんなものは、当の昔に、吹っ飛んだ!…


 跡形もなく、吹っ飛んだ!…


 なにしろ、相手が、私を見れば、いつも、殴りかかってくるのだ…


 当たり前だが、こちらも、殴り返さなければ、ならない…


 そうしなければ、自分の身を守れない…


 そういうことだ…


 だから、いつも、ユリコのことを、考えると、憂鬱になるが、それ以上に、カーッと、胸が熱くなる…


 敵が、攻めてくる…


 ユリコが、攻めてくる…


 それゆえ、私は、それに、立ち向かわなければ、ならないからだ…


 いかに、ユリコに立ち向かうか?


 それを、考えれば、熱くなる…


 私の胸が熱くなるからだ…


 そして、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…どうしたの? 綾乃さん、すごい顔をしているよ…」


 と、聞いてきた…


 「…すごい顔って?…」


 と、私。


 「…なんだか、怒っているような…そんなに、今のことが、頭に来た?…」


 ナオキが、恐る恐る言う…


 が、


 私は、それを、否定した…


 「…違う…ユリコよ…」


 と、言って、否定した…


 「…ユリコ?…」


 と、ナオキは、言って、動揺した…


 まさか、ここで、ユリコの名前が出て来ることは、想定外…


 思っても、みなかった想定外の出来事だったろう…


 まさか、いきなり、ずっと以前に、別れた妻の名前が、出て来たことに、驚いたに違いない…


 「…ユリコが、どうかしたの?…」


 ナオキが、動揺した様子で、聞く…


 私は、即座に、


 「…絡んでいるのよ…」


 と、言った…


 「…絡んでいる? どういう意味?…」


 「…伸明さんの、見合いに…」


 「…えっ!…」


 思わず、ナオキが、絶句した…


 当たり前だった…


 私は、そんなナオキを、冷静に、見つめた…


 ただ、ただ、冷静に、見つめた…


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