寿綾乃という女 第4部 94
しかし、あのユリコが、今回の黒幕とは?…
なんとなく、笑えるというか…
どこまで、私の邪魔をするんだと、思わず、言いたくなる(苦笑)…
が、
当然、あのユリコのことだ…
私怨で、動くような女ではない…
私に対する恨みだけで、動く女ではない…
そこには、おそらく打算…
ユリコの打算がある…
今回の伸明の結婚に際して、動くことで、ユリコが得られる利益がある…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
そして、そう、考えると、私の中のアドレナリンが、一気に放出したというか…
カーッと、一気にカラダが、熱くなった…
あのユリコが、動いた…
またも、私の前に立ち塞がった…
そう、考えると、熱い血が、私のカラダの中を、駆け巡った…
カラダの調子の悪さも、なにもかも、一気に吹き飛んだ…
そんな気がした…
もちろん、そんな気がしただけだ…
私のカラダの不調が、よくなるはずはない…
が、
一刻とはいえ、私のカラダの中に、アドレナリンが、駆け巡ったのは、事実…
事実だ…
あのユリコは、私にとって、栄養剤のようなもの…
大嫌いなユリコだが、あのユリコのことを、考えると、一気にカラダが熱くなる…
まるで、栄養剤を飲んだようなもの…
負けてたまるか!
と、言う気持ちになるのだ…
天敵のユリコだが、もしかしたら、私にとって、一番の栄養剤かも、しれない(苦笑)…
一番の薬かも、しれない…
そう、思った…
そして、そう、思うと、なんだか、笑えてきた…
大嫌いなユリコが、私の一番の薬なんて…
まさに、皮肉…
皮肉以外の何物でもないからだ…
そして、そう考えると、いつまでも、パソコンの前にいるわけには、いかないと、思った…
ユリコが、出て来た以上、私の出番とまでは、言わないが、いずれにしても、ユリコが、またも、私に対して、嫌がらせをしかけてくるのは、既定路線…
すでに、わかっていることだ…
当然ながら、なんらかの手を打たなければ、ならない…
あのユリコに、対して、なんらかの対策を取らねば、ならない…
が、
対策といっても、具体的に、なにを、どうしたら、いいのか、わからない…
さっぱり、わからない…
また、なにより、本来の目的は、団郁馬では、なかったのか?
ふと、考えた…
あらためて、考えた…
あの団郁馬の名前を探して、ユリコの名前が出て来たから、パニクった…
パニクった=混乱したのだ…
だから、本当の目的は、団郁馬…
団郁馬に他ならない…
それを、忘れては、ならない…
しっかりと、肝に命じなければ、ならない…
そして、そう、考えると、私が、今、真っ先に、会わなければ、ならない相手…
それは、伸明…
諏訪野伸明であることに、気付いた…
なぜなら、伸明は、五井北東家の当主、団郁馬と対決しようとしている…
その団郁馬とタッグを組んでいるのが、あのユリコ…
ならば、こちらも、タッグを組まなければ、ならない(苦笑)…
伸明とタッグを組んで、あのユリコと、団郁馬と、対決しなければ、ならない…
私は、そう、思った…
私は、そう、考えた…
が、
すぐに、動くことは、できない…
今すぐ、動くことは、できない…
今、伸明は、会社にいるだろう…
会社で、仕事をしているだろう…
そこへ、急に、電話をかけることは、できない…
ことは、緊急を要することでは、ないからだ…
だから、できない…
だったら、どうするか?
別の手段を考えた…
真っ先に、思い浮かんだのは、マミさんだ…
伸明の妹のマミさんだった…
伸明とは、血が繋がっていないが、妹のマミさんだ…
彼女とは、気が合う…
だから、伸明の次に連絡をしようとしたが、彼女もまた、仕事中に他ならない…
マミさんは、会社の社長をしている…
五井グループとは、別に会社を経営している…
生前、実父の建造から、資金援助を受けて、会社を経営しているのだ…
マミさんは、独立独歩というか…
五井グループのどこかの会社に在籍して、仕事をするというキャラではない…
そういうキャラではない…
つまりは、サラリマンではなく、自分で、会社を立ち上げて、仕事をしたいタイプ…
ハッキリ言えば、ひとに使われたくないタイプの人間だ…
それゆえ、実父の建造は、マミさんに、資金援助をして、会社を立ち上げさせた…
また、もうひとつの理由…
それは、マミさんが、婚外子であるということ…
実父の建造が、外で作った子供であることが、大きい…
五井グループの会社に在籍すれば、どこかで、その事実が、漏れる可能性がある…
ひとの口に戸は立てられないからだ…
そうなれば、マミさんが、傷付く…
それを、恐れた建造が、あえて、マミさんを、五井グループの会社に入社させなかった…
そして、また、その方が、マミさんの性格に合っていた…
何度も、言うように、マミさんは、独立独歩…
ひとに、使われるのが、苦手な性格だからだ…
自分で、会社を立ち上げて、仕事をするタイプの女性だからだ…
そして、そのマミさんも、今は、仕事中…
だから、電話ができない…
そして、そんなことを、言えば、私だって、本当は、今の時間は、仕事中…
FK興産で、社長のナオキの社長秘書として、仕事中のはずだ…
ただ、病気その他諸々の事情により、FK興産を退職した…
が、
ナオキは、退職扱いせずに、今は、FK興産の非常勤の取締役という地位を得ている…
まあ、つまりは、今、昼間だから、誰もが、仕事中だから、連絡ができないということだ(苦笑)…
夕方になってから、連絡をするか、夜になるのを、待とうと思った…
そう、思ったのだ…
だから、焦っても、仕方がない…
そう、考え直すと、気が休まった…
なにしろ、私は、療養中…
癌患者だ…
正直、クスリのおかげで、今は、だいぶ楽になっている…
一刻は、オーストラリアに行き、日本では、まだ認可されていない、最新の癌治療を受けた…
結果、癌は、完治こそしなかったが、だいぶ楽になったのは、たしかだ…
癌が、小さくなったのは、たしかだ…
しかし、その影響か、どうかは、わからないが、先日は、脳梗塞で、病院に緊急搬送された…
幸い、症状は、軽かったが、ショックを受けたのは、たしか…
これでは、まるで、病気のデパート…
いみじくも、あのユリコが、私に言った病気のデパートに他ならない…
…美人薄命…
そんな言葉が、脳裏に浮かんだ日がある…
忘れないほど、ある(苦笑)…
が、
いくら、美人に生まれても、命が短いのは、嫌…
絶対、嫌だ!…
これは、誰もが、そうだろう…
誰もが、同じだろう…
一刻でも、長く生きたいとまでは、思わないが、まだ32歳の若さで、死にたくはない(苦笑)…
せめて、もう少しは、長く生きたい…
私は、決して、生に執着するタイプではないが、それでも、もう少しは、長生きしたい…
それが、本音だった…
偽らざる本音だった…
そして、そんなバカなことを、考えながら、昼間は、ダラダラ過ごした…
夜になるまで、過ごした…
私は、基本は、病人…
だから、激しい運動も、仕事も、できない…
だから、一日中、毎日、ダラダラ過ごすしか、ないのだけれども、これでは、正直、気が滅入るというか…
それまで、この年齢まで、ずっと走り続けてきた…
この年齢まで、ずっと、働いてきた…
そんな自負が、ある…
そんな自信が、ある…
だからだろう…
働かないことに、ある種の罪悪感を覚える…
そういうことだ…
世間では、もしかしたら、私をナオキの愛人のように、思っているものも、いるかもしれない…
なにしろ、私と、ナオキの関係を見れば、実質的なパトロンと愛人の関係に他ならないからだ…
だが、そうではない…
絶対、違う!…
それは、声を大にして、言いたい…
私が、もし、ナオキの愛人ならば、私は、なにも、せずに、ナオキから、月々の手当てをもらうだろう…
まるで、ナオキから、給与をもらうように、もらうだろう…
しかしながら、私は、ナオキの右腕となり、毎日、働いていた…
会社では、ナオキの秘書として、働き、家では、幼いジュン君の面倒を見ていた…
ナオキの息子と、思っていたジュン君の面倒を見ていた…
ジュン君の母親代わりで、見ていた…
その自負がある…
誰が、なんと言おうと、その自負がある…
が、
やはり、世間では、単に、私をナオキの愛人としか、見ないだろう…
悔しいが、それが、事実…
それが、現実だ…
そして、私は、その現実を受け入れなければ、ならない…
なぜ、受け入れなければ、ならないのか?
それは、簡単…
自分が、世間から、どのように、見られているか、それが、重要だからだ…
自分が、周囲から、どう見られているか、わかることが、重要だからだ…
それが、わからないと、単なる道化師…
道化師=ピエロに他ならないからだ…
自分で、自分のことが、わからず、声高に、いかに、自分が、凄い人間だと、主張しても、誰も、その言葉を受け入れないからだ…
例えば、私は、自分で言うのもなんだが、美人だが、いかに、自分が、美人だと、主張しても、
「…美人は、美人でも、もう32歳でしょ? 若くはないわね…おまけに、高卒…学歴もない…」
と、言われるのが、わかっているからだ…
そして、それが、わからないものは、ピエロ…
言葉は、悪いが、ピエロ=道化師に他ならない…
仮に、学歴があっても、名がない企業に勤めていれば、
「…早稲田を出ても、あんなちっぽけな会社に勤めているなんて…」
と、言われるのが、オチだ…
そして、そう言われるのが、わからないのが、おかしい…
私は、それが、わかるつもりだ…
自分で、自分のことが、わかるつもりだ…
私は、思った…
私は、考えた…
だから、私は、たぶん、ナオキの愛人と思われている…
いや、たぶんでは、なく、確実に、そう、周囲から、思われている…
今、私が、脳梗塞で、倒れ、それゆえ、ナオキが、私の身を心配して、私の家に、戻ってきているが、それを、知らないものは、私が、パトロンを捕まえたとでも、思っているだろう…
同じマンションの住人の中では、そう、思っているものも、大勢いるだろう…
あらためて、そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、そんなバカなことを、考えていると、ナオキが、帰って来た…
会社から、帰って来た…




