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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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89/225

寿綾乃という女 第4部 89

 「…私が、知らない情報って、なに?…」


 私は、聞く…


 ナオキに、食い気味に聞く…


 「…さっき、言った諏訪野さんの結婚のこと…」


 すっかり、忘れていた…


 肝心のことを、忘れていた(苦笑)…


 「…諏訪野さんが、結婚するのは、その北東家の当主を牽制するためだと、言っていた…」


 「…牽制? どういうこと?…」


 「…五井西家の紹介で、会った女性と結婚すれば、西家は、本家に対して、色々言ってくるかも、しれないが、同時に、本家に、取り込むことができる…つまりは、今は、西家と北東家が、タッグを組んで、色々、やって来るが、それを、引き離すことができる…西家の紹介で、出会った女性と結婚すれば、西家と北東家を引き離すことが、できる…それが、今回、結婚を決めた理由だと、言っていた…」


 「…」


 なるほど…


 たしかに、そう言われれば、わかる…


 そう言われれば、納得する…


 それに、なにしろ、西家の紹介で、あのハルカと、伸明が、結婚したところで、西家は、本家に、それほど、強気に出られないだろう…


 言葉を変えれば、本家の運営に、口を挟めないだろう…


 なにしろ、あのハルカという女性は、長谷川センセイの妹…


 西家の女性では、ない…


 西家夫妻の娘では、ない…


 あくまで、先祖が、西家の人間だと、言うだけ…


 先祖が、五井西家に繋がる人間だと、言うだけで、あの現五井西家当主とは、直接は、なんの関係もない…


 ただ、あの西家当主が、五井記念病院で、長谷川センセイと知り合い、その長谷川センセイの妹を、本家の伸明に紹介した…


 それだけの付き合いに他ならないからだ…


 もし、仮に、伸明が、あのハルカという女性と結婚するとしたら、あの西家夫妻は、結婚式の仲人というところだろうか?


 つまりは、仮に伸明とハルカが、結婚すると、しても、それほど、西家夫妻と、あのハルカという女性の縁は薄い…


 縁が薄い=西家が、本家にそれほど、ものを申せないということだ…


 しかしながら、あのハルカを紹介した縁で、これまでよりは、本家に口を挟むだろう…


 しかしながら、何度も言うが、あのハルカは、西家夫妻の娘でも、なんでもない…


 たいして、口を挟めないのが、実情だろう…


 それよりも、ハルカと結婚することで、あの西家夫妻を、本家に取り込める可能性が、高い…


 そして、西家を本家に取り込むことで、西家と北東家を別れさせるつもりなのだろう…


 つまりは、伸明の狙いは、北東家…


 五井北東家の当主、団郁馬だ…


 私は、あらためて、思った…


 私は、あらためて、考えたのだ…


 そして、おそらく、伸明は、父である、建造の苦労を、間近で、見ている…


 五井家の序列を崩そうとする、北東家の動きを見ている…


 なにしろ、伸明は、四十代前半…


 子供では、ない(苦笑)…


 その五井北東家の扱いに、苦慮した建造の苦労を近くで、見ている…


 だから、余計に、あのハルカと、結婚しようと、思ったのだろう…


 とりあえず、西家と北東家を切り離そうと、

思ったのだろう…


 そこまで、考えて、あらためて、あの伸明が、なぜ、今回、結婚しようと、思ったのか、わかった…


 わかりすぎるほど、わかった(爆笑)…


 しかし、


 しかし、だ…


 やはり、今、このナオキの口から、伸明が、結婚すると、聞くと、寂しかった…


 実に、寂しかった…


 心の中では、自分は、伸明と結婚できるはずが、ないと、わかっていたが、いざ、伸明が、結婚すると、聞くと、寂しかった…


 実に、寂しかったのだ…


 あらためて、思った…


 自分の心のありようを、思った…


 私風情の女が、伸明と結婚できるはずがない…


 そう、いつも、思いながらも、いざ、伸明が、結婚すると、聞くと、ショックだった…


 実に、ショックだった…


 これは、私は、自分勝手?


 自分勝手な女なのだろうか?


 それとも、天邪鬼?


 天邪鬼な女なのだろうか?


 普段は、自分とは、なんの縁もない…


 なんのゆかりもない…


 と言いながら、いざ、伸明が、結婚すると、聞くと、動揺する…


 実に、自分勝手な女…


 自分勝手な女だと、思った…


 我ながら、思った…


 そして、そんな感情が、私の表情に、出たのだろう…


 「…綾乃さん、大丈夫?…」


 と、いきなり、ナオキが、聞いてきた…


 「…大丈夫って、なにが、大丈夫なの?…」


 と、私。


 「…綾乃さんの顔色だよ…」


 「…私の顔色って?…」


 「…綾乃さん、顔が、青いよ…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 そんなに、簡単に、顔に現れたのだろうか?


 伸明の結婚が、それほど、ショックなのだろうか?


 あらためて、思った…


 思ったのだ…


 私は、立ち上がった…


 「…綾乃さん、どうしたの?…」


 「…鏡で、自分の顔を見てくる…」


 私は、ナオキに言って、さっき、ナオキが、風呂から、出て来た、近くに、置いてある、洗面台の前に、言った…


 自分の顔を見るためだ…


 鏡で、自分の顔を見てみると、やはり、青白い…


 いや、


 それ以上に、表情が、ぎこちない…


 なにか、ぎこちない…


 表情が、こわばって、見えるのだ…


 自分で、自分の顔を見て、これなのだから、他人が、見れば、いかに、私が、動揺しているか、一目瞭然だろう…


 なにしろ、自分でも、わかるのだ…


 いかに、自分が、動揺しているのか、わかるのだ…


 あらためて、自分が、バカな女だと、思った…


 普段は、伸明との結婚など、望んでいない…


 そう、言いながらも、動揺する…


 伸明が、結婚すると、聞くと、動揺する…


 みっともないほど、動揺する…


 バカな、女…


 バカな、私…


 つくづく、思った…


 思ったのだ…


 そして、私が、ナオキの前に戻ると、


 「…綾乃さん…無理は、しちゃダメだよ…」


 と、優しく言った…


 「…無理? なにが、無理なの?…」


 「…諏訪野さんのこと…」


 「…」


 「…綾乃さんが、諏訪野さんを、好きなのは、ボクの目から、見ていても、わかる…」


 「…」


 「…たぶん、綾乃さんは、わからないかも、しれない…でも、傍から見れば、見え見えとまでは、言わないが、綾乃さんが、諏訪野さんと、いるときに、いつも、諏訪野さんを、意識していることが、わかる…」


 「…」


 「…そして、それは、たぶん、諏訪野さんも、同じ…」


 「…伸明さんも、同じ?…」


 「…綾乃さんが、諏訪野さんを意識するから、諏訪野さんも、綾乃さんを、意識する…あるいは、諏訪野さんが、綾乃さんを、意識するから、綾乃さんも、諏訪野さんを、意識する…」


 「…」


 「…卵が先か、鶏が、先かと、同じ…どっちが、先か、わからないが、互いが、互いを意識する…たぶん、それが、恋…」


 「…恋?…」


 「…ボクと綾乃さんの間には、最初から、恋もなにも、なかった…出会ったときから、お互いに、気が合った…だから、男女が、惹かれ合うようなことも、なかった…ただ、気が合う…いっしょにいて、ホッとする…そんな関係だった…」


 「…」


 「…だから、もしかしたら、これは、綾乃さんの初恋かも、しれない…」


 「…私の初恋?…」


 「…だって、綾乃さん、これまで、好きになった男は、いなかったでしょ?…」


 「…それは…」


 「…要するに、すぐに、ひとを好きになるひとと、好きにならないひとが、いるんだと、思う…男女ともにね…」


 「…男女ともに?…」


 「…綾乃さんは、ひとを、好きにならないタイプ…」


 「…どうして、それが、わかるの?…」


 「…綾乃さんが、美人だからだよ…」


 「…それが、ひとを好きになることと、なんの関係があるの?…」


 「…おおありだよ…」


 「…おおありって?…」


 「…だって、美人は、あっちこっちの男から、頻繁に口説かれる…だから、どうしても、自分を守る意味で、男に興味が、なくなる…」


 「…興味が、なくなるって?…」


 「…あっちの男、こっちの男と付き合っては、身がもたないし、なにしろ、そんな状態だったら、散々、陰口を叩かれる…同性の女から…」


 「…」


 「…女の敵は女っていうけれども、それは、事実…綾乃さんは、男になびかないから、いいけれども、もし、あっちの男、こっちの男と、綾乃さんが、付き合っていたら、会社で、他の女性社員からの悪口、陰口が、凄かったと思う…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…ナオキ、当時から、そんなことに、気付いていた?…」


 「…最初は、気付かなかった…」


 「…最初は?…」


 「…でも、会社が大きくなるにつけ、若い女性社員も増える…すると、綾乃さんのことが、話題になる…」


 「…どうして、私のことが、話題になるの?…」


 「…それは、美人で、目立つからに、決まっているでしょ?…」


 「…」


 「…だから、女性社員の視線が綾乃さんに、注がれる…注目される…」


 「…」


 「…でも、幸か不幸か…綾乃さんは、男たちに、見向きもしない…だから、彼女たちも、安心したんだと、思う…」


 「…どうして、安心したの?…」


 「…だって、美人と同じ男を狙ったら、勝ち目は、ないでしょ?…」


 「…それを、言えば、ナオキだって、イケメンだし…」


 「…男のイケメンより、女の美人の方が、目立つ…」


 「…目立つ?…」


 「…ほら、若い中学生や高校生を見れば、わかる…」


 「…なにが、わかるの?…」


 「…男同士が集まっていても、それほど、騒がしくないが、女同士だと、滅茶苦茶、うるさいし、楽しそう…」


 「…楽しそう…」


 「…つまり、一気に、場が華やぐ…」


 「…」


 「…だから、男より、女の方が、目立つと言いたいし、それゆえ、余計に、綾乃さんは、目立つと言いたい…」


 「…」


 「…でも、そんな綾乃さんが、男たちになびきも、しない…これは、社長として、助かった…」


 ナオキが、思いがけないことを、言う…


 これまで、一度も、聞いたことのないことを、言う…


 「…もっとも、そんなことに、気付いたのは、ここ数年…会社が、安定してから…それまでは、気付くことはあっても、そんなことに、関わっていられなかった…仕事が、忙し過ぎたから…」


 「…」


 「…だから、そんなことに、気付いても、無視していた…今、綾乃さんと、こんな話をするのも、会社が、落ち着いたからだと、思う…仕事が落ち着いたからだと、思う…」


 ソファに、座って、缶ビールを飲みながら。ナオキが、言った…


 実に、しみじみと、言った…


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