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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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85/225

寿綾乃という女 第4部 85

 玄関を開けて、会社から、帰ってきたナオキを出迎えた…


 「…おかえり、ナオキ…」


 と、出迎えた…


 が、


 いつもは、


 「…ただいま、綾乃さん…」


 と、言うところだが、言わなかった…


 すでに、顔色が変わっていた…


 真っ青に、変わっていた…


 なにか、あったのは、明らかだった…


 会社で、なにか、あったのは、明らかだった…


 「…どうしたの、ナオキ、その顔…」


 と、私は、言った…


 当たり前だった…


 そんな顔のナオキは、見たことは、なかった…


 いや、


 あったかも、しれない…


 昔は、あったかも、しれないが、最近は、ずっと、見たことが、なかった…


 だから、驚いた…


 驚いたのだ…


 ホントなら、後で、ゆっくりと、ナオキから、話を聞くところかもしれないが、すぐに、聞いた…


 そして、ナオキは、というと、間髪入れずに、


 「…諏訪野さんが、結婚するみたいだ…」


 と、言った…


 「…ウソ?…」


 思わず、声を上げたかった…


 まさか、そんな…


 いくらなんでも、展開が、早過ぎる…


 あの伸明が、結婚なんて…


 当然、結婚は、私以外の女…


 私、寿綾乃以外の女に決まっている…


 だから、


 「…ウソ?…」


 と、言いたいところだったが、私の口から、出た言葉は、予想外…


 自分でも、予想外の言葉だった…


 「…誰?…」


 と、いう言葉だった…


 伸明が、結婚する…


 と、なれば、誰と結婚するか、知りたかったからだ…


 「…それは…」


 「…それは、誰?…」


 「…ハルカと、いう女性らしい…」


 「…えっ? ウソ?…」


 「…ホント…綾乃さんに、ウソを言っても、仕方がないだろ?…」


 「…ナオキ…それ、ホントに、ホント?…」


 「…ホントだよ…今日、諏訪野さんから、メールが、来て、直接、話したんだ…」


 「…直接、話した?…」


 「…今度、結婚することになったというメールが、来て、驚いたボクは、直接、諏訪野さんのケータイに、電話をかけたんだ…そしたら…結婚するって…」


 「…そんな…」


 「…綾乃さんが、ショックを受けたのは、わかる…ボクだって、ホントは、諏訪野さんは、綾乃さんと、結婚してもらいたかった…」


 「…」


 「…もう、ボクも、なにが、なんだか、わからない…どうして、諏訪野さんが、いきなり、結婚するのか、わからない…」


 ナオキが、嘆く…


 私は、それを、見て、なんだか、不思議だった…


 どうして、ナオキが、そんなにショックを受けたのか、不思議だった…


 たしかに、ナオキは、あの諏訪野伸明と親しい…


 仲の良い友人だ…


 しかしながら、それも、ここ数年で、知り合った友人…


 昔からの友人ではない…


 それが、なぜ、こんなに、ショックを受けるのか、不思議だった…


 実に、不思議だった…


 だから、


 「…ナオキ…どうして、そんなに、伸明さんの結婚が、ショックなの?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…どうしてって?…」


 「…だって、伸明さんは、ナオキと親しいかも、しれないけれども、ここ数年で、知り合ったひとでしょ? それになにより、男のナオキが、伸明さんの結婚にショックを受けるなんて、おかしいでしょ? 女じゃあるまいし…」


 「…綾乃さんのためだよ…」


 「…私のため? どうして、私のためなの?…」


 「…綾乃さんに、諏訪野さんと、結婚して、もらいたいためだよ…」


 「…」


 「…正直、ボクと綾乃さんは、今、こうして、暮らしているけれども、もはや、男と女としては、終わっているというか…倦怠期を迎えた夫婦みたいになっている…男女の関係も、なにもない…」


 「…」


 「…だから、同士…お互いに、同士のような関係になっている…」


 「…」


 「…そして、それならば、綾乃さんには、少しでも、良い条件の男のひとと、結婚してもらいたい…だから、今は、ボクは、綾乃さんの、兄のような気分だよ…」


 ナオキが、言う…


 納得のできることを言う…


 たしかに、ナオキは、私を好き…


 私も、ナオキを好き…


 でも、それは、もはや、熟年夫婦のような関係…


 四十代前半のナオキと、32歳の私…


 傍から見れば、若いかもしれないが、すでに十五年は、付き合っている…


 男女の関係にある…


 だから、今さら…


 今さらだ…


 腐れ縁ではないが、仲がいいだけ…


 気が合うだけ…


 いっしょにいると、互いに、心が安らぐだけ…


 もはや、男女のときめきも、なにもない(笑)…


 互いに、相手を異性と意識することもない…


 ただ、それを、言えば、このナオキと初めて、会ったときも、互いに異性を意識することは、なかった…


 ただ、気が合った…


 それが、大きい…


 最初から、気が合った…


 それが、大きい…


 そして、今、このナオキが、私と伸明の結婚を望んでいると、言うのも、本当だろう…


 もはや、ときめきもなにもない、同士のような存在の私に、誰か、いいひとと、結婚すれば、幸せになれると、本気で、思っている…


 それが、真相だろう…


 なにしろ、出会って、十五年は、経っている…


 この藤原ナオキが、どんな男だかは、わかっている…


 この藤原ナオキが、どんな思考形態の男だかは、わかっている…


 が、


 私の口から出た言葉が、それとは、裏腹な言葉だった…


 「…ナオキ…そう言って、アナタ、若い子と遊びたんでしょ?…」


 と、言う言葉だった…


 ナオキは、一瞬、戸惑った表情を浮かべたが、すぐに、


 「…バレた?…」


 と、笑った…


 「…もちろん、バレバレよ…」


 「…でも、やっぱり、若い子が、いい…肌の張りが、違う…」


 「…四十を過ぎた男が、それを、言う? まさに、キモイオヤジの典型ね…」


 私が、言うと、ナオキが、引いた…


 「…キモイオヤジ?…」


 と、言って、引いた…


 「…だって、そうでしょ? 四十過ぎて、若い子が、好きなんて…キモ過ぎるでしょ?…」


 「…それは…」


 「…それは、なに?…」


 私が、キツイ口調で、聞くと、ナオキが、いきなり、私にキスをしてきた…


 「…つまり、こういうこと…」


 「…こういうことって、どういうこと?…」


 「…綾乃さんを好きだってこと…綾乃さんに、幸せになって、もらいたいってこと…」


 そういうと、私から、唇を離した…


 まったく、このナオキと言う男は…


 実に、食えない男だった…


 肝心なときで、はぐらかす男だった…


 まあ、もっとも、それが、藤原ナオキという男だった…


 なにしろ、十五年は、付き合っている…


 お互いの性格を熟知している…


 「…とにかく、こんな場所で、いつまでも、立ち話をしていても、仕方がない…中に入ろう…」


 ナオキが、言って、スタスタと、歩いて、部屋の中に入って行った…


 私は、それを、目で追った…


 しかし、結婚…


 あの伸明が、結婚するとは、信じられなかった…


 まさか、本当に、結婚するとは、思わなかった…


 しかも、相手は、あのハルカという女…


 あの長谷川センセイの妹だ…


 だが、考えてみれば、結婚の兆候はあった…


 結婚の予兆はあった…


 それは、なにしろ、あの伸明は、自身の見合いの席で、明らかに、ハルカを気に入っていた…


 それは、同席した私の目にも、明らかだった…


 伸明は、明らかに、ハルカに惹かれていた…


 ハッキリ言えば、一目惚れしていた…


 それは、よくわかった…


 おそらく、伸明は、あのハルカのルックスと、あの勝気な性格に、惹かれたのだろう…


 ハルカは、私とは、タイプが違うが、美人…


 可愛いい系の美人だ…


 さらに、勝気…


 気が強い…


 そこに、あの伸明は、惹かれた…


 なにしろ、伸明は、五井ホールディングスの社長…


 ひとに叱られることのない立場…


 それゆえ、勝気な女性に弱い…


 普段、誰にも、叱られることのない男性は、弱い…


 自分を叱ってくれる女性に弱い…


 そして、それは、振り返って見れば、私を見れば、わかる…


 私、寿綾乃を見れば、わかる…


 私、矢代綾子を見れば、わかる…


 この勝気な私を見れば、わかる(苦笑)…


 この勝気な私を、伸明が、好きなのを、見れば、わかる…


 つまり、伸明が、勝気な女性が好きなのが、わかる…


 自分を引っ張ってくれる、勝気な女性が、好きなのが、わかる…


 それは、やはり、伸明が、おとなしいからだろう…


 立場上、会社では、社長として、振る舞っているが、性格が、おとなしいからだろう…


 だから、勝気な女性に惹かれる…


 おとなしい自分を引っ張ってくれる、勝気な女性に惹かれる…


 そして、そんなことを、考えていると、部屋の中から、


 「…綾乃さん、どうしたの? なんで、こっちに来ないの?…」


 というナオキの声が、聞こえて来た…


 私は、考えるのを止め、部屋の中に向かって、歩き出した…



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