寿綾乃という女 第4部 84
伸明の結婚…
それは、一大イベント…
五井一族にとっての一大イベントだ…
それは、なぜか?
それは、伸明が誰と結婚するかで、一族内のパワーバランスが、崩れかねないからだ…
それを、回避するために、あの和子は、私を選んだ…
私、寿綾乃を選んだ…
それを、さっき、和子の双子の姉である、昭子から、聞いた…
そして、それを、聞いて、納得した…
なぜ、あの和子が、私を推すのか、納得した…
五井の女帝が、なぜ、私を推すのか、納得した…
たしかに、私が伸明と、結婚すれば、五井のゴタゴタは、避けられる…
なにより、私には、後ろ盾もなにもないのが、良い…
私が、五井のように、有力な一族の出身ならば、伸明と結婚することで、五井の運営に口を出してくる可能性が高いからだ…
それを、避けるうえでも、一般人の私の方が、いい…
なにより、私が、伸明と結婚すれば、今のまま…
今のままの体制で、五井を運営できる…
今のまま、東家が本家を牛耳ることが、できる…
これが、いい…
あの和子が、いみじくも、言ったように、亡くなった建造が、私の叔母を好きだった…
私に似たルックスの美人の叔母を好きだった…
それゆえ、私を伸明の妻にして、建造に、報いたい…
生前、一生懸命、五井一族をまとめた、建造に、報いたい…
その気持ちにウソは、ないだろう…
が、
その一方で、打算もある…
私と伸明が結婚することで、五井のパワーバランスが、崩れない…
今のままの体制でいる…
今のままの東家が、主導する形で、いる…
それも、また、大きいだろう…
政界では、ないが、伸明の結婚で、一族内の主流派が、一気に、非主流派に転落することもありえるからだ…
だから、それを、防ぐために、私を選んだ…
その側面の方が、大きいだろう…
亡くなった建造の功績に報いたい気持ちもあるだろうが、その方が、大きいだろう…
打算の方が、大きいだろう…
なにより、あの伸明は、私を好き…
この寿綾乃を好き…
それが、大きい…
自分で言うのも、なんだが、あの伸明は、私を好き…
それは、わかる…
十分過ぎるほど、わかる…
まあ、これは、私に限らず、誰でも、同じ…
誰かが、自分を好きか、どうかは、見ていれば、わかる(苦笑)…
相手の態度を見ていれば、わかるからだ…
真逆に、嫌いも、同じ…
同じだ…
相手が、自分を嫌いか、どうかは、見ていれば、わかるものだ(爆笑)…
例え、言葉にしなくても、態度を見ていれば、わかるものだ…
そして、一方の私は、といえば、やはり、伸明が好き…
結婚うんぬんではなく、伸明が好きだ…
が、
結婚はできない…
それは、なぜか?
それは、私には、ナオキがいるから…
長年、連れ添ったパートナーの藤原ナオキが、いるから、できない…
伸明と結婚できない…
伸明は、二番手…
一番、好きなのは、ナオキだから、伸明と結婚できない…
そして、そんなことを、思いながら、私は、調子に乗っている…
実に、調子に乗っていると、思った(笑)…
果たして、私は、そんなにいい女なのだろうか?
そう、思った(爆笑)…
たしかに、私は、自分で言うのも、なんだが、美人だ…
元フジテレビのアナウンサー、近藤サトさんの若い頃に、似た、美人だ…
しかしながら、歳は、すでに、32歳と、決して、若くは、ない…
なにより、私程度の美人は、世の中には、ごまんといる…
いや、
ごまんとまでは、言わないが、それなりにいる(苦笑)…
それゆえ、考えた結論は、ただ、運が、いい…
それが、答えだった(爆笑)…
私は、自分でいうのも、なんだが、たしかに、美人だが、誰も、会ったことがないほどの、美人ではない…
人々が、圧倒されるほどの美人ではない…
ある意味、ありふれた美人だ(笑)…
それは、街を歩けば、わかる…
田舎では、圧倒的な美人だったが、それは、田舎だから…
田舎だから、人口が少ないからだ…
だから、田舎では、圧倒的な美人だった…
が、
それが、都会に出てきたら、違った…
決して、ゴロゴロとまでは、言わないが、都会には、それなりに、いる…
自分と似たような美人がいる…
それが、驚きだったし、それを、見て、消沈した…
自分に自信がなくなった…
いい意味で、私の伸び切った鼻が、へし折られた…
私並みの美人は、世の中には、それなりにいることが、わかったからだ(苦笑)…
そして、そんな月並みな美人が、あの伸明と、知り合い、好きになって、もらえたことが、奇跡…
奇跡だと思う…
正直、顔以外、取り柄のない私を好きになってくれたのが、奇跡だと思う…
何度も言うように、私並みの美人は、世の中に、それなりにいるからだ…
だから、奇跡…
奇跡なのだ…
なにより、たとえ、美人やイケメンに生まれたからといって、そのルックスを生かして、玉の輿に乗れるものは、少ない…
男も女も少ない…
そんなことができるものは、少ない…
それゆえ、私風情の美人が、伸明のようなスーパーお金持ちと知り合い、好きになられたことが、奇跡…
奇跡に他ならない…
小学生や中学生では、ない…
三十を過ぎた立派な大人だ…
それが、どれほどの奇跡か、わからないのが、おかしい…
稀に、それが、わからないものが、いるが、それは、やはり、頭がおかしいのだろう…
まだ、若ければ、言い訳ができる…
あのときは、若かったから、わからなかったと、言い訳できる…
が、
さすがに、三十路を過ぎれば、その言い訳は、できない…
また、これは、私の個人的意見だが、歳を取れば、誰もが、頭が良くなるものでは、決してない…
現に、私自身、高校生のときと、中身は、変わらない…
十数年前に、ナオキと初めて、会ったときから、中身は、変わらない…
ただ、ナオキといっしょに、会社を手伝って、その過程で、さまざまな経験をした…
会社が、大きくなる過程で、さまざまひとと会った…
それが、大きい…
決して、頭が、良くなったわけでも、なんでもない…
ただ、当時は、まだ、体験していなかった体験をした…
それだけだ…
そして、たぶん、それは、誰もが、同じ…
同じだ…
言葉は、悪いが、偏差値40の高校を出て、会社に入れば、学校の成績と、仕事は、別物だから、仕事が、できれば、簡単に出世できると、考えるのは、やはり、その人間が、偏差値40だからだろう(爆笑)…
会社に入れば、まずは、そこに、どんな人間が、いるのか、見る…
どんな人間というのは、まずは、学歴…
どんな職場でも、仮に、その職場の人間が、早稲田や、慶応を出ているものが、大半なら、まずは、自分は出世が難しいと考えるのが、普通だろう(笑)…
その中で、高卒で、入って、出世できると、思うのが、間違っている…
それは、サラリーマン金太郎の世界…
マンガの世界に他ならない…
現実には、ありえない話だからだ…
もし、サラリーマン金太郎の世界が、この世の中に、現実にあると、考えるのなら、頭が、おかしいのだろう…
よほど、頭が、おかしいのだろう…
話を元に、戻そう…
つまりは、学校を出て、仕事に就いた…
が、
そこで、得たのは、経験だけ…
別に、頭がよくなったわけでも、なんでもない…
仕事を通じて、さまざまな経験をしただけだ…
頭が、良くなったわけでも、なんでもない…
仮に、そこで、たいした学歴もないのに、出世できたとすれば、まずは、その仕事が、自分に合っているのだろう…
出世の有無は、仕事が、自分に合っているのか、いないのかが、一番大事だからだ…
後は、運…
仮に、自分の方が、頭が悪いにも、かかわらず、頭のよいひとよりも、自分が、出世したのだとしたら、まずは、運が良いと、思うこと…
ただ、その前提に、その仕事が、自分に合っているか、否かが、大切だ…
そして、仕事は、どんな職場でも、出世ができる前提では、マネジメント能力が、求められる…
さきほど、例にあげた高校が、偏差値40出身の人間では、マネジメントは、無理…
あくまで、現場で、仕事が、できるので、あって、マネジメント=管理は、無理だからだ…
そして、やはり、それが、わからないのが、偏差値40なのだろうと、考える…
今では、そう、思える…
そして、そんな体験をしたのは、まだ会社が、小さかったとき…
会社が、小さいから、ひとが選べない…
だから、学歴が、低くても、入って来られたからだ…
それが、今、従業員は、千人にも、達した…
当たり前だが、社員は、大半が、大卒…
それも、著名な大学を出ているものが、多い…
そして、もし、その偏差値40の高校を出たひとが、会社に残っていたとしても、出世は、もちろん無理だが、それ以前に、著名な大学を出たひとたちと、話が、合わないだろう…
話をすれば、大半の人間が、相手の学歴が、わかる…
極端な話、東大を出たものと、さっき言った偏差値40の高校を出たものが、席を並べて、仕事をしていても、まずは、仕事以前に、会話が、噛み合わない…
それが、わからないのが、おかしい…
それは、また、結婚も、同じ…
同じだ…
いくら、美人でも、偏差値40の高校を出た女が、東大卒のエリートと結婚できるはずもない…
いや、実際は、世間にそれなりに、いるかも、しれない…
しかし、私に言わせれば、話が合うのだろうか?
大いに、疑問だ…
これは、差別と言えば、差別だが、現実に、話が、合うか、どうか、だ…
東大は、大げさだが、仮に、自分の住む地域で、偏差値40の高校を出たものと、偏差値70の高校を出たものが、結婚して、うまくいくかと、考えれば、そんなこと、ありえないと、考えるのが、普通だろう…
どうしても、頭の差があると、いっしょにいるのは、難しい…
会話が噛み合わないからだ…
お互いに、興味を、持つものが、異なるからだ…
それでも、うまくいくのは、昔から、知っている場合…
近所の幼馴染で、物心つかない頃から、知っていて、いっしょに、遊んだ間柄の男女とか…
子供の頃から、知っていれば、意外に、頭の差を感じないことも、大きい…
アイツは、ああいうヤツだと、お互い、思っているからだ…
だから、互いを受け入れられる…
が、
そんな例は、稀だろう…
実際には、ほとんど、ありえないだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、いつしか、夕方になり、ナオキが、家に戻って来た…
私は、ナオキが、家に戻って来たタイミングで、今日、あったことを、話そうと思った…
昼間、あの諏訪野昭子と会ったことを、話そうと、思った…
が、
それどころでは、なかった…
それは、一目、ナオキの顔色を見たときから、わかった…
なにか、あったと、わかった…




