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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 81

 だが、これで、わかった…


 あの和子が、どうして、私を選んだのか?


 わかった…


 五井の血の掟…


 五井一族は、原則、一族内の結婚を推奨する…


 なぜ、それを、破ってまで、私を伸明と結婚させたいのか、わかった…


 すべては、一族内のゴタゴタを回避するためだと、わかった…


 たしかに、伸明と結婚すれば、その一族は、力を持つ…


 その分家は、力を持つだろう…


 その結果、一族内のパワーバランスが、崩れる…


 それを、和子が、恐れたのだろう…


 一族内のパワーバランスが、崩れることで、一族内で、ゴタゴタが、起きることを、恐れたのだろう…


 それが、わかった…


 そして、それが、わかったことで、ホッとした…


 心の底から、ホッとした…


 あの和子が、なんで、私を伸明のお嫁さんに推そうとしているのか、わからなかったからだ…


 それが、ずっと謎だったからだ…


 私を伸明のお嫁さんに推すのが、私をからかっていたりするのなら、まだ、わかる…


 しかしながら、和子は、本気だった…


 あの和子は、本気で、私を伸明と結婚させたがっていた…


 だが、なぜなのか?


 それが、わからなかった…


 その理由が、わからなかった…


 その理由が、今、わかった…


 そして、それが、わかれば、いろいろと、見えてきた…


 いろいろと、和子の狙いが、見えてきた…


 もし、私が、伸明と結婚すれば、私は、一般人…


 私には、後ろ盾が、なにもない…


 おそらく、それが、よかったのだろう…


 もし、私が、どこかのお金持ちの一族なら、伸明と結婚することで、その一族が、アレコレ、五井の運営に口を挟むかも、しれない…


 その結果、またも、五井のパワーバランスが、崩れるかも、しれない…


 そして、もし、そんなことが、起きるようなら、最初から、そんな女とは、結婚しないのが、一番…


 一番だからだ…


 だから、あの和子は、私を選んだ…


 私、寿綾乃を選んだ…


 そう、考えれば、納得する…


 実に、納得する…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、思っていると、


 「…寿さん、なんだか、ホッとしたようね…」


 と、昭子が、言ってきた…


 あの和子の双子の姉である、この昭子が、言って来た…


 それゆえ、私は、


 「…なんだか、ホッとして…」


 と、打ち明けた…


 「…どうして、ホッとしたの?…」


 「…いえ、和子さんが、どうして、伸明さんの妻に私を推したのか、ずっと、わからなくて…それが、今、わかって…」


 「…寿さんを選ぶことで、一族内のゴタゴタを避けられると、思ったから?…」


 「…ハイ…おっしゃる通りです…」


 「…でも、たぶん、それだけじゃないわ…」


 「…と、いいますと?…」


 「…たぶん、建造さん…」


 「…建造さん?…」


 「…寿さんは、建造さんと、縁があるでしょ? だから、寿さんと、伸明が、結婚することで、建造さんが、喜ぶと、思ったんだと、思う…」


 「…」


 「…建造さんは、自分を殺して、当主の責務を果たした…それを、間近で、見ていた和子は、寿さんの出自を知って、寿さんを応援しようとした…それが、建造さんの喜ぶことだと、知っていたから…」


 あっさりと、和子は、言った…


 私が、思っていた通りのことを、言った…


 あの建造は、叔母を愛した…


 私の容姿に似た、美人の叔母を、愛した…


 それゆえ、私を可愛がった…


 建造が、生きている間は、気付かなかったが、叔母に私が、似ていたから、可愛がった…


 当時は、建造が、なぜ、私によくしてくれるのか、わからなかった…


 まさか、私に下心があるわけでも、なかった…


 それは、接していれば、わかる…


 接していれば、父子ほど、歳が離れていても、下心があるか、ないか、わかる(苦笑)…


 建造に下心はなかった…


 ただ、私が、かつて、建造の愛した叔母に似ていた…


 それゆえ、たぶん、私を自分の娘か、あるいは、少なくとも、叔母の姪あたりだと、気付いていたのだろう…


 血が繋がっているに、違いないと、気付いたのだろう…


 それゆえ、私に優しくした…


 まるで、実の娘のように、溺愛した…


 当時は、気付かなかったが、今となっては、それが、わかる…


 十分過ぎるほど、よくわかる…


 そして、そこまで、考えたとき、もうひとつ、気がかりなことを、思い出した…

 

 それは、菊池リン…


 和子の孫の菊池リンだ…


 彼女の目的が、わからない…


 彼女の狙いが、わからない…


 ただ、間違いなく、今回の、伸明や、ナオキの結婚の偽情報を流すに当たって、あの菊池リンが、絡んでいる…


 和子の孫の菊池リンが、絡んでいる…


 普通に、考えれば、和子の命で、動いていると、思いたいところだが、さもありなん…


 とても、そうは、思えない…


 和子の指示で、動いているようには、思えない…


 むしろ、自分の欲望に従って、動いているように、思える…


 つまりは、自死した、この昭子の血の繋がった息子の秀樹のように、自分の欲望を優先する人間に、見えるのだ…


 だから、聞くことにした…


 この昭子に、聞くことにした…


 「…あの、お聞きしたいことが、あるのだけれども、よろしいでしょうか?…」


 と、言って、聞くことにした…


 「…なに、寿さん…」


 「…お聞きしたいのは、リンさん…菊池リンさんのことです…」


 私の言葉に、昭子の表情が、曇った…


 一瞬で、曇った…


 そして、出てきた言葉は、

 

 「…あの子は、野心家…」


 と、言う言葉だった…


 「…野心家?…」


 「…そう、野心家…あの娘は、秀樹に似ている…」


 「…」


 「…でも、秀樹ほど、野心家ではない…」


 「…」


 「…それは、寿さんにも、わかっているはず…」


 「…」


 「…ただ、あの子は、我がまま…生粋のお嬢様だから、我がまま…それが、出ている…」


 「…」


 「…こう言っては、なんだけれども、伸明は生粋のボンボンだけれども、生来、内気で、それが、原因で、学生時代、うまく、人間関係を、構築できなかった…でも、それが、良かった…」


 「…良かった? どうして、良かったんですか?…」


 「…周囲が、自分の思い通りにならないことが、わかって、よかったんだと、思う…お金持ちだから、なんでも、できると、考えるように、ならなくて、よかったんだと、思う…」


 「…」


 「…でも、あのリンは、真逆…」


 「…真逆?…」


 「…ルックスも、可愛いし、周囲から、五井家のお嬢様だと、溺愛されて、育った…だから、我がまま放題…周囲が、自分の思い通りにならないと、怒り出す…寿さんも、知っているでしょ?…」


 「…それは…」


 それ以上は、言えなかった…


 私は、最初、出会った当初は、菊池リンを溺愛した…


 あの菊池リンは、可愛いい系…


 いわゆる、妹系…


 可愛い顔をした妹系の美人だ…


 それゆえ、こちらも、そんな菊池リンに、


 「…綾乃さん…」


 「…綾乃さん…」


 と、呼ばれて、私になつかれたことで、油断した…


 すっかり、警戒心を解いてしまった…


 気が付けば、すっかり、あの菊池リンは、私のガードをくぐって、私の懐に入り込んだ…


 そして、私の素性を探った…


 そして、その一部始終を、あの和子に、報告した…


 あの菊池リンは、スパイ…


 和子が、私に放ったスパイだった…


 私が、五井家前当主、建造の血を引いた、実の娘だと、疑っていたからだ…


 建造の娘ならば、遺産を譲らなければ、ならない…


 それを、恐れたのだ…


 それゆえ、私を探った…


 私の素性を探った…


 菊池リンを、使って、探った…


 それが、あの菊池リンとの、出会いのきっかけだったが、役目を終えた、菊池リンは、素顔を出した…


 素顔を晒した…


 それは、嫉妬…


 お嬢様特有の我がままな、嫉妬深さだった…


 要するに、自分が、一番でなければ、すまない性格…


 それは、おそらく、彼女、菊池リンが、可愛いいから…


 可愛く生まれたからだろう…


 お金持ちのお嬢様で、ルックスも、いい…


 それゆえ、我がままになる…


 何事も、自分が、一番で、なければ、すまなくなる…


 彼女にとって、私は、目の上のたんこぶだった…


 それは、なぜか?


 それは、私が、美人だから(苦笑)…


 私が、美人だからに、他ならない…


 だから、邪魔…


 私が、身近にいては、自分が、一番になれないから、邪魔…


 自分が、一番になれないのが、許せない…


 それが、あの菊池リンの素顔だった…


 それが、わかったときは、文字通り驚いたが、それ以上に、自分の甘さを痛感した…


 矢代綾子の名前を捨て、寿綾乃として、生きてきている以上、それを、知られるのが、まずい…


 バレるのは、まずい…


 それゆえ、警戒して、生きてきたと、思っていたからだ…


 それが、彼女の前では、あっさりと、ガードをはずした…


 それが、自分の甘さ…


 彼女の正体を知ったときには、驚いたが、少し、時間が経てば、当たり前かなと、思うように、なった…


 金持ちの家に生まれ、ルックスも良い…


 しかも、私のような美人ではなく、可愛いい系…


 美人よりも、可愛いい系の方が、周囲から、愛される…


 それゆえ、我がままになる…


 周囲の人間が、自分の思う通りに、動くからだ…


 この点が、伸明と大きく異なる…


 伸明は、イケメンだが、当然のことながら、可愛い系ではない…


 周囲に愛されるタイプの顔でも、キャラでもない…


 この点が、あの菊池リンと大きく異なる…


 それゆえ、一方は、愛され、もう一方は、うまく、周囲と人間関係を築けずに、孤立した…

 

 そういうことだろう…


 男と女の違いは、あれども、そういうことだろう…


 が、


 それゆえ、伸明は、調子に乗らなかった…


 それが、生きた…


 それが、有利に働いた…


 調子に乗らないことで、自分を律することが、できたからだ…


 一方のリンは、自分を律することができなかった…


 正真正銘のお嬢様として、育てられ、周囲から、ちやほやされ、甘やかされて、育った…


 それが、いけなかった…


 だから、それを、思えば、物事は、どう転ぶか、わからない…


 子供の頃に、人間関係をうまく構築できなかった伸明は、お金持ちにも、かかわらず、自分を律することが、できるようになり、真逆に、甘やかされて育った菊池リンは、その反動で、自分を律することが、できなかった…


 だから、どう出るか、わからない…


 子供の頃の体験が、その後の、そのひとの人格形成にどう出るか、わからない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


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