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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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73/225

寿綾乃という女 第4部 73

 私は、どう、答えていいか、わからなかった…


 だから、戸惑った…


 が、


 答えないわけには、いかない…


 答えなければ、この昭子が、私に対して、どう出るか、わからない…


 それゆえ、


 「…いえ、伸明さんとは、随分、違うなと…」


 と、遠慮がちに言った…


 慎重に、言った…


 が、


 この昭子は、そんな私の気持ちをわかってか、わからないのか、わからないが、


 「…それは、違うわよ…」


 と、あっさりと、言った…


 「…血が繋がっていれば、性格が同じわけないでしょ?…」


 と、早口で、続ける…


 「…それは、寿さんも、同じ…」


 「…私ですか? なにが、同じなんですか?…」


 「…寿さんのお母様、美人?…」


 「…それは…」


 「…その口調では、美人では、ないようね…」


 「…」


 「…それと、同じ…母親が、美人で、なくても、美人が生まれる…」


 「…」


 「…私と伸明も、それと、同じ…でも、寿さん?…」


 「…ハイ…なんでしょうか?…」


 「…寿さんのお母様が美人でなかったら、寿さんのお母様の姉妹か、または、おばあさま…あるいは、父方の親類…どこかに、寿さんに似た美人が、いるでしょ?…」


 「…ハイ…」


 ずばり、核心を突いた…


 たしかに、私の場合は、叔母が、美人…


 母の妹が、美人だ…


 私に似た美人だ…


 そして、その叔母こそが、この昭子の夫だった、亡くなった、五井家前当主、建造が愛した女だった…


 だから、そう、思うと、私と、この昭子は。不思議な縁…


 実に、不思議な縁で繋がっていると、思った…


 そして、そう、考えていると、


 「…やっぱりね…」


 と、昭子が、納得した…


 それから、


 「…当たり前よね…」


 と、しみじみ、呟いた…


 「…寿さんが、美人でいるのは、誰か、一族の美人の血を引いたから…父親でも、母親でも、美人の一族の血を引いたから…誰も、美人がいないのに、美人が生まれるわけ、ないじゃない? 無から有は、生まれないの…」


 あっさりと、言う…


 実に、あっさりと、言う…


 「…ルックスと頭は、同じ…」


 「…同じ? なにが、同じなんですか?…」


 「…血よ、血…」


 「…血?…」


 「…遺伝…残念ながら、これは、事実…間違いない…」


 「…」


 「…まあ、五井なんて、四百年も続く、一族と、顔を会わせていれば、嫌でも。そう、考える…このひとは、親戚のだれだれさんに、似ているとか…」


 そう、言って、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…まあ、カビの生えた一族ね…」


 「…カビですか?…」


 「…コケとも、言っても、いい…」


 そう、言って、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…まあ、あんなところには、一秒たりとも、いたくなかった…でも、私の役割は、和子が、やってくれるし…居心地は悪くなかった…」


 昭子が告白する…


 そして、昭子が、次に、口を開く前に、注文したメニューがやってきた…


 機械に運ばれて、やって来た…


 これには、私も驚いた…


 テレビやネットで、見たことはあるが、実物を見るのは、初めてだったからだ…


 そして、それは、この昭子も、同じだったようだ…


 ただ、私のようには、思っていても、態度には、出さずにいた…


 ただ、一言、


 「…まさか、ロボットが、持ってくるとは、思わなかった…」


 と、苦笑した…


 「…人手不足だから、わかるけれども、これが進むと、人間の仕事が、なくなっちゃうわよ…」


 と、嘆いた…


 たしかに、その通り…


 その通りだった…


 「…このロボットを見ると、昔は、明るい未来を夢見ていたけども、どうも違うわね…」


 「…どう、違うんですか?…」


 「ロボットが、ひとの代わりに、働く、明るい未来…進歩した未来…でも、今は、違う

…人間の仕事が、ロボットに奪われるんじゃないか? そう、思ってしまう…」


 けだし、名言…


 名言だった…


 たしかに、そう…


 そう、思ってしまう…


 私は、そう、思いながら、ロボットから、運ばれてきた料理を取った…


 そして、料理を取り終えると、ロボットは、あっけなく、帰って行った…


 当たり前だが、帰って行った…


 その姿を見て、味気ないというか…


 やはり、人間に運んできてもらいたい…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そう、思っていると、昭子が、私の視線に気付いたのだろう…


 「…寿さん、なにを、見ているの?…」


 と、聞いてきた…


 私は、一瞬、迷ったが、すぐに、


 「…いえ、なんだか、味気ないなと、思って…」


 と、答えた…


 「…味気ない?…」


 「…ハイ…」


 「…どうして、そう、思うの?…」


 「…やっぱり、人間が、持ってくる方が、温かみがあると、思って…」


 「…温かみ?…そんなもの、あるわけないじゃない!…」


 昭子が、あっさりと、否定した…


 「…寿さんの言うことは、わかる…でも、それは、幻想…」


 「…幻想?…」


 「…人間が、持ってくれば、料理が、暖かくて、ロボットが持ってくれば、料理が冷たいわけ、ないでしょ?…」


 「…それは、そうでしょうが…」


 「…寿さんの言っていることは、幻想…昔、坂口安吾という作家がいたのよ…寿さん、知っている?…」


 「…名前は、聞いたことが、あります…」


 「…その坂口安吾が、今、寿さんが、言ったことと、同じことを、言ったの?…」


 「…えっ? 同じこと?…」


 「…ちょうど、日本が戦争に負けた直後に、今の寿さんと、同じことを、言ったの…」


 「…なんて、言ったんですか?…」


 「…戦前は、エレベーターは、今のように、電動式じゃなく、エレベーターの中で、大きなハンドルをひとが、回して、動かしたの…」


 「…ひとが、回して…ですか?…」


 「…今から、八十年以上前だから、エレベーターも今のように、ボタンひとつで、動くわけじゃない…でも、人間が、階段を上って、上に上がるより、はるかに、楽だったのよ…」


 「…」


 「…でも、戦前は、よくひとが、そんな楽をするより、階段を上れ…それが、勤労の喜びだとか、なんとか、言っていたらしい…」


 「…」


 「…でも、その安吾が、勤労の喜び? バカなんじゃないか、と、本で書いたの…」


 「…バカ? どうして、バカなんですか?…」


 「…だって、当時でも、エレベーターで、ハンドルを回した方が、階段を上るよりも、ずっと楽だった…わざわざ、苦労して、階段を上る必要なんて、ないじゃない? でしょ?…」


 「…それは…」


 「…つまり、安吾は、そんな勤労の喜びなんて、バカなことを、言う、戦前の日本社会そのものが、ダメだった…そう喝破したのね…」


 「…」


 「…そして、今、寿さんが、言った、ロボットの件も同じ…言いたいことは、わかるけれども、それでは、社会の発展は、ないわ…」


 ずばり、言った…


 実に、明快に言った…


 そして、これを言った昭子を、まじまじと見た…


 つい、まじまじと見た…


 現実主義者…


 徹底的な現実主義者…


 冷徹な現実主義者だと、思った…


 そして、


 …だからか!…


 と、納得した…


 なにが、だからなのか?


 それは、この昭子が、今、現れた理由…


 私の前に現れた理由だ…


 それは、なぜか?


 それは、あの和子が倒れたから…


 この昭子の双子の妹の和子が、倒れたからに他ならない…


 この昭子の双子の妹の和子は、伸明の後見人…


 この昭子の産んだ、伸明の後見人だ…


 すなわち、和子が、倒れた今、伸明をサポートするものは、皆無…


 誰も、いない…


 それゆえ、この昭子は、伸明をサポートするべく、再び、現れた…


 五井を追放された身にも、かかわらず、再び、現れた…


 そういうことだと、思った…


 そういうことだと、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


 相変わらず、トロい…


 自分は、トロい…


 周囲は、私を、そう、見ないが、実際は、トロい…


 トロ過ぎるほど、トロい…


 そう、思った…


 そう、気付いた…


 そして、同時に、気付いた…


 この昭子が、やって来たということは、やはり、あの和子は、重篤…


 重い症状なのだろうと、気付いた…


 そうで、なければ、この昭子が、やって来るわけがないからだ…


 姿を現すことなど、ないからだ…


 五井家から、追放された、この昭子が現れることは、ないからだ…


 そう、思った…


 あらためて、思った…


 同時に、気付いた…


 この昭子が、やって来たということは、もしや、あの伸明の身に、なにか、起こると、思ったのではないか?


 そう、思ったから、やって来た…


 そういうことだと、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


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