↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/225

寿綾乃という女 第4部 68

 だが、待て…


 五井は、そんなに、FK興産の株を持っていただろうか?


 たしか、そんなに、持っていない…


 せいぜい、30%も、持っていなかったはずだ…


 それを、思い出した…


 大半は、有していない…


 五井は、半分も、FK興産の株を持っていない…


 それを、思い出したのだ…


 それゆえ、


 「…ねえ、ナオキ…」


 と、話しかけた…


 「…五井は、FK興産の株を、そんなに、持っていないでしょ?…」


 と、話しかけた…


 目の前のナオキは、缶チューハイを飲むのを、やめて、私を見た…


 「…たしかに、綾乃さんの言う通りだ…」


 と、言いながら、私を見た…


 「…それなら、株主が、変わったところで、社長のナオキが、会社から、追放されるはずが、ないでしょ?…」


 私が、言うと、ナオキは、無言で、私を見た…


 真剣な表情で、見た…


 それから、


 「…たしかに、綾乃さんの言う通りだ…」


 と、再び、同じことを、言った…


 「…五井は、株で、言えば、ホワイトナイトのようなものだった…」


 「…ホワイトナイト? なに、それ?…」


 「…会社が、どこかの企業から、買収されかけたとき、その会社に有利に、その会社の株を、買い取ってくれる企業のことさ…」


 「…なに、それ? もっとわかりやすく、説明して…」


 「…わかりやすくといっても…そうだ…例えてみれば、綾乃さんだ…」


 「…私?…」


 「…そう、例えば、綾乃さんが、誰かと結婚していて、別れなければ、ならなくなる…そして、別の誰かと結婚しなければ、ならなくなる…そしたら、少しでも、自分の有利な条件で、相手と結婚したい…それと、同じだ…」


 「…どう、同じなの?…」


 「…仮にFK興産が、売られるとしても、少しでも、有利な条件で、売りたい…五井は、その点で、言えば、ボクにとって、有利だった…FK興産の株を買っても、経営に一切、口を挟まなかったからだ…でも、五井が、株を売れば、その株を買った株主は、経営に口を挟んでくるだろう…たとえ、ボクをクビにしなくても、ひとを送りこんできて、取締役にして、経営に口を挟んでくるだろう…つまりは、これまでのように、いかなくなってくる…ボクの意思が、通らなくなってくる…」


 ナオキは、そう激白した…


 激白して、一気に、缶チューハイを飲み干した…


 「…綾乃さん、もう一本…」


 ナオキが、要求する…


 私は、ナオキに言われて、席を立ち、冷蔵庫の中から、缶チューハイを取り出した…


 そして、それを、ナオキの前に出した…


 「…ありがとう…」


 と、ナオキは、言って、受け取ると、早速、缶を開けて、飲み出した…


 どこかで、見た光景だった…


 既視感というか…


 これと、同じ、光景を最近、見た覚えがある…


 どこで、見たのだろうか?


 考えた…


 そうだ、伸明だ…


 伸明の自宅だ…


 伸明の見合いの後だ…


 伸明は、冷蔵庫から缶チューハイを、取り出して、飲んだ…


 今のナオキと、同じように、飲んだ…


 似ている…


 実に、似ている…


 そう、思った…


 このナオキと、伸明は、つくづく似ている…


 長身で、イケメン…


 性格も、おとなしい…


 また、二人とも、頭も良い…


 だから、気が合う…


 気が合うのだろう…


 そんな二人だから、気が合うのだろう…


 そう、思うと、なんだか、楽しくなった…


 楽しくなって、つい、ニヤリと笑ってしまった…


 それを、ナオキは、見逃さなかった…


 「…綾乃さん、なにを、笑っているの?…」


 と、言った…


 私は、笑いながら、


 「…ナオキと伸明さんって、ホント、似ている…」


 と、言った…


 「…似ている? …ボクと、諏訪野さんが?…」


 「…そう、似ている…」


 「…どんなところが、似ているの?…」


 真顔で、聞いてくる…


 「…二人とも、長身で、イケメン…頭もいい…でも、おとなしい…」


 それを、聞くと、ナオキは、無言で、缶チューハイをグイッと、飲んだ…


 そして、缶から、口を離して、呟く…


 「…綾乃さんの言うことは、わかる…」


 と、しみじみ、呟いた…


 「…ボクと諏訪野さんは、似ている…」


 と、呟く…


 「…例えば、中学や高校で、同じクラスにいれば、真っ先に、友達になるタイプだ…」


 「…」


 「…たぶん、だからかな…諏訪野さんは、FK興産の株を入手しても、FK興産の経営に口を挟まなかった…きっと、ボクに遠慮していたんだろう…」


 それから、私を見た…


 まっすぐに、私を見た…


 そして、


 「…いや、ボクだけじゃない…綾乃さんも、いるからかな…」


 と、付け加えた…


 「…私が、いるから? どうして、私が、いるからなの…」


 「…諏訪野さんが、綾乃さんを、好きだからさ…」


 「…」


 「…綾乃さんだって、それは、わかっているだろ?…」


 「…それは…」


 「…わかっているけれども、答えられない…でしょ?…」


 「…」


 「…誰だって、好きな女の嫌がることは、しない…いや、女だけじゃない…男も、同じ…好きな人間の嫌がることは、男女を問わず、やらない…」


 「…」


 「…でも、それは、諏訪野さんの弱さかも、しれない…」


 「…弱さ?…どうして、弱さなの?…」


 「…経営者である以上、もっと、冷酷であるべきだ…もっと、冷徹であるべきだ…」


 「…どういうこと?…」


 「…ホントは、諏訪野さんの立場なら、FK興産を、乗っ取るべきか、はたまた、今ある、FK興産の株を全株、売却して、FK興産から、手を引くのが、賢明だと、思う…」


 「…どうして、そう思うの?…」


 「…もっていても、たいしたメリットは、ないからさ…」


 「…」


 「…だから、手に入れるか、売却するかの、二択…それ以外の選択肢はない…」


 「…」


 「…でも、それを、しないのは、諏訪野さんの優しさだけれども、それが、同時に、諏訪野さんの弱さだと、思う…」


 「…」


 「…いいひとだけれども、それでは、経営者失格だ…」


 ナオキが、言う…


 初めて、ナオキが、伸明を批判した…


 私は、驚いたが、さもありなんとも、思った…


 なにより、このナオキの言うことは、正論…


 正論だからだ…


 だから、悪気はない…


 ただ、冷静に、経営者としての伸明を評価しただけだからだ…


 私は、そう、考えた…


 そして、そう、考えてから、


 「…だったら、ナオキ…アナタは、伸明さんの立場なら、どうするの? 社長のアナタをクビにする? それとも、株を売る…」


 私が、言うと、ナオキが、呆気に取られた顔で、私を見た…


 まじまじと、見た…


 それから、少し、考えてから、


 「…たぶん、どっちもできない…」


 と、首を横に振った…


 「…諏訪野さんと、同じ…宙ぶらりんのままだ…」


 と、言って、笑った…


 次いで、


 「…だから、かも、しれない…」


 と、言った…


 「…なにが、だからかも、しれないの?…」


 「…会社が、大きくならないこと…」


 「…どういうこと?…」


 「…ボクが、もっと、やり手なら、従業員が、今の千人から、すぐに、二千人、三千人と、なっているはずだ…それが、できないのは、やはり、ボクが、無能のせい…」


 「…無能のせい?…」


 「…いずれにしろ、中途半端な男だよ…」


 ナオキは、そう言ってから、また缶チューハイを飲んだ…


 それから、


 「…申し訳ないが、諏訪野さんも、そう…ボクと同じだ…中途半端だ…経営者として、冷徹になれない…もっとも、ボクは、だから、彼のことが、好きなのかも、しれない…経営者として、冷徹になれないから、好きなのかも、しれない…」


 「…」


 「…真逆に、経営者として、冷徹な人間なら、その経営者も、また、人間として、冷徹…冷たい人間だろう…普段は、いつも、温厚で、経営のときだけ、冷徹な人間はいない…そういう人間は、根っこが、冷たいのさ…」


 「…」


 「…綾乃さんも、諏訪野さんが、好きなのは、彼が、冷徹な人間じゃないからだろ?…」


 「…それは…」


 「…いや、いいんだ…そんな綾乃さんだから、好きになれる…諏訪野さんを、好きな綾乃さんだから、好きになれる…」


 「…」


 「…誰だって、自分が好きな人間が、ただ、相手が、金持ちだったりするだけで、その人間にすり寄ろうとするのを、見れば、幻滅するよ…」


 「…幻滅…」


 「…ボクの好きな綾乃さんには、そんな理由で、諏訪野さんを、好きになって、もらいたくない…それが、偽らざる真実…」


 ナオキは、そう言うと、缶チューハイを一気に飲み干した…


 そして、


 「…綾乃さん、もう一本…」


 と、私に、言った…


 「…ナオキ…そんなに、飲んでいいの?…」


 「…いいの…誰だって、酔いたくなるときがある…」


 そう、言われると、なにも、言えなかった…


 なにも、言い返せなかった…


 それゆえ、ナオキに言われた通り、冷蔵庫から、缶チューハイを、もう一本取り出した…


 そして、それを、ナオキの前に出した…


 「…ナオキ…これで、最後にして…」


 と、言って、出した…


 「…ありがとう…」


 ナオキは、言って、缶チューハイを、飲み出した…


 ただ、酔いたい…


 それが、すべてだと、わかった…


 ただ、自分の置かれた状況を、忘れたいのかも、しれない…


 それが、ナオキの今日の酒の飲み方に現れていた…


 いつものナオキではない…


 いつもの、ナオキの飲み方ではない…


 が、


 私は、それを、許した…


 誰だって、酔いたいときがある…


 酔って、すべてを、忘れたいときが、ある…


 それは、この私だって、例外ではない…


 この寿綾乃だって、例外ではないからだ…


 ただ、そんなナオキを近くで、見ているのは、嫌だった…


 それゆえ、そっと、ナオキの元を離れ、自分の部屋に行った…


 自分の部屋に行き、ベッドに横になった…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。