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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 62

 そして、たぶん、そんな私の心情が、私の顔に出たのだろう…


 目の前の菊池リンが、


 「…綾乃さん、私の話を聞いてくれますよね?…」


 と、当然のように、言った…


 私は、癪に障ったが、仕方がない…


 彼女と話すことにした…


 が、


 買い物をやめるわけには、いかない…


 それゆえ、


 「…菊池さん、この買い物が終わった後、お話ししましょう…」


 と、答えた…


 菊池リンは、一瞬、むっとした表情をした…


 おそらく、今、すぐ、私と、話したかったのだろう…


 勝気ゆえに、そう、したかったのだろう…


 自分勝手ゆえに、そう、したかったのだろう…


 常に、自分の意思を優先してもらいたかったのだろう…


 しかし、そうは、いかない…


 まずは、私の買い物が優先…


 次に、菊池リン…


 これが、私にできる精一杯の抵抗…


 彼女、菊池リンに対して、できる精一杯の抵抗だった…


 彼女は、私の言葉に、仕方なく、従った…


 が、


 私の買い物が、終わるのを、待っているのではなく、私に付き従った…


 私の買い物に、同行した…


 考えてみれば、わかる…


 ただ、どこかで、私の買い物が、終わるのを、待っているのは、退屈…


 退屈で、仕方がないからだ…


 だから、私に付き従った…


 が、


 これは、失敗…


 失敗だった…


 なぜなら、私が、どんなものを、買うのか、彼女にわかってしまう…


 彼女は、おそらく、私の給与の額を知っているのだろうが、それでも、私が、なにを買うか、知られるのは、嫌…


 私の生活を見られるようで、嫌だった…


 これは、同じ…


 皆、同じだ…


 男であれ、女であれ、自分の生活を他人に見られるのは、嫌だ…


 自分の給与がいくらで、普段、どんなものを、買い、どんなものを食べて生活しているか、第三者である他人に知られるのは、嫌だからだ…


 だから、失敗した…


 私が、スーパーのかごを持って、食品をあれこれ、選んでいると、横から、


 「…へぇー、綾乃さん、こんなもの、買うんだ…」


 とか、


 「…綾乃さん、意外? こんなもの食べるんだ?…」


 とか、いちいち、口を出した…


 私は、最初、それは、興味本位からだと、思ったが、よくよく、考えると、それは、皮肉…


 皮肉以外の何物でも、なかった…


 だから、たぶん、私と、菊池リンが、いっしょに、いるのを、見て、何も知らない他人は、歳の離れた姉妹か、仲の良い、会社の同僚か、なにか、だと、思うかも、しれないが、近くで、私たちの会話を聞いていると、それが、全然違うことを知って、驚く…


 そんな感じだった(苦笑)…


 私は、買い物中に、ほとんで、彼女、菊池リンの話に耳を貸さないものだから、やがて、彼女も、皮肉を言わなくなった…


 いくら、皮肉を言い続けても、相手が、反応しないのだから、当たり前だった…


 相手が、なにかしら、反応するから、皮肉を言い続ける…


 相手が、なにも、反応しなければ、言い続けても、仕方がないからだ…


 ようやく、買い物を終えると、私たちは、スーパーの中に、併設されている、スタバで、休んだ…


 今の時代、スタバは、どこにでも、ある…


 たしか、スタバ=スターバックスコーヒーが、日本で、はやり出した頃は、都会にしか、なかった…


 都会のおしゃれなところにしか、なかった…


 それが、スタバが、出店を加速するにつけて、日本中、どこにでも、できるようになった…


 その結果、私の住む地域にも、出店するようになった…


 私の住む、地域は、下町ではないが、高級街には、ほど遠い地域…


 それゆえ、以前には、スタバは、出店しなかった…


 下町や田舎に出店しては、都会のおしゃれなイメージが、保てないからだ…


 しかし、それでは、出店地域が、限られる…


 それゆえ、スタバは、それまでのおしゃれなイメージを捨て、多くの地域に出店することにした…


 私は、そんなことを、考えながら、この菊池リンと向き合った…

 

 正面から、向き合った…


 そして、彼女との、これまでのさまざまな因縁を、思い出した…


 思い出したくない因縁を、思い出した(苦笑)…


 彼女、菊池リンとの交流は、黒歴史…


 間違いなく、私の黒歴史だった(苦笑)…


 私の人生の汚点だった…


 彼女の愛くるしい笑顔に騙されたのは、私にとって、黒歴史以外の何物でも、なかった…


 率直に言って、私は、これまで、あそこまで、完璧に、ひとに騙されたことは、一度もない…


 この目の前の彼女、菊池リンが、初めてだった…


 初めて、完璧に騙された…


 その愛くるしい顔で、


 「…綾乃さん…綾乃さん…」


 と、言うものだから、つい、気を許した…


 それが、私の誤算…


 誤算だった…


 彼女、菊池リンは、容易に、私の懐に、飛び込んだ…


 普段、ガードの固い、私の懐に、飛び込んだ…


 その結果、私は、丸裸にされた…


 私が、本物の寿綾乃では、ないこと…


 私の正体が、本物の寿綾乃の従姉の矢代綾子であることを、知られた…


 そして、それを、ナオキの息子のジュン君に、知らせた…


 この菊池リンと、短期間だが、交際した、ジュン君に知らせた…


 そして、気が、動転した、ジュン君は、私をクルマで、轢き殺そうとした…


 私が、本物の寿綾乃ではないことと、同時に、ジュン君が、ナオキの血が繋がった親子では、ないことを、告げたからだ…


 そして、今、振り返れば、この菊池リンが、ジュン君と交際したことだって、おそらく、それは、私に近付くため…


 私の身近な人間と付き合うことで、私に、より近付き、私のことを、知るためだった…


 そして、そんなことを、あらためて、考えると、つくづく、この目の前の菊池リンの恐ろしさが、わかる…


 この可愛い顔の下に隠された、恐ろしさが、わかる…


 誰もが、彼女を見れば、可愛らしく、性格の良い、女のコだと、思う…


 私も、例外ではない…


 彼女の愛くるしいルックスにまんまと、騙された…


 そして…


と、いうことは、どうだ?


 これから、今、彼女が、私に対して話す話は、どこまで、信用ができる?


 どこまで、ホントか、どうか、信頼できる?


 私は、彼女と対峙して、あらためて、思った…


 思ったのだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、彼女、菊池リンが、笑った…


 実に、楽しそうに笑った…


 だから、私は、彼女に、


 「…菊池さん…随分、楽しそうね?…」


 と、言ってやった…


 もちろん、皮肉だ…


 皮肉以外の何物でもない…


 が、


 彼女は、動じなかった…


 おそらくと言うより、確実に、私が、皮肉を言ったことが、わかっているが、動じなかった…


 もっとも、こんなことで、動じる女ではないことは、わかっている…


 しかしながら、どうしても、皮肉を言いたい…


 今日、この菊池リンが、わざわざ、この私の元にやって来たことで、皮肉を言いたかったのだ…


 もちろん、この菊池リンも、目的が、なく、この私に会いにやって来るわけはない…


 当然、目的はある…


 ただ、その目的が、なんだか、それは、私には、わからない…


 わかるはずもなかった…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、


 「…それは、楽しいですよ…綾乃さんと、こうして、お茶するのは、ホント、久しぶりですから…」


 と、屈託なく笑った…


 まるで、私との間に、何事もなかったように、屈託なく、笑った…


 つくづく、この菊池リンは、食わせもの…


 食わせものだと、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


 同時に、思った…


 同時に、考えた…


 私は、まだ、女だから、いい…


 が、


 もし、私が、男だったら、どうなる?


 彼女に、簡単に騙されるだろう…


 この愛くるしい彼女に、簡単に騙されるだろう…


 簡単に騙され、結婚するだろう…


 そして、結婚して、いっしょに、暮らして、初めて、彼女の本性が、わかる…


 彼女の見た目とは、真逆の素顔に、気付く…


 が、


 そんなことは、この世間にありふれている…


 この日本、のみならず、世界中、どこでも、ありふれている…


 結婚するまでは、わからない…


 交際中は、男女とも、猫をかぶっているからだ(笑)…


 ねこをかぶる=素顔を、見せないからだ…


 あえて、良い面だけを出すからだ…


 だから、騙される…


 結婚して、いっしょに暮して、男女共に、


 「…こんなはずじゃ、なかった…」


 と、落胆する…


 世の中、そういうものだ…


 そういうものだからだ(苦笑)…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、目の前の菊池リンが、


 「…綾乃さん、今、なにを考えています?…」


 と、私に聞いてきた…


 だから、私は、


 「…いえ、菊池さんは、相変わらず、可愛らしいと、思って…」


 と、言うと、眉をひそめた…


 おそらく、私が、皮肉を言ったと、思ったのだろう…


 眉をひそめた…


 が、


 それは、一瞬…


 一瞬だけ…


 すぐに、元の表情に、戻って、


 「…綾乃さん、ありがとうございます…」


 と、私に礼を言った…


 それから、すぐに、


 「…綾乃さんこそ、キレイです…」


 と、私を褒めた…


 もちろん、これは、皮肉…


 皮肉に、他ならない…


 私が、彼女を褒めたのが、皮肉と、気付いたから、彼女も、また、皮肉で、返したに過ぎなかった…


 まるで、ボクシングで言えば、ジャブ…


 互いに、相手に、軽く、ジャブを放って、様子見をしたところか…


 まあ、互いに、気に入らない相手と、話しているのだから、当たり前だった…


 皮肉を言うのは、当たり前だった…


 そして、そんなことを、考えていると、すぐに、本題に入った…


 彼女が、私に会いに来た、本題に入った…


 彼女は、私をまっすぐに、見て、


 「…綾乃さんって、いつのまにか、本家の人間になったんですね?…」


 と、いきなり、言ったからだ…


 いきなり、言われたから、一瞬、意味がわからなかった…


 だから、


 「…本家の人間って?…」


 と、私は、目の前の菊池リンに聞き返した…


 すると、菊池リンは、笑いながら、


 「…またまた、綾乃さん、とぼけちゃって…」


 と、返した…


 もちろん、笑いながらだが、目は真剣…


 真剣だった…


 それゆえ、私は、


 「…とぼけるって?…」


 と、言った…


 菊池リンは、それを、受けて、


 「…綾乃さん、ホントに、わからないの?…」


 と、少し、真面目な感じに、なって、聞き直した…


 「…ええ…わからないわ…」


 すると、菊池リンは、真顔で、


 「…本家は、五井本家…綾乃さんが、五井本家の人間として、伸明さんの見合いに出席したのは、わかっている…」


 と、早口で、言った…


 それから、それに、付け足す感じで、


 「…だから、綾乃さんは、いつから、本家の人間になったと、言ったんです…」


 と、加えた…


 真顔になって、加えた…


 そして、表情が、真剣になった…


 実に、真剣な表情になった…


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