寿綾乃という女 第4部 60
それから、瞬く間に、一週間が過ぎた…
さすがに、その頃になると、私の体調も回復した…
すっかり、元に戻った…
ナオキには、鬼の霍乱と、笑われた…
私が、体調が回復したのを、見て、すっかり、安心したようだった…
「…いつもの綾乃さんだ…鬼の綾乃さんだ…」
と、言って、喜んだ…
散々な悪口だが、心の底から、言っていないことが、わかるから、許した…
むしろ、誉め言葉…
私に対する誉め言葉だった(苦笑)…
私の体調が、回復したから、言えた…
それだからだ…
そして、
そして、だ…
和子の容態…
五井記念病院に入院する和子の状態は、さすがに、世間に漏れ出した…
一部のマスコミが、嗅ぎ付けた…
五井の女帝、入院中と、嗅ぎ付けて、世間に報じた…
私は、驚いたが、少し考えて、当たり前だと、考え直した…
人の口に戸は立てられない…
和子が、長期に入院すれば、やがて、噂になる…
和子の入院が、世間に漏れて、噂になるのは、必定…
わかり切ったことだからだ…
それより、これまで、噂にならないほうが、おかしかった…
和子は著名人…
財界の著名人だからだ…
だから、すぐに、漏れないのは、おそらく、五井が、万全の体制を敷いていたから…
報道機関に、和子の容態について、世間に漏らさないように、厳命していたからだろう…
マスコミは、商売…
どうしても、利害関係のある五井から、要請されば、それを、記事にすることが、できない…
今は、それを、世間の誰もが、知っているから、オールドメディアと、世間から、バカにされる…
自分にとって、都合のいい情報しか、世間に流せないからだ…
だから、それを、見破られて、世間にバカにされる…
それゆえ、それは、今回も同じ…
同じだった…
和子の容態が、知れ渡ったのは、ネットから…
ネットから、拡散された…
インスタ等で、和子の容態が、話題になった…
それが、きっかけだった…
おそらく、五井記念病院に勤務するものか、その納入業者が、ネットに、その情報を、上げたのが、きっかけだった…
それゆえ、週刊誌が、動いた…
五井とあまり、関係のない週刊誌が動いた…
それが、真相だった…
記事では、和子の容態が、報じられたが、さすがに、写真までは、なかった…
元気な頃の写真はあったが、今現在、入院中の写真は、なかった…
もっとも、入院中の写真が、載れば、誰が、その写真を撮ったのが、特定される危険が、ある…
そのせいかも、しれなかった…
そして、その報道内容はといえば、私たちの知っていることと、同じ…
同じだった…
五井の女帝、諏訪野和子が、極秘裏に入院している…
五井記念病院に入院している…
それだけだった…
それだけで、さずがに、これから、起こるであろう、五井のゴタゴタについては、なにも、触れてなかった…
さすがに、そこまでは、書けないのだろう…
それは、禁忌…
禁忌=触れては、ならないタブーのことだからだ…
さすがに、五井グループを敵に回すことは、できないからだ…
だから、さすがに、そこまでは、書けない…
書けなかったのだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えながら、自宅で、過ごした…
自宅で、療養した…
カラダの調子は、だいぶ良くなったが、今の私は、無職…
事実上の無職だ…
FK興産の非常勤の取締役という肩書は、あるが、もはや、FK興産に出社することは、ない…
たぶん、永遠にない(苦笑)…
ただ、ナオキが、FK興産社長のナオキが、私に、金を与えるために、肩書を与えた…
それが、真相だからだ…
FK興産が、五井と提携する前に、ナオキが、私を、FK興産の非常勤の取締役にした…
五井と、資本提携すれば、もしかしたら、社長のナオキの意見が、通らなくなる…
それを、恐れたのだ…
それゆえ、五井と資本提携する前に、私をFK興産の非常勤の取締役にした…
もしかしたら、五井と資本提携した後に、私を非常勤の取締役にしたのは、おかしい…
解任しろ!
という声が出たら、私に退職金ではないが、非常勤の取締役を、辞めた名目で、私に、それなりのお金を与えるつもりだったに違いない…
が、
幸か不幸か、FK興産が、五井と資本提携してからも、なにも変わらなかった…
私に、非常勤の取締役を辞めろとは、誰も言って来なかった…
これは、おそらく、伸明のおかげでは、ないか?
伸明が、五井の関係者に指示して、FK興産の経営に、あまり、関与するなと、厳命しているのでは、ないか?
その証拠に、五井が、FK興産と、資本提携してからも、なにも、変わらない…
普通は、なにかしら、変わるものだ…
だが、そんな話は、ナオキから、聞いたことが、ない…
だから、なにも、変わらない…
なにも、変わらなかったことが、わかる…
かえって、FK興産は、五井と提携することで、経営が安定した…
また、五井の資本が、入ることで、世間的には、FK興産が、安定した企業だと、認識されたからだ…
かえって、知名度が上がった…
本当は、それまで、FK興産の知名度は、ナオキが、週一で、テレビのキャスターをしていたから…
長身で、イケメンのナオキは、テレビ向き…
テレビ向き=映像向き…
画面に映る以上は、ルックスがいいのが、一番だからだ…
それゆえ、それまでは、FK興産と言えば、藤原ナオキの会社だった…
つまりは、社長のナオキが、広告塔…
今で言えば、高須クリニックの社長に近い立ち位置だ(笑)…
高須クリニックの社長は、イケメンではないが、愛嬌がある…
それゆえ、視聴者が、安心できる…
高須クリニックという医療機関を安心できる…
それと、同じ…
同じだ…
ナオキが、FK興産の社長として、テレビに出るのは、それと、同じだ…
それが、FK興産が、五井と資本提携したことで、世間的な知名度が増し、さらには、経営的に安定した企業だと、世間から、見られるようになった…
さらには、五井が、資本提携したにも、かかわらず、経営には、基本、口を挟まない…
だから、社長のナオキとしては、いいことだけしか、なかった…
なかったのだ…
が、
そんないいことは、長くは、続かない…
そんな自分に都合がいいことは、長くは、続かない…
そんな夢のようなことは、長くは、続かない…
和子の入院が、それを、予言したと、言っても、いい…
私は、思った…
私は、考えたのだ…
そして、だいぶ、体調も、回復したから、私は、久しぶりに、買い物に、外に出ることにした…
一人で、買い物に出るのは、久しぶり…
実に、久しぶりだ…
やはり、たまには、外に出たい…
私は、今、基本、インドア派…
元々は、インドア派も、アウトドア派もない…
会社も、学校も、行かなければ、ならない…
家に閉じこもってばかりは、いられないからだ…
それが、病気になって、今、家に引きこもるようになった…
つまりは、望もうと、望まなかろうと、私の意思に関係なく、私は、インドア派になった(苦笑)…
それが、真相だった…
が、
さすがに、毎日、家に閉じこもっていては、飽きる…
さすがに、飽きる…
また、家に買いだめした、食料品も、乏しくなった…
それゆえ、買い出しに、行かなければ、ならない…
私は、仕方なく、外に出た(苦笑)…
実に、仕方なく、外に出た…
が、
いったん、外に出てしまえば、新鮮…
実に、新鮮だった…
外の空気を吸うのが、新鮮だった…
見るもの、聞くものが、新鮮だった…
普段、見慣れた、風景が、新鮮だった…
すると、途端に、外に出たのが、嬉しくなった…
それまで、頑なに、外に出るのが、嫌だったが、そんなことは、なかったように、嬉しくなった…
実に、天邪鬼というか…
自分に都合がいいことを、言う…
我ながら、そう、思った…
そう、思ったのだ…
空気がおいしい…
空がきれい…
とまでは、思わないが、やはり、家に閉じこもっているのとは、違う…
私は、そんなことを、考えながら、近所のスーパーに足を運んだ…
そして、食料を買いあさった…
もちろん、私一人だ…
大量には、買えない…
だから、自分が、一人で、持てる分だけ、買った…
やはり、肉や、魚、野菜といったものは、自分の目で、確かめて、買いたい…
例えば、缶ビールなどは、ネットで、頼んでも、いっしょ…
同じ製品が、届く…
が、
肉や、魚などは、一つ一つ、微妙に違う…
それゆえ、自分の目で選んで、購入したかった…
そして、ひとりで、持ち運べない分は、ネットで、購入…
ネットで、購入して、自宅まで、届けてもらう…
それが、一番だからだ…
私は、そんなことを、考えながら、スーパーで、食料品を吟味した…
一つ一つ、丁寧に、吟味した…
なにしろ、ひとりで、自宅まで、持ち運べる量は、限られる…
それゆえ、
…これは、必要…
…これは、不要…
と、考えながら、吟味してゆく…
だから、余計に、時間がかかった…
ビックリするほど、かかった…
まあ、これが、女の買い物だ…
これが、衣服なら、もっと、とんでもないくらい、時間がかかる…
一枚の服を買うにも、
…あっちが、いい…
いや、
こっちの方が、いい…
と、服をとっかえひっかえするからだ…
にもかかわらず、ちっとも、決まらない…
どれにするのか、決まらない…
女の買い物など、そんなもの…
そんなものだからだ…
私は、頭の隅で、そんなバカなことを、考えながら、買い物に、没頭した…
なにを、買うのか、没頭した…
何度も、繰り返すが、重いものは、買えない…
軽いものだけ…
私が今、自分で、自宅まで、持ち運べる分だけ、買うからだ…
だが、その選択が、楽しい…
久々の買い物が、楽しい…
やはり、買い物は、家で、ネットで、頼むより、自分の足で、スーパーまで、行って、選ぶのが、楽しい…
あらためて、そう、思った…
IT企業の非常勤の取締役をしているにも、かかわらず、そう、思った(笑)…
そして、私が、そんなことを、考えながら、買い物に夢中でいると、ふと、誰かの視線を感じた…
明らかに、誰かが、私を、見ている…
そう、感じた…
そして、私は、視線の先を見た…
どこから、見られているのか、見た…
そこには、見覚えのある、顔があった…
かつて、何度も、見た、顔があった…
そこには、愛嬌のある、顔があった…
誰もが、一目見て、好きになる、顔…
愛くるしい顔…
そして、その愛くるしい顔とは、裏腹に、どす黒い素顔…
菊池リンの姿があった…




