↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/225

寿綾乃という女 第4部 59

 だから、和子は、敵…


 一度は、敵として、私やナオキと、対峙した…


 和子と対峙した…


 が、


 和子は、FK興産が、手に入らないと、わかると、あっさり、引き下がった…


 FK興産に執着しなかった…


 それは、あくまで、伸明の当主就任の手土産にしたかった…


 その程度の、執着だったからだ…


 それゆえ、あっさりと、引き下がった…


 が、


 その和子がいなくなれば、今後は、どうなるか、わからない…


 さっぱり、わからない…


 すでに、株は、握られている…


 五井に握られている…


 それゆえ、和子が、なくなって、五井家内部のパワーバランスが、崩れれば、どうなるか、わからない…


 たしかに、当主は、伸明だが、どうなるかは、わからない…


 和子は、当主の伸明を支えたが、この後は、どうなるか、わからないからだ…


 仮に、


 仮に、だ…


 あの西家の当主が、力を持ったら、どうなるか?


 おそらく、当主である、伸明を差し置いて、五井家の中で、振る舞うだろう…


 我が物顔で、振る舞うだろう…


 そうなれば、伸明は、五井家をコントロールできなくなる…


 当主で、あるにも、かかわらず、コントロールできなくなる…


 これは、歴史が、証明している…


 当主は、五井家の中の最高権力者だが、実際は、配下の者の方が、一族の中で、権力を持っていることが、ある…


 現に、今も、当主の伸明より、和子の方が、力を持っている…


 また、そんな例は、数多ある…


 これは、歴史が、証明している…


 その好例は、鎌倉幕府…


 名目は、将軍が最高権力者だが、実際は、執権の北条氏が、代々、最高実力者だった…


 幕府の一番の権力者だった…


 つまり、将軍は、名目だけ…


 初代の源頼朝は、最高権力者だっただろうが、彼だけだ…


 将軍という地位にありながら、その地位にふさわしい権力を持っていたのは、彼だけだ…


 そして、当時の事実上の最高権力者である、執権も、最後の方は、名目だけ…


 将軍と同じく、名目だけ…


 幕府内部での権力は、なかったと、言われている…


 つまりは、地位と権力は、一致しない…


 これを、伸明に当てはめれば、五井家の当主にも、かかわらず、当主の権力がない…


あのとき、和子は、FK興産の取得を簡単に諦めたが、この後は、どうなるか、わからない…


 伸明を差し置いて、FK興産を、五井グループに取り込もうとしても、おかしくは、ないからだ…


 だから、目の前のナオキは、それを、恐れている…


 和子亡き後の五井が、どう出るか?


 恐れている…


 場合によっては、FK興産に牙を剥く可能性だって、ある…


 私や、ナオキに牙を剥く可能性だって、あるからだ…


 だから、ナオキは、恐れているわけだ…


 私は、そんなナオキを見て、


 「…ナオキ…怖いの?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 「…怖い? なにが、怖いの?…」


 「…FK興産から、追放されること…」


 私が、ハッキリ言うと、ナオキが、驚いて、私を見た…


 私の顔を直視した…


 それから、缶ビールをあおった…


 一気に、あおって、飲んだ…


 そして、言った…


 「…それは、怖いよ…」


 と、言った…


 「…どうして、怖いの?…」


 「…どうしてと、言われても…」


 ナオキは、戸惑った…


 戸惑って、すぐに、言葉が、出なかった…


 それから、ゆっくりと、一言、一言、話し出した…


 言葉を選びながら、話し出した…


 「…ボクは、サラリーマンなんだよね…」


 いきなり、言った…


 予想外のことを、言った…


 これは、意外だった…


 あまりにも、意外過ぎた…


 それゆえ、


 「…ナオキ…ちょっと、アナタ、サラリーマンって、どういうこと? アナタが、今のFK興産を作ったんでしょ? 会社を起業したんでしょ? それが、どうして、サラリーマンなわけ?…」


 と、私は、言った…


 当たり前のことを、言った…


 が、


 ナオキの回答は、意外なものだった…


 「…それは、もちろん、綾乃さんの言うことは、わかる…ボクが、言いたいのは、メンタル面…」


 「…メンタル面って?…」


 「…小さいながらも、会社を作って、それが、大きくなり、世間様に認められるように、なった…従業員も、千人を超え、五井と提携してからは、業績も安定している…だから、怖い…」


 「…なにが、怖いの?…」


 「…サラリーマンが、リストラに遭うように、ボクも、会社を失うのが、怖い…」


 「…どうして、怖いの? ナオキ、例えば、アナタが、FK興産から、追放されても、お金は、あるでしょ? それを、元に、また、事業をすれば?…会社を興せば、いいじゃない?…」


 「…それは、無理だよ…」


 「…どうして、無理なの?…」


 「…昔、FK興産を創業したのは、二十年前…まだ、大学生のときだ…だから、若かった…それゆえ、世間知らずで、無茶が、できた…でも、この歳だと、怖くなる…」


 「…どうして、怖くなるの?…」


 「…たぶん、大人になったからだろう…」


 「…どういう意味?…」


 「…果たして、会社を興して、うまくいくか? うまくいかないか? それを、考える…もっと、言えば、失敗したときのリスクを先に考えるようになる…」


 「…」


 「…若いときは、それとは、真逆…成功したときのことを、イメージする…だから、怖くない…起業が、怖くない…失うものも、ないからね…」


 「…失うもの?…」


 「…そう…例えば、FK興産から、追い出されても、FK興産のボクの持ち株を五井に売却すれば、百億を超える大金が、手に入りだろう…だったら、それを、元手に、例えば、ボクの好きな日本料理やイタリアンレストランを始めれば、いいと、気軽に考えるものが、いるかも、しれない…でも、事業というのは、そんな簡単なものじゃない…ハッキリ言って、うまくいくか、どうかは、博打…」


 「…博打?…」


 「…そう、博打だ…ボクは、たまたま、うまくいった…だからと言って、次は、うまくいくかどうかは、わからない…だから、FK興産から、出たくない…これは、サラリーマンと、同じ…新しい環境で、うまくいくか、どうかは、わからないから、会社を出たくない…それと、同じだ…」


 私は、それを、聞いて、なんだか、ガッカリしたというか…


 ナオキの言っていることは、わかるが、正直、落胆した…


 少しばかり、落胆した…


 なぜなら、一から、会社を創業した藤原ナオキが、自分が、サラリーマンだと、宣言したこと…


 たぶん、そのことに、幻滅したのだ…


 いわゆる、チャレンジ精神…


 それよりも、守りに入った…


 その事実が、私を落胆させたのだ…


 ナオキの言うことは、わかるが、私を落胆させたのだ…


 だから、


 「…ナオキ、アナタ、今、いくつ?…」


 と、聞いた…


 いや、


 言った…


 わざと、言った…


 「…綾乃さん、なにを、いきなり? 綾乃さんだって、ボクの歳は、わかっているだろ? なにを今さら?…」


 「…おじいちゃんみたいなことは、言わないの…」


 「…おじいちゃんって?…」


 「…ナオキ、アナタ、守りに入り過ぎ…」


 「…」


 「…ナオキの言うことは、わかる…十分、過ぎるほど、わかる…でも…」


 「…でも、なに?…」


 「…サラリーマンだって、大抵は、リストラは、予想外のひとが、大半でしょ? 誰もが、たぶん、自分は大丈夫って、高を括っているひとが、大半よ…」


 「…」


 「…つまり、なにを言いたいかと言えば、なるようにしか、ならないってこと…」


 「…どうして、そう思うの? 綾乃さん…」


 「…だって、リストラって、要するに、クビでしょ? 例えば、私が、クビを宣告されたら、まずは、そのクビを撤回できないか、聞いて、見る…それで、無理なら、条件闘争…」


 「…条件闘争って?…」


 「…要するに、お金…退職金よ…お金よ…少しでも、会社から、多くもらって、辞める…それしか、ないでしょ?…」


 私が、言うと、ナオキが呆気に取られた…


 それから、すぐに、


 「…やっぱり、綾乃さんだ…」


 と、笑った…


 「…すごく、現実的…転んでも、ただでは、起きない…」


 ナオキが、実に楽しそうに、笑った…


 「…女の方が、現実的なのよ…」


 私は、言ってやった…


 「…真逆に、男は、ロマンチスト…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…女が、ロマンチストなのは、若いときだけ…学生時代だけ…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…昔、母が言っていたわ…」


 「…なんて、言っていたの?…」


 「…母が、若いとき、テレビ番組で、アナタの初恋のひと、探しますって、番組があったんだって…でも、その番組に応募するのは、皆、男だって、言っていた…」


 「…どうして、男なの?…」


 「…要するに、ロマンチストなのよ…男って…だって、五十や六十になったオジサンや、オバサンが、今さら、初恋のひとと会っても、なにか、あるわけじゃないでしょ? でも、男は、会いたいと思うひとが、いて、女は、皆無…今さら会っても、仕方がないと、考える…現実を考える…」


 「…なるほど…」


 「…ナオキ…今、アナタは、女になっちゃっているのよ…」


 「…ボクが、女に? どうして?…」


 「…リアルな現実だけ、考えてる…」


 「…」


 「…リアルな現実を、見るのは、いいけど、悲観的に見ちゃ、ダメ…悪いことばかり、考えちゃ、ダメ…」


 「…」


 「…それでは、現実と、向き合えない…」


 私が、力強く言うと、ナオキが、唖然として、私を見ていた…


 あまりにも、力説するから、唖然としたのだろうか?


 「…綾乃さん、強い…」


 ナオキが、言う…


 「…病気が、私を強くしたのよ…」


 「…病気が?…」


 「…だって、癌が発見されたり、ジュン君のクルマに轢かれたり、私の人生、滅茶苦茶、大変でしょ? だから、暗いことは、考えない…極力、明るいことばかり、考える…そうでなければ、生きてゆけない…でしょ?…」


 「…それは…」


 「…ナオキ、例えば、アナタが、会社を追放されても、命まで、取られるわけでは、ないでしょ?…」


 「…そこまでは…」


 「…お金だって、たくさん、もらえる…ナオキの持つ、FK興産の株を売れば、たくさんの金になる…決して、裸同然で、FK興産から、放り出されるわけではない…」


 「…」


 「…そう、考えれば、気が楽になるでしょ?…」


 私が、言うと、マジマジと、ナオキは、私を見た…


 たぶん、唖然として、私を見た…


 そして、言った…


 「…なんというか、綾乃さんには、いつも、圧倒される…」


 と、言った…


 まるで、私を怪獣か、なにかを、見るように、言った…


 「…いつも、ポジティブ…どんなことが、あっても、へこたれない…まさに、寿綾乃の面目躍如だね…」


 「…誰も、私を助けて、くれないからよ…」


 「…綾乃さんを、助けてくれない?…」


 「…そうよ…これが、きっと、もっと、周囲から、愛される女なら、綾乃さん、綾乃さんと、いろいろな人から、手を差し伸べてもらえるんだけれども、私には、無理…」


 私が、しおらしく、言うと、ナオキが、缶ビールを飲みながら、プッと、ふいた…


 「…綾乃さん、笑わせないで…」


 「…笑わせる? どこが、笑わせるの?…」


 「…強い綾乃さんに、助けはいらない…」


 「…なんですって?…」


 「…周囲から、助けてもらえるのは、弱い女…弱い男…強い女と、強い男を、誰も助けない…だから、自分で、なんとか、するしか、ない…」


 ナオキが、笑いながら、言った…


 「…それは、ちょうど、仮面ライダーや、ウルトラマンと、同じ…普段強い、彼らを助けることができるひとは、皆無…誰も、いない…」


 ナオキが、言う…


 笑いながら、言う…

 

 言われてみれば、その通り…


 その通りだが、頭に来た…


 実に、頭に来た…


 思わず、ナオキをぶん殴りたくなるほど、頭に来た…


 が、


 さすがに、殴ることは、できない…


 暴力をふるうことは、できない…


 代わりに、ナオキに、


 「…ナオキ…アナタ、言葉に気をつけなさいよ!…」


 と、言った…


 凄んだ…


 すると、私の視線を感じた、ナオキが、シュンとなった…


 瞬く間に、シュンとなった…


 いつものこと…


 いつものことだった…


 私とナオキの間のいつものことだった(笑)…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。