↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/225

寿綾乃という女 第4部 57

 たしかに、あり得る話だ…


 伸明が、西家の段取りで、見合いをした…


 つまりは、伸明を西家が、取り込もうとした…


 それを、知った他の五井一族が、面白いはずはない…


 とりわけ、西家と東家を除いた、北家と南家が、その筆頭だろう…


 五井は、本家を除けば、東西南北の分家が、力を持っている…


 五井は、十三家あるが、主要なのは、本家と、東西南北の4家のみ…


 というのは、五井を仕切る、五井の持ち株会社である、五井ホールディングスの株式を、持つ、五井一族の所有する株の割合…


 五井本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ、10%…


 残り、30%を、残った8家が、所有している…


 つまりは、五井一族と言っても、本家を除けば、主要な一族は、東西南北の分家のみ…


 そして、今、五井本家は、事実上、東家の手中にある…


 それは、前当主、建造と、建造の弟の義春兄弟が、東家の娘たちと、結婚したからだ…


 それゆえ、今、東家出身の和子が、当主の伸明の補佐をしている…


 それを、思えば、同じ東西南北の一族で、悔しい思いをしている一族がいても、おかしくはない…


 今、和子が、倒れ、その隙を縫って、西家が、伸明の見合いを仕掛けたのが、その証拠…


 東家が、事実上、支配している本家に、一矢報いたい…


 そんな気持ちがあっても、おかしくはない…


 おかしくはないのだ…


 そして、私が、そう思っていると、ナオキが、


 「…それで、諏訪野さんは、困ったと、嘆いていたよ…一族から、文句が来るのは、予想は、していたが、予想以上に、嫌味を言われたらしい…」


 「…嫌味?…」


 「…そう、嫌味…まあ、西家の段取りで、見合いをした時点で、他家から、文句がくるのは、わかっていたと、言っていたけれども…」


 「…」


 「…でも、まあ、予想はしていたことだけだから、驚きは、ないと、言っていた…ただ…」


 「…ただ、なに?…」


 「…この前の見合いの相手が、また会いたいと、言ってきたのは、予想外だと、言っていた…正式に、西家には、断りの電話を入れた。その後に、まさか、見合い相手から、連絡があるとは、思わなくて、驚いたと、言っていた…」


 「…」


 「…そして、そこまで、言われて、諏訪野さんの心も、少し、動いたらしい…」


 「…えっ? 動いた? どういうこと?…」


 「…もう一度くらいだったら、その見合い相手と会っても、いいかなと、思ったらしい…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 ナオキが、断言した…


 私は、考え込んだ…


 たしかに、あのとき…


 あの見合いのとき、伸明が、ハルカに惹かれたのは、わかる…


 だから、たしかに、会いたくなったと言われても、納得する…


 でも、


 でも、伸明の立場がある…


 一度、断った見合い相手に、会うのは、どうなんだろ?


 そう、思ったのだ…


 だから、私は、それを、指摘した…


 「…でも、見合いは、断ったんでしょ? その見合い相手に、また会うのは、どうかと、思うけれど…」


 「…諏訪野さんも、そう言っていた…」


 「…だったら、会うのは、おかしいんじゃない?…」


 「…そこだよ…」


 「…そこって?…」


 「…でも、会いたい…もう一度、会ってみたいらしい…」


 なんと、もはや…


 これには、驚いた…


 いや、


 驚かなかった…


 あの見合いの席での伸明の態度…


 明らかに、伸明は、あのハルカに、惹かれていた…


 勝気なハルカに惹かれていた…


 おそらく、伸明は、日常の生活の中で、誰かに、怒られたり、叱られたりする経験が、ないのだろう…


 五井ホールディングスの社長だ…


 そんなこと、あるはずもない…


 だから、新鮮…


 伸明には、新鮮に、映ったのだろう…


 これは、見合いの後、私は、伸明に、指摘して、伸明も、また、そうだと、答えたが、やはり、仮に、あのときのハルカの態度が、伸明に、自分を印象づける作戦だとしても、伸明は、惹かれたのだろう…


 男と女だ…


 誰が、どんな相手に、惹かれるのかは、わからない…


 身近な親、兄弟姉妹でも、わからない…


 仲の良い、友人、知人でも、わからない…


 それほど、男女とも、好きな相手の好みは、謎…


 謎だ(爆笑)…


 おとなしい男が、派手な女を好きだったり、その真逆だったりすることがある…


 だから、わからない…


 実に、わからない(爆笑)…


 普段、仲の良い、家族だったり、友人、知人だったり、しても、そんな話をしなければ、どんな異性が好きか、わからないものだからだ…


 だが、前兆は、あった…


 前兆=予感はあった…


 伸明の前兆はあった…


 それは、私…


 ほかならぬ、私を好き…


 私、寿綾乃を好きと言った時点で、前兆はあった…


 気の強い私を好き…


 だから、伸明の好みは、気の強い女だからだ…


 おそらく、自分を支えてくれる、気の強い女に、惹かれるのだろう…


 潜在的に惹かれるのだろう…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、


 「…でも、諏訪野さんも、悩んでいるらしい…」


 ナオキが、続けた…


 「…悩んでいるって? なにを、悩んでいるの?…」


 「…さっきの見合い相手のこと…」


 「…それが、どうか、したの?…」


 「…諏訪野さんは、会いたい気持ちが強いが、やはり、立場がある…諏訪野さんの立場が、ある…一度、正式に見合いを断った相手と、会うとなると、それが、いいのかと、言うと…」


 「…」


 「…だから、悩んでいるらしい…それに…」


 「…それに、なに?…」


 「…諏訪野さんは、仕事に忙しい…これは、ボクも同じだが、仕事に忙しいと、会いたい気持ちが、失せるというと、おかしいが、いつのまにか、仕事に忙殺されて、そのうちに、会う機会が、いつのまにか、消失してしまう…」


 「…それって、もしかして、ナオキの過去の恋愛?…」


 私は、意地悪く、ナオキに突っ込んだ…


 ナオキは、絶句して、私を見た…


 それから、


 「…綾乃さん、それは…」


 と、言い訳した…


 「…まあ、いいわ…」


 私は、笑って、許した…


 その話は、今の本題では、ないからだ(笑)…


 「…まあ、だから、どうなるか、わからない…」


 ナオキは、少し顔を赤らめながら、言った…


 「…どうなるか、わからないって?…」


 「…今も言ったように、諏訪野さんも、その見合い相手と会いたい気持ちが、あるんだが、忙しいし、諏訪野さんの立場も、ある…だから、どうなるか、わからない…会いたい気持ちは、あっても、会うか、どうかは、わからない…」


 そう、言うと、ナオキは、せわしく、朝食を食べ出した…


 いつまでも、私をおしゃべりしている時間は、ない…


 会社に行く時間が、近付いてくる…


 私も、これ以上、ナオキに、意地悪をする気持ちは、なかった…


 なにより、私は、秘書…


 ナオキの秘書だった…


 ナオキの社長秘書だった…


 秘書は、仕える上司の時間を管理するのが、一番の仕事…


 その仕事に従事した私が、ナオキの出社時間を妨げるわけには、いかなかった…


 ナオキは、せわしなく、朝食をとると、家から、出て行った…


 マンションの地下には、会社からの、迎えのクルマが、待っているからだ…


 いつまでも、送迎用のクルマを待たせているわけには、いかない…


 私は、残った缶コーヒーを、部屋で、ひとりで、飲んだ…


 相変わらず、体調は、悪い…


 正直、イマイチな感じ…


 だから、小さな缶コーヒーを、飲み干すまでが、長い…


 思いのほか、長い…


 しかし、


 しかし、だ…


 今、まるで、ナオキを妻のように、送って、考える…


 ずっと、以前、ナオキとジュン君と、小さなアパートで、三人で、暮らしていたときのほうが、楽しかった…


 ふと、思った…


 お金はないが、楽しかった…


 笑いがあった…


 今は、お金がある…


 にもかかわらず、笑いがない…


 日常生活に笑いがない…


 お金は、なければ、困るが、お金は、必ずしも、自分を幸福にしてくれない…


 あらためて、そう、思った…


 思ったのだ…


 そして、それは、もしかしたら、贅沢な悩みかも、しれない…


 そう、思った…


 世の中で、お金ほど、大切なものは、ない…


 それが、シングルマザーだった母と、ふたり暮らしだった私には、身に染みている…


 身に染みて、わかっている…


 だから、今、お金があるにも、かかわらず、幸せではないと、思った自分の発言を悔いた…


 悔いた=反省した…


 同時に、考えた…


 あの伸明のことを、考えた…


 五井の若き当主のことを、考えた…


 あの伸明には、お金の苦労がない…


 それが、私やナオキとの、決定的な違い…


 そして、それは、マミさんにも、言える…


 マミさんは、五井家前当主、建造の愛人の子供…


 しかしながら、お金に、困っていたようには、とても、思えない…


 それは、お金の使い方…


 使い方で、わかるものだからだ…


 ずっと、以前、FK興産が、まだ、現在ほど、大きくなかったとき…


 新卒で、入社した女性の中に、お金に汚い女のコがいた…


 お金に汚いといったのは、例えば、会社での飲み会…


 例えば、誰かが、奢ってくれると、いえば、ホイホイついていき、自分で、払うのが、わかる飲み会には、基本、参加しない…


 そして、飲み会で、奢ってもらった相手でも、容赦なく、そのひとのいないところでは、そのひとの悪口を言う…


 私は、当時、


 …なんて、女!…


 と、思ったが、今、振り返ってみると、おそらく、家が、貧乏だったのだろう…


 それゆえ、自分が、お金を出さなくても、飲めると聞くと、すぐに、飲み会に参加する…


 決して、自分の懐は、痛まないから、参加する…


 つまりは、育ち方…


 決して、お金に恵まれていないことが、わかる育ち方をしていることが、わかる(笑)…


 もちろん、本人は、わからない…


 うまく、他人を利用して、ただ酒を飲めたと思っているに違いない(笑)…


 私も、当時は、そこまでは、考えなかったが、今、少しばかり、歳をとって、当時を振り返って見れば、そう、思う…


 そう、思うのだ…


 が、


 私も似たような者…


 似たような環境で、育った…


 決して、裕福とは、言えない、環境に育った…


 しかしながら、彼女のように、他人の懐を当てにして、お酒を、飲みたいとは、思わない…


 決して、思わない…


 自分の酒代は、自分で、出す…


 これが、当たり前だからだ…


 だから、必ずしも、同じような環境で、育っても、違う…


 私と、彼女とは、違う…


 あらためて、そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、考えると、お金の使い方、ひとつで、そのひとの人間性のみならず、それまでの生きて来た環境まで、考えてしまう…


 つくづく、怖い…


 あるいは、恐ろしいと、思った…


 思ったのだ…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。