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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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55/225

寿綾乃という女 第4部 55

 そして、そう考えていると、


 「…あのリンちゃんは、綾乃さんに、嫉妬していた…」


 と、ナオキが、繰り返した…


 「…諏訪野さんが、言うには、おそらく、リンちゃんは、綾乃さんの美しさや、綾乃さんの堂々とした態度が、許せないらしい…」


 「…許せないって?…どうして、許せないの?…」


 「…リンちゃんは、可愛いい…誰が見ても、たとえ、駅やスーパーで、会っても、可愛いコだと、誰もが、振り返って見るくらい、可愛い…」


 「…」


 「…おまけに、家柄も、抜群…なんと言ったって、五井一族だ…お金持ちだ…それに、リンちゃん自身、頭も、いい…優秀な大学を出ている…」


 「…」


 「…にも、かかわらず、綾乃さんに勝てない…」


 「…えっ?…私に勝てない?…」


 「…綾乃さんと、いっしょに歩けば、男の視線は、間違いなく、綾乃さんに行く…」


 「…そんな…」


 「…それが、リンちゃんは、許せないらしい…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…」


 「…要するに、リンちゃんは、綾乃さんに、勝てない…それが、許せないらしい…」


 「…私に勝てない?…」


 「…綾乃さんは、美人だし、態度が、堂々としている…リンちゃんは、可愛いが、それだけ…綾乃さんのような存在感がない…」


 「…」


 「…要するに、リンちゃんは、生粋のお嬢様だから、自分より、優れた人間が、嫌い…自分が、一番でいたい…そういうことだと、諏訪野さんが、言っていた…」


 「…伸明さんが、言っていた…」


 「…そう…」


 そう、言われると、わかる…


 実に、わかる…


 彼女、菊池リンは、ルックスが、いい…


 誰が見ても、可愛い…


 おまけに家柄もいい…


 頭もいい…


 それが、私といっしょにいると、周囲の視線が、リンちゃんではなく、私に行く…


 私、寿綾乃に行く…

 

 それが、許せない…


 自分が、一番でないことが、許せない…


 そういうことだ…


 そう、考えると、わかる…


 彼女が、私を憎む理由が、わかる…


 正直、私に瑕疵はない…


 私に、罪はない…


 彼女が、私を憎む理由は、理不尽そのものだからだ…


 だが、だからといって、それが、おかしいとは、思わない…


 ホントは、おかしいのだが、それが、おかしいとは、思わない…


 世の中、そんなもの…


 そんな理不尽そのものの話は、どこにも、転がっているものだからだ…


 だから、おかしいとは、思わない…


 そういうことだ…


 そう、思うと、笑えてくると言うか…


 自分自身が、かつて、あの菊池リンに、


 「…綾乃さん…綾乃さん…」


 と、呼ばれ、慕われていると、思っていたことが、思い出される…


 きっと、あの菊池リンは、最初から、私に憧れているのではなく、憎んでいた…


 その菊池リンの気持ちに、気付かない私は、大バカ者…


 まさに、大バカ者だ…


 だから、笑えてきた…


 自分自身に笑えてきた…


 そして、それが、おそらく、私の表情に、出たのだろう…


 「…どうしたの? 綾乃さん、なんだか、笑っているような…今の話の中で、どこか、面白かったところは、ある?…」


 「…あるわ…」


 「…どこ?…」


 「…そんな菊池さんに騙されていた、愚かな女のところ…」


 「…愚かな女って?…それって、まさか?…」


 「…そのまさかよ…」


 「…もしかして、綾乃さんのこと?…」


 「…もしかしてじゃなく、私のこと…」


 「…」


 「…菊池さんの魂胆も見抜けないなんて、実に情けない…同時に、笑えるわ…なんてったって、あんなに、菊池さんを可愛がっていたんだから…」


 「…」


 「…だから、大バカ…私は、大バカ…実に、笑える大バカ…」


 私は、言った…


 自戒を含めて、言った…


 自分のバカさ加減に、呆れて、言った…


 言ったのだ…


 そして、そんな私を、ナオキは、驚いた顔で、見ていた…


 だから、


 「…どうしたの? ナオキ…そんな顔をして?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 「…いや、綾乃さんが、そんなに簡単に騙されるなんて…」


 と、驚いた表情で、言った…


 「…ボクの知る綾乃さんは、完璧…隙が、なく、完璧に、見える…」


 「…ナオキ…アナタ、なにを、バカなことを、言っているの…私は、高卒…大学も、出ていないわ…頭の中身は、アナタの足元にも、及ばない…」


 私は、断言する…


 「…でも、とても、そうは、見えない…」


 ナオキが、反論した…


 「…綾乃さんは、いつも、堂々として、完璧に見える…」


 「…そう、見えるだけ…」


 「…見えるだけ?…」


 「…ナオキ、アナタ、何年、私と付き合っているの?…」


 私は、言ってやった…


 「…もっと、見た目でなく、中身で、判断しなさい…」


 「…」


 「…それでは、いつまで、経っても、女に騙されるわよ…」


 私が、言うと、ナオキが、苦笑した…


 「…たしかに、それは、言えてる…」


 と、苦笑した…


 それから、一転、真顔になって、


 「…でも、綾乃さんが、騙されたのは、仕方がない…」


 と、口にした…


 「…どうして、仕方がないの?…」


 「…ボクだって、会社で、綾乃さんと、菊池さんが、いっしょにいるところを、何度も見ている…あの頃、菊池さんは、綾乃さん、綾乃さんと、まるで、綾乃さんを、ホントの歳の離れた姉かなにかのように、慕っていた…傍から見ても、綾乃さんに、なついていた

…だから、綾乃さんが、菊池さんの魂胆に気付かなくても、驚かない…むしろ、菊池さんの狙いに、気付いた方が、驚く…」


 ナオキが、言う…


 熱弁する…


 たしかに、そう言われれば、わかる…


 そう、言われれば、納得する…


 あの頃、菊池リンは、私になついていたというと、おかしいが、実際、時間があれば、私の近くに来て、


 「…綾乃さん…綾乃さん…」


 と、寄ってきた…


 それゆえ、傍から見ても、私になついていた…


 犬や猫のように、なついていた(苦笑)…


 にもかかわらず、ホントは、私を憎んでいた…


 ホントは、内心、私に嫉妬していたと、言っても、誰も、信じないだろう…


 なにしろ、心の中で、思っていることと、実際にやっている行動が、真逆…


 真逆だからだ…


 あれほど、


 「…綾乃さん…綾乃さん…」


 と、私に言ってきて、実は内心、私を憎んでいた…


 私に嫉妬していたと言ったら、周囲の者は、仰天するだろう…


 が、


 これは、実際に、よくあることだと、聞いたことがある…


 ホントは、大嫌いな相手に、それと、気付かれるのが、困る…


 それゆえ、真逆な行動をとる…


 大嫌いな相手に、あえて、大好きだというように、真逆な態度をとる(爆笑)…


 実は、大嫌いだと、相手に悟られるのが、困るからだ…


 だから、あえて、真逆な行動をとる…


 だったら、そんな嫌な相手とは、付き合わなければ、いいじゃないか、と思うかも、しれないが、会社でも、学校でも、嫌な相手と付き合わなければ、ならないときだって、誰にだってあるものだ…


 それゆえ、相手に、本心を悟られるのが、困るから、真逆な行動をとる…


 嫌いなのに、好きなような態度をとる…


 そういうことだ…


 だから、私も、それ…


 それと、同じだ…


 あの菊池リンは、私を大嫌いなゆえに、あえて、大好きなように、装った…


 それゆえ、オーバーアクションになる…


 どうしても、無理やり、心の中で、思っていることと、真逆なことを、するから、オーバーアクションになる…


 今さらながら、それに気付いた…


 その真実に、気付いた…


 だから、今、思えば、余計に、あの菊池リンに、用心しなければ、ならなかった…


 あんな行動をする女は、あまりいない…


 あんなベタベタする行動を、とる女は、あまり、いない…


 それゆえ、余計に、用心しなければ、ならなかった…


 今、振り返れば、そう、思う…


 そう、思うのだ…


 が、


 これは、誰でも、同じ…


 同じだ…


 後に、なって、気付く…


 なにが、あったのか、気付く…


 それゆえ、ホントは、こうしておけば、よかったと、気付く…


 誰もが、同じ…


 同じだからだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…綾乃さん…ごめん…」


 と、いきなり、私に謝った…


 「…ごめんって、ナオキ…アナタ、どうして、いきなり、私に謝るの?…」


 「…だって、こんな話、綾乃さんが、体調を崩して、寝込んでいるときに、話す話じゃ、ないだろ?…」


 「…」


 「…だから、すまないと、思って…」


 ナオキが、実に、申し訳なさそうに、言う…


 私は、そんなナオキを見て、笑った…


 つい、笑って、しまった…


 「…ナオキ…アナタ、私と何年付き合っているの?…」


 と、笑いながら、言ってしまった…


 「…綾乃さん、なにを、いきなり…」


 「…私は、そんなことで、へこたれる女じゃない…ナオキ、アナタも、それが、わかっているでしょ?…」


 私が、そう言うと、ナオキが、一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに、


 「…それは、そうだ…」


 と、笑った…


 「…綾乃さんは、こんなことで、へこたれる女じゃない…」


 「…当たり前よ…こんなこと、たいしたことじゃない…どうでも、いいことよ…」


 「…どうでも、いいこと?…」


 「…そうよ…菊池さんが、私をどう考えようと、それで、私が、どうこうなるわけじゃない…」


 「…綾乃さん、どういう意味?…」


 「…それで、私が、殺されるわけじゃ、ないでしょ?…」


 「…殺される? そんなおおげさな…」


 「…いえ、私は、病気持ち…だから、おおげささじゃなく、どうしても、そう、思ってしまう…」


 「…」


 「…変な話、病気が、私を強くした…」


 「…綾乃さんを、強くした?…」


 「…こんなことで、負けてたまるかと、思うようになった…だから、カラダは、しんどいけれど、気持ちは、強くなった…」


 私が、言うと、ナオキが、ふいた…


 「…綾乃さんが、これ以上、強くなったら、大変だ…」


 と、言って、ふいた…


 もちろん、それが、ナオキの本心では、ないことは、わかる…


 ナオキは、私を笑わせるために、わざと言ったのは、わかる…


 だが、私も、ナオキのお芝居に付き合わなければ、ならない…


 「…ナオキ、これ、笑うこと?…」


 と、わざと、怒って見せることで、お芝居に付き合わなければ、ならない…


 「…だったら、ここで、ボクは、怒れば、いいの?…」


 ナオキが、笑って言った…


 私は、それには、答えなかった…


 どっちが、いいか、わからなかったからだ…


 だから、答えなかった…


 代わりに、


 「…沈黙は、金…」


 と、答えた…


 すると、ナオキは、すぐに、


 「…雄弁は、銀…」


 と、答えた…


 それから、いきなり、私にキスをした…


 私は、一瞬、驚いたが、すぐに、受け入れた…


 私とナオキは、いいコンビだった…


 実に、いいコンビだった(苦笑)…


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