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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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53/225

寿綾乃という女 第4部 53

 結局、私は、ナオキの言う通りにした…


 ナオキの言う通り、ベッドに横になり、ベッドの上で、過ごした…


 我ながら、情けない…


 実に、情けなかった…


 肝心なときに、カラダが、動かない…


 カラダが、言うことを聞かない…


 それが、自分でも、情けなく、自分でも、もどかしかった…


 自分のカラダなのに、自分の言うことを、聞かない…


 それが、もどかしかった…


 そして、こんな経験をしていると、つくづく、病人の気持ちがわかった…


 自分が、病人で、あるにも、かかわらず、病人の気持ちがわかるというのも、おかしいが、それは、それほど、自分の体調が、悪くないからだろう…


 だから、言える…


 病人の気持ちがわかったと言える…


 まるで、他人事のように、言える(苦笑)…


 ただ、私が、運が、いいのは、体調は、たしかに、悪いが、どこか、痛いとか、気持ち悪いとかは、ない…


 それが、幸運…


 実に、幸運だった…


 極論すれば、カラダが、自由に、動かないだけ…


 頭は、動いている…


 いつもと、同じように、動いている…


 まあ、と言っても、たいした頭では、ないが(苦笑)…


 高卒で、大学にも、言っていない…


 が、


 ひとは、私をそうは、見なかった…


 才色兼備な女性だと、思っていた…


 自分で、言うのも、なんだが、私は、あのフジテレビの美人アナウンサーだった、近藤サトさんの、若い頃に似た容姿…


 それゆえ、落ち着いて見える…


 他人様からは、落ち着いて、見えるらしい…


 が、


 これは、笑える…


 自分でも、笑える…


 私に言えば、見た目だけ…


 自分で、言うのも、なんだが、そう見えるだけだ…


 中身は、違う…


 全然、違う(笑)…


 そして、そんなことを、考えていると、昔、母が言った言葉を思い出す…


 母は、自分の妹の美人の叔母を引き合いに、出し、


 「…綾子…中身なんて、誰にも、わからないから…」


 と、よく、笑って、言ったことがあった…


 「…美人だったり、ハンサムだったり、すれば、それだけで、ひとは、憧れる…中身が、少々、悪くても、誰も、わからないから…」


 と、言って、笑った…


 そして、それは、私が、成長して、FK興産で、社長のナオキの秘書として、さまざまなひとたちと、接して、わかった…


 身に染みて、わかった…


 それこそ、皆、私以上の高学歴のひとたちが、私に、言い寄って来る(爆笑)…


 そして、そのひとたちの誰もが、私を羨望の眼差しで、見る…


 私のルックスが、良いから(苦笑)…


 誰一人として、中身を、見ない…


 自分たちより、はるかに、低学歴の人間だと、見ない…


 相手が、私に、どう接するかで、その相手が、私を上に、見ているか?


 あるいは、下に見ているか?


 わかるものだからだ…


 母が、言った通り、少し、私と接しただけでは、中身は、わからない…


 私の頭の程度が、わからない(爆笑)…


 その実例だった…


 これでは、調子に乗る…


 誰もが、調子に乗る…


 自分は、美人だからと、調子に乗る…


 が、


 私は、調子に乗らなかった…


 それは、やはり、母の影響…


 母は、いつも、私を戒めていた…


 「…綾子…少しばかり、他人様より、美人に生まれたからって、調子に乗っては、いけないよ…」


 と、口癖のように、私に、言っていた…


 それが、大きい…


 そして、私の環境…


 決して、裕福とは、言えない、私の生まれ育った環境も、大きい…

 

 ひとは、どうしても、生まれ育った環境に影響を受ける…


 私が、お金持ちに生まれたのなら、また、違ったかも、しれない…


 調子に乗ったかも、しれない…


 美人で、お金持ち…


 最強だからだ(笑)…


 が、


 私は、違った…


 そうは、ならなかった…


 また、今、考えれば、母が、


 「…綾子…少しばかり美人に生まれたからって、調子に乗ってはいけないよ…」


 と、私に言ったのは、叔母の影響も、あるかも、しれない…


 私に似た美人の叔母の影響もあるかも、しれない…


 今、考えれば、そう、思う…


 当時は、わからなかったが、叔母は、あの建造と、付き合っていた…


 五井家の前当主と付き合っていた…


 しかしながら、捨てられたと言うか…


 結局、叔母が、身を引く形で、建造と別れた…


 その経緯を、母は、知っていたのだろう…


 私に似た美人の叔母が、どこまで、実の姉である母に、言ったのか、わからない…


 ただ、結果として、別れた…


 お金持ちのボンボンと、別れた…


 それは、傍から見れば、捨てられたと、見るのが、普通…


 別れたのではなく、捨てられたと、見るのが、普通だからだ…


 だから、言ったのかも、しれない…


 今になって、振り返れば、そう思う…


 そう、思うのだ…


 母もまた、叔母に、詳しい話は、聞いていなかったに違いない…


 それは、叔母が母に、誰と付き合っていたか、明かさなかったこと…


 それゆえ、母は、遺言で、私に亡くなった従姉の綾乃になりすませと、言ったにも、かかわらず、綾乃の父親が、誰だか、明かさなかった…

 

 それは、母が、叔母から、相手が、誰か聞かされてなかったからだろう…


 聞いていれば、私に教えたはずだ…


 しかしながら、そんなことが、最近、わかった…


 ベッドの上で、寝ていて、わかった…


 つくづく、物事は、若いときは、わからない…


 歳をとって、少しは、わかってくる…


 その典型だった…


 私にとって、母は、恩人…


 かけがえのない恩人だった…


 自分の母親のことを、恩人というのも、おかしいかも、しれないが、他に、言葉が見つからない…


 それは、やはり、私が、母と二人暮らしだったから…


 シングルマザーだった母と、二人暮らしだったからだろう…


 その影響が大きい…


 実に、大きい…


 いわば、身内が、ひとりだけ…


 母しか、身内がいない…


 それゆえ、誰よりも、母の影響を受けた…


 母の影響を受けて、育った…


 だからだろう…


 なにより、母は、私を溺愛していた…


 自分が、産んだ、私を溺愛していた…


 それは、娘の私から見ても、わかるほど、溺愛していた…


 それゆえ、余計に母の言うことは、聞かねば、ならない…


 母のアドバイスは、守らなければ、ならない…


 そう、肝に銘じた…


 そう、肝に銘じたのだ…


 母が、亡くなって、すでに、十七年…


 32歳の私は、母が、亡くなってからの方が、長く生きている…


 長く、人生を生きている…


 にも、かかわらず、私は、今も母に支配されている…


 言葉は、悪いが、今も支配されている…


 つくづく、そう、思う…


 そして、それは、私のみならず、誰もが、そう…


 誰もが、同じだ…


 おそらく、90歳になっても、100歳になっても、同じだ…


 仮に、親が、毒親と呼べるような親であっても、生涯、親に支配されている…


 あるいは、親に影響されている…


 自分は、決して、あんな親には、なるまいと、反面教師として、生涯、影響を受けている…


 そういうものだ…


 それゆえ、思い返せば、私が、決して、調子に乗らないのは、母のせい…


 母のおかげだった…


 普段は、決して、そんなことは、考えないが、こうして、ベッドに横になる時間が長くなると、どうしても、考えてしまう…


 つい、母のことを、考えてしまう…


 あるいは、もしかしたら、私の寿命は、もう、長くないのかも、しれない…


 それゆえ、まだ32歳という若さにも、かかわらず、そう考えてしまうのかも、しれない…


 まるで、まもなく死期を迎える、老女のように、考えてしまうのかも、しれない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 

 それから、三日間、私は、ベッドの上で、過ごした…


 まあ、ベッドの上で、過ごしたと言っても、一人で、トイレに行けるぐらいのことは、できた…


 だから、たいして、困らない…


 風邪で、寝込んだのと、同じようなものだからだ…


 おまけに、ひとりで、食事もできた…


 ナオキが、昼間、いない間は、冷蔵庫を開けて、冷食を、レンジで、チンをして、食べた…


 少量だが、食べた…

 

 幸い、食欲は、あり、普段と比べると、少しだが、食べられた…


 だから、こんなことを、言うと、ナオキには、悪いが、ナオキが、いなくても、なんとか、なった…


 ただ、ナオキが、いるのと、いないのとでは、安心感が、違う…


 それが、大きい…


 ナオキは、FK興産の社長だから、帰って来るのは、夜で。朝には、会社に行ってしまうが、それでも、ナオキが、身近にいることで、安心できる…


 ひとりとは、違って、安心できる…


 当たり前のことだ…


 ナオキは、会社から、帰って来ると、


 「…綾乃さん、調子は、どう?…」


 と、真っ先に、聞いた…


 この三日間、いつも、同じセリフで、聞いた…


 だから、さすがに、三日目には、


 「…ナオキ…毎晩、会社から、帰って来て、同じセリフは、ないんじゃない?…」


 と、文句を言ってやった…


 「…まるで、ビデオを見るように、毎日、同じセリフ…ほかに、なにか、言葉は、ないの?…」


 と、言ってやった…


 そして、言ってやってから、さすがに、言い過ぎたと、思った…


 私のカラダを心配して、言ってくれているにも、かかわらず、こんなセリフは、言い過ぎたと、思った…


 が、


 さすがに、言い直すことは、できない…


 私の性格上、できない(苦笑)…


 が、


 ナオキは、返って、そんな私の言葉に、安心したようだ…


 「…綾乃さん、その調子じゃ、体調が、戻ったんだね…」


 と、喜んだ…


 私が、悪口を言ったにも、かかわらず、喜んだ…


 「…そんな減らず口を叩くなんて、綾乃さんだ…いつもの綾乃さんだ…」


 と、喜んだ…


 私は、頭に来たが、さすがに、文句を言うことは、できない…


 先に、文句を言ったのは、私だからだ…


 だから、できない…


 私が、そう、思っていると、ナオキが、


 「…諏訪野さんから、今日、連絡があって、誰が、諏訪野さんの結婚の誤報を流したのか、わかったと、ボクに、言ってきた…」


 と、言った…


 私は、それを、聞いて、思わず、


 「…誰なの?…」


 と、聞いた…


 当たり前のことだ…


 ナオキは、顔色も変えず、


 「…答えは、綾乃さんも、知っているひと…」


 と、だけ、言った…


 「…私が、知っているひと? 誰?…」


 「…リンちゃん…」


 ナオキが、答えた…


 間髪入れずに、答えた…


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