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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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52/225

寿綾乃という女 第4部 52

 それゆえ、自分の顔をはたいた…


 軽く、はたいた…


 これが、夢か、どうか、知るためだ…


 私が、そんな動作を目の前でしたことで、ナオキが、私が、どうして、そんな動作をしたのか、わかったようだ…


 「…これは、夢じゃないよ…綾乃さん、現実だ…」


 ナオキが、言う…


 「…ウソ?…だって、伸明さんは、昨日、見合いをしたばかりなのに…」


 私は、さっきと、同じ言葉を繰り返した…


 「…でも、これは、現実…これは、真実…」


 ナオキが、神妙な顔で、続ける…


 が、


 すぐに、その神妙な顔が、崩れた…


 思いっきり、崩れた…


 「…でも、それが、すぐ、誤報であることが、発表されたがね…」


 ナオキが、笑いながら、続けた…


 「…誤報? …どういうこと?…」


 私は、狐につままれたような気分になった…


 「…ボクのときと、同じだ…」


 ナオキが、笑って言う…


 「…同じ? どういうこと?…」


 「…誰かが、わざと、藤原ナオキは、五井一族の娘と結婚したと、誤報を流す…それで、周囲の反応を見る…」


 忘れていた…


 たしかに、あった…


 眼前のナオキが、五井一族の娘と結婚したという情報が、流れたことが、あった…


 が、


 その情報は、一瞬…


 わずか、一瞬で、取り消された…


 藤原ナオキが、五井一族の娘と結婚したという情報が、テレビやネットで流れたが、すぐに、確認が、取れないと、言って、取り消された…


 つまりは、一瞬だが、ナオキが、結婚したという情報が、流れただけ…


 それも、ナオキが、行方不明になっているときに、流れた…


 私にしても、会社にしても、ナオキと連絡が取れないときに、流れた…


 だから、ナオキに近い、私ですら、その情報が、一瞬だが、もしや、本当では? と、考えた…


 まさかとは、思うが、真実では? と、考えてしまった…


 しかしながら、実際には、その間は、ナオキは、五井一族の伊豆の別荘に幽閉されていた…


 幽閉と言うと、おおげさだが、実際問題として、ケータイを取り上げられ、歩いては、とても、最寄りの駅まで、行けない山奥の別荘に、閉じ込められていた…


 もっとも、その幽閉されていた間に、やったこととは、若い女のコを何人も呼んで、どんちゃん騒ぎとか、伊豆の山奥で、川釣りとか、およそ、幽閉とは、ほど遠いものだった(苦笑)…


 しかしながら、その場に閉じ込められたことは、間違いない…


 伊豆の山奥の別荘から、外に出られなかったことは、間違いない…


 ナオキを伊豆の山奥の別荘に閉じ込めて、その上で、ナオキの結婚情報を流した…


 いかにも、真実だと、ナオキの身内ですら、一瞬だが、信じさせられるほどだった…


 それと、同じ…


 伸明の結婚情報も、同じ…


 同じだと、気付いた…


 つまり、その情報を流した犯人は、おそらく、同じ人間…


 同一人物の可能性が、高い…


 そう言えば…


 そう言えば、たしか、伸明は、昨日、会ったときに、その犯人を捜していると、言っていた…


 あの諏訪野の豪邸で会ったとき、この眼前のナオキの結婚情報を誰が、流したのか、探していると、言っていた…


 私は、それを、思い出した…


 が、


 さすがに、これ以上は、頭が、回らない…


 なにしろ、寝起き…


 今、目が覚めたばかりだからだ…


 だから、頭が、回らない…


 よりによって、こんな朝っぱらから、こんな情報を聞かせるなんて…


 少しだが、ナオキに腹が立った…


 ホントは、こんな貴重な情報を聞かせてくれたナオキに、感謝するところだが、腹が立った…


 が、


 だからといって、怒るわけには、いかない…


 それでは、自分勝手…


 まさに、自分勝手に他ならないからだ…


 だから、怒るわけには、いかなかった…


 いかなかったのだ…


 そして、それが、私の表情に、出たのだろう…


 「…綾乃さん、ごめんね…」


 と、ナオキが、私に詫びた…


 「…朝っぱらから、こんな話を聞かせて、ごめんね…」


 と、私に、謝った…


 実に、心配そうな表情で、謝った…


 「…でも、どうしても、綾乃さんには、聞かせなければ、ならない情報だから…」


 ナオキが、言う…


 「…なにしろ、昨日、諏訪野さんの見合いに、綾乃さんが、行って、その日に、諏訪野さんの結婚が、決まったなんて、シャレにもならない…」


 ナオキが、笑う…


 「…でしょ?…」


 ナオキが、私に笑いかける…


 私は、ナオキのそんな動作を、見て、ナオキが、私を笑わそうとしていることが、わかった…


 同時に、自分の顔を、思った…


 ナオキが、私に、そんなことをするなんて、私は、それほど、顔色が悪いのだろうか?


 そう、思ったのだ…


 そう、思った私は、ベッドから、降り、自分で、鏡の前に立ち、自分の顔を見ようと、思った…


 そうすれば、自分の顔色が、わかるからだ…


 だが、私が、ベッドから、降りると、足が、ふらついた…


 思わず、ベッドから、降りた途端、床に、倒れ込みそうに、なった…


 その私のカラダを、ナオキが、受け止めた…


 ナオキが、


 「…危ない!…」


 と、言って、私のカラダを掴んだ…


 「…綾乃さん、体調が、悪いんだ…無理をしちゃ、ダメだ…」


 ナオキが、優しく、言う…


 「…綾乃さん、なにを、したかったの? ボクに、できることなら、するよ…」


 ナオキが、私に聞くから、私は、一瞬、迷ったが、


 「…鏡…」


 と、だけ、言った…


 短く、言った…


 「…鏡?…」


 ナオキが、返す…


 「…そう、自分の顔を見たいのよ…」


 私が、言うと、ナオキは、私の意図を、すぐに、見抜いたようだ…


 「…わかった…今、持ってくるから、綾乃さんは、そのまま、ベッドで、寝ていて…」


 ナオキは、私をベッドの上に、戻して、それから、部屋を出て行った…


 それから、まもなく、手鏡を持って、戻って来た…


 「…綾乃さん、これで、いいだろ?…」


 と、言って、戻って来た…


 私は、ベッドの上で、座ったまま、その手鏡を受け取り、自分の顔を、見た…


 たしかに、顔色が悪い…


 これでは、ナオキが、心配するのが、わかった…


 まさか、こんなに、悪いとは、自分でも、思わなかった…


 一晩、寝たのに、昨日、諏訪野のお屋敷で、マミさんが、私を心配したときと、顔色が、大差ない…


 だから、だろうか?


 だから、母が、私を心配して、夢の中に出てきたのだろうか?


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 私が、そう、思っていると、ナオキが、


 「…ゆっくり、休むことだよ…」


 と、私に声をかけた…


 「…ここで、ゆっくり休んで、養生することだ…」


 ナオキが、優しく言う…


 私は、それを、聞いて、


 「…ナオキ…アナタのその言い方…まるで、おばあちゃんに、言うみたいね…」


 と、言った…


 「…おばあちゃん?…」


 ナオキが、驚く…


 「…だって、そうでしょ? ここで、養生しろ、なんて…」


 私が、言うと、ナオキが、


 「…その通りかも…」


 と、笑った…


 「…言っておくけど、ナオキ、私は、ナオキより、ずっと年下よ…」


 私は、わざと、怒ったフリをした…


 「…それが、年上のナオキに、おばあちゃん扱いされるなんて、バカにしているわ!…」


 私が、言うと、ナオキが、戸惑ったような表情になった…


 が、


 それは、一瞬…


 一瞬だけ…


 すぐに、


 「…それは、お嬢様…この爺が、お嬢様の気持ちを逆なでするような真似をして、申し訳ありませんでした…」


 と、恭しく、右手を、胸に当てて、頭を垂れて、詫びた…


 それから、すぐに、


 「…これが、爺のお詫びのしるしです…」


 と、言って、いきなり、私にキスをした…


 いきなり、私の唇を奪った…


 私は、ビックリしたが、ナオキのキスを受け入れた…


 素直に、受け入れた…


 キスは、1分ぐらい、続いたで、あろうか?


 ナオキが、私から、離れて、


 「…爺のお詫びの気持ちは、お嬢様に、伝わったでしょうか?…」


 と、またも、右腕を胸に当てて、恭しく、聞いた…


 私は、それを受けて、


 「…まあまあね…」


 と、だけ、言った…


 わざと、偉そうに、言った…


 ナオキは、それを、聞いて、


 「…次回からは、お嬢様に、満足いただけるように、頑張ります…」


 と、真顔で、言った…


 私はそれを、受け入れた…


 「…よろしい…以後、精進するように…」


 これも、わざと、偉そうに、言った…


 実に、偉そうに、言った…


 それから、互いに、顔を見合わせて、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 自分たちのお芝居に、吹き出したのだ…


 まさに、お芝居…


 しかし、そんなお芝居が、嬉しかった…


 こんなバカなお芝居が、できる相手が、身近にいることが、嬉しかった…


 つくづく、自分は、幸せ者だと、思った…


 思ったのだ…


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