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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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50/225

寿綾乃という女 第4部 50

 そして、そんな私を見た、ナオキが、慌てた…


 「…どうしたの? 綾乃さん?…」


 と、言って、慌てた…


 私は、


 「…なんでもない…なんでもないのよ…」


 と、笑いながら、言った…


 「…なんでもないって…」


 「…いえ、自分の立場も、わきまえずに、いつも、自分の恩人に、向かって威張っている、おバカさんが、いると、思って…」


 「…なに? なんのこと?…」


 「…アナタの目の前のいる、おバカさん…」


 「…それって、もしかして?…」


 「…そのもしかしてよ…」


 「…一体、なんで、そんなことを?…」


 「…さあ、理由はないわ…ただ…」


 「…ただ…」


 「…きっと、私の体調が、悪いのよ…だから、そんなことを、思い出した…」


 私が、曖昧に、説明した…


 当然、ナオキは、納得していなかったが、それ以上、なにも、言わなかった…


 ただ、


 「…綾乃さん、顔色が、よくないから、さっさと、休んだ方が、いいよ…」


 と、だけ、言った…


 そして、そんなナオキが、愛おしかった…


 ホントは、私に色々言いたいことがあっても、まずは、私の体調を優先する…


 それゆえ、文句があっても、決して、言わない…


 だから、ナオキの気持ちを優先して、


 「…それでは、私も、これで、休むわ…」


 と、言って、自分の部屋に行くことにした…


 「…綾乃さん、それがいい…」


 ナオキが、ホッとした様子で、私の背中に、声をかけた…


 私は、ホントは、お風呂に入りたかった…


 こう言っては、なんだが、私は、キレイ好き…


 だから、ホントは、外から帰って、布団に入るときは、必ず、お風呂に入ってから…


 それでないと、ダメ…


 どうしても、ダメ…


 でも、今は、そんな余裕は、なかった…


 ナオキと、話してから、だんだんと、疲れて来た…


 きっと、外では、気が張っていたのだろう…


 それが、家に帰って、ナオキの顔を見たから、ホッとした…


 それが、真相だろう…


 だから、それを、考えると、ナオキは、家族…


 つくづく、私の家族だと、思う…


 家族ゆえに、ナオキの顔を見たから、ホッとした…


 肩の力が、抜けた…


 緊張が、解けたからだ…


 これは、いくら、親しくても、あの伸明とマミさんでは、無理…


 無理だ…


 彼らと、いっしょにいても、どこか、緊張する…


 肩の力が、抜けない…


 意識せずとも、どこかで、身構えてしまう…


 つまりは、その差…


 いかに、彼らと仲が良くても、ナオキとは違う…


 信用度が、違う…


 信頼度が、違う…


 それが、私の態度に現れている…


 無意識に、私の態度に、現れている…


 そういうことだろう…


 私は、布団で、寝ながら、考えた…


 そして、布団に入ると、まもなく、意識を失かった…


 呆気ないほど、簡単に眠りに入った…


 よほど、疲れていたのだろう…


 次の日の朝まで、一度も、起きなかった…



 そして、寝ていると、夢を見た…


 夢の中には、母が、いた…


 すでに、とっくの昔に、この世を去った母が、いた…


 「…綾子…大丈夫?…」


 母が、心配そうに、聞く…


 「…大丈夫よ…」


 私は、答える…


 「…たいしたことじゃ、ないわ…」


 「…なら、いいけど…」


 母が、心配そうに、言う…


 私は、母の前では、子供…


 いくつになっても、子供だった…


 母が、この世を去ったのは、私が、中学生のとき…


 今、私は、32歳だから、もう、私の年齢の半分は、母と過ごしていない…


 母と、いっしょにいたのは、15歳まで…


 だから、その後の17年は、違う…


 しかし、母と、いっしょにいると、私は、子供…


 ナオキの前では、いつも、威張っているのに、そんな姿からは、想像もできないほど、子供に返る…


 だが、まあ、これは、誰もが、同じ…


 同じかも、しれない…


 どんなに、歳を取っても、どんなに、偉くなっても、親の前では、子供に返る…


 そういうものだからだ…


 母は、私に、


 「…綾子…私のアドバイスは、役に立った?…」


 と、聞いてきた…


 これには、面を食らった…


 「…アドバイスって?…」


 母が、なにを、言わんとしているのか、わからなかったからだ…


 「…ほら、綾子の従姉の寿綾乃ちゃん、彼女に、なりすまして、生きなさいと、言ったでしょ? 綾乃ちゃんは、お金持ちの男のひとの娘…綾乃ちゃんになりすませば、きっと、綾子にも、大金が、手に入る…」


 母が、言った…


 以前、母が、亡くなる前に、私に言ったアドバイス…


 お世辞にも、裕福とはいえない、私と母の母子家庭…


 母は、自分が、いなくなった後の私を心配していた…


 それゆえ、すでに、亡くなった従姉の寿綾乃になりすませて、生きろと、私に命じた…


 従姉の綾乃の父親は、お金持ち…


 そのお金が手に入る可能性が、高いから、綾乃になりすませと、私に命じた…


 母が、亡くなる前に唯一できることだった…


 母が、亡くなる前に、唯一、私に残した財産だった…


 が、


 母は、従姉の綾乃が、誰の子供かは、知らなかった…


 母の妹である、叔母が、明かさなかったからだ…


 叔母は、美人…


 私に似た美人だった…


 叔母の娘である、綾乃は、叔母ほど、美人では、なかった…


 どちらかと、言えば、平凡な容姿の娘だった…


 むしろ、叔母にとっては、姪である、私の方が、叔母に似ていた…


 美人の叔母に似ていた…


 そして、それゆえ、母は、叔母の娘である、綾乃になりすませと、私に命じたのだ…


 その方が、自然だからだ…


 そして、偶然というか…


 あっけないほど、簡単に、従姉の綾乃の父親が、わかった…


 しかしながら、それは、つい、最近…


 一年ちょっと、前の話だ…


 伸明の父親の建造と知り合った…


 その建造が、綾乃の父親だった…


 いや、偶然では、なかった…


 綾乃の父親の建造との出会いは、偶然ではなかった…


 どこかで、私を見た、建造が、私の正体に、気付き、マミさんを、ナオキに近付けた…


 マミさんは、経営者…


 会社を経営している…


 それゆえ、雑誌の対談の名目で、ナオキに近付いた…


 若手の経営者同士の対談という、名目で、藤原ナオキに近付いた…


 ナオキは、長身のイケメン…


 それゆえ、当初は、マミさんは、ナオキをゲットすると、宣言した…


 それを、聞いても、周囲の人間は、誰一人、驚かなかった…


 イケメンのナオキを狙うといっても、驚くことでも、なんでもないからだ…


 だが、ターゲットは、ナオキでは、なく、私…


 私、寿綾乃だった…


 矢代綾子だった…


 私の姿を、偶然、見た、建造が、驚いたのだ…


 かつて、自分が、愛した叔母と、よく似た容姿の私を見て、驚いたのだ…


 そして、直感で、私を、自分の娘かも、しれないと、気付いたのだ…


 当時は、わからなかったが、今、振り返れば、そう、思う…


 実に、そう、思う…


 それが、わかるのは、建造の優しさ…


 建造は、それまで、初対面だったにも、かかわらず、徹頭徹尾、私に優しかった…


 私には、なぜだか、わからなかった…


 ただ、建造の好意に甘えた…


 が、


 それは、今も、言ったように、自分の娘かも、しれないと、私を見ていたから…


 だから、私に優しかった…


 それが、理由だった…


 が、


 その反面…


 五井は、執拗だった…


 五井の女帝、諏訪野和子は、私の正体を探るべく、孫の菊池リンを、私に接触させた…


 大学を卒業したばかりの菊池リンを、FK興産に入社させ、私に仲良くさせた…


 菊池リンは、頼りなく、愛くるしい…


 まるで、例えは、悪いかも、しれないが、小さな子犬のように、可愛い…


 だが、それは、仮面…


 私を油断させるための仮面だった…


 素顔は、全然、違う…


 が、


 それに気付かない私は、安易にガードを下げた…


 その結果、私は、彼女に丸裸にされた…


 私が、寿綾乃の偽者と知った、菊池リンは、私を罠にかけた…


 その結果、私は、ジュン君の運転するクルマにはねられた…


 今、私は、母に会って、そんなことを、思い出した…


 思い出したのだ…


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