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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 49

 そして、それを、あの西家夫妻は、逆手に取った…


 伸明の趣味趣向を知って、逆手に取った…


 そういうことだろう…


 なにしろ、伸明を子供の頃から、知っている…


 それゆえ、伸明の嗜好を熟知した上で、今回の見合いを仕掛けた…


 そういうことだろう…


 しかし、だとしたら、強敵…


 伸明にとって、想像以上の強敵かも、しれない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…だとしたら、諏訪野さん、危ないね…」


 と、笑った…


 「…危ない? なにが、危ないの?…」


 「…相手の術中にはまっちゃうかも、しれないね…」


 「…相手の術中って?…」


 「…今回の見合い…諏訪野さんの好みのタイプを選んで、諏訪野さんに見合いをさせたのが、見え見え…」


 「…」


 「…案外、諏訪野さん、落ちちゃったりして…」


 「…落ちちゃうって?…」


 「…その見合い相手と結婚しちゃうかも、しれないかもってこと…」


 「…まさか?…」


 「…そのまさかが、あるかも…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 ナオキが、笑いながら、言う…


 私は、ナオキの指摘に、考え込んだ…


 まさか?


 まさかとは、思うが、ホントに、そんなことが?


 考え込んだ…


 たしかに、このナオキの指摘通り、あのハルカは、おそらく、伸明の好みのタイプ…


 ストレートに、好みのタイプに、違いない…


 美人で、気が強い…


 真面目で、おとなしいタイプの伸明が惹かれるタイプ…


 それゆえ、結婚しても、おかしくはない…


 たとえ、罠と知っていても、結婚しても、おかしくはない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そう、思っていると、


 「…綾乃さん、なにを、そんなに、真剣に考えているの?…」


 と、ナオキが、聞いてきた…


 私が、その質問に、すぐに、答えずにいると、


 「…まさか、今、ボクが言った冗談を真に受けたわけじゃないよね?…」


 と、笑った…


 「…冗談って?…」


 「…諏訪野さんが、その見合い相手と結婚するって、話…」


 「…」


 「…諏訪野さんが、結婚するわけ、ないでしょ?…」


 「…どうして、わかるの?…」


 「…諏訪野さんは、バカじゃないからさ…」


 「…」


 「…常に、自分の立場を考えて、行動する…たとえ、目の前に、滅茶苦茶、好みのひとがいても、まずは、自分の立場を考える…」


 「…」


 「…綾乃さんが、心配することじゃ、ないよ…」


 「…」


 「…それより、そんなボクの冗談を真に受ける綾乃さんの方が、心配だ…」


 「…えっ? 心配?…」


 「…だから、今日、やって来て、良かった…つくづく、良かった…」


 ナオキが、力説した…


 私は、それを、聞いて、呆気に取られたというか…


 たしかに、そんな冗談を真に受ける自分も、また珍しいと、思った…


 やはり、体調が、悪いのだろうか?


 自分では、気付いていないが、やはり、体調が、悪いのだろうか?


 考えた…


 「…でも、まあ、今日は、ボクは、ここに泊まっていくから…」


 「…えっ?…」


 「…いや、今日だけじゃない…綾乃さんの体調が、回復するまで、ここにいるから…そのために、今日、来たから…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…」


 「…他ならぬ、綾乃さんのためだ…一肌脱ぐよ…」


 「…一肌脱ぐって?…」


 「…と言っても、たいしたことは、できない…要は、毎朝、この家から、会社に出勤して、毎夜、この家に帰って来る…それだけ…」


 「…それだけ…」


 「…つまりは、当面、綾乃さんと、いっしょに、ここで暮らすということさ…」


 ナオキが、笑って言った…


 私は、驚いた…


 まさか、ナオキが、そんなことを、言うとは、思わなかった…


 予想も、しなかったからだ…


 「…ナオキ、本気?…」


 「…本気さ…でも、綾乃さんが、ボクが、ここに泊まるのを、了承すればの話だけれども…」


 「…ナオキ…なにを、バカなことを、言っているの…了承もなにも、このマンションは、アナタのマンションでしょ? 私の了承なんて、取る必要は、ないでしょ?…」


 「…それは、違う…」


 「…違う? …なにが、違うの?…」


 「…このマンションは、綾乃さんのものだ…」


 「…えっ?…」


 「…ボクのものじゃない…」


 すっかり、忘れていた!…


 このマンションは、元々、藤原ナオキ名義だったが、今は、私名義…


 寿綾乃名義だ…


 それは、FK興産が、五井と提携したから…


 諏訪野伸明率いる五井グループと提携したから、急いで、ナオキは、このマンションを私名義にした…


 そして、私をFK興産の非常勤の取締役に命じた…


 いつなんどき、FK興産が、完全に五井に飲み込まれるか、わかったものでは、ないからだ…


 だから、それを、恐れて、ナオキは、このマンションを私名義にして、おまけに、私をFK興産の非常勤の取締役に、任じた…


 そうすれば、今、事実上、無職の私に、FK興産の非常勤の取締役として、お金を振り込むことが、できるからだ…


 ナオキは、FK興産の社長であり、なおかつ、五井グループ総帥の諏訪野伸明と仲がいい…


 気が合う…


 が、


 それを、抜きにしても、伸明を心の底から、信頼していないのだろう…


 それが、わかる事例だ…


 いかに、伸明と仲が良くても、心のどこかで、一線を引いている…


 つまり、言葉は、悪いが、伸明を全面的に、信用、あるいは、信頼していない証拠…


 伸明は、悪い人間ではないが、伸明の立場というものがある…


 五井家当主としての立場がある…


 それゆえ、立場上、やりたくなくても、やらなければ、ならないことが、ある…


 以前、その流れで、伸明は、FK興産を、手に入れようとしたが、失敗した…


 FK興産の、この藤原ナオキを社長から解任しようとしたが、失敗した…


 取締役の決議で、多数を獲得できなかったからだ…


 伸明自身は、おそらく、FK興産を、手に入れることは、欲していない…


 が、


 伸明の立場がある…


 五井家当主としての立場がある…


 伸明の当主就任に際し、なにか、しなければ、ならない…


 当主としての、結果を出さなければ、ならない…


 それゆえ、FK興産を五井グループに入れようとした…


 FK興産を完全に五井に取り込んで、それを、伸明の手柄にしようとした…


 そういうことだ…


 ナオキは、FK興産と、五井グループが、資本提携したが、完全に五井の傘下に、下ることは、考えてなかった…


 あくまで、資本提携…


 平たく言えば、金を借りただけだ…


 が、


 伸明は、それを、もう一歩進めて、完全にFK興産を五井に取り込もうとした…


 が、


 FK興産の取締役会議で、それが、否決された…


 ほかならぬ、私自身が、それに反対した…


 非常勤の取締役として、反対した…


 ナオキが、取締役社長の座から、追放されることを、拒んだ…


 そんな過去がある…


 つまりは、このナオキ自身、伸明と敵対した過去がある…


 それゆえ、今も、ナオキは、伸明と仲がいいが、心の中で、一線を引いているのだろう…


 言葉は、悪いが、伸明を全面的には、信用していないのだろう…


 それゆえ、もしかしたら、私を心配したのかも、しれない…


 私が、今日、伸明の見合いの名目で、諏訪野の豪邸に呼び出されて、なにか、されるかも、しれない…


 そう、心配したのかも、しれない…


 いや、


 さすがに、それは、考え過ぎか?(笑)


 いずれに、しても、私も、伸明と、マミさんを、信頼しているし、好きだが、心の底から、信用することは、できない…


 そんな過去があったから、心の底から、気を許すことは、できない…


 そして、おそらく、それは、このナオキも同じ…


 この目の前にいる、藤原ナオキも、また、同じだ…


 伸明を全面的には、信用していない…


 伸明を全面的には、信頼していない…


 それゆえ、今日、私の元にやって来た…


 もしかしたら、そうかも、しれない…


 うがち過ぎかも、しれないが、そうかも、しれない…


 私は、考えた…


 今さらながら、考えた…


 そして、そんなことを、考えながら、目の前のナオキを見た…


 FK興産社長の藤原ナオキを見た…


 やはり、私にとって、このナオキは、僥倖…


 僥倖に、他ならなかった…


 まるで、宝くじに当たったような僥倖に、他ならなかった…


 この藤原ナオキと、出会ったから、私の人生は、好転した…


 明らかに、上昇気流に乗った…


 ナオキと、出会い、事実上のパートナーになり、互いに、成功の階段を一歩ずつ、登って行った…


 そして、今、頂点に到達したと、言えば、大げさだが、出会った当初から、見れば、ありえないほど、成功した…


 それが、今、住む億ションに現れている…


 出会った当初は、ナオキは、安アパートに暮らしていた…


 だから、それを、思えば、今の成功は、信じられないくらい、大きな成功…


 もちろん、この世には、ナオキ以上の成功者が、ごまんといるが、上を見れば、切りがない…


 私の目から見ても、十分な成功者…


 まぎれもない、成功者だ…


 そして、恩人だ…


 この寿綾乃、矢代綾子の恩人だ…


 この藤原ナオキがいたからこそ、私もまた、成功した…


 この藤原ナオキが、いなければ、私は、どんな人生を歩んだのか、想像もつかない…


 それほどの恩人だった…


 が、


 ナオキを見ていると、つい、イジメたくなるというか(苦笑)…


 つい、自分が、主導権を握ってしまう…


 ナオキが、おとなしいからだ…


 だから、私が、上になる…


 ナオキの上になって、ナオキを、導く…


 しかしながら、この世の中の夫婦は、どこも、同じかも、しれない…


 夫婦と言っても、大抵は、妻の方が、主導権を、握っている…


 夫は、妻に従うだけ…


 そんなものかも、しれない…


 そして、そんなことを、考えると、私は、なんだか、おかしくなった…


 実に、おかしくなった…


 それゆえ、つい、


 「…プッ!…」


 と、吹き出してしまった(苦笑)…


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