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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 5

 あの長谷川センセイの先祖って?


 このマミさんは、あの長谷川センセイが、五井西家の末裔だって、知ってた?


 それが、驚いた…


 率直に言って、このマミさんが、あの長谷川センセイが、五井西家の末裔だと、知っていたか、どうかは、忘れていた…


 すっかり、忘れていた(苦笑)…


 あの長谷川センセイは、たしかに、五井西家の末裔…


 ただ、それは、先祖が、五井西家の人間であるというだけで、今は、なにも、関係がない…


 ただ、それが、長谷川センセイが、不満…


 要するに、長谷川センセイは、先祖返りというと、言葉は、おかしいが、長谷川センセイは、五井西家と繋がりたいのだ…


 長谷川センセイには、五井西家の血が繋がっているが、現在は、なんの関係もない…


 それが、不満なのだ…


 だから、先祖返りというと、言葉は、間違っているが、先祖に戻りたい…


 つまり、五井西家に入りたいのだ…


 それが、長谷川センセイの夢であり、願望でもある…


 だから、今、マミさんが、言ったように、五井西家が、伸明さんの結婚を推し進めていると、いう情報をどこからか、得て、今、この病室に探りに来たのだろう…


 伸明さんが、私の見舞いにやって来たか、どうか、探りに、来たのだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、


 「…でも、安心して…」


 と、マミさんが、言った…


 …安心?…


 …なにが、安心なんだろ?…


 すると、マミさんは、続けて、


 「…伸明さんは。寿さん以外の女と、絶対、結婚はしない…」


 と、断言した…


 私は、驚いた…


 さらに、マミさんは、続けて、


 「…それは、和子おばさまも、同じ…伸明さんの妻には、寿さん以外の女を、認めない…」


 と、言った…


 「…要するに、西家は、悔しいのよ…」


 …悔しい?…


 …なにが、悔しいんだろ?…


 「…五井は、連合体…五井本家は、五井の持ち株会社、五井ホールディングの株の30%を持っていて、その下の東西南北の分家が、それぞれ、10%ずつ、株を持っている…」


 「…」


 「…でも、現在は、実質、本家を東家が、仕切っている…和子おばさまも、伸明さんの母である、和子おばさまの双子の姉の昭子おばさまも、五井東家出身…その東家出身の昭子おばさまが、伸明さんを産んだ…」


 「…」


 「…だから、悔しいの…東家が、本家を乗っ取ったと、思って、悔しいの…」


 そう、言われると、納得した…


 マミさんの言うことに、納得した…


 そう言えば、以前、たしか、伸明が、


 「…これで、東家の勝ちだ!…」


 と、叫んだことがある…


 それを、思い出した…


 このマミさんの母親である女性の店で、私と伸明さんが、お酒を飲んでいたところで、叫んだことがある…


 それを、思い出した…


 要するに、あの伸明さんは、本家出身であり、本家の正統な後継者であるにも、かかわらず、意識は、東家に近いのだろう…


 母が、東家出身だからだ…


 だから、あのとき、叫んだ…


 つい、心の内を吐露した…


 そういうことだろう…


 しかし、


 しかし、だ…


 新しく、当主になったばかりの伸明が、そんなふうに、心の底で、自分が、東家出身であることを、自負しているのだと、すれば、当然、他家の人間は、面白くないだろう…


 何度も繰り返すが、五井は、連合体…


 五井は、十三家ある…


 五井は、その長い歴史の中で、子孫が、分裂したからだ…


 その結果、いわゆる、持ち株会社、五井ホールディングスの株を、どれぐらい持つか…


 その株の持ち分の比率で、本家や、それ以外の分家の力関係を、決めた…


 そして、その株の比率は、本家が、30%、

 

 主要な分家である、東西南北の分家が、それぞれ、10%…


 そして、それ以外の8家の分家が、残りの30%を分ける…


 そう、決まっていた…


 つまり、それぞれの力関係が決まっていた…


 が、


 今は、実質、当主の伸明と、その後見人である叔母の和子が、五井家の中心…


 五井家を仕切っている…


 当然のことながら、他家は、面白くないだろう…


 なにしろ、東西南北の分家は、皆、横一列で、いっしょ…


 横一列で、対等な立場だからだ…


 にもかかわらず、今は、事実上、東家が、本家に入り、五井を仕切っている…


 これでは、残りの、東家を除いた、西家、南家、北家の人間が、面白いはずがない…


 当然ながら、不満の声を上げるのは、わかる…


 実に、わかる(苦笑)…


 だが、それが、こともあろうに、伸明の嫁取りとは、思わなかった…


 このタイミングとは、思わなかった…


 まったく、思わなかった…


 が、


 私が、そんなことを、考えていると、マミさんが、まるで、私に話しかけるというより、独り言を言うように、


 「…ご先祖様が、いけないのよ…」


 と、呟いた…


 「…ご先祖様が、いけないって?…」


 私は、心の中で、叫んだ…


 うまく、しゃべれないので、心の中で、叫んだ…


 すると、マミさんが、続けて、


 「…ご先祖様は、五井の血が薄まるからと、ある時期を、境に、一族同士の結婚を推奨した…五井の歴史は、400年…だから、一族といっても、他人に近い…だから、ご先祖様が、そう言うのは、わかる…これ以上、血が薄まれば、団結心がなくなる…他人に近いくらい、血が薄まれば、一族で、結束するのが、難しくなる…」


 「…」


 「…でも、それが、いけなかった…」


 …いけなかった?…


 …どうして、いけなかったんだろ?…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、それが、私の表情に出たのだろう…


 「…寿さん…どうして、いけなかったって、顔をしているわね?…」


 と、マミさんが、面白そうに、私に聞いた…


 私は、黙って、頷いた…


 そして、私が、無言でも、頷くことで、私が、ちゃんと、マミさんの話を聞いている…


 あるいは、マミさんの話を理解していることを、マミさんに伝えることが、できた…


 なんと言っても、今の私は、病院のベッドの上…


 しかも、しゃべれない…


 それゆえ、マミさんにしてみれば、私が、ちゃんと、マミさんの話を聞いているか?


 あるいは、ちゃんと、理解できているか?


 それが、不安だったかも、しれないからだ…


 だから、頷いた…


 しっかりと、頷いた…


 マミさんの話をしっかりと、理解していると、マミさんにわかってもらうために、頷いた…


 そして、それを、見て、マミさんが、


 「…わかった…寿さんが、私の話を理解できているのが、わかった…」


 と、言った…


 それから、


 「…一族同士の結婚をご先祖様が、推奨したのは、いい…でも、その結果、予想外の弊害が起きた…」


 と、告げた…


 …弊害?…


 …弊害って、なんだろ?…


 「…それはね…」


 …それは?…


 「…ずばり、誰もが、本家と結びたがった…」


 …えっ?…


 …どういう意味?…


 「…ぶっちゃけ、本家の跡取りと結婚したがった…本家の跡取りと結婚すれば、自分たち分家が、本家に入ることが、できる…今の東家の昭子、和子おばさまたちが、本家の跡取りだった建造、義春兄弟と結婚したのが、その典型…本家の跡取り息子と結婚することで、分家が、本家を乗っ取ることも、可能になった…」


 「…」


 「…でも、真逆に、今度は、和子おばさまが、それを、恐れた…自分たちは、事実上、五井本家を乗っ取ったのに、皮肉なものよね…他家の分家が、伸明さんと、結婚することで、他家が力を持つことを、恐れた…」


 「…」


 「…それもあって、おそらく、和子おばさまは、寿さんを推しているんだと、思う…伸明さんのお嫁さん候補として、推しているんだと、思う…」


 驚いた…


 まさか、そんな事情があるとは、思わなかった…


 考えもしなかった…


 「…ホントは、和子おばさまは、孫の菊池リン…リンちゃんを、伸明さんと、結婚させれば、いいのだけれども、それでは、東家が、ますます本家を乗っ取ったと、思われて、他家の反感を、買う…だから、それは、できないと、考えたんだと、思う…なんと言っても、リンちゃんは、和子おばさまの孫であると、同時に、五井東家の人間でもあるのだから…そして、今、おばさまは、体調を崩されて…」


 「…」


 「…それだから、たぶん、絶好のタイミングだと、思って、西家が、伸明さんの結婚を推し進めようとした…」


 マミさんが、告げる…


 思いもかけなかった事実を告げた…


 私は、絶句して、言葉もなかった…


 元々、しゃべればないのだから、絶句もなにもないのだが、驚いたということだ…


 おおげさでなく、ビックリ仰天したということだ…


 だが、マミさんから、今の話を聞いて納得したというか…


 なぜ、あの和子が、私を伸明さんのお嫁さん候補として、推しているのか?


 それが、わかった…


 要するに、五井家の内紛…


 それを、回避したいのだ…


 今、事実上、五井は、当主である、諏訪野伸明でなく、伸明の叔母の和子が、仕切っている…


 五井の女帝と呼ばれるほど、五井の、いわば、看板となっている…


 それは、なぜか?


 それは、伸明が、まだ若いから…


 まだ、四十代半ば…


 それでは、五井を仕切ることは、できないと、和子は、判断したに、違いない…


 これが、例えば、40年前、50年前なら、伸明は、すでに、四十代半ば…


 立派に五井を率いる年齢に達していると、周囲は、思うだろう…


 しかしながら、今は、皆、長生き(苦笑)…


 まだ、四十代半ばで、五井を率いるのは、早すぎると、周囲は、見る…


 なぜなら、伸明と同じような地位の人間は、皆、六十代には、なっている…


 それゆえ、伸明が、リーダーとして、世に出ても、軽く見られる…


 他のリーダーよりも、二十歳も、若ければ、どうしても、軽く、見られてしまう…


 それを、あの和子は、恐れたのだろう…


 だから、和子は、伸明の後見人として、五井に君臨している…


 ホントは、五井を代表するのは、伸明にも、かかわらず、和子が、出張っている…


 伸明では、まだ対外的に、五井を代表する年齢に達していないと、思われているからだ…


 そして、私の話…


 私、寿綾乃の話だ…


 私、寿綾乃が、なぜ、伸明のお嫁さん候補として、和子が、推しているのか?


 それは、五井の内紛を避けるため…


 五井のゴタゴタを避けるためだろう…


 伸明のお嫁さんを、五井内部から、選ぶとすれば、どうしても、ゴタゴタが、起きる…


 ゴタゴタ=内紛が、起きる…


 当主の妻となれば、どうしても、その妻の出身の分家が、力を持つからだ…


 伸明の妻を、五井内部で、見つけるとなれば、そのゴタゴタは、避けられない…


 だから、あの和子は、私を選んだ…


 私に白羽の矢を立てた…


 そういうことだろう…


 五井内部で、伸明の妻を、選べば、ゴタゴタが、起きるのは、目に見えてる…


 それならば、最初から、五井内部から、選ばなければ、いい…

 

 そういうことだ…


 結婚は、一族内の人間とすること…


 さもないと、すでに、他人同様に、血が薄れた一族だから、それが、一族以外の人間と結婚すると、ますまず、血が薄くなる…


 結果、一族の団結が、損なわれる…


 それゆえ、ご先祖様は、結婚は、一族内で、するように、推奨したのだろう…


 当たり前のことだ…


 しかし、和子は、それが、わかっていながら、あえて、伸明の妻を、外部から、選ぼうとしている…


 一族内で、選べば、ゴタゴタが、起きることが、目に見えているからだ…


 極端に言えば、一族内のパワーバランスが崩れることが、わかっているからだ…


 これが、同じ一族でも、伸明以外の人間なら、また違うだろう…


 しかし、伸明は、当主…


 五井家の当主だからだ…


 その当主の妻となれば、明らかに、今の一族のパワーバランスが、崩れる…


 それを、あの和子は、危惧したのだろう…


 そして、そこまで、考えると、あらためて、あの和子の深謀遠慮というか…


 なぜ、私を、伸明の妻として、推しているのか、わかった…


 なぜ、私、寿綾乃を伸明の妻として、推しているのか、わかった…


 カラクリが、わかった(苦笑)…


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