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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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43/225

寿綾乃という女 第4部 43

「…五井家への復帰?…」


 私の言葉に、マミさんが、仰天した…


 文字通り、仰天した…


 が、


 伸明は、驚かなかった…


 伸明は、長谷川センセイが、五井家の血を引く者だと、あらかじめ、知っていたからだ…


 「…伸明さんは、ご存じですよね?…」


 私は、聞いた…


 が、


 伸明は、なにも、言わず、缶のハイボールを飲んだ…


 返事の代わりに、缶のハイボールを、飲んだ…


 そして、それは、私から、見れば、今さらと、いう感じ…


 今さら、そんなことを、という感じだった…


 伸明が、答えないことが、肯定を意味したと、思った…


 伸明は、ハイボールの缶を口から、離すと、


 「…知っている…」


 と、ぶっきらぼうに、答えた…


 不機嫌そうに、答えた…


 「…だったら、話が、早いです…」


 私は、言った…


 「…だから、それを、考えれば、今日は、あのハルカさんに、わざと、伸明さんに、あんな態度を取らせたのは、長谷川センセイの指示かも、しれません…」


 私が、言うと、すぐに、マミさんが、


 「…寿さん…どうして、そう思うの?…」


 と、突っ込みを入れた…


 「…簡単ですよ…マミさん…」


 「…簡単?…」


 「…そうです…」


 「…なにが、簡単なんですか?…」


 と、今度は、伸明が、聞く…


 「…だって、伸明さんは、お金持ちで、五井家の当主でしょ?…」


 「…それが、どうかしましたか?…」


 「…ひとから、ちやほやされるのが、当たり前と言っては、言い過ぎですが、日常でしょ?…」


 「…」


 「…でも、だから、あんな態度を取られるのが、真逆に、新鮮なんじゃ、ないでしょうか?…」


 「…ということは、寿さん、それを、狙ったって、こと?…」


 と、マミさん…


 「…ハイ…私は、そう、思います…」


 「…」


 「…ひとに、自分を印象づける方法は、いっぱいありますが、わざと、高飛車な態度を取って、相手の関心を引くというのも、常道です…」


 私が、言うと、マミさんは、


 「…」


 と、黙った…


 そして、私は、言い終えてから、伸明の反応を見た…


 伸明が、どういう反応をするのか、見た…


 伸明は、ハイボールの缶を飲みながら、私の話を聞いていた…


 私の話を聞き終えてから、伸明は、二本目のハイボールの缶を飲み終え、三本目のハイボールの缶を開けた…


 ハイボールの缶を開けながら、伸明は、


 「…寿さん…」


 と、私に声をかけた…


 次いで、


 「…それは、水商売の女の手口だよ…」


 と、言って、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…古典的というか…実に、ありきたりな手法だ…」


 が、


 その笑いは、皮肉な笑いでも、あった…


 「…でも、効果は、抜群…その手口に引っかかる男は、数知れず…実に、多い…」


 伸明が、笑う…


 「…かく言う、ボク自身も、今、寿さんが、指摘しなければ、引っかかっていた…」


 「…引っかかった?…」


 と、マミさん。


 「…ああ、引っかかった…やはり、あんなふうに、接しられると、困惑すると同時に、新鮮に感じる…どうしても、普段、会社でも、なんでも、あんなふうに、ひとに言われることはないからね…だから、真逆に新鮮に感じる…そして、興味を持つ…」


 「…」


 「…だから、寿さんに。言われなければ、また、彼女と会いたいと、思った…」


 伸明が苦笑する…


 「…まったく、他人のことは、わかっても、自分のことは、わからない…その典型だ…」


 伸明は、言って、三本目の缶のハイボールを、飲む…


 私とマミさんは、そんな伸明を見た…


 互いに、なんと言っていいか、わからなかった…


 なんと、伸明に、声をかけて、いいか、わからなかった…


 ただ、マミさんが、突然、思い出したように、


 「…長谷川センセイの野心って、五井に認められることって、寿さん、言ったわね…」


 と、私に言った…


 「…ハイ…」


 「…で、それから、どうするの?…」


 これは、予想外…


 考えてもみない質問だった…


 「…仮に、長谷川センセイが、正式に、五井家の人間だと、一族に認められたとする…でも、それで、どうなるの?…」


 「…どうなるって?…」


 「…それは、一族に認められたという、単なる、自己満足…それとも、一族に認められたことを、周囲に公表して、それを、足掛かりに、大がかりに、なにか、事業をするとか…」


 マミさんが、言う…


 たしかに、あり得ることを、言う…


 が、


 私も、そこまで、考えていなかった…


 長谷川センセイの野心の先を考えていなかった…


 だから、率直に、


 「…わかりません…」


 と、答えた…


 即座に、答えた…


 そして、それを、聞いていた伸明が、


 「…マミさん…いくらなんでも、それは、ムリだよ…」


 と、マミさんを、たしなめるように、言った…


 「…いくら、寿さんでも、長谷川センセイが、なにを考えているかまでは、わからないよ…」


 「…それは、そうでしょうけど…」


 マミさんが、答える。


 「…それよりも、寿さん?…」


 伸明が、私に、聞く。


 「…藤原さんは、帰って来たんでしょ?…」


 いきなり、聞いた…


 私に、聞いた…


 私は、戸惑ったが、すぐに、


 「…ハイ…」


 と、答えた…


 この伸明が、まさか、いきなり、ナオキのことを、聞くのは、予想外というか…


 思っても、みないことだった…


 だから、慌てた…


 「…そう言えば、藤原さん…寿さんの見舞いに、来なかったそうね…」


 これも、マミさんが、いきなり、言った…


 私は、この話をマミさんに、話したか、どうか、考えたが、その前に、伸明が、


 「…藤原さんは、どこに、いたんですか?…」


 と、私に、聞いた…


 それゆえ、


 「…たしか、伊豆の別荘だと、聞きました…」


 と、答えた…


 「…伊豆の別荘?…」


 と、マミさん。


 「…そこに、事実上、幽閉されていたと…」


 「…幽閉? それは、どういうこと?…」


 と、マミさん。


 「…携帯電話を取り上げられて、そこで、女のコたちと、一日中、飲んだり、騒いだり、釣りをしたり、過ごしていたと…」


 「…それが、幽閉?…」


 と、マミさん。


 が、


 そんなマミさんの言葉に、


 「…立派な幽閉だよ…」


 と、伸明が、口を挟んだ…


 「…ケータイを取り上げられ、そこから、帰ることも、できない…一日中、飲んだり、女のコと、騒いでも、楽しいのは、最初だけ…じきに、不安になる…」


 「…」


 「…で、藤原さんが、幽閉されていた場所が、伊豆…」


 伸明が、意味深に、言う…


 即座に、マミさんが、


 「…伊豆って、五井の別荘が、いくつもある…」


 と、返答した…


 「…もちろん、西家の別荘もあるね…」


 と、伸明。


 「…それって、まさか、藤原さんを、幽閉したのは、西家の叔父様と叔母様…」


 と、マミさん。


 「…それは、わからない…まだ西家の叔父様や叔母様の仕業と決まったわけじゃないし、それに、今、マミさんが、言ったように、西家以外に、伊豆に別荘を持っている、五井一族も、いる…」


 「…それって、まさか、他の分家のどこかが、西家と共謀して、藤原さんを、幽閉して…」


 「…考えられるシナリオだね…」


 伸明が、ハイボールの缶を飲みながら、言う…


 「…それに…」


 と、言って、また、伸明は、ハイボールの缶を飲んだ…


 「…それになに? 伸明さん?…」


 伸明は、ハイボールの缶を口から、離すと、


 「…今回の藤原さんの件も、そうだけれども、偶然とは、思えない…」


 「…偶然じゃない? それって、どういうこと?…」


 「…おそらくは、西家だけじゃなく、他の分家も、西家と組んで、本家に揺さぶりを、かけているんじゃないかな?…」


 「…揺さぶりって?…」


 「…要するに、和子叔母様の存在は、それほど、大きかったってこと…」


 「…」


 「…だから、和子叔母様の不在時の今、本家が、どうでるか? 試しているんだと、思う…」


 「…そんな…」


 「…現に、藤原さんが、五井一族の娘と結婚したという情報も流れたでしょ?…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…寿さんは、知ってますか?…」


 「…ハイ…知ってます…」


 「…ボクは、今、その情報を探っているところです…」


 「…情報を探っている?…」


 「…誰が、そんな情報を、流したのか? マスコミを通じて、探している…」


 「…それが、五井の分家だと?…」


 マミさんが、聞く…


 が、


 伸明は、それには、答えず、ハイボールの缶を飲んだ…


 それから、ハイボールの缶から、口を離して、


 「…たぶん…」


 と、だけ、言った…


 不愉快そうに、言った…


 そんな伸明の顔を見た、マミさんも、また憂鬱な表情に、なった…


 普段は、明るいマミさんの表情が、まるで、別人のように、暗くなった…


 そして、一言、


 「…そういうこと…」


 と、だけ、呟いた…


 すると、それに、呼応して、伸明も、


 「…そういうこと…」


 と、だけ、言って、またハイボールの缶を飲み出した…


 要するに、あの和子が、倒れたことにより、五井の分家の一部が、組んで、本家に牙を剥いた…


 そういうことだった…


 そして、それに、いち早く気付いた伸明が、対処すると、同時に、不機嫌になった…


 あの五井の女帝が、倒れたことで、まさか、分家が、組んで、本家に歯向かうとは、予想もしていなかったのだろう…


 それゆえ、西家の夫妻が、あの長谷川兄妹とやって来たときは、普通に対応したが、それが、終わると、不機嫌になった…


 自分の置かれた状況を考えて、不機嫌になった…


 それゆえ、ハイボールの缶を飲んだ…


 一本では、なく、二本、三本と、飲んだ…


 飲むことで、不満を、和らげるのだろう…


 それが、目的だろう…


 しかし、目の前で、それを、見るのは、痛かった…


 実に痛かった…


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