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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 41

 結局、伸明の見合いは、成功だった…


 それは、誰の目にも、成功だった…


 見合いは、終始、和やかな雰囲気の中で、行われたからだ…


 それゆえ、皆が、寿司を食べ終えて、お茶を飲んでいると、西家当主が、


 「…伸明クン…今度は、私たち抜きで、ハルカさんと、会えばいい…」


 と、提案した…


 「…やはり、こういうことは、二人だけで、いっしょに、いるのが、いい…」


 と、言った…


 当たり前のことだった…


 が、


 伸明は、予想外のことを、言った…


 「…いえ、これは、今回限りで…」


 と、言ったのだ…


 これには、耳を疑った…


 あまりにも、予想外の言葉だったので、耳を疑った…


 伸明の言葉で、それまで、和やかだった雰囲気が、一変した…


 まさに、一変した…


 急に、この場の空気が、ピリピリして、緊張感あふれる、感じになったからだ…


 伸明の言葉に、西家当主の顔が見る見る赤くなった…


 伸明の言葉に、頭に来たのは、明白だった…


 「…伸明クン、それは、一体、どういう意味だ?…」


 激怒して、言った…


 「…言葉通りの意味ですよ…叔父様…」


 「…言葉通りの意味?…」


 「…今日は、コレで、終わりです…次は、ありません…」


 「…なに? 次はない?…」


 「…そうです…」


 「…伸明クン、ハルカさんが、気に入らないのか?…」


 「…いえ、気に入りました…」


 「…気に入った? だったら、なぜ?…」


 「…ボクは、ハルカさんと、結婚する気が、ないからです…」


 「…なに?…」


 「…これは、ハルカさんに、限らず、誰でもです…」


 「…どうしてだ?…」


 「…叔父様、ボクが、五井家を継いで、一年ちょっと…五井ホールディングスの社長に、就任して、一年ちょっとです…だから、まずは、足場を固めなければ、ならない…」


 「…しかし、それと、これとは?…」


 「…叔父様、ボクは、結婚と、仕事を両立できるほど、器用な人間では、ありませんよ…」


 「…でも、そんなことを、言っていたら、結婚は、できませんよ…」


 と、今度は、西家夫人が、口を出した…


 「…叔母様、それは、そうですが、今は、仕事に専念したいんです…」


 伸明が、断言した…


 すると、誰も、なにも、言えなくなった…


 沈黙が、あたりを支配した…


 一気に、場の空気が、最悪になった…


 それまでとは、一変して、最悪になった…


 だから、誰も、なにも、言えなくなった…


 が、


 すぐに、その沈黙を破るものが、現れた…


 ほかならぬ、ハルカそのひとだった…


 伸明の見合い相手のハルカそのひとだった…


 「…それって、アタシを気に入らないからじゃ、ないですよね…」


 と、突然、伸明に、聞いた…


 「…それは、ありません…」


 と、伸明。


 「…ホントに?…」


 「…ホントです…」


 伸明が、答える…


 が、


 ハルカは、それを、信じなかった…


 「…だったら、私と付き合えば、いい…」


 と、言った…


 強気に、言った…


 「…仕事なんか、関係ない!…私を好きならば、付き合えるはずよ!…」


 ハルカが、強気に、断言する…


 伸明は、文字通り、面食らった…


 面食らった表情に、なった…


 なんと、答えて、いいか、わからない…


 そんな困惑した表情に、なった…


 すると、それを、見た、長谷川センセイが、慌てて、


 「…ハルカ…無理を言うんじゃない!…」


 と、妹を叱りつけた…


 「…諏訪野さんは、仕事が、大切なんだ…」


 と、続けた…


 「…オマエだって、子供じゃない!…今、諏訪野さんが、言ったことが、わかるだろ?…」


 「…それは、わかるわ…」


 「…だったら、なんで?…」


 「…それは、たぶん、言い訳だからよ…」


 「…言い訳?…」


 「…体よく断る言い訳…」


 「…」


 「…それは、初めて、会って、好きになりなさいと、言ったって、ムリなのは、わかる…でも…」


 「…でも、なんだ?…」


 「…ホントに、好きなら、仕事も、なにも、関係ない…付き合いたくなるはずよ!…」


 正論だった…


 このハルカの言葉は、正論だった…


 思わず、心の中で、拍手喝さいしたくなるほど、正論だった…


 たしかに、ホントに、好きになれば、仕事も、なにも、関係ない…


 どんなに忙しくとも、会いたくなる…


 当たり前のことだ…


 これは、年齢は、関係ない…


 男女も、関係ない…


 男も、女も、関係ない…


 私が、思っていると、当の伸明本人が、


 「…たしかに、それもあるかも、しれない…」


 と、言った…


 「…でも、ボクは、今、五井家当主だ…まずは、五井家のために、尽くすこと…それが、先決…ボクの結婚は、二の次だ…」


 伸明が、断言した…


 すると、誰も、なにも、言えなくなった…


 これも、正論…


 正論だったからだ…


 この伸明は、軽々しい身分では、ない…


 だから、どうしても、仕事を優先する立場…


 結婚より、仕事を優先する立場だからだ…


 が、


 ハルカは、収まらなかった…


 このハルカは、収まらなかった…


 「…でも…」


 と、言って、口を尖らせて、まだ、なにか、言おうとしていた…


 が、


 その前に、西家当主が、


 「…そうか、伸明クン…それで、いい…」


 と、大声で、言った…


 それゆえ、ハルカは、なにも、言えなかった…


 「…伸明クンが、そういう考えなら、それで、いい…オレは、伸明クンの考えを尊重するよ…」


 意外なことを、言った…


 あっさりと、引き下がった…


 これには、驚いた…


 拍子抜けした…


 私は、この手の人間は、もっと粘ると、思ったからだ…


 だから、拍子抜けした…


 そして、これは、伸明も、また、同じだったようだ…


 私と、同じだったようだ…


 あまりにも、簡単に、この西家当主が、引き下がったのが、意外だったようだ…


 それは、伸明の表情に、現れていた…


 「…叔父様、わかってくれて、ありがとうございます…」


 と、言った伸明の表情に、現れていた…


 伸明は、言いながらも、怪訝な顔をしていた…


 ホントに、この西家当主が、このまま、引き下がるのか?


 怪訝な顔をしていた…


 が、


 西家当主は、それ以上、なにも、言わなかった…


 そして、それは、西家夫人もまた、同じだった…


 「…そういうことなら、仕方がないわね…」


 と、だけ、言って、それ以上は、なにも、言わなかった…


 私も、これには、拍子抜けしたが、それは、何度も、言うように、伸明も、同じだったようだ…


 そして、それ以上は、もう誰も、なにも、言わなくなった…


 今日の見合いに対して、なにも、言わなくなった…


 が、


 ただ、マミさんだけは、別だった…


 マミさんだけは、終始難しい顔をしていた…


 それが、印象的だった…


 そして、それは、今日の、この見合いが、お開きになったとき…


 つまりは、皆が、帰るときに、わかった…


 西家夫妻と、長谷川兄妹が、帰るときに、わかった…


 「…それでは、今日は、失礼します…」


 と、長谷川センセイが、言い、


 「…それでは、今日は楽しかった、伸明クン…また、今度…」


 と、西家当主が、言って、別れたときに、私も、


 「…今日は、これで、失礼します…」


 と、言ったときに、マミさんが、


 「…寿さんは、残って…」


 と、言ったからだ…


 このマミさんの申し出には、驚いたが、


 「…ね、いいでしょ?…」


 と、続けたから、私は、なにも、言えなかった…


 他ならぬ、マミさんの、申し出だ…


 断ることは、できなかった…


 だから、私は、残った…


 この西家夫妻と、長谷川兄妹を見送って、マミさんと、伸明と、いっしょに、諏訪野の豪邸に、残った…


 残った伸明は、不機嫌な顔をしていた…


 明らかに、誰が、見ても、不機嫌な顔をしていた…


 これは、意外だった…


 私は、どうして、伸明が、そんな顔をしているのか、わからなかった…


 今日の見合いは、成功だったはずだからだ…


 たしかに、見合い自体は、成立しなかったが、誰もが、納得した…


 伸明が、仕事を優先するから、結婚は、二の次と、答えると、誰もが、納得した…


 そう、思ったからだ…


 だから、伸明の、この表情は、意外だった…


 実に、意外だった…


 が、


 それは、このマミさんも、同じだった…

 

 このマミさんは、伸明のように、不機嫌な顔こそ、していないが、明らかに、先ほど、同様、憂鬱な顔をしていたからだ…


 だから、二人とも、同じだった…


 二人とも、明らかに、気分が、よくないのは、明らかだった…


 私が、そんなふうに、伸明と、マミさんを、見ていると、伸明が、突然、どこかに、消えた…


 少し経つと、ハイボールの缶ビールを手に、持っていた…


 三つのハイボールの缶を持って、部屋に戻って来た…


 そして、そのハイボールを私たちにも、勧めた…


 「…マミさんも、寿さんも、いっしょに、飲もう…」


 と、勧めた…


 が、


 マミさんは、すぐに、それを、固辞した…


 「…伸明さん、私は。今日、クルマだから…」


 と、言って、固辞した…


 それを、聞いた伸明は、


 「…だったら、寿さん…」


 と、今度は、私に勧めた…


 が、


 私も、伸明の誘いを断った…


 伸明の誘いを固辞した…


 「…伸明さん、申し訳ないですけれど、私は、先日、退院したばかりなので、医者から、アルコールは、当面、禁止されていて…」


 と、言って、断った…


 それを、聞いた伸明は、


 「…なら、仕方がない…」


 と、言って、自分一人で、ハイボールの缶を開け、飲み始めた…


 私が、それを、見て、呆気に取られていると、マミさんが、


 「…たしかに、このままでは、終わらないでしょうね…」


 と、意味深に、言った…


 実に、意味深に、言った…


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